41 S 絆の加護
午前 カントー地方上空 sideシルク
エレン「……あのさあさっき聞きそびれた事なんだけど……」
……飛びたって2分くらい経ったかしら……?
エレン君は風で流されないように、大声で話しかけた。
………誰にかは、言わなくても分かるわよね?
ユウキ〈ええっと、僕の事だね?〉
エレン「うん。ユウキさんっていつから姿を変えれるようになったの?」
フライ〈ボクが加わった時にはもう[チカラ]を使いこなしていたよね?〉
そうね。
フライが旅に加わったのは去年の夏………、ホウエン地方を旅していた時だったわ。
スーナ〈そうだね♪……ウチが離脱した時はまだできなかったから……〉
シルク《2年前の冬になるわね。》
ユウキ〈……だから、年では僕の方が上だけど、[チカラ]ではエレン君の方が先輩なんだよ。〉
あの時、[セッカシティー]は例年以上の大雪で、その周辺の交通機関がマヒしていたのを覚えてるわ。
………私達には関係無かったけど……。
それを聴いて、私一緒にフライの背中に乗せてもらっているエレン君は、{へぇー}って頷きながら聞いていたわ。
エレン「オイラは気づいた時にはもう出来てたからてっきり生まれつきの能力って思ってたけどそうじゃないんだね?」
………あっ、そういえば、エレン君は4歳の時にはもうポケモンの言葉を理解出来てたらしいわ。
ユウキは19、セツさんは11、カレンは15って言ってたから………、
……個人差はあるけど、未成年のうちに何かしらの[チカラ]が目覚めるのかもしれないわね。
今のところ、私が会ってきた伝説の関係者の全員がそうだから、
信憑性は高いわね。
フライ〈うん、そうみたいだよ。〉
フライは横目でチラッと見ながら頷いた。
エレン「………あと1つ聞きたいんだけどいい?」
………エレン君、私達に興味津々ね?
彼は溢れんばかりの好奇心と共に、無邪気に聞いた。
ユウキ〈構わないよ。〉
エレン「みんなってどんな技が使えるの?」
………なるほどね。
エレン君はトレーナー候補として………、一匹の[ブイゼル]として気になるのね?
それにおそらく、自分と同じ人に会うのは初めてのはずだから、尚更気になるわ……私なら……。
………きっと、誰でも一緒ね!
私だって、[イーブイ]から進化する種族のポケモンに会うと親近感が湧いて、色々と聞きたくなるのよ。
……例えば、どうしてその種族を選んだのか………とかね!
ユウキ〈僕は[10万ボルト]と[エレキボール]、[目覚めるパワー]、[気合いパンチ]の4つ。〉
スーナ〈ウチは[冷凍ビーム]、[アクアリング]、[ハイドロポンプ]、[ブレイブバード]の4つだよ♪〉
フライ〈ボクは[ドラゴンクロー]、[目覚めるパワー]、[ストーンエッジ]、[地震]の4つ。……[地震]は最近習得したばかりだけどね。〉
フライ、調査をしてる時に練習したのね?
[地震]は高威力、広範囲に及ぶ技だから、相手が複数の時に便利ね。
………使う前に決着がつくような気がするけど………。
スーナ〈あと、シルクはウチらのメンバーの中ではダントツで強いんだよ♪〉
フライ〈ユウキのパートナーで、エースなんだよ。〉
シルク《ええ。……{ダントツ}って言うのは大げさだけど、メンバーの中では一番戦闘歴が長いのは事実よ。……ちなみに、
一般的な使用数では[瞑想]、[シャドーボール]、[サイコキネンシス]、[目覚めるパワー]の4つよ。》
………[チカラ]を除くと、こうなるわね。
私は言葉で意味深な発言をした。
………もちろん、
エレン「えっ!?{一般的な}ってどういう事!?」
聴覚が発達しているエレン君は漏れなくキーワードを捉えた。
………敢えて強調したから、どんなに鈍感なひとでも流石に気づくと思うわ。
スーナ〈シルクは[エーフィ]だけど、[チカラ]を使えるんだよ♪〉
フライ〈……つまり、シルクも伝説の当事者ってワケ。〉
シルク〈位置付けはユウキとほぼ変わらないわ。〉
伝説では、ユウキの[絆の賢者]の方が表に出てるけど、[チカラ]と[代償]の規模では私の[絆の従者]のほうが大きいのよ。
……触れたことが無かったけど、[絆の証]には[チカラ]として{物理、特殊技の微強化}、[代償]として{守備軟化}……。
あと、皆さんが知っているものだけ。
………だから、私の方が規模が大きいのよ。
ユウキ〈シルクはあと、[10万ボルト]と[ベノムショック]……合わせて6つの技を使えるんだよ。〉
シルク《一応、使える技に制限があるけどね。》
私のバトルスタイルには全く関係無いから、対して気にしてないけど、一応制限はあるわ。
……私、物理技を覚えても使えなくなったのよ。
………こういうデメリットを、伝説の観点からだと[代償]と言うわ。
………この後、しばらくは戦法とか、技のコツとかのアドバイスを彼にしていったわ。
………
昼前 ジョウト地方 渦巻き島 sideシルク
ユウキ「………ここが、[渦巻き島]だよ。」
ユウキはスーナが着地するとすぐに飛び降りて、姿を元に戻しながら言った。
去年負った火傷の痕、今では勲章になっているわね。
去年の決戦でのアオイさん(〜kizuna〜参照)を見る限り、私よりも実力が上だと思うわ。
……伝説の云々の前に、実力的に彼女の攻撃は防げないわ。
………だから、[絆の加護]にも弱点があるのよ。
前にも言ったかもしれないけど、一応説明しておくわね。
[絆の加護]は、使用者の特性を一時的に入れ換えて発動させるって事はもうご存知よね?
使用者の守備力がゼロになる代わりに、味方の守備力を格段に向上させる……。
………でも、伝説の種族………、例えば、ライトの[ラティアス]、スノウさんの[フリーザー]……。
あと、使用者以上の実力をもつポケモンの技………、その両者の攻撃で[絆の加護]は打ち消されてしまうのよ……。
別行動をする前、みんなで技の調整をしていた時にコルドの技だけ普通にダメージを受けたわ。
………ええっと、[絆の加護]についてはこのくらいかしら?
……っ、今回も話が逸れてしまったわ……。
……何回も何回も、申し訳ないわ。
スーナ〈本当に孤島って感じだね♪〉
エレン〈うん。聞いていた通り本当に渦潮があるんだね。……初めて見るよ。〉
潮風をかんじながら、私を含めたみんなは感嘆の声を漏らした。
スーナ、フライ、エレン君は風景に。
私、ユウキは懐かしさに……。
………本当に久しぶりね。
シルク〈渦潮もそうだけど、ジョウト地方出身のトレーナーの間だは鍛錬の場としても有名なのよ。〉
フライ〈………確かに、籠もるには最適かもしれないね。………ボクはここでの生活は遠慮したいけど……。〉
……そうね。
フライは地面タイプ。
種族上、仕方ないわね………。
フライは若干表情を歪めながら独り言のように呟いた。
ユウキ「フライの予想通り、ここは水タイプの種族が中心に生息しているんだよ。」
エレン「水タイプかー。……なら、オイラと同じだね?」
シルク〈そういう事よ。 …エレン君? もし良かったら、中を探索するついでにエレン君のバトルのほうを見せてもらってもいいかしら?〉
私は未知なる土地に胸を高鳴らせているエレン君に、こう提案した。
スーナ〈あと、パートナーもどう?〉
フライ〈特訓にもなるし、丁度良いんじゃない?〉
ふたりも、賛成みたいね。
……だって、中は自然の練習場。
………そこを越えた先が、今回の目的地なのよ。
エレン「いいの?」
彼はその事を確かめるように伺った。
ユウキ「うん。 最終的な目的地の場所は分かってるから、構わないよ。」
一応、この島の名所だから。
エレン「やった!…じゃあニド出てきて!」
彼の表情が更に明るくなって、ただ1つのボールに手をかけた。
ニド〈………何か、凄い所に来たんだね〜。〉
ニドと呼ばれた[ニドラン♂]が、出そうになった欠伸を押しとどめながら飛びだした。
………きっと、寝てたのかもしれないわ。
………それにしても、早口なエレン君に対して、凄くのんびりした口調ね……。
ウォルタ君と昔のリーフを思いだすわ……。
エレン「バトルについていろいろ教えてくれるんだって!」
彼は無邪気な笑顔で言うと、すぐに目を閉じて意識を集中させた。
ユウキのそれと同じように姿が歪み………、
エレン〈さっき聞いた話なんだけどこの人……ユウキさんは3つ星のトレーナーなんだって!〉
人間の彼ではなくて、[ブイゼル]としてのエレン君が姿を現した。
ユウキ「エレン君は準備出来たね?」
エレン〈うん。大丈夫だよ!〉
エレン君は、私達を急かすように言った。
………気持ちは分かるけど、もう少し待ってくれるかしら?
シルク〈………なら、私達も。〉
ユウキ「うん、そうだね。 万が一、って事も考えられるしね。」
私達兄妹は同じ結論に至って、顔を見合わせてお互いに頷いた。
……念のため、アレを使うわ!!
ニド〈準備〜? 来る前にしてきたんじゃないの〜?〉
エレン〈それに、店も何もないのに何をするの?〉
二匹は、頭の上に疑問符を浮かべながら質問…………。
………無理ないわね……。
スーナ〈
感じたほうが早いと思うよ♪〉
エレン・ニド〈〈{感じる}??〉〉
フライ〈うん。〉
首を傾げた。
ユウキ「………じゃあシルク、いくよ!」
彼らの会話に耳を傾けながら、兄は私を見、頷く。
シルク〈ええ!!〉
私も、笑顔でそれに答える。
………そして、ほぼ同時に目を閉じ………、心を無にし………、
ユウキ・シルク「〈{絆により………我らを護り給へ………。}〉〉
………発動のきっかけとなる、文句を唱える……。
………これで、私と、[ピカチュウ]の姿での守備力は無くなったわ。
エレン・ニド〈!!? 何この感じ!?〉〈!??〉
視覚が遮られた暗闇から、二つの驚きの声が響いた。
スーナ〈……やっぱり、ふたりが揃うと強力だね♪〉
フライ〈うん。 これなら海に飛び込んでも大丈夫なような気がするよ。〉
対して、スーナとフライは慣れた様子で、護りを実感しているわね。
……声のトーンだけで十分伝わってくるわ。
………そして、私はゆっくりと目を開ける……。
シルク〈……どう?〉
[絆の加護]によって、水色に変色した瞳で彼らに感想を伺った。
……その間に、ユウキはポケモンの姿へと変えた。
[賢者]の場合、ポケモンの姿では発動させられないのよ。
………だから、一度姿を戻したって訳。
ユウキ〈僕達の[チカラ]で、みんなの守備力が強化されてるはず。〉
青い瞳で、彼も言った。
………[絆の加護]を重複させるのには、更に強化する以外にも、別の利点があるのよ。
[絆の証]、[従者の証]によって守備力が軟化している私達にとって、凄く重要な事なのよ!
[証]の[代償]で私達は守りが弱くなってるけど、[絆の加護]のほうが効果が大きいの………。
………だから、[代償]を打ち消して、[証]がない状態………、つまり、本来の守備力まで回復させれるのよ!!
私達以外でも、実力による制限も緩和されるわ!
………でも、流石に伝説の種族に対しては変わらないわ………。
………あと、私かユウキのどちらかが戦闘不能になった時かしら……。
そうなると、二重の[加護]がなくなるから、元々の効果に戻るわ。
………結局は、発動させている間、気を抜けないって事。
ユウキ〈…………じゃあ、行こっか。〉
………長くなったけど、ユウキのかけ声と共に、私達6匹は磯の香りが漂う昼間の修練場……、いや、[四鳥伝説]に関係する可能性が高い洞窟に足を踏み入れた。