57 LS 第2回戦第1試合
午後 武道場 sideテトラ
ハート〈……大分、かたちになってきたわね。〉
ライト〈本当ですか?〉
私は嬉しそうに話すライト達に聞き耳をたてながら、目の前の事に集中する………。
……ライトは何を教えてもらってるのかわからないけど、私達は集中力を高める練習をしてるんだよ。
私、[瞑想]とか[遠吠え]みたいな技を発動させないと自分のステータスを強化出来ないのかと思ってたけど、集中力と精神力を高めても強化できるんだって!
心理を戦法に採り入れてるラグナでさえ知らなかったみたいで、{ライトを守るためにも、ぜひ教えてくれ!!}つて、ルクスさんに迫ってたよ。
ティルはティルで、{俺、特殊技は自信あるんだけど、物理技はイマイチなんだよね……。……だから、さっきやってたあれを教えてくれる?〉って言って、ルクスさんに直接稽古をつけてもらってるよ。
……で、私はというと、得意な変化技の効果を高めるためにラグナ座禅………? ……っていうのかな……?
座りながら目を閉じて、心を無にする練習……。
リョウさんのメンバーの[エルレイド]に見てもらってるよ。
………でも、案外難しいかも……。
自分ではそうしてるつもりなんだけど、何故か上手くいかないんだよね………。
エルレイド〈…こら! よそ事を考えるな!〉
テトラ〈……あっ、はい!〉
彼は私に檄を飛ばした。
……だから、私からはこのくらいにさせてもらうよ…。
……もっと、集中しないと………。
………
sideティル
ルクス〈……ティル君、なかなか筋がええね! 初心者とは思えんよ!〉
ティル〈本当?〉
背の高いルクスさんを見上げながら、俺は声をあげた。
……今、俺が習ってる[柔道]っていう護身術はどうやら俺の体格に合ってるみたいなんだよ!
本当は人間の護身術なんだけど、ルクスさんの[デンリュウ]も同じ二足歩行だから、一回進化した時にハートさんから習ったんだって!
人間にもできるから俺達の場合、技のエネルギーを使わずに闘えるんだよ。
ルクスさんは犯人と対峙した時に使ってるみたいで、それと[電磁波]を組み合わせて相手の身動きをとれないようにしてるんだよ。
………それに、俺達ポケモンの技と同じように、[柔道]にも色んな技があるって言ってた。
相手を背負って投げ飛ばす技とか……、相手の体勢を崩して転かす技………、相手を押さえ込む技………。
習得できる数に制限がないから凄く楽しいよ!!
……それに、案外簡単だし!
ルクス〈……さあ、次はいよいよ{背負い投げ}やよ!〉
ティル〈あの、最初に見せてくれた技でしょ?〉
ルクス〈そうやで!……? この光は……?〉
あの格好いい技をとうとう教えてくれるんだ!!
俺は期待と共に、力が突然溢れ出すのを感じ……………えっ!?
この感覚………、もしかして……。
ライト〈!!?ティル!?〉
ハート〈使える技を考えると、それしか有り得ないわ!〉
テトラ〈ティルって、もう一回できる種族だったの!?〉
………[進化]!?
俺の[テルーナ]としての身体はたちどころに眩い光に包まれる……………。
………すぐその後に、身体のかたちに変化が表れる………。
………俺の場合、これが人生最後の急激に力が解き放たれる瞬間………。
………痛みは………ない……。
……というか、凄く心地がいい……。
………しばらくすると、光と共に変化が収まった。
閉じていた目をあけると………、やっぱりね……。
[テルーナ]の時より、視線が高くなってる……。
ティル〈俺………、[マフォクシー]になれたんだ……。〉
進化し太くなった声で、呟いた。
……この姿、間違いない。
テトラ〈ティル、格好いいかも………。〉
ライト〈最近ティルの勘が冴えていたのも、進化の兆候だったんだ……。〉
ラグナ〈エスパータイプなのも、納得だな。〉
………だから、最近予想がよく当たるんだ……。
俺達のなかなかでは一番強いライトと、{それ以上に強いポケモンがいるの?}っていうぐらいの、次元が違いすぎるシルクと同じエスパータイプ………。
身近なエスパータイプはみんな強いから、嬉しいよ………。
俺はしばらく、進化あとの余韻に浸った……。
………
同刻 収録現場 sideユウキ
コルド{ユウキさん! 収録、どのくらいまで進みましたか?}
!?
Bブロックの第2試合が行われている最中、僕の脳内にメンバーの一匹、別行動をしている[コバルオン]のコルドの声が響いた。
[絆の賢者]の僕と[絆の守護者]のコルドは、[チカラ]の影響で[心]の一部を共有してるんだよ。
これはどの[賢者]、[英雄]にも同じ事が言えるんだ…。
今まで触れたことはなかったけど、こういう理由で会話ができるんだよ。
ユウキ{僕達は戦い終わって、今はBブロックの第2試合をしてる最中だよ。……コルド達はどの辺まで来た?}
コルド{ちょうど、[シオンタワー]が見え始めたぐらいです。}
そっか。
………でも、
ユウキ{なら、二回戦までには間に合いそうだね? ……にしても、始発に乗ってる割には時間がかかってるけど、何かあったの?}
始発に乗ってるなら、僕達が戦う前には着いてるはず……。
僕は共有してる[心]を通じてコルドに質問した。
コルド{はい……。こっちはどうって事なかったんですが、[ナナシマ]の方は海が荒れてて……、運航を見合わせていたんです。}
ユウキ{そっか……。それで……。}
なら、仕方ないね。
自然にはさすがにかなわないよ……。
僕は何かよからぬ事が起きていたのかどうか思っていたけど、彼の言葉を聞いてホッと肩をなで下ろした。
……よかった、何事もなくて……。
…………
数十分後 sideカレン
MC「
………続いて第2回戦は…………、2対2のダブルバトルだ!!」
カレン「えっ!?嘘やろ!?」
うちはMCの発言に思わず驚きの声をあげた。
よりによって、何で今回だけ!?
いつもの二回戦も1対1のはずやのに……!?
何故!!?
うちのメンバー、トリとイカヅチしかいないのに……。
[エーフィ]のトリならともかく、[サンダー]のイカヅチは伝説の種族………。
それも結構有名な上に全国放送………。
………マジで……ヤバい…。
騒ぎにな……
MC「
それでは、化学者のカレン、お笑い芸人のヒロ、前へ」
ヒロ・カレン「はいはい。」「えっ!? あっ、はい……。」
る……!
うちは名前を呼ばれて我に返り、ハッとした。
………ええい、もう、どうにでもなってしまえ!!
もう、開き直るしかない!!
うちは腹をくくって立ち上がった。
………
sideトリ
カレン・ヒロ「トリ、イカヅチ、頼んだわよ!!」「[トドグラー]、[ゴーリキー]、魅せるで!!!」
トリ・イカヅチ〈うん!……えっ!?イカヅチも!?〉〈ハァ!? 俺も!?〉
トドグラー・ゴーリキー〈よ〜し、やって……/一発、かまして……〈!!?〉〉
MC「
!!! これは一体どういう事だ!!?」
えっ!?イカヅチが出ちゃっていいの!!?
ワタシはもちろん、会場全体が騒然となった。
ユウキ「カレンさん!? 正気ですか!?」
イカヅチ〈カレン!! 俺が出てもよかったのか!?〉
トリ〈そうだよ!! イカヅチは伝説の種族なんだよ!! カレン、一体何を考えてるの!?〉
カレン、本当に大丈夫なの!?
カレンならこの後どうなるか分かってるはずなのに……。
事情を知っているワタシ、イカヅチ、ユウキさんがざわめく会場の中で彼女に迫った。
カレン《二回戦はダブルバトル……、メンバーがトリとイカヅチしかいないうちにはこれしか選択肢はないんよ……》
たぶんワタシ達だけに、冷静に語った。
トリ〈でも、途中棄権する手もあったよね!??〉
出れない理由があるんだから、こういう方法も有るはずなのに……どうして……?
カレン《トリ、それは失礼に値するのは知っとるやんね? そんな事したらモラルがなってないと思われる………。オマケに全国に放送されている……。仮にそうしたらうちらは今後白い目で見られて{臆病者}の烙印を押される事になる……。……トリ、イカヅチ、よく考えて!! 一生不快な目に遭うのがいいか、短期間の取材攻めに遭うか…。》
!!
……いわれてみれば……。
世の中全ての人、ポケモンが善良は心を持っているとは限らない……。
実際、ワタシ達兄弟以外の森のポケモンは酷かった……。
誰もが、{色違い}のテトラに虐待同然の事をした…。
………だから、人間の中にもそういう人は絶対にいる……。
………なら………、
トリ〈カレン、ワタシはカレンに従うよ! [誹謗中傷]を浴びるのはイヤだよ!!…だから、イカヅチもいいよね?〉
ワタシは取材攻めに遭う方を選ぶ!!
ワタシは自分の経験と照らし合わせて、結論を出した。
カレンを………そんな目に遭わせる訳には………いかない!!
イカヅチ〈………トリとカレンがそういうなら…。〉
ワタシは納得したけど、イカヅチも納得したのかな……?
言葉が……濁ってたけど……。
イカヅチ、{超}が付くほど真面目だから……、まだ納得してないかも……。
カレン《トリ、イカヅチ、ありがとね。…「》あの……、そろそろ始めてもらってもええかな?[サンダー]もポケモンには変わりない訳やし、問題ないはずやろ?」
MC「えっ………あっ………はあ………はい……。
化学者のカレンがくり出したのはなんと、伝説のポケモンの[サンダー]だ!! 今回は波乱の展開になりそうだ!! ……果たして、伝説のポケモンに芸人のヒロはどう立ち向かうのか!! ………それでは、バトルスタート!!」
流石、司会のプロだね?
騒然としている会場を見事にまとめてるよ……。
………これは、負けるわけにはいかないね!!
ワタシも、司会と同じように気持ちを切り換えた。
トリ〈カレン、イカヅチ、気を取り直して行くよ!!〉
奮い立たせるように、ワタシは戦友に声をかけた。
イカヅチ〈……こうなったら、とことん楽しむか!! トリ、カレン、すまんな!〉
カレン《トリ、イカヅチ、ありがとね! 「》………じゃあ、いくよ!!」
トリ・イカヅチ〈うん!!〉〈よし、任せな!!〉
やっぱり、そうこないとね!!
ワタシは威勢良く飛び出し、イカヅチもたたんでいた翼を勢いよく羽ばたかせた。
……さあ、いくよ!!
カレン「イカヅチは[充電]、トリは[スピードスター]で援護して!!」
イカヅチ〈溜めだな? [充電]……〉
トリ〈うん! イカヅチ、溜めてる間はワタシが守るから! [スピードスター]!!〉
イカヅチ〈頼んだ!〉
もちろんだよ!!
ワタシは空中で電気を練り始めたイカヅチの前に立ち、口元に無族のエネルギーを蓄える……。
ある程度溜めてるから、星形に形成して一気に放出した。
ヒロ「……!? [トドグラー]は[サンダー]に[アイスボール]。 [ゴーリキー]は[エーフィ]に[空手チョップ]!!」
トドグラー〈………あっ、うん。[アイスボール]!!〉
ゴーリキー〈………はっ! よし!〉
やっと、我に返ったみたいだね?
トドグラーは口から氷塊を飛ばし、ゴーリキーはワタシめがけて走り始めた。
カレン「正接30°方向に範囲を広げて!!」
最初から、そのつもりだよ!!
相手に2、3発当たる中、ワタシは維持したまま上を見上げる……。
地面の距離と垂直方向の距離の比が√3:1の場所を狙えば……、あの氷塊の速度と角度なら、撃ち落とせる!!
ワタシはカレンに教えてもらった三角比を駆使して、その場所に狙いを定めた。
イカヅチ〈……よし、溜まった!〉
カレン「なら、余弦45°方向からゴーリキーに[ドリル嘴]!!〉
イカヅチ〈要するに、1:√2だな? [ドリル嘴]!!〉
トドグラー・トリ〈!? 防がれた!?〉〈よし! 次は[穴を掘る]だよね?〉
ワタシはなんとか、氷塊を打ち消せた。
……でも、その間ゴーリキーへの注意が散漫になってるから、そうした方がいいよね?
カレン・トリ《うん!》〈[穴を掘る]!〉
{う}って聞こえたから、ワタシはすぐに地中に潜った。
その間に、イカヅチは回転しながら斜めに急降下を始めた。
……その先には……、
ゴーリキー〈!? オレ!? くっ!! ………流石は伝説………。[空手チョップ]!〉
イカヅチ〈っ!〉
声でしか判断出来ないけど、効果抜群の攻撃がゴーリキーにヒットして、それに負けじと相手も命中させた。
ヒロ「[地震]だ!!」
トドグラー・ゴーリキー〈よし、任せて〜![地震]!!〉〈オイ……待て……!オレを忘れて…………〉
!!?
トリ・ゴーリキー〈きゃっ!! [地………震]………?〉〈…………っ………。〉
[地震]、覚えてたの!?
イカヅチ・カレン「〈トリ!!〉」
………くっ!!!
地中に潜っているワタシは…………大ダメージと共に………知人に………引きずり出された………。
ワタシと同じで、ゴーリキーも……ダメージをうけて、………力尽きた。
……ワタシも………、限界かも………。
前が………霞んできた………。
カレン《トリ!!大丈夫!?》
トリ〈…………うん………。でも………あと一発…………耐えられるかどうか………。〉
ワタシは消えそうな意識を何とかつなぎ止めて、ふらつきながらも……立ちあがった……。
イカヅチ《無理はするなよ!》
トリ・ヒロ〈うん……。〉「チャンスだ! トドグラー、[吹雪]!!」
トドグラー〈倒れる寸前の[エーフィ]に、伝説とはいえ飛行タイプ……。勝負逢ったね〜。[吹雪]!!〉
トリ・イカヅチ〈!!? [念……力]………っ!!!…〉〈何っ!? …〉
また………そんな………大技を………!?
…………やられた………。
トリ・イカヅチ〈………イカヅチ………、あとは………頼んだよ……………。〉〈……?…!トリ!!〉
ワタシは……朦朧とした意識の中で、………何とか………イカヅチに………届かないように………超能力で………彼を………保護した………。
そして、凍てつく突風が…………ワタシに達したところで………ワタシの視界は…………暗転した。
………
sideカレン
イカヅチ〈トリ!!〉
まさか、[地震]に[吹雪]………、2つも上級技を使えたなんて………想定外やよ………。
ヒロさんは一回戦では別のメンバーやったから………。
トリは自分の技で何とかイカヅチを守り、力尽きた。
カレン「トリ……、ごめん……。ゆっくり休んどいて……。……イカヅチ、トリの分まで………いくよ!!〉
イカヅチ〈………もちろんだ! トリの思いは、無駄にはしない!〉
イカヅチ、当たり前やろ?
倒れたトリをボールに戻して、気持ちを切り換えた。
………今の状況はまさに1対1のシングルバトル……。
相性的には不利やけど、持久戦に持ち込めば………勝てる!
カレン《イカヅチ、持久戦、いくよ!》
イカヅチ《俺の特性を利用するんだな?》
何しろ、イカヅチの特性は[プレッシャー]……。
普段よりも多く相手のエネルギーを減らせる……!
おまけに、大技2つを使ったトドグラーには、あまり残されてないはず……。
彼はすぐにうちの意図を察してくれて、大きく頷いた。
カレン《そう!……「》[放電]で牽制!」
イカヅチ・ヒロ〈溜めたものをここで使うのは勿体無いが、やむを得ないな……。[放電]!!〉「[冷凍ビーム]で迎え撃て!!」
トドグラー〈さっきは失敗したけど、今回はそうはいかないよ〜![冷凍ビーム]!!〉
お互い、様子見やな?
イカヅチは溜めていた電気をバチバチ音を鳴らしながら放出し、相手も冷気を口内に溜めて、一直線に放った。
技は互いに衝突し、轟音と共に消滅した。
ヒロ「[
霰から[吹雪]!!」
トドグラー・カレン〈流石にこれはかわせないでしょ〜?[霰]!〉「[充電]しながら旋回して!」
イカヅチ〈当たり前だ!! ……[霰]か……。スノウを思い出すな……。〉
相手は勝利を確信したように青白いエネルギーを打ち上げ、細かい氷片を降らせた。
……でも、無駄やよ?
イカヅチ〈……だが、あいつに比べたらこの程度の技………、俺には通用せん!! [雷]!!〉
[サンダー]のイカヅチは[豪雷の化身]……。
[雷鳴]を司ってるから、天候に関する技は通用しない!
……でも、あんな技の出し方、初めて見た……。
イカヅチは一般的なポケモンとは違って、身体から直線電撃を放出せずに、黄色く輝くエネルギー塊を嘴から打ち上げた。
……もしかして、イカヅチ、伝説の種族に備わってる特殊能力………使ってる……?
一同「「「「〈!!?〉」」」」
エネルギー塊は天井付近まで達すると、一度激しく発光した。
……その瞬間、数え切れない程の稲妻が、轟音と共にフィールドに落ち、吹き荒れていた霰をいとも容易く打ち消した。
………流石は固定技……。
……それに、昔話に登場する、{内乱を鎮めたと言われる天の閃光}………、凄すぎる…。
イカヅチが[チカラ]を使う所を一度も見たことがないから…………こんな光景………初めて………。
うちを含めて、誰もかその技に圧倒された…………。
イカヅチ《カレン、今だ!!》
カレン「…………………!!」
!?
突然イカヅチの声が脳内に響き、ワタシは我に返った。
カレン「……あっ………、そうやね……![雷]!!」
イカヅチ〈そう来ると思った! [雷]!〉
……今度は、普通の技やね?
イカヅチは体内から超高圧の電気を、呆然と立ち尽くすトドグラーめがけて放出した。
トドグラー〈……………はっ! !!?〉
相手が気づいた時には、すでに目前に迫っていた。
トドグラー〈……っ!!! やっぱり……………伝説………。………強い………。〉
そう言って、トドグラーは崩れ落ちた。
……そういえば、あれだけ凄い電撃やったから、機材とか大丈夫なんやろうか……?
普通に考えて、電磁力が半端なく高いはずやし………。
……でも、会場のスクリーンを見る限り、大丈夫なんかな?
…………何事もなく映像が映っとるし……。
…………杞憂………やった……かな?