51 LS 通勤ラッシュ
朝 クチバシティー sideシルク
テトラ〈シルク、本当にもう大丈夫なんだね?〉
シルク《ええ。喉以外は何ともないわよ!》
………この台詞、デジャヴだわ……。
ライトとはセンターの外で待ち合わせって事になってたからそこに行ったんだけど、予想通り、さっきの繰り返しになったわ……。
スーナがテトラちゃんに、フライがティル君に……。
………前回とダブるから、省略してもいいかしら………?
………長引きそうだから、そうさせてもらうわね。
……という事で、私達は雑談で盛り上がりながら、地下鉄の入り口を目指して歩き始めた。
ライト「………そういえば、ユウキ君達って[クチバシティー]に何をしに行くの?」
ティル〈俺達と同じでジム戦とか?〉
……知らないって事は、何をしに行くのか言ってないのね?
ティル君は興味津々、という感じでユウキに訊ねた。
ユウキ「ううん。 ちょっと仕事でね。」
スーナ〈ウチら、この地方はもうリーグまで攻略済みなんだよ♪……だから、それだけかな♪?〉
テトラ〈そうなの? って事は、みんなは相当強いんだね?〉
フライ〈うーんと、相当って程ではないけど、一般人のメンバーなら余裕で勝てるよ。〉
ラグナ〈敵対していた一年前でさえ、俺では全く歯が立たなかったぐらいだからな。〉
そうね………。
流石に星持ちのトレーナーとは簡単には勝てないけど、一般の人なら大丈夫ね。
………唯一、私達全員で戦っても勝てなかったのは、4つ星トレーナーで考古学協会会長のシロナさん……。
彼女もリーグチャンピオンだから、もし戦うなら最後になるわね。
フライは、一応謙遜した。
ラグナさんも、去年の事を懐かしそうに思い出しながら言った。
ユウキ「……あの後の{グリース}はどうなったかは知らないけど、そうだったね。」
フライ〈ラグナさんでさえ知らないぐらいだからね。 ……ライト達は、ジム戦だよね?〉
ライト「うん、そうだよ。」
シルク《私にとっては不利だったけど………確かゴーストタイプだったと思うわ。》
私の記憶が正しければ、そうだったはず……。
2つ星になってから始めて挑んだジムだったから、有星者ルールに苦戦したのを覚えてるわ。
……何しろ、ユウキからの指示がもらえないから……、もうなれたけど…。
確か、まだ挑戦してないけど3つ星はそれに加えてメンバーを全て明かさないといけなかったと思うわ。
ティル〈ゴーストタイプかー。なら、テトラなら相手の意表を突けるんじゃない?〉
テトラ〈うん! 私の特性だと、[スピードスター]でも闘えるもんね!〉
スーナ〈えっ!? それってゴーストタイプには効果が無いはずだけど!? それに、テトラちゃんって技、全部ノーマルタイプだったよね!?〉
ライト「そうだけど、テトラなら出来るんだよ。 テトラの場合、特性の効果でノーマル技が全部フェアリータイプになるんだよ。」
ティル〈おまけに、威力が上がるっていう特典付きでね!〉
………そうだったわね。
テトラちゃんの特性、{フェアリースキン}はそういう効果があったわね。
ユウキ「正直、ジム戦見たいけど無理かもね。………あっ、見えてきたね。」
!
もう着いたのね?
話に夢中だったからあっという間だったわ!
ふと気が付くと、地下のホームへと続く入り口が目の前にあった。
フライ〈案外早かったね。……スーナ、ボク達は一度戻らないとね。〉
スーナ〈そうだったね。ちょうどこの時間って、通勤時間と重なってるからそうした方がいいね♪〉
シルク《私も、人混みで蹴られそうだから戻るわ。》
だって、今ちょうど通勤ラッシュ。
歩く事さえままならないわ。
身長が1mに満たない私にとっては死活問題なのよ……。
ユウキ「……その方がいいかな?」
ラグナ〈なら、俺達もだな。〉
テトラ〈蹴られたくないもんね。〉
ティル〈だからライト、俺達もお願いね。〉
ライト「うん。 着いたら直ぐに出すから。」
頼んだよ……。
ライトのメンバーは一言、彼女に声をかけてから赤い光に包まれた。
シルク《…そういう事だから、ユウキ、後は頼んだわよ。》
ユウキ「うん。」
向こうに着いたら、お願いね!
私達も、ボールに収まった。
………
ホーム付近 sideライト
ライト「うわ……、凄い人の数……。」
ユウキ君と2人で階段を降りていったんだけど………、まだ改札も通ってないのに人で溢れてるよ……。
わたしはあまりの光景に言葉を失った。
ユウキ「週始めだからね……、いつもこうなんだよ。……本数もこの時間は沢山あって飛んで行くよりも速いんだけと、この人の多さが玉に瑕なんだよね……。」
ユウキも、苦笑いを浮かべながら呟いた。
……都会育ちって言ってたけど、慣れてないのかな…?
わたし、島育ちだからなかなか慣れれないかも……。
………でも、ここを通過しないとどうにもならないよね?
わたし達は意を決して、人の山で見えない階段を一段ずつ、踏み外さないように慎重に降り始めた。
ユウキ「……ライトは通過ラッシュに乗るのは初めてだよね?」
ライト「えっ!? うん。 昨日は昼だったからあまりいなかったけど……。」
……ショウタ君とシルクからある程度は聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかったよ……。
………人間も、大変なんだね………。
トレーナーじゃなくて、普通に働いている人はこれを毎日経験する事になるんだよね……?
………わたしには無理かな………。
[カナズミシティー]のお兄ちゃんはともかく、ヒイラギとハートさんはこういう時ってどうしてるんだろう………。
ユウキ「……ライト、切符、買ってきたら?」
ライト「えっ? あっ、うん。………でも、ユウキ君は買わなくていいの?」
思考を巡らせているところに、ユウキ君が徐に声をかけた。
………周りが騒がしいからかき消されたけど、変な声出しちゃった……。
……そういうユウキ君も買ってないはずなのに、どうして?
ユウキ「……この地方は街が独自に特典を付けるんじゃなくて、こういう交通機関の割り引きになってるみたいなんだよ……。」
ライト「…って事は、トレーナーカードの特典?」
ユウキ「…そうなるね。」
……そっか……。
言われてみれば、センターで部屋を予約する時、カードを出すように言われなかったよ。
わたしは使わなかったけど、街と街の間に結構バスとかが通ってたから、それになってたんだね?
………きっとそうだよ!
わたしは、急いで切符を買いに行った。
ライト「……お待たせ。」
ユウキ「そんなに焦らなくてもよかったのに……。」
………ふぅ、……ちょっと、時間かかっちゃったかな?
わたしはユウキを待たせないように、息をきらせて彼の元に戻った。
ライト「だって……、はぐれたらいやだし……。」
……それに、またガンマに襲われたら嫌だから………。
表には出さなかったけど……。
ユウキ「そうだね……。これだけ人が多いから一度はぐれたらなかなか会えないから……。僕、学生時代に結構そういう経験をしたんだよ……。」
………{できれば、もうそんな事にはなりたくないね……。}
ユウキ君は苦笑いと共に言った。
わたしも、つられて苦笑い………。
…………やっぱり、わたしには都会で生活するのは無理だよ……。
………最初からする気なんて無いけど。
わたし達ははぐれないように注意しながら、自動改札を通過した。