43 S 目覚めるチカラ
昼過ぎ 渦巻き島付近海中 sideスーナ
エレン〈やっぱりオイラ水タイプで良かったよ!〉
[ブイゼル]のエレンくんは二本の尻尾で器用に泳ぎながら、揚々と言った。
本当にウチもそう思うよ!
ウチは純粋な水タイプじゃないからずっと潜っている事は出来ないけど、泳いでいるだけで心が洗われるような感じがするんだよ!!
………ずっとは潜れないとはいっても、他のタイプよりは長く潜れる…かな?
ウチの場合、30分ぐらい、かな?
あと、その間なら水中でも喋れるし、呼吸もできるんだよ。
……ううんと、流石に、エレンくんにはかなわないけど、元々ウチは空を飛ぶ種族だから、それだけで十分かな?
ウチはバタ足で前に進みながら、エレンくんの方をチラッと見た。
ニアロ〈自分は水タイプじゃないんですけど、[ルギア]に生まれてきて良かったです。〉
スーナ〈えっ!?水タイプじゃなかったの♪?〉
!?
そうだったの!?
[ルギア]って水、飛行タイプかと思ってたけど、違うの!?
ウチは背中にしがみついているシルクに目で聞きながら、驚きの声を漏らした。
シルク《私も知らなかったわ! [水冷の化身]と言うぐらいだから、私もてっきり………。》
シルクもそう思ってたんだね!?
シルクは集中を切らさないように注意しながら語った。
……流石にシルクでも、二匹分の空気の層を造るのには骨が折れるみたい。
ウチはそんなに気にならないけど、水の中って結構水圧が大きいらしいんだよ。
層を造っても、[カイリキー]が思いっきり押さえつけるぐらいの力がかかってるんだって。
そんな状態でも出来るシルクって、やっぱり凄いよね!
ニアロ〈実はそうなんですよ。自分は飛行、エスパータイプ。こうして水中でも話せるのは種族の特殊能力です。自分は[潜水ポケモン]、だから出来るんだと思います。〉
へぇー、特殊能力かー。
ライトでいう、変身能力だね?
ニアロくんは慣れてないのか、ぎこちない敬語で言った。
慣れてないなら、無理して使わなくてもいいのにね?
………でも、伝説としての威厳、かな?
あっ、そうそう。
本人は多分忘れてるけど、ユウキもシルクもまだ[絆の加護]を発動させたまま。
コルドが言うには、油断すると自制が効かなくなるみたいなんだけど、二匹とも{楽勝}って感じで使いこなしてるよ。
…多分、ウチには無理だね。
フライもだけど、シルクは自我を失ってる[ディアルガ]と戦ったぐらいだし、ユウキだって無謀と分かっていてもたった一匹であの[デオキシス]に向かっていくぐらいだもんね。
ニアロ〈………あっ、みなさん、もうすぐ水面ですよ!〉
エレン〈ほんと?〉
ニアロ〈はい!だからエレン君、ユウキさんと一緒に自分の背中に捕まってください!〉
スーナ〈そのまま飛べばいいよね♪?〉
ニアロくんは、明るくなった
正面を真っ直ぐ見つめながら言った。
シルク《ええ、そうね。……ユウキ、そろそろ解除するわよ!》
ユウキ〈うん。〉
そして、派手に水しぶきをあげて水面から飛び出した。
………日差しが、眩しいよ……。
太陽の位置からすると、2時くらいかな?
ウチとニアロくんは、飛びだした勢いをそのままに、空中で大きく羽ばたいた。
……やっぱりニアロくん、格好いいし、大きいね♪
ユウキ〈フライ、お待たせ!〉
そして、ニアロくんの背中では、ユウキが水で濡れた鞄からフライのボールを取り出した。
それと同時に、身体についた水を振るって落とした。
フライ〈何とか出れたんだね?〉
ユウキ〈うん! じゃあ、乗せてもらうよ!〉
フライ〈もちろん!〉
そしてそのまま、ユウキはニアロくんの背中から飛び移った。
[ピカチュウ]のユウキがボールを取り出したから、ニアロくん、ビックリしてたけど……。
ニアロ〈そういえばユウキさん、シルクさんもですけど、気になる事があるんですけど、いいですか?〉
シルク〈私達の目の色の事よね?〉
シルク、覚えてたんだね?
彼女は水色の瞳で彼の問いに答えた。
ニアロ〈はい。[ピカチュウ]の瞳は黒、[エーフィ]の瞳は白ですよね?……なのにお二人は青……。何故ですか?〉
ユウキ〈ううんと、見てもらった方が早いかな?〉
シルク〈そうね。説明が長くなるもの。その方が効率的ね。〉
ニアロ〈見た方が、ですか?〉
スーナ〈うん♪ ちょっとわけありでね♪〉
だって、ユウキとシルクも[チカラ]を持ってるもんね!
フライはそのまま、ニアロくんの前に移動した。
ユウキ〈何故なら、僕も伝説の当事者………、「〉[絆の賢者]だからね。」
シルク〈イッシュの[英雄伝説]なんだけど、知ってるかしら?〉
ニアロ〈!!?〉
ニアロくん、驚きすぎじゃない?
背中に乗ってるエレンくんを落としそうになってるよ?
エレン〈ニアロユウキさんはオイラと同じなんだって!〉
ニアロ〈[英雄伝説]、ですか!?〉
シルク〈ええ。[ゼクロム]のクロさんと[レシラム]のシロさんの伝説って言えば分かるかしら?〉
ニアロ〈あの方の、ですか!?〉
スーナ〈うん♪ウチらの代は全員揃ってるんだよ♪〉
揃ったから、伝説がまた起こったんだよね?
ユウキ「うん。」
ニアロ〈なら、知ってますよ。〉
エレン〈オイラもスクールで習ったから知ってるよ!〉
フライ〈あっ、もう教科書に載ってるんだ…。〉
エレン〈うん。今年から変わったんだつて!〉
へぇー。
……なら、ますますユウキが有名になるね!
だって、ユウキが解明した歴史が教科書に載ったんだよ!!
学者として、これほど嬉しい事は無いよ!
フライの背中に跨がってるユウキも、ちょっと照れてるし。
………ええっと、ここからしばらく、[英雄伝説]についての特別授業?……になるのかな?
実際にあったエピソードと一緒に話したんだよ!
………にしてもニアロくん、[水冷のチカラ]について説明しなくてもいいのかな?
………
午後 クチバシティー付近 sideシルク
ニアロ〈………じゃあ、[チカラ]についての説明を始めるよ。〉
ニアロ君はエレン君が背中から降りるのを確認すると、声変わりのしかけで低くなりかけている声で、タメ口で言った。
ニアロ君、敬語に慣れてなさそうだったから、私からお願いしたのよ。
……それに、今私達がいる場所は、[クチバシティー]の近くの茂み。
身体が4m以上あるニアロ君が身を隠すには最適な場所でしょ?
私達はニアロ君を見上げて、揃って頷いた。
……あと、私は鞄からノートとペンを取り出して、メモを執る準備も忘れずにね。
私はノートを[サイコキネンシス]で浮かせた。
ニアロ〈まず、[チカラ]から話すね。まず一つ目は、[燕返し]を使えるようになって、水タイプの種族に姿を変えれるようになる……。これは知ってるよね?〉
エレン〈うん。オイラは6歳の時にはもう出来たよ!〉
それは、エレン君から聞いてるわ。
ニアロ〈でも、その[チカラ]はまだ完全には目覚めてなかったみたいなんだよ。〉
エレン・スーナ〈〈えっ!?それってどういう事!?〉〉
えっ!?まだあるの!?
私達は声を揃えて驚いた。
ニアロ〈…じゃあエレン、目を閉じて心を[無]にしてみて![水冷の証]を着けてるから完全に目覚めてるはずだよ?〉
エレン〈………うんやってみるよ。〉
ニアロ君は、腕にあたる右翼でエレン君の[証]を差しながら言った。
エレン君は、ニアロ君に言われるままに目を閉じた。
ユウキ〈……!? 〉
!?
すると、姿を戻す時と同じように、エレン君の姿が歪みはじめた。
フライ〈もしかして……。〉
でも、その歪みは人間の姿には行き着かなかったわ。
……もしかして、[水冷のチカラ]は、2種類のポケモンに姿を変えれるの……?
だって、今のエレン君の姿は、人間でも、[ブイゼル]でもない、別の種族なのよ!!
ニアロ〈エレン、目を開けてみて。〉
エレン〈うん。…………えっ!?手が地面についてる!?何で!?オイラって[ブイゼル]のはずでしょ!?〉
エレン君は思いがけない変化に声を荒げた。
………このパターンは初めてね……。
今の彼は、私と同じ4足歩行で、全体的に緑やクリーム色の短毛で被われている……。
草タイプで、久しぶりに見る種族だわ……。
フライ〈……うーん、この種族は初めて見たよ。〉
エレン〈うんオイラも知らないよ。〉
スーナ〈シルク、ウチらは知ってるよね♪〉
シルク〈ええ。エレン君、今のあなたの種族は、[シキジカ]という、イッシュ地方にしかいない種族なのよ。〉
季節によって、身体の色が変わる事で有名な種族ね。
イッシュを旅していた時によく見かけたわ。
エレン〈へぇー。〉
ニアロ〈その姿では、自分のもう一つの属性のエスパータイプの技……、[サイコキネンシス]を固定技として使えるようになるんだよ。〉
シルク〈つまり、エレン君の場合、[ブイゼル]と[シキジカ]の両方になる事が可能、って事ね?〉
2種類って事は、ウォルタ君みたいな感じね。
私は自分なりに整理してニアロ君を見上げた。
ニアロ〈うん。他にも、聴覚が発達して守りが強化されるんだよ。……ただ、[代償]として動きが鈍くなって進化も出来なくなる……。あと、それぞれの姿であわせて4つしか使えなくなるんだよ……。……こんな感じかな?〉
エレン〈技をそれぞれ2つしか使えないって事?〉
ニアロ〈………そうなるね……。〉
……やっぱり、ウォルタ君と同じタイプね?
……………わかったわ。
[水冷のチカラ]について、しっかり書き留めたわ。