52 LS 地下都市
午前 シオンタウン sideシルク
ユウキ・ライト「シルク、スーナ、フライ、着いたよ!」「みんな、お待たせ!」
シルク・ティル《あら、案外早かったわね。》〈ここが[シオンタウン]?〉
スーナ・テトラ〈すぐに乗れたんだね♪?〉〈{工業都市}って聞いてたんだけど、なんかイメージと違うな……。〉
フライ・ラグナ〈かかった時間的にそうかもしれないね。〉〈テトラ、お前は林立した工場を想像してたのか?〉
私達はそれぞれに呟きながらボールから飛びだした。
周りに目を向けると、古風な民家が立ち並び、{工業都市}とは思えないようは建物ばかりが広がっているわ……。
建物と建物の間には、目立たない大きさの換気口が地面から突きだしている………。
階層も、[ヤマブキ]や[タマムシ]みたいに何十階……というものではなくて、せいぜい2〜3階程度………。
………何も知らない人がこの町を見たら田舎の小都市と勘違いするわね……。
……でも、一応、高い建物もあるわ!
……[シオンタワー]と言って、ラジオ局をはじめ、工業の記念館、展望台があるのよ。
………私が知る限り、これよりも高い建物は無いと思うわ。
…そうそう、この建物はトレーナーにとっても重要なのよ!
つい2、3年前からなんだけと、[グレンタウン]の跡地から移設してきたジムがあるのよ。
テトラ〈うん。 {工業都市}っていうぐらいだからてっきり私は工場ばかり建っていて、煙でむせかえりそうになるかと思ってた……。〉
ティル〈…でも、見た感じ工場なんて全然ないよ?〉
ティル君とテトラちゃんは、持っている情報の矛盾に疑問を抱きながら首を傾げた。
………そうね。
シルク《ええ、
地上には、無いわ。》
ティル・テトラ〈〈えっ!?どういう事?〉〉
同じ考えを持った二匹の声が共鳴した。
……声が出せないから、私は笑顔を交えて優しく語りかけた。
スーナ〈ウチも初めて知った時はビックリしたんだけど、この街の地下に沢山あるんだよ♪〉
フライ〈……他にも、雑貨屋とかスタジアムとか………、沢山あるんだよ。[シオンタウン]の別の呼び名を{巨大地下都市}っていうのも分かる気がするよ。〉
ライト「………らしいよ。………しらなかったけど……。」
そうよね。
この様相からは全然想像出来ないわよね。
………私も驚いたし……。
ライトは、疲弊した様子で呟いた。
………きっと、大都市名物の通勤ラッシュに翻弄されたのね?
見渡す限り人、人、人…………で、足の踏み場も無いもの……。
地下に街が広がっているここの規模が一番大きいかもしれないわね……。
ユウキ「[ヤマブキ]とか[タマムシ]の陰に隠れがちだからね……。」
スーナ〈……ところでユウキ? 時間は大丈夫なの? 打ち合わせがあるから9時半までに集合でしょ♪?〉
………9時半………?
ユウキ「………あっ!そうだった!!………ゴメン、すっかり忘れてたよ!!」
シルク《………なら、ヤバいわね!! もう9時をまわってるわ!!急がないと!!》
スーナ、私もうっかりしてたわ!!
このままのんびりしてられないわ!!
私達はスーナに諭されて重要な事を思い出した。
フライ〈急がないと!!〉
ユウキ「うん。だから僕達はもう行くよ!!」
ライト「えっ……うん。」
走らないと間に合わないかもしれないわ!!
私達はライト達の返事を待つ間もなく、慌てて集合場所へと駆けだした。
…………
午前 地下スタジアム入り口前 sideシルク
ユウキ「ハァ……ハァ………。……何とか……間に合った……。」
フライ〈ギリギリセーフだね……。〉
普段の姿で全力疾走したユウキは、息を弾ませて切れ切れに言った。
………ポケモンの方がスタミナがあるから私達はどうって事なかったけど……。
スーナ〈ユウキ、大丈夫♪?〉
ユウキ「うん………、何とかね……。」
……全然、大丈夫そうじゃないんだけど………。
咳き込んでるし……。
ユウキ「………とにかく、中に入らないとね………。」
フライ〈うん。 ボク達は一度ボールに戻らないといけないんだよね?……メンバーがバレるし……。〉
シルク《そうね。 楽しみというものがなくなるから、その方がいいわね。》
ユウキ「うん……。控え室に着いたら……すぐに出すから………。」
ユウキ、頼んだわよ。
私達は2、3度頷き、再び、ボールに収まった。
…………
同刻 シオンタワー1F sideライト
ティル〈……あっ!ここじゃないかな?〉
テトラ〈えっ!?これが!?〉
わたし達、別れてからとりあえず一番目立つ[シオンタワー]に来たんだけど………、
ライト「……これって、どう見ても……」
ラグナ〈{お化け屋敷}………だな…。〉
訪れるはずの施設を目の前にして、言葉を失った。
………新しいジムだって聞いてたから、てっきり綺麗なのかと思ったけど………、
テトラ〈………と言うより……廃墟だね………。〉
まるでここだけ台風が来たかのように荒れ果ててるよ………。
………中、暗いし………。
ライト「……でも、{シオンタウンジム}って書いてあるからあってる筈なんだけど……。」
ゴーストタイプのジムだって言ってたけど、本当に幽霊とか出そう……。
種族のせいかは知らないけど、わたし、心霊現象とかオカルト系の事、苦手なんだよね……。
わたし、エスパータイプだし……。
ティル〈潰れたとか?〉
テトラ〈でも、シルク達は去年来たって言ってたよね?〉
ラグナ〈確かに言っていたな。〉
………あまり、入りたくないな………。
わたしが躊躇してる間に、メンバーの3匹は議論し始めた。
ライト「うーん………、でもやっぱり……」
???「あれ?入らないの?」
ライト「ひゃっ!!」
!!!
突然、背後から肩を叩かれた。
でっ………出た!!
わたしはあまりの事にとひあがった。
ティル・テトラ・ラグナ〈〈〈!?〉〉〉
???「ごめん、驚かせちゃったな?」
ライト「………よかった………。幽霊じゃなくて………。」
恐る恐る振り返ると、そこには迷える魂………じゃなくて、わたしと同じくらいの年の女の子がそこにいた。
………こういう所で驚かさないでよ………。
本当に幽霊が出たかと思った……。
正体が人間だったことに安心して、わたしはホッと肩を撫で下ろした。
…………冷や汗が………。
???「ごめんごめん。 ……君ぐらいビックリする人は初めてだよ。 私はレイ。 これでもここのジムリーダーしてるんだよ。」
彼女………、レイちゃんは軽ーく謝った。
ライト「ジムリーダー………なの?」
レイ「うん! 本当はお爺ちゃんに{炎タイプにしなさい}って言われてたんだけど……、お爺ちゃんとは合わなくてね………。私、ゴーストタイプが好きだから受け継いだジムもこうしたんだよ!! それに、イッシュのジムはジムリーダーの好みで内装を変えてるって聞いたから真似してみたんだよ。 ………こんな感じにね! 雰囲気あるでしょ! …………ところで、君は? ポケモン連れてるから挑戦しに来たの?」
………喋りが、凄い………。
饒舌で、割り込む隙が全然ないよ………。
ティル達も彼女の勢いに言葉を失ってるし……。
ライト「………私は……ライト。見ての通りトレーナーだけど………。」
レイ「なら、早速やろうよ!!」
ライト「えっ……あっ……うん。」
……凄くせっかちだね。
………最近は落ち着いてきたけど、ティルをそのまま人間にしたみたい……。
わたしは彼女に手を引かれ、廃墟風のジムに引き込まれた。
………心の準備、出来てなかったんだけど…………。