50 LS 兄と妹
夜 部屋 sideティル
スーナ〈……ティル君、テトラちゃん、ウチらが誤解したせいでとんでもない出逢いになっちゃってごめんね♪…。〉
テトラ〈私達は気にしてないから。〉
フライ〈ラグナさん、事情も聴かずに攻撃しようとしてごめんなさい……。〉
ラグナ〈……分かればいいんだ………。俺の方こそ、去年はお前達に迷惑をかけてすまなかった……。〉
………何か、謝罪会になっちゃってるね……。
みんながそれぞれに、申し訳ないという想いを込めて頭を下げた。
シルク、喉に傷を負っていたなんて……知らなかったよ……。
[トキワシティー]で会ってから大声を出してなかったのは、喉に病気があったからだったんだ………。
あの後で[フライゴン]っていう種族のフライ………君が言ってたんだけど、{ボクとシルクの二匹で伝説級の炎タイプと闘った時、ボクもシルクも一度死にかけてね……。ボクは何事もなく回復したんだけど、シルクはその時に喉に大火傷を負っちゃってね………。それで大声を出せなくなったんだよ……。}って。
伝説と闘ったって………。
それに炎タイプ………、どんな種族だったのか気になるけど、あのシルクでも{死にかけ}たなんて……。
ティル〈俺も気にしてないから! ………シルクは、大丈夫なの……?まだ目覚めないけど……。〉
俺はシルクのトレーナーっていうユウキさんの方を見て言った。
[ニビシティー]で会った時もそうだったけど、ユウキさんって何者なの!?
俺達の言葉を理解してたのもだけど、ライトの[ラティアス]でもヒイラギさんの[ラティオス]でもないのに[ピカチュウ]に姿を変えてた……。
さっき闘ったジムの[ライチュウ]とは比べものにならないぐらいの電気だった……。
[ピカチュウ]って、[ライチュウ]の進化前だよね!?
一体どういう事なの!?
ユウキ「……何とか炎症は抑えられたらけど、2、3日はまともに声が出せなくなるかもしれないよ……。………昔からなんだけど、シルクはよく無理をするからね……。シルクの兄としてはもう少し自分の体を大切にしてほしいんだけどね………。」
ユウキさんが、心配そうにシルクを見つめながら言った。
……人間のユウキさんが、シルクのお兄ちゃん!?
ますます訳が分からないよ!!
スーナ〈そのシルクの無茶でウチ、何度も助けられてるのも事実なんだけど……。〉
フライ〈それに、ボクは違うんだけど、みんなが旅に加わったのはシルクがきっかけなんだよ。〉
ライト「わたしがトレーナーになろうと思ったのも、シルク達に助けてもらったのがきっかけだし…。」
ライトも?
ティル〈……だから、お互いに知ってたんだね?〉
ユウキ「そう。」
テトラ〈……私の時もそうだったんだけど、シルクってどうしてそんなに無理しちゃうの?私が初めて会った時、シルクはたった一匹で[スピアー]20匹を相手にしてたし……。〉
そうだったね……。
シルクの圧勝だったけど……。
フライ〈きっと、シルクの生い立ちが関係してると思うよ。〉
ティル・テトラ〈〈生い立ち?〉そういえば聞いた事無かったね。〉
言われてみれば、そうだったね。
シルク、どんな風に育ってきたのか謎だし………。
ユウキ「……本人はあまり話たがらないんだけど、シルクとは[絆]を紡いだ仲みたいだから、話した方がいいかな…?」
そういって、ユウキさんはシルクの事について話し始めた。
………
深夜 部屋 sideシルク
シルク〈………っ………!〉
私はふと、目を覚ました。
………部屋、暗いわね…………。
静かだから、夜なのかしら………?
私は、意識を失う前よりも痛みがひいている喉の痛みに耐えながら体を起こした。
起きあがった私の背から、何かがずり落ちた。
シルク〈………?〉
疑問と共に振り返ると、……白衣?
………ユウキのね?
私の兄は学会とかの公の場所に出るときはいつも、学生時代に使っていた白衣を着ているのよ。
……学生時代、ユウキは化学を専攻していたのは知ってるわよね?
きっと……、その時のものね……。
周りに目を向けると、顔を埋めて眠っているスーナと、楽な体勢で熟睡しているフライ……。
そして、私のすぐそばで座りながらうたた寝しているユウキ……。
ユウキ………、ずっと私につきっきりで……。
彼の優しさに、私の瞳から光るものが滲み出てきた。
ユウキ「………シルク、良かった……。目が覚めたんだね」
シルク〈……
ぇ……《〉ええ、何とか……。》
溢れる涙を拭っていると、そばにいたユウキが私の目覚めに気が付いた。
………やっぱり声……出ないわね……。
ユウキ「手遅れだったらどうしようかと思ったけど、無事で良かったよ………。」
安堵の表現を浮かべながら、彼は私の頭を撫でた。
[トレーナー]としてではなく、[兄]として……。
シルク《………お兄ちゃん………私………私…………》
ユウキ………。
私は溢れる感情を抑えきれず、[妹]として彼に飛びついた。
ユウキ「……辛い思いをさせちゃったね………。でも、もう大丈夫だから。」
シルク《……お兄ちゃん………。》
彼は、号泣する私を優しく抱きしめた。
ユウキ「守りたい気持ちも分かるけど………、無理しないようにね。」
シルク〈……うん………。〉
兄の言葉が、私の心の中に幾多にも木霊した。
………
翌朝 部屋 sideシルク
スーナ〈シルク!! ………本当に………ホントに無事で良かったよ♪!!〉
シルク《スーナ、フライ………。しばらく声はだせないけど、もう大丈夫だから。〉
私は涙でクシャクシャになっている親友に、優しく語りかけた。
シルク《あの後の事はユウキから聴いてるわ。みんなで薬を調合してくれたのよね?》
ユウキから、そう聞いてるわ。
声が出せないから、私は直接頭の中に語りかける。
フライ〈そうだよ。 あの時に調合の仕方を聴いておいて良かったよ。〉
シルク《本当に教えておいて良かったわ! あと、今日はライト達も一緒に[シオンタウン]に行くのよね?》
夜、ユウキからそう聞いたわ。
きっと、ジム戦ね?
スーナ〈うん。行き先が一緒だから途中までね♪〉
ユウキ「久しぶりに地下鉄を使う事にしたんだよ。」
地下鉄をね……。
それなら、早く行けるし時間にゆとりが出来るわね。
シルク《わかったわ! 集合時間に遅れないようにそろそろ行きましょ!》
フライ〈でも、喉は大丈夫なの?〉
フライは私の事を気遣って、心配そうに聞いた。
シルク《フライ達が寝てる間に試したんだけど、技を出すのに何の差し支えが無かったから、問題ないわ!》
私は彼らに心配をかけまいと、笑顔で語った。
……まだ痛いけど、今日1日声を出さなければきっと大丈夫ね。
スーナ〈シルクが言うなら、きっと大丈夫だね♪…でも、無理しないようにね♪〉
シルク《ええ。心に留めておくわ!》
そうね。
私は心からの笑顔と共に、大きく頷いた。