61 S チカラ全開のバトル
夕方 収録会場 sideカレン
ユウキ〈シルク、僕達はスーナ達のところに行こう!〉
シルク《ええ! 見た感じ二匹だけで相手している状態だもの。……それに、相性的にも不利だわ!》
左腕に青いバンダナを着けた[ピカチュウ]が、首に水色のスカーフを巻き、同色の耳飾りを着けたオシャレな[エーフィ]に声をかけて戦場へとかけていった。
……シルク達もいったんだから、うちも早く参戦しないと!
うちは元の姿では腕にあたる翼を羽ばたかせながら、
カレン《アツシさん! うちらは観客席の方へ行きましょう!》
[ハトーボー]の姿のうちではポケモンとしての鳴き声しか伝えられないから、[チカラ]の1つである[テレパシー]でトップアスリートに言葉を伝える……。
………これを使う度に思うけど、[豪雷の防人]で本当に良かったわ。
ちょっと言葉を強く意識するだけでうちの言いたい事を伝えられるし、何より空を飛べる。
技も使えるわけやから、トレーナーとしては嬉しいわ!
アツシ「………!? ………で……でも、通路は塞がれてますよ!? 僕も飛行タイプのポケモンを持ってないですし……。」
カレン《………なら、うちが何とかしますよ!》
アツシ「カレンさんが!? でも、[サンダー]は交戦中ですよね!? 元々人なのに……という以前に大きさ的にもカレンさんには無理……」
カレン《
背中に乗るのは……ね!》
そうよ。
飛行タイプに乗る方法は背中に跨がるだけとは限らない……。
……他に、方法はある!
アツシ「……なら、他にどうすると言うんですか!? カレンさんの[エーフィ]は戦闘出来ない状態ですし……。」
……トリにはそのままで申し訳ないけど、今日はやむを得ないわね……。
うちは彼を連れて飛ぶ方法を提案するために、アツシさんの顔ぐらいの高さまで高度を上げた。
カレン《うちの両脚を掴んで!》
アツシ「…でも、そんな事をして体格的に飛べるんですか!?」
カレン《心配ないわ! ポケモンの身体って、うちらが思ってる以上に丈夫で力も強いんよ! ……よく考えてみて! うちらが[火炎放射]を浴びると大火傷を負うけど、ポケモンは草タイプでさえ軽い傷で済む程度……。 それに野生のポケモンなんかは{自分よりも大きなポケモンを持ち上げる事もある}って聞いた事があるわ!》
……飛行タイプは守りが弱い種族がほとんどだけど、この事は全てに当てはまるんよ!
アツシ「いや…でも、カレンさんは……」
カレン《掴まるのに抵抗があるなら、うちをただの[ハトーボー]だと思ってくれやんかな? ……ほら、向こうで闘ってるユウキさんも、{姿を変えている}って事さえ除けばごく普通の[ピカチュウ]やろ? 身のこなしも[ピカチュウ]そのものやし。》
………寧ろ、ユウキさんの方が[ポケモン]らしさがある!
[テレパシー]を使えるやん訳やし、何しろ使える技が全て本物の[ピカチュウ]も覚えられる!!
……中には、シルクみたいに特殊なポケモンもいるけど……。
アツシ「確かに……」
カレン《そうやろ? ……やから、さあ!〈》これなら、遠慮なく掴まれるんとちゃうかな?〉
アツシ「……!? カレンさん!? ……鳴き声だけ!? ……カレンさん…本当に……。 ………わかりましたよ。 ………その代わり、絶対に落とさないで下さいよ!」
………きっとアツシさんがずっと躊躇しとったのは、ポケモンであるはずのうちと普通に会話出来とったからかな?
うちはそう悟ると、伝達方法を[声]に変えた。
……ふぅ。
何とか決心してもらえたかな……?
カレン〈もちろんやよ!〉
……そうしておこう!
うちは肯定の意味を込めて鳴き、旋回して彼の真上に就いた。
そして自ら彼の手首を数の減った自分の脚の指で掴み……、
アツシ「カレンさん、お願いします!!」
彼の声と共に力一杯羽ばたいた。
……やっぱり、背中に乗せて飛ぶより力、いるわね……。
アツシ「カレンさん、本当に飛べるんですね! 僕、ポケモンに乗って飛ぶの、初めてですよ!」
カレン〈………アツシさん? その発言、場違いな気が……。」
アツシ「僕のポケモンは一回戦で出した[ゲッコウガ]の他に、草タイプが一匹だけですから……。」
カレン〈……だからアツシさん! 場所というものを考えて下さいよ!!〉
………やっぱり、鳴き声しか伝わらないからこうなるよね……。
……ここ、[ロケット団]に占領された戦場なんてやけど……。
……ああだこうだで話のかみ合わない会話をしながら、うちは手頃な場所を目指して羽ばたく速度を速めた。
………何しろ、飛びたった場所が会場のほぼ中央で、凄く広いから………。
…………
同刻 sideシルク
ユウキ〈……シルク、僕の炎はいる!?〉
シルク《ええ! あって損はないから……助かるわ!!》
私は当たり前だけど………私達兄妹は四足で走りながら、互いに戦闘の準備を始めたわ。
………だから、ユウキも[ピカチュウ]としての特性である[静電気]を発動させてるから、私のすぐ近くでパチパチと音が鳴ってるわ。
………お陰で、私の毛が逆立ってるけど……。
ユウキ〈うん! [目覚めるパワー]!〉
……[サイコキネンシス]!!
……どうやら、声に出さなくても技は発動させられるようね?
私の兄は普段とは違って、走るのを止めずに口元に紅蓮のエネルギーを溜め始めた。
………慣れてないから時間がかかってるけど、そっちは何とかなりそうね?
私も、ユウキのそれに意識を向けて、拘束する。
下っ端A「……? トレーナーは無しか……。……よし、いくぞ!」
下っ端B「任せろ!」
ユウキ〈……どうやら、素直に通してくれないようだね。〉
シルク《……そのようね。》
[絆]の名を持つ私達が疾走する前を、例の組織の二人組が立ちはだかった。
私はユウキにだけ語り、身構えた。
下っ端A・B「[デルビル]、いくんだ!」「[スカタンク]、いけ!」
デルビル・スカタンク〈はいよ。〉〈任せな。〉
[スカタンク]…………。
腹立たしい事しか思い出さないわ……。
ユウキ〈特性は[貰い火]に[誘爆]といったところかな……。シルク、遠距離から頼んだよ!〉
シルク《ええ! ユウキは、接近戦ね?》
……それが、ベストね!
[デルビル]は炎、悪タイプ。
[スカタンク]は毒………。
明らかに私達が有利ね?
ユウキ・下っ端A〈シルク、手っ取り早く倒そう!〉「所詮進化前の[ピカチュウ]だ。そっちからいくぞ![噛みつく]!」
シルク・下っ端B《連戦はさけられないから、そうした方がいいわね!》「俺のポケモンがやられるはずがない!![辻斬り]!!》
……あら?あなたのメンバーも進化前じゃない?
……でも、甘く見てはいけないわ!
彼は進化
出来ないだけであって、決して[雷の石]を持ってないからではないわ!
私は気持ちを戦闘に切り替え、威圧感と共に相手を睨んだ。
……その間に、ユウキは右腕に力を溜めていたみたいで……、
デルビル・ユウキ〈[噛みつく]!…〉〈[気合いパンチ]!!…〉
接近を始めた相手めがけて二足で走り、噛みかかろうとしているところを思いっきり殴った。
デルビル・ユウキ〈うわっ………!!〉〈見た目で実力を判断しない方がいいよ。〉
シルク・スカタンク《あなたも、油断しない方がいいと思うわよ?》〈!? [辻ぎ……]…!? 何だ!? 身体が動かない!?〉
ユウキに殴られたデルビルは、起き上がる事ができず、力尽きた。
……私も、続かないと!
私は維持していた超能力の影響範囲を広げ、口元に漆黒のエネルギーを蓄える……。
シルク《あなたが動けないのは、私に捕まってるからよ!》
スカタンク〈!? いつのm……っぐ!!〉
そして、涼しい顔で放ち、命中させた。
私の特殊技は[チカラ]で強化されてるから、もし命中したらタダでは済まないわね……。
あくまで、加減しなかったら、だけど……。
……もちろん、さっきのは軽ーくしておいたわ。
せいぜい、二割ってところかしら?
下っ端B「何っ!? たった一発で!?」
下っ端A「嘘だろ!? ……こうなったら、4対2でいくぞ!![オタチ]、[オニドリル]、一斉攻撃だ!!」
オニドリル・オタチ・下っ端B〈!?〉〈僕も!? 闘った事無いんだけど!?〉「お前達もいくんだ!!」
……なるほど。
……でも、まだまだね……。
ユウキ〈何匹できても同じだよ!! シルク!! [エレキボール]!〉
シルク《分かったわ!!》
ユウキ、あなたのしたい事は分かったわ!!
私は大きく頷き、無言で[ベノムショック]を発動させる……。
そして、超能力を利用してユウキのそれと混ぜ合わせた。
下っ端B「!? 何だ!?」
その後、二つに分裂させて、解き放つと共に衝突させた。
……形容し難い色になったけど………、ぶつかり合って増殖し始めたそれは時々垂直に弾けながら相手に迫る……。
ユウキ〈[10万ボルト]!〉
相手ポケモン〈〈〈〈!!?〉〉〉〉
……当たらなかった物もあるけど、一割ぐらいは命中し、相手の守備力が下がった。
と、そこに、間髪を入れずにユウキの高電圧の電撃が命中し、バタバタと倒れていった。
下っ端A「コイツら、強すぎるだろ!?お前はまだ残ってるか!?」
下っ端B・ユウキ「いや、俺はこれで全部だ! お前は!?」〈……悪いけど、大人しくしてもらうよ!!〉
下っ端A・シルク「俺も無い!……!?」《あなた達、運が悪いわね……。故障さえしていなければ、この状況は全国に……しかもリアルタイムに放送されてるわ。 警官が来るのも、時間の問題ね……。》
下っ端B「ポケモンがs……くっ!」
ユウキ〈よし……。 ちょっと手荒だけど、技使ってないから、いいよね?〉
シルク《………たぶん、大丈夫だと思うわ。》
相手が口論している間に、ユウキはその2人の元に走っていき、飛びかかったかと思うと、微弱な電気が流れている尻尾で彼らを叩いた。
………当然、どうなるかは分かるわよね?
……そうよ。
痺れて動けなくなるわ。
下っ端C「あんた達、大人のくせにだらしないわね……。戦闘は、こうするのよ! [フォレトス]、[ビリリダマ]、[マルマイン]、[エーフィ]の側で[大爆発]!!」
マルマイン〈さあ、…〉
ビリリダマ〈お前には…〉
フォレトス〈くたばってもらおうか!!…〉
ユウキ〈しまった!! シルク!!!〉
!!!?
[大爆発]!!?
嘘でしょ!?
ユウキとの[加護]で何とか守備力はデフォルトに戻ってるけど………耐えられないわ!!
倒した相手に気を取られていた私は、たちどころに新手の三匹に囲まれた。
………しまった………!!やられた………!!
この状況では発散させて上昇気流を起こしても走って逃げても間に合わない!!?
私は大ダメージを覚悟し、目を閉じて攻撃に備え………
相手3匹・ユウキ〈〈〈
[大爆発]!!!〉〉〉〈
僕のただひとりの妹には絶対に触れさせない!!![気合いパンチ]!!!〉
…………えっ!?
シルク《ユウキ!!?》
!!!
突然、何者かに殴られ、私は思いっきり飛ばされた。
私に命中した瞬間、目を開けると……
シルク《ユウキ!!! やめて!!!》
私の唯一の兄………、[ピカチュウ]のユウキが、私を殴り飛ばして、私の代わりに相手に囲まれた瞬間だった。
………ここから、まるで[時]が止まっているかのような錯覚を感じた…………。
ユウキ〈シルク……、君のことは僕が守るから……。〉
シルク《ユウキ……!いや……やめて!!》
ユウキ〈僕なら、大丈夫だから。〉
シルク《……だからといって……私の身代わりにならないで!!》
ユウキ〈妹が危険にさらされたら兄が守るのは当然でしょ?それに、シルクは僕の[加]。僕はシルクの[加護]………。護りが強いのはシルクの[加護]でしょ? 僕の[加護]ではこの規模の爆発は防げない………。だから、………ねっ?〉
シルク《
お兄ちゃん………やめて!!!!》
ユウキ……お願いだから、私の代わりにやられるのだけはやめて!!!
ポケモンの身体は人間より遥かに丈夫だけど、流石にこの規模の爆発はタダでは済まないわ!!
………だから……お願い……。
これが[夢]だと言って………。
お願いだから………。
シルク《ユウキーー!!!》
私は後方の飛ばされながら、涙ながらに叫んだ。
ドーンユウキ〈うわああぁぁーーっ!!!〉
シルク《嫌………やめて!!!》
彼が{心配いらない}と、私に笑いかけた瞬間、広大な地下スタジアム全体を揺るがすほどの大きな爆発が、とてつもない衝撃と共に、周辺にいる私達を襲った……。
シルク《……くっ…………。っ………!!》
もちろん、飛ばされている私にもそれが及んだ。
………………っ!
…………護りが………解かれてる………?
まさか…………ユウキ…………。
私にとって最悪な言葉が脳裏に過ぎった。
………
sideコルド
ドーンオルト〈!!? 何だ!? 今の爆発は!?〉
コルド〈まさか…[大爆発]!?〉
何!?
今のは!?
交戦を続けていた僕達は、突然の轟音に驚いてハッと振り返った。
……あの方向は確か………。
オルト〈コルド! 向こうは確かユウキとシルクがいる場所じゃなかったか!?〉
コルド〈そのはずで……っ!〉
オルト〈!? コルド!!大丈夫か!?〉
っ!!
[心]が………締めつけられるように……痛んできた……!!
………こんな事………初めて………
………この感じ………まさか………。
僕は突然の原因不明の痛みに襲われ、崩れ落ちた。
オルト〈まさか………ユウキか!?〉
コルド〈そのようです………。〉
ユウキさんが…あの爆発に!?
僕は何とか耐えながら、言葉を紡いだ。
ユウキさんとは[心]の一部を共有してるから……僕にも影響が……!?
オルト〈……ならコルド、ユウキがどんな状態か、探ってみてくれ!〉
コルド〈……はい! ……やってみます!!〉
[心]が繋がっているのなら……、僕が確かめるしか………。
僕は大きく頷いた。
コルド{ユウキさん!! 大丈夫ですか!!? しっかりしてください!!}
ユウキ{……………}
コルド{ユウキさん!!}
………っ!
ダメだ……。
返事が無い………!?
[苦痛]の感情が微かに伝わってくるだけ………。
……という………
???・オルト〈
……〉〈!!? 今度は何だ!?〉
……こと……?
爆発の発生元から、薄桃色の
何かが飛ばされてきた。
それは僕の方に意識を向けているオルトさんにぶつかり、彼は不意打ちながらも何とか
それを受け止めた。
………流石、僕と同じ格闘タイプでs……
コルド・オルト〈!!? シルクさん!?〉〈!!?シルク!!?〉
…u…………えっ!?
飛ばされてきた物体の正体は、僕達メンバーの中ではエースで、[絆の従者]の…………シルクさん!?
どうして!?
オルト〈シルク!! 何があった!? しっかりしろ!!〉
シルク〈……………〉
コルド〈シルクさん!!?〉
…!?
意識はあるけど……返事が……ない!?
まさに………放心状態!?
………でも、どうしてシルクさんが飛ばされてきたんだ!?
オルト〈……ダメだ…。 反応が無い……。 完全に{放心状態}だ……。〉
コルド〈シルクさんま……〉
ヒュュゥゥゥゥ……
コルド〈…で………!? 今度は何ですか!!?〉
次から次に……一体何が起きて……。
僕達が必死にシルクさんを介抱していると、どこからともなく甲高い音が響き始め……、
オルト〈…まさか、あれは[流星群]か!?〉
コルド〈でも、出演者のメンバーの中にはフライさん以外に使える種族はいないですよね!?〉
ドラゴンタイプ最上級の技……[流星群]が爆心地に大量に降り注いだ。
オルト〈そのはずだ!! ……だが、フライの[派生技]は[ドラゴンクロー]からの[逆鱗]のはずだ!!〉
コルド〈…なら、一体誰が!?〉
……ますます訳が分からない!?
………全く反応がないユウキさん………、
………何故か飛ばされてきた放心状態のシルクさん……、
………誰が発動させたのか分からない[流星群]…………。
……………一体、何が起きているんだ!??
僕達は、積み重なる疑問の渦に深く飲み込まれた。