δ コルドの過去
午前 船上 sideリーフ
コルド〈ホウエンみたいに本数が少なくなくて良かったですね。〉
オルト〈本当にそうだな。 ……何しろ貿易都市として有名な[クチバシティー]、各地方に定期便が出航してるぐらいだからな。〉
リーフ〈おかげで乗り遅れずにすんだしね。〉
ホウエン地方とはまた違った潮風を感じ、走って弾んだ息を整える……。
……僕の場合、進化して四肢が無くなったから、這ってだけど。
それに今僕たちが乗ってるフェリー、[1の島]だけじゃなくて、[2の島]、[3の島]、[6の島]にも行くみたいだね。
……ええっと、確か2、3、1、6の順番で巡るんだったかな?
[2の島]まで30分ぐらいかかるって放送で言ってたから、しばらくは船旅を楽しめそうだよ。
………あっ、そうだ。
乗船料なんだけど、僕達はポケモンだけで乗ってるから実質タダ。
きっと、ポケモンだけで乗るのは僕達が初めてかもしれないね。
オルト〈リーフ、コルド、今のうちに調査する事を整理しておこうか。〉
リーフ〈そうだね。一時間ぐらい時間あるし。〉
コルド〈後で慌てなくて済みますしね。〉
うん。
僕達はオルトの提案に大きく頷いた。
リーフ〈ええっと、まずは………〉
そして、僕達は口頭で相談をはじめた。
………きっと、他の人から見たら奇妙な光景かもしれないね。
僕達は当たり前のように感じてるけど、普通の人には僕達の声は鳴き声にしか聞こえないからね……。
………
二時間後 1の島 sideリーフ
コルド〈………ふぅ、やっと着きましたね。〉
………正直、暇を持て余したけど、昼までには着いたね。
本当はバトルとか出来たら良かったんだけど、乗った船は無理だったんだよ……。
リーフ〈うん。おかげでありったけ持ってきた木の実がなくなりそうだよ……。〉
オルト〈道中で調達すればいいんじゃないか?〉
リーフ〈うん、そうだね。〉
僕は{ハハハ}と、乾いた笑いを浮かべながら呟いた。
コルド〈オルトさん、[燭山]はあの山かもしれないですね。〉
オルト〈あの山………、ああ、あれだな?〉
リーフ〈黒煙があがってるから間違いないね。〉
うん、あの山は絶対にそうだね。
僕達は北の方に、その目的の山を見つけ、確信と共に頷いた。
コルド〈あと、シルクさんの話によるとここは温泉が有名だって言ってましたよね?〉
リーフ〈ううんと、……あっ、そういえば言ってたね。〉
コルド〈せっかくなので、調達した後で三匹で行きませんか?〉
オルト〈賛成だ。〉
コルド、いいね!
疲れを落とすには丁度いいよね!
[フエンタウン]で入った時も気持ちよかったし!
リーフ〈うん、行こっか!〉
僕は2つの意味を込めて、若干テンションが上がり気味で言った。
僕が草タイプっていうのもあるかもしれないけど、あの時以来温泉にハマっちゃってね、一回来てみたかったんだよ!!
………っという訳で、僕達は地道に陸路でカントーの離島の活火山を目指した。
…………
数時間後 燭山山頂 sideリーフ
オルト〈………よし、やっとつ………ん?誰かいるな。〉
コルド〈山頂に人がいるなんて、珍しいですね。〉
……ん?
確かに……。
もの好きな人もいるんだね……。
僕達は途中、何回か戦いながら来たんだけど……、まさかこんな所に人がいるなんて思わなかったよ。
なぜなら、この山は活火山。
今も火山活動を続けてるからね……。
正直、近くに溶岩が流れてるからあまり近づきたくないんだけど、[煙突山]に比べたらまだマシかな?
リーフ〈それに、その近くにいるあの種族が[ファイアー]かもしれないね。〉
……そう。
その人のそばに二匹の鳥ポケモンがいるんだよ。
……一匹は、この地方とジョウト地方に沢山生息している[ポッポ]の進化系で、大型の鳥ポケモンの[ピジット]。
そしてもう一匹は、その彼よりもさらに大きくて、多分炎タイプのポケモン。
オルト〈ああ、間違いないな。〉
……ここで正解だったね。
僕達はその彼らの元に歩み寄った。
………でもまさか、こんなにあっさり伝説の種族に会えるなんて思わなかったよ。
コルド〈……すみません、あなたは[ファイ……]……〉
???「……!?えっ!!コルド!?」
コルド〈ア……!!? 何故僕の名前を!?〉
リーフ〈!? コルド?知り合い?〉
コルド〈いいえ! この少年!? は知らないですよ!! …どこかで聞いたような声のような気がするんですけど………。〉
!?
知り合いじゃなかったの?
向こうは何故か懐かしそうな素振りを見せてるけど?
コルドにしては珍しく、突然名前を当てられてパニック寸前……。
エン〈……あっ、彼が前に話していた知り合い?〉
リヴ「そうさ。会うのは12年ぶりで思い出すのに時間がかかったけど、彼の種族は彼しかいないから間違いないのさ。」
フェズ〈……という事は、[コバルオン]だね?〉
コルド〈この話し方に[ピジョット]という事は……。………もしかして[ポッポ]だったフェズさんですか!?〉
フェズ〈うん。そうだよ。コルド君、久しぶりだね。〉
……!?
オルト〈……知り合いのようだな。〉
リーフ〈……そうみたいだね。〉
コルドは何かを思い出したのか、上がり気味のテンションで、右前で、そして相手は右翼で握手をかわした。
コルド〈……でもフェズさん、彼、リヴと話し方が凄く似てるんですけど………、[ミュウ]のはずですよね?〉
リヴ「コルド、僕は間違いなく[ミュウ]のリヴさ。 ちょっと前に事故ってね、この身体の持ち主と入れ替わったって訳さ。〉
コルド〈事故……ですか? ……でも、リヴで間違いなさそうですね。〉
……?
コルド、さっきからこの少年にだけ{さん}って付けてなくない!?
リーフ〈オルト!?〉
オルト〈リーフ!やっぱり気づいたか!〉
リーフ〈うん! あのコルドが{さん}付けしてないよね!?〉
オルト〈ああ!
あのコルドがだ! 嘘だろ!!?〉
やっぱり、聞き間違いじゃなかったんだね!?
誰にでも敬語を使う、コルドがだよ!!
天地がひっくり返ってもまず起こらないって思ってたのに、空耳じゃなかった!
僕とオルトは、あまりの事に驚愕した。
オルト〈コルド、一体どういう事だ!??〉
コルド〈……あっ、オルトさん、リーフさん、紹介しますね。彼は……今は人間の姿ですけど………、元[ミュウ]のリヴ。そしてこちらが[ピジョット]のフェズさん。ふたりとは古い仲なんです。〉
リヴ「そうさ。僕は元々[ミュウ]のリヴ。………まさかコルドが敬語を使ってるなんて思ってもいなかったから本当にびっくりしたよ。」
フェズ〈本当にそうだね。コルド、12年前は口調も荒くて礼儀なんて知らないって感じだったよね。……あっ、僕はフェズ。よろしく。〉
リーフ・オルト〈〈……はあ、よろしく………。〉〉
…………ちょっと、情報が多すぎて訳が分からないんだけど………。
僕とオルトは、状況が全く掴めず、空返事をした。
エン〈………らしいぞ。〉
僕達と同じで蚊帳の外の[ファイアー]も、何とか言葉を発した。
…………ちょっと、時間をもらってもいいかな?
………
数分後 sideリーフ
コルド〈………じゃあ、改めて紹介しますね…〉
僕、オルト、[ファイアー]のエンさんが落ち着いたところで、終始落ち着いたコルドが再び話し始めた。
コルド〈彼がリヴ、そして彼がフェズさんです。〉
コルドは目線で差しながら、ふたりを紹介した。
…後で聞いて分かった事なんだけど、リヴさんはその身体の持ち主とぶつかって中途半端に入れ替わったらしいよ。
僕達は彼らと、握手を交わした。
リーフ〈……でも、コルドが敬語を使ってないなんて、全然想像出来ないよ……。〉
コルド〈……あの時の僕はまさに不良そのものでしたからね……。〉
オルト〈コバルにもそんな時代があったんだな……。〉
コルドはまるで遠くを見るように呟いた。
………そういえば、コルドの過去について聞いた事なかったっけ?
リヴ「うん。僕達にとっては口調の荒いコルドしか知らないから、今の方が違和感があるけど……。」
コルド〈リヴにとっては、そうですね………。10年以上会ってませんでしたから……。………せっかくの機会なので、僕の………荒れていた時代の話でもしましょうか……。〉
そう言って、コルドは自分の事について淡々と話しはじめた。
………
sideコルド
………あれは12年も前の事です。
当時、僕は自分の[絆の守護者]の位置付け、{[賢者]を待ち続けなければならない}という事に苛立って、凄く荒れてました…。
………例えるなら、群れでいる[ギャラドス]全員が、怒り狂っているようにです…。
僕がオルトさん達に出逢うまで、一匹の[ギガイアス]にお世話になっていたんですけど……、ちょうど僕が反抗期という事もあって、本当に手を焼いていたそうです。
彼には{[絆の守護者]としての自覚が出来るまで一歩も外には出さん!!}と言われていて、もし出ようとしたら容赦なく攻撃されました。
………そんな日々が続いていたので、表には出しませんでしたが、外界への憧れを抱くようになっていました……。
そんなある日、突然リヴが[テレポート]で姿を現したんです。
当時の彼はまだ技をコントロールする事が出来なかったそうで、たまたま僕がいた[フキヨセの洞窟]にたどり着いたそうです。
その時、彼はこう言いました。
{閉じ込められて暇そうだね?もしよかったら僕と一緒に来る?}と。
正直、言い方に腹が立ちましたが、あわよくば脱走出来ると考えて彼に従うことにしたんです。
………彼に導かれてまんまと洞窟を脱出した僕は、………恐らくジョウト地方だと思いますが………、古い2つの塔がそびえ立つ街のそばに降り立ったんです。
そのまま僕は、はしゃいでいるのを装って、このまま立ち去ろうかと考えました。
……その時、ある出来事が起こったんです。
複数、様々な種族に集団で襲われている[ポッポ]………今のフェズさんに遭遇しました。
喧嘩っ早かった僕は日頃溜まっていたものを発散すべく、その群れの中に飛び込みました。
……もちろん、暴言や失礼な行動をしながら………。
………勝ったんですが、僕の行動、言動を聴いたフェズさんは完全に怯えきっていました………。
………あの時の彼の表情は今でも忘れられませんね……。
………その怯えきった彼をみて、僕の心は大きく揺らぎました。
{……伝説の種族の自分が、恐怖を与えてもいいのか……}と……。
怯えている彼を何とかリヴが宥めてくれたんですけど、当時の僕はそれどころじゃありませんでした……。
葛藤の渦中にいる中、突然また別のポケモンが飛来したんです………。
………その種族は今でも分かりませんが、確か色とりどりの羽毛を持った、大型の鳥ポケモンだったと思います………。
神々しい雰囲気を放ったそのポケモンは、僕の心を見透かしたようにこう言いました。
{………汝は後悔の念に囚われているようだな……。}と。
僕は呆気にとられていましたが、失礼にも{お前に俺の何が分かる!!今すぐに立ち去れ!!}と、暴言を吐いてしまったんです。
すると、そのポケモンは、{汝も我が輩と同じ、伝説だな?……………分かった。汝の真意、拝見した。}と。
………ですが、僕は彼、……とさせてもらいますね。
彼の優しさにも気づかず、[正義の剣]で攻撃しまったんです。
………この先は少しだけ記憶がとんでいますが、おそらく自らの身を守るために技を発動させたんでしょう………。
[哀れみ]にも似た、暖かな………でも激しい炎に包まれたのを微かに覚えています………。
…………気づいたら、僕は見ず知らずの森の中にいました。
……その側には、その彼が、付き添っていました。
僕の目覚めに気づくと、すぐに彼はこう言いました。
{……汝は、自分を変えたいと思うか?}と。
優しく、暖かな声でした……。
僕は彼の神々しさと、存在の大きさに圧倒されました。
………そして、僕はそのまま、………何があったのかよく覚えていませんが、確か肯定の意味を含んだ発言をしたと思います。
{……ではまずは、[礼儀]から身につけなければならないな……。}
彼は、僕の無礼な行動から、こう提案しました。
………それから、僕は彼に[礼儀]や、伝説としての心得など、様々な事を学びました。
……その時に、リヴやフェズさんも時々顔を出してくれてました。
………仲良くなったのはその頃ですかね…。
……今の僕があるのも、彼のお陰ですね………。
……[礼儀]を身につけた時、初めて現れた時と同じように、彼は突然と姿を消しました……。
………種族名も、名前も聞けずに………、
そして、その後、リヴの技でもといた場所、[フキヨセの洞窟]に戻りました。
…………こんな感じですね………。