54 L 勝利………?
午前 ジム sideライト
ライト「……レイちゃん、……レイちゃん!! しっかりして!!」
レイちゃん!!
わたしはパニックに陥った彼女の元に駆け寄り、彼女をゆさぶって意識を確認する……。
テトラ〈本当に大丈夫なの!?〉
ラグナ〈……さすがに俺でも分からない。……定説が破られたんだ。……おまけにゴーストタイプのジムリーダーだ。 相当ショックだったはずだ。 心理を利用して戦っている俺でもこうなるとは予想出来なかった…。〉
ゴースト〈……それもそうだよ……。[ジムリーダー]としてのプライドもあっただろうし……。〉
………ラグナと一緒で、わたしもこうなるなんて微塵も思わなかった…。
ティル〈……状態は…どうなの?〉
そこに、さっきまで闘っていたティルが心配そうに話しかけてきた。
ライト「うーん……。………{心此処に有らず}って感じ……。 ……エスパータイプとしての勘だけど、ショックが大きくて心が疲弊してるのかもしれないよ……。」
テトラ〈……[心]が……?〉
ライト「うん……。」
……多分、精神的にストレスがかかりすぎたのかもしれない………。
ティル〈……ラグナ? こういう時って、どうしたらいいのかな……?」
ラグナ〈……こういう状況は初めてだが………、恐らく精神的な衝撃が大きかったせいだろう……。………もし[心]を落ちつかせることができれば、状態は良くなるかもしれないが………。〉
……やっぱり、ラグナもそう思うんだね?
………身体的なダメージなら何とかなるんだけど………、[心]となるとね……。
………ダメだ……。
何も案が浮かばない!
……元々の原因はわたしだから………、わたしがどうにかしないと!!
テトラ〈……ん? {[心]を落ちつかせる}………? ………あっ!! そっか!! ライト?
ライトって[癒やしの鈴]が使えるよね?〉
ライト「えっ? [癒やしの鈴]? ……使えるけど、どうかしたの?」
?
テトラ、何か思いついたの?
彼女の脳裏に閃きの電流が流れたみたいで、パッと明るい声で声を荒げた。
テトラ〈私の時みたいに[癒やしの鈴]で落ちつかせれないかな? ……だってあの時、私、興奮してた……。そんな状態で[癒やしの鈴]を使ってもらったら何故か落ち着けたんだよ。……だから[癒やしの鈴]には仲間の体力を回復させるだけじゃなくて、[心]をリラックスさせる効果もあるんじゃないかな……?〉
………言われてみれば………そうだったかもしれない………。
あの時のテトラ、[怯え]と[恐怖]でパニックになってた……。
そんな体力的にも傷ついた彼女を回復させるために使ったら、何故か落ち着きを取り戻してた気がする……。
………テトラの言う通りかも……。
彼女はわたし達との出逢いをおもいだしながら、こう提案した。
ラグナ〈[癒やしの鈴]か!〉
テトラ〈私を変えてくれた技だし、どう?〉
ライト「………うん、やってみるよ!」
可能性があるなら、試してみないと!
わたしはパニック状態で、言葉にならない何かを呟いている彼女を抱えながら、決心した。
ラグナ〈…だかライト、それだと……〉
ライト「ラグナ、君の言いたいこともわかるけど、今回はこれしか方法は無さそうだよ! ……だから、〈」わたしはやるよ!〉
ラグナは{技を使うと正体を明かす事になる}って言いたいのかもしれない……。
……わたしの言葉を聞いた感じだと……図星だね?
今回は仕方ないよ。
わたしは彼の言葉を遮って、そのまま姿を元に戻した。
ゴースト〈!!? まさか……ポケモン!!?〉
……空気になりかけ………いや、なっていたゴーストは、わたしの変化に言葉を失った。
……驚かせて、ごめんね……。
わたしは唖然としている彼に、心の中で謝った。
わたしは浮いた状態で彼女の肩に、短い手をまわしたままイメージを膨らませ………、
ライト〈……[癒やしの鈴]!!〉
祈りと共に、心地の良い音色を辺りに響かせた。
…………どうか、これで元に戻って!!
彼女への想いと共に、わたしは天への祈りを強めた。
ティル〈上手くいくといいけど……。〉
……
数分後 sideライト
レイ「…………? 私はいったい………。」
ライト《……!よかった!! 気が付いたね!!》
わたしが祈りを捧げ始めてから4〜5分後、意識がどこかにとんでいたレイちゃんが、ようやく言葉を発した。
よかった……。
わたしは彼女の言葉に安堵の表情を浮かべた。
レイ「……確か[ゴースト]を出して………えっ!? ポケモン!?」
ライト《驚かせてごめんね………。わたしの事、声で分かるかな………?》
彼女の肩に手を添えながら、わたしは彼女に優しく語った。
………姿は違うけど、声で分かってくれるはず……。
レイ「!? この声は………ライトちゃん!? ……それに、このポケモンは何!?」
ライト《レイちゃん、あってるよ。 レイちゃんの目の前に浮遊してるポケモンが、本当のわたし。………黙ってたけど、わたし、[ラティアス]っていうポケモンなの……。》
レイ「……なら、どうして理解できてるの……!?」
……正気を取り戻したすぐで申し訳ないけど、レイちゃん、疑問で押しつぶされそう……。
………本当に………ごめんね……。
ライト《[テレパシー]って知ってる?》
レイ「[テレパシー]………? 一応習ったから知ってるけど…。」
ライト《………よかった。……なら話は早いよ。 わたし、今それを使って話してるんだよ。》
レイ「!? ……って事は、もしかして………。」
ライト《……気づいた通りだよ。》
レイちゃん、分かったみたいだね?
レイ「………[伝説]……?」
ライト《そう。 地方に君臨している種族みたいな凄い逸話は無いんだけど………》
レイちゃんが落ち着きを取り戻したから、わたしは自分の種族について語り始めた。
…………今気づいたけど、ユウキ君達とユウカちゃん達以外にわたしの事を話すの、初めてだなー…。
…………
数十分後 sideライト
ライト「………わたしの事はこれで全部だよ。」
ちょっと時間がかかったけど、何とか自分の種族について話し終えた、
レイちゃん、初めはビックリしてたけど、何とか分かってもらえたよ……。
レイ「そっか……。そうなんだね?」
ライト「うん、そういうこと。」
人間の姿に変えているわたしは、コクリと頷いた。
………今思うと、話してよかったよ。
レイちゃんとはたった1つしか年が変わらないっていうのもあるけど、何か距離が凄く近くなった気がするよ!
……シルクの言葉を借りると、{[絆]の架け橋が架かった}……のかな?
レイ「………ライトちゃん、これ、受けとって!」
ライト「えっ!?……これって……」
するとレイちゃん徐に、ポケットからあるものを取りだした。
……えっ!?
ライト「…ジムバッチだよね!? わたし、まだ勝ってないのに!?」
ジム戦、中止にしたから決着着いてないんだけど………。
彼女が取りだしたのは、傷一つない、真新しいジムのバッチ……。
彼女は笑顔でわたしにさしだした。
レイ「そうだけど……。殆どのトレーナーは勘違いしてるんだよねー。 どの人も勝たないと貰えないって思ってるみたいなんだけど、一応規則では{ジムリーダーが認めたトレーナーにバッチを与え}ても良い事になってるんだよ!……たとえ、戦ってなくてもね!……だから、受けとって!」
いや……でも………。
ライト「…でも、わたしは受け取れ……」
レイ「じゃないと私の気が済まないよ! ……普通に闘っていても私が負けていたと思うし……。 ……それに、あんな状態の私の正気を取り戻してくれたんだから、ライトちゃんはこのバッチを持つのに相応しいよ! ……[ジムリーダー]の私が認めたんだから!!」
ライト「あっ……!」
レイちゃん!?
彼女はいつ引っ張り出したのか、わたしのバッチケースにそれをしまい込んだ。
………出した覚え、無いんだけど………。
ゴースト〈僕からも、ぜひ! [トリック]!〉
ライト「えっ……!?」
レイちゃんの側に控えていたゴースト…………、あっ、彼が……。
レイちゃんが彼にわたしのそれを渡すと、ゴーストは技を発動させた。
……あっ、そうやって………。
彼の手元(持てるの……?)のそれは、一瞬で[カゴの実]と入れ替わった。
…………なんかモヤモヤした感じだけど、こうして私の7箇所目のジム戦は無事(?)に幕を閉じた。
………
昼前 シオンタウン屋外 sideライト
ティル〈……なんか今までにない感じだったね。〉
ラグナ〈……だが、彼女が言うのだからこういう勝ち方もアリなんじゃないか?〉
テトラ〈それに、レイさんと仲良くなれたんだし、私もこれでいいと思うよ!〉
………わたしはまだ納得出来てないんだけど、みんなは納得してるんだね……?
ライト「……でも、成り行きで貰っちゃったけど、これでいいのか……。」
ティル〈……ライト? レイさんが{認める}って言ってるんだから、もし返したら失礼なんじゃないかな?〉
ライト「えっ!?」
!!?
もしかして、わたしの考えてる事が読まれてる!?
わたし、あの人に会いに行ったらバッチを返すつもりだったんだけど!?
ティルに図星を突かれて、わたしは彼の事をハッと見た。
ティル〈やっぱり…。ライトの事だからそうするんじゃないかなーって思って。 ……ところでライト? この後の予定、何も聞いてないんだけど、俺達ってどこに向かってるの?〉
ライト「えっ?……ああ、……言うの忘れてたけど、どうしても会いたい人がいてね、その人の元に向かってる最中なんだよ。」
テトラ〈{会いたい人}って?〉
ライト「わたしにとっての………もう1人の師匠、かな?」
ヒイラギに聴いてもらったら、その人は今日の昼からなら時間があるって言ってたらしいんだよ。
わたしはこみ上げる懐かしさと共に言った。
………あっ!
今気づいたけど、ティルにさり気なく話題変えられたな……。
……ティル?最近勘が冴えすぎてない?
見事に当たってるんだけど………。
……でも、今更話題を変えられないよね……。
ティル〈シルクとユウキさん以外にいたの?〉
ライト「うん! ……特にテトラには会ってほしいなー。〉
テトラ〈私に?〉
ラグナ〈ライトならともかく、何故テトラに?〉
ライト「うーんと、……ちょっとね! 会えばすぐにわかるよ。」
平生を装って、わたしはこう言った。
………ユウキ君達と出逢う前だから……前に会ったのは2年以上前になるかな……?
ヒイラギは頻繁に会ってるみたいだけど、元気かな………。
ハートさん、職業上危険に晒される事が多いから……。
ライト「………でも、そこはちょっと狭い場所だから一度戻ってくれる?」
………狭いというか、結構緊張感が漂ってる場所だからね………。
ヒイラギに伝えてもらってるから、入れると思うけど……。
テトラ〈……うん。わかった。〉
ティル〈何でかは分からないけど、いいよ。〉
ラグナ〈何かワケがあるんだな?〉
ライト「うん。 出せるようになったら直ぐに出すから。」
……一体今日は何回目だろう……。
わたしはまた心の中で謝りながら、メンバー全員をボールに戻した。
………
正午 sideライト
ライト「…ここかな?」
数分歩いて、わたしはある建物の前に立ち止まった。
………ここは、一目見ただけですぐ分かるね。
ライト「ハートさん、刑事だから当たり前か……。」
さっきからわたしが言っているハートさん、警察官なんだよ。
ヒイラギが言うには、{敏腕刑事}っていう異名があるみたい………。
それに、昨日ヒイラギが調査していた事の依頼主は彼女なんだよ!
わたしは久しぶりに会う彼女に思いを馳せながら、その建物の自動扉をくぐった。
ライト「…すみません。 ハートさんに……」
A「ああ、話は聞いているよ。 トレーナーのライトさんですね?」
ライト「会い…………あっ、はい。」
中に入って一番近くにいた男の人に話しかけると、わたしが要件を伝える前に彼がその事を口にした。
……よかった。 ちゃんと伝わってたんだ……。
わたしは驚きと共に、ホッと一息ついた。
A「彼女なら武道場にいるから、案内しますね。」
ライト「はい……。」
トレーナーカード、見せなくても大丈夫だったのかな………?
ここ、警察署だし………。
………ラグナなら、硬直するだろうな………。
ヒイラギの事務所に行ったときでさえ、顔色悪かったし………。
どこかのアイドル風の彼は、わたしに有無を言わさずに先導した。
………というか、訊く暇が無かった……。
……この人、普段取り調べでもしてるのかな……?
………
数分後 武道場 sideライト
A「ここですよ。」
[ヤマブキ]のビルと大して変わらない廊下に、場違いな扉………というか、襖が現れた。
………凄く違和感が………。
………ハートさんらしいといえばハートさんらしいんだけど…。
彼はわたしに目線を合わせたまま、それを開けた。
A・ライト「ハート、連れてきましたよ。」「!!?」
わたしがその中に入ると、驚きの光景が広がっていた。
1人の女の人が、同じくらいの背の[デンリュウ]を、まさに背負って投げ飛ばそうとしている瞬間だった。
ハート・デンリュウ「ふぅ。 ? ! リョウ、ありがとね。」〈っく!〉
技をきめた彼女……、ハートさんは彼………リョウさんの声を聞き取ると、フッと笑みを浮かべて会釈した。
リョウ「……やっぱり、何回見てもルクスと組み手している光景は慣れないよ……。」
ハート・ルクス「ポケモンと組み合うのは私ぐらいしかいないもの……、当然ね。」〈……やっぱりハートにだけは勝てない……。〉
………?
[ルクス]って事は……。
ライト「ルクスさん、暫く会わないうちに進化したんだね!?」
ルクス〈…!? この声は、ライトやね? 5年ぶりやね!! そうよ! ウチ、あの後すぐに進化したんよ!!〉
やっぱり、そうだ!!
前は[メリープ]だったから、言われるまで気づかなかったよ!!
私は懐かしい人との再会に心を躍らせた。