53 LS 焦り
午前 控え室 sideシルク
ユウキ「…お待たせ!」
私の兄は走って乱れた息を弾ませながらメンバーを出した。
スーナ〈……{お待たせと言っても……ほんの2、3分だけどね♪〉
フライ〈……それより、早く行った方がいいんじゃないの? もう28分だよ?〉
シルク《早くしないと遅れるわよ。》
ユウキ……私達と話してる時間なんて無いはずだけど……大丈夫なのかしら?
私、スーナ、フライは揃って時計をチラッと見、そしてユウキを急かした。
ユウキ「うん。………行ってくるよ!!」
そう言い残して、彼は部屋から飛び出していった。
………ギリギリだから間に合うといいけど………。
………でも、集合時間までには会場に入れてよかったわ。
私はここで、ようやくホッとひと息ついた。
フライ〈……控え室って聞いたから、もっと狭いかと思ったけど、案外広くてよかったよ。〉
スーナ〈そうだね♪………見た感じ、8畳ってとこかな?〉
シルク《高さは………フライの身長からすると3mぐらいかしら?〉
………他には………、地下だから窓は無いけど、化粧台が1セット……。
折りたたみ式の長机と、同じく折りたたみ式の椅子。
机の上にはちょっとしたお菓子やら飲み物が申し訳程度にちょこんと置いてあり、私達用に[オレンの実]や[モモンの実]みたいな、比較的手に入りやすい木の実が数個ずつ……。
別の所に目を向けると、簡易的なロッカーと、ダイヤル式の金庫………。
………殺風景だけど、こんな感じね。
フライ〈………そんな感じだね。………ただ、技の調子をみるのには狭いかな?〉
スーナ〈……うん♪ シルクとフライは何とかなるけど、ウチの[ブレイブバード]は無理かな………。壁にぶつかっちゃうから……。〉
シルク《そうね。 [ブレイブバード]は減速するのに結構距離が……》
フライの言う通り、この部屋は技の練習には不向きね。
私達は部屋の中をキョロキョロ見渡……
コンコン……
シルク・スーナ・フライ《必要……〈〈??〉》誰だろう? ユウキにしては早すぎる気がするけど……。〉
しながら………?
私が語っている最中に、部屋の扉をノックする音が響いた。
スーナ〈……でも、人にしては低過ぎない?〉
確かにね………。
扉を叩く音にしては、低すぎるわね。
……大体、床から40cmぐらいかしら……?
子供……?……にしては無理が……
???〈[念力]! やっぱり、ここであってた!〉
あるわ!
そうこうしている間に、扉のノブがひとりでに回り始めた。
またして扉………
スーナ・フライ・シルク〈〈えっ!?[エーフィ]!?なんで!?〉〉《!? トリちゃん!? どうしてここに!?》
がひとりでに……じゃなくて、一匹のポケモン………私と同族の[エーフィ]によって開けられた。
………でも、彼女の事は知ってるわ!!
トリ〈カレンにも出演依頼が来たんだよ! シルク達もそうでしょ?〉
シルク《えっ、ええ。………でもまさかカレン達も呼ばれてたなんて、知らなかったわ!》
[豪雷の防人]のパートナーで、テトラちゃんのお姉さんのトリちゃん……。
トリちゃん達も出るなんて知らなかったわ!!
思わぬ再会に、私の念じる言葉のトーンも自然と揚がった。
スーナ〈……シルク、知り合い♪?〉
シルク《ええ!調査中に仲良くなったのよ!》
盛り上がっている二匹の[エーフィ]に、スーナが不思議そうに聞いた。
……見た感じ、フライも同じね。
………私とトリちゃんの見た目の違いと言ったら……、私の方が一回り大きいのと、左耳に青い鉱石の耳飾りと、首に水色の[従者の証]を着けてるぐらい…………と思ったけど、結構な違いね……。
ポケモンでアクセサリー着けてるひとは殆ど見かけないから…。
せいぜい、{コンテスト}に出てるポケモンか、一緒に5000年後の世界に行ったフライだけ……。
向こうでは多かったけど……。
トリ〈[エーフィ]のトリです。年は16で、化学者のカレンのパートナーなんです。 あなた達も、ユウキさんのメンバーですよね?〉
彼女は、無邪気な笑顔と共に、丁寧に自己紹介した。
スーナ〈うん♪ そうだよ♪ ウチは[スワンナ]のスーナ♪ 年は20。よろしくね♪〉
トリ〈はい! よろしくお願いします!〉
スーナはニッコリと笑みを浮かべながら紹介した。
フライ〈………そして、ボクは[フライゴン]のフライ。 年は君と同じ、16だよ。〉
フライも、優しい声で名乗った。
トリ〈へぇー。ワタシと同い年なんだー。 ……うん、よろしくお願いしますね!〉
スーナ・フライ〈〈こちらこそ♪/!〉〉
三匹とも、にこやかに握手を交わした。
……………
数十分前 ジム sideテトラ
ライト・レイ「テトラ、一番手をお願い!」「[ムウマ]、いくよ!!」
テトラ〈…あっ、うん!〉〈もちろん! 今日も軽ーくやってくるよ!〉
私は、ライトに指名されて一歩前に出た。
………何か、訳が分からないまま始まっちゃったけど……、まっ、いっか!
結果的にはジムに挑む事になったから、いいよね?
ティル〈テトラ、頑張ってね!〉
テトラ〈うん、任せて!〉
ラグナ〈頼んだぞ!〉
……それに、今日はいつもとは違う………、いい意味で!
……何しろ、ライトがこの廃墟みたいなジムに引きずり込まれちゃったから、私達がボールに戻る暇が無かったんだよね……。
……だから、今回は応援付きなんだよ!
私は、仲間の声援に笑顔で答えた。
レイ「ライトちゃん、私からいかせてもらうよ!![念力]で動きを止めて!!」
ムウマ・ライト〈うん! [念力]!〉「[スピードスター]から[穴を掘る]!」
テトラ〈えっ!? ………うん!昨日言ってた作戦だね?〉
……つまり、[スピードスター]で気を逸らすんだね?
[ヤマブキ]のジムで学習済みだから、問題ないよ!!
私は相手の技にかかり、拘束された。
テトラ〈そのくらいの超能力では私は止められないよ!! [スピードスター]!〉
ムウマ〈えっ!? 効いてない!?〉
テトラ〈よし、解けた! [穴を掘る]!!〉
……やっぱり、エスパータイプの技って、集中力が大事なんだね?
ライトとティルの言った通りだよ!
相手は私の技………って言うよりは、拘束の効果が無かった事に驚いて、技が失敗した。
私はすかさず地面に降り、そのままの勢いで地中を掘り進んだ。
……もちろん、次の攻撃をするためにね!
レイ「地面に逃げても無駄だよ! [シャドーボール]を溜めておいて!」
ムウマ・ライト〈……次こそは……。[シャドーボール]!〉《テトラ、[フラッシュ]をお願い!》
ライト、任せて!
地中でライトの指示を受け取り、イメージを膨らませながら、地上に向けて掘り進んだ。
……さあ、いくよ!
私の目の前に、薄暗い照明の光が差し込んだ。
テトラ〈後ろだよ!!〉
ムウマ〈!!?しまった!!〉
私の計算通り、相手の背後に飛び出した。
相手は咄嗟に振り返り……、
テトラ・ムウマ〈[フラッシュ]!!〉〈これ…………くっ!! 眩しい!!〉
私は触手に溜めていた光の球を相手の目の前で発光させた。
…………常識的に、幽霊は強い光に弱い!
……それに、私の[フラッシュ]はフェアリータイプ……。
効果も、発動する!!
相手は閃光を直視して、私はその間に着地した。
レイ・ムウマ「ライトちゃん、相性、分かってるの!?」〈えっ!?なんで!?〉
ライト「もちろん、知ってるよ!! 今のうちに[スピードスター]!!」
常識的に考えると、ジムリーダーの言葉が正しいね。
………でも、私にはそれは通用しないよ!!
相手の[ムウマ]は、{訳が分からない}って感じで慌ててる……。
テトラ・レイ〈うん! 一気に攻めるんだね? [スピードスター]!!〉「全然分かってないじゃん!! だって、ゴーストタイプにノーマル技だよ!?」
ライト「………でも、見てて!」
今度は特性によって変換された妖艶なエネルギーを、星形に変えて一気に放った。
………もちろん、狙いは[ムウマ]。
今度は、囮じゃないよ!!
視界が曖昧な相手は、ノーマルタイプだと思い込んでかわそうとしなかった。
………その油断が、命取りだよ!!
ムウマ・レイ〈っく!!………何で………!?〉「えっ!? 当たった!!? 嘘でしょ!?」
テトラ〈さあ、何でだろうね?〉
相手は、非現実的な事が起こって、パニック状態……。
対して、私は勝利を確信して言い放った。
ライト「彼女の特性は[フェアリースキン]……。ノーマルタイの技がフェアリータイプになるんだよ。」
ライト、解説ありがとね!
レイ・ムウマ「そんな特性が!?……知らなかった……。」〈…………嘘…………だよね………。………ゴーストタイプの私が…………ノーマル技で…………やられるなんて………。〉
解説してもらってる間に、相手は力尽きた。
ライト「少数派の特性だからね……。 テトラ、お疲れ様。」
テトラ〈…案外、楽だったよ!〉
本当に……簡単だったよ……。
……もしかすると、今まで戦ってきた中で一番あっさり勝てたかも。
私は涼しい顔で、ライトの後ろに下がった。
…………
sideティル
ライト「少数派の特性だからね……。 テトラ、お疲れ様。」
テトラ〈…案外、楽だったよ!〉
テトラ、完全勝利だね!
[穴を掘る]からの[フラッシュ]、すごかったよ!
………俺も負けてられないなー。
俺は仲間の戦いをしっかりと目に焼き付けた。
ティル〈テトラ、お疲れ様。 凄かったよ!〉
テトラ〈本当に?〉
ラグナ〈ああ、そうだ。 まさに、主導権を握っていたという感じだな。〉
ライト「ティル、次、お願い!」
ティル〈本当に………あっ、うん! ……じゃあ、行ってくるよ!〉
テトラ〈ティルも、頑張ってね!〉
ラグナ〈テトラとの戦いで相手は相当動揺している筈だ。いつも通りやれば勝てる筈だ。……しっかりやれよ!〉
ティル〈もちろん!!〉
ラグナ、アドバイス、ありがとね!
俺は仲間の声援をしっかりと受けとめ、前に出た。
ライト「………レイちゃん、次のメンバーは?」
レイ「……………!……ご……[ゴーストー]、いくよ!」
ゴーストー〈………こんなんで……大丈夫か……?〉
ジムリーダーの彼女は、半ば上の空で次のメンバーを出した。
………凄く心配されてるけど、大丈夫なのかな…?
………それに、打ち上げられた[コイキング]みたいに口がパクパクしてるし……。
…俺まで心配になってきたよ………。
レイ「[シャドーボール]!!」
ゴーストー・ライト〈………とりあえず、やるか。[シャドーボール]!〉「[ニトロチャージ]を維持してかわして!!」
ティル〈うん、そうだね! [ニトロチャージ]!!〉
………じゃないと、始まらないよね!
相手は一度、トレーナーを心配そうに見つめてから、手元に漆黒のエネルギーを溜め始めた。
俺も、いつものように炎を纏った。
ゴーストー〈……遠慮なく、いかせてもらうぞ!!〉
ティル〈もちろん、手加減はなしだよ!!〉
最初から、そのつもりだよ!!
相手はそう言い放つと、溜めていたそれを発射した。
俺は、漆黒の弾を見切って、左にかわした。
………[ニビシティー]でシルクとユウキさんに鍛えてもらった時に比べると、かわすのは簡単だよ!
……同じ技だけど、あの時の弾の数は4個。
おまけに不規則に動いてた……。
だから、こんなの、朝飯前だよ!
レイ・ライト「続けて[シャドーボール]!」「接近しながら[炎の渦]!!」
ゴーストー・ティル〈追撃だな?[シャドーボール]!〉〈うん!〉
相手は、立て続けに弾を撃ちだした。
対して、俺は走る脚に力を込めて一気に駆けだした。
……真っ直ぐの軌道なんて、簡単すぎるよ!!
俺は加速しながら、容易くそれらをかわした。
………スピードなら、負けないよ!!
ティル・レイ〈[炎の渦]!!〉「[シャドーボール]!!」
ゴースト〈!? いつもならここで[金縛り]だろ!?っ!!〉
勢いをそのままに、俺は技を解除して、口に炎塊を溜める………。
そして、環状に形成しながら一気に放出した。
レイ「[シャドーボー……]……」
ゴースト〈…レイ、俺の言葉は届かないが……落ち着け!!〉
ティル〈……ねえ? 君のトレーナーっていつもこんな感じ………じゃ…ないよね?〉
………やっぱり、ジムリーダーの様子、おかしいよ!!
ちゃんとした指示が出せてるようには見えないし……。
本当に、大丈夫なの!?
相手のゴーストはトレーナーの指示を聞かず、伝わらないと分かっていても大声で叫んだ。
ライト「レイちゃん……大丈夫!?」
…………このままでは、バトルを続けられそうにないよ!!
あの人、目の焦点が合ってないし……。
ティル〈ライト!! バトルを中止にした方がよくない!?〉
ラグナ〈……あの様子だと、無理だな……。〉
ライト「うん! こんな状態で勝手も嬉しくないよ!」
もちろん、俺だってそうだよ!!
精神状態が安定してないのに………これでは勝っても意味ないよ!!
俺達はすぐに意見が一致した。
………となると……すぐに炎から救い出さないと!!
俺の意を決して炎に包まれているゴーストめがけて全力で走った。
ティル〈君、もうバトルは中止! だから、今、助けるから!!〉
自身がつくりだした炎に飛び込み、逃げ場を失っているゴーストを抱え、すぐに抜け出した。
ゴースト〈……!? ……すまない……。〉
………ん?
何故ゴーストタイプのポケモンに触れるのかって?
さっきはふれなかったけど、そのままでは触れないから、[ニトロチャージ]で炎を纏ったんだよ。
炎タイプに対してゴーストタイプの技は普通に効くでしょ?
………もちろん、火力を弱めてだけど…。
……だから触れたんだよ。
………という訳で、俺達の7箇所目のジム戦は急遽、中止になった。