46 L 心配
昼 クチバシティー sideライト
フレア〈……殴りかかるなんて……{傷害罪}に値 するな………。〉
ヒイラギ「……ふぅ。」
ライト〈ヒイラギ………いつの間にあんな技 を………。〉
ヒイラギ、何か凄い……。
30代ぐらいの大人をいとも簡単に投げ飛ばすなんて……。
人間の姿だから{技}って言えるのか分からないけど……。
わたしは彼の華麗な技に言葉を失った。
ガンマ「………くっ………。{背負い投げ}か……。」
ヒイラギ「……さあ……、もうこんな事をしないようにしてくださいよ。」
ヒイラギは投げ飛ばして倒れているガンマを起こし、注意してから解放した。
……そうしてくれると良いんだけど………、ガンマの事だから、きっと無理だね。
わたしにもう一年以上付きまとうぐらいだから………。
……いつの間にか、あんなにいた人集りが解消していた。
ヒイラギ《ライト、怪我は無い?》
ライト〈……うん。……何十分も飛び続けて疲れたけど、何とか大丈夫だよ。〉
…きっと、普通に話すのはマズいって思ったのか、わたしの脳内にいつものヒイラギの声が響いた。
……だって、伝説にでも関わってない限り、ポケモンの言葉は分からないはずだもんね。
わたしは地についていた身体を浮かせながら、彼に呟いた。
……にしても、ヒイラギにパートナーがいたなんて知らなかったよ。
フレア〈……だが、[ラティアス]が何故建物から飛んで出てきたんだ?……俺にはさっぱり分からないんだけど……。〉
種族、分からないけど、フレアっていう彼が首を傾げながら呟いた。
ヒイラギ「他にも、あの人物に襲われていた理由とか……、休んでからで良いから聞かせてくれるかな?……これでも一応、仕事中だから。」
ライト〈……そっか………。仕事中だったんだ。……わたしも、いろいろ聞きたい事があるんだけど、いい?〉
そういえば、ヒイラギって探偵だったね。
……だったら、わたし、邪魔しちゃったのかな?
ヒイラギ《うん、構わないよ。……でも、さすがにこの街中では元の姿は目立つから、変えてからだね。》
ライト〈……そうだね……。ティル達もボールに入ってもらったままだし……。〉
地下鉄に乗る前だから……、もう一時間ぐらいになるかな…?
早く、出してあげないと!
わたしは彼の言葉に大きく頷いた。
ヒイラギ「うん。……じゃあとりあえず、人通りが少ない路地裏にでも行こうか。」
フレア〈そうだな。探偵である以上、個人のプライバシーを守るべきだからな。〉
………何か話をききちがえてるけど、そうかな?
さっきはやむを得なかったけど、さすがに姿を変える瞬間を見られるのはマズいからね。
わたしはまた頷いて、彼の先導で
人気のなさそうな路地裏へと向かった。
………今更だけど、[ステルス]も身につけておいた方が良かったかな……?
…………
数十分後 ポケモンセンター sideライト
………路地裏では、姿を変えるだけにしたよ。
……だって、思った以上に人通りがあったから、誰かに聴かれそうだったんだよね……。
変えるのはタイミングを見計らって即行でしたから問題なかったけど…。
で、安全な場所はないか相談したんだけど、センターしか見つからなかったんだ……。
今日は元々ここに泊まるつもりだったし、丁度いいかな?
みんなに闘ってもらってないから、部屋の予約だけして、今はその中にいるんだよ。
ライト「………みんな、待たせてごめんね……。」
わたしは沈んだ声で謝りながら、みんなをボールから出した。
ティル〈……凄く時間がかかってたけど、どうかしたの?〉
テトラ〈それにライト?元気が無いけど……、大丈夫?〉
ラグナ〈ライトらしくないぞ。〉
ライト「…………
みんな、心配かけて……ごめんね……。」
みんな……………。
いつもと違うわたしの様子を見て、気遣いの言葉をかけてくれた。
………。
ラグナ〈……何か、あったんだな?〉
ライト「………
うん………。」
消え入りそうな声で、囁いた。
………今日のは………本当に、捕まるか思った……。
………捕まるかもしれないって時って………、あんなに怖いんだ………。
しばらく時間が経ってるのに、まだ震えが止まらないよ………。
………今まで何回もガンマに襲われたけど、あんな経験は初めて………。
フレア〈……相当怖かったようだから、……気になるかもしれないが、そっとしてやってくれないか?〉
テトラ〈………まさか、あんた達がライトに酷いことをした………
どうせ、そうなんでしょ!!?ライトを傷つけたなんて………私が許さないから………〉
………テトラ……、気持ちは嬉しいよ。
………でも……、
ライト「
テトラ……、彼は違う………。」
消え入りそうな声だけど、怒りを露わにしているテトラの言葉を遮った。
ティル〈……テトラ?〉
テトラ〈違うって、なにが!?〉
ラグナ〈テトラ……落ち着……〉
テトラ〈落ち着いていられないよ!!ライトが傷つけられたんだよ!!……私には分かる。絶対にそうだよ!!〉
ライト「……
気持ちは嬉しいけど……、彼は違う……。捕まりそうだったわたしを助けてくれた恩人………。前にあった時とは姿も声も違うから分からないかもしれないけど……、彼はヒイラギだから……。」
テトラ………。
………誤解しないで………。
……わたしを苦しめたのはガンマだから………。
わたしはテトラに疑われているヒイラギを、何とか庇う。
ラグナとティルも彼女を落ちつかせようとしてくれてるけど……。
………きっと、テトラは日常的に酷いことをされてきてたみたいだから、普段と違うわたしを見ると黙っては居られないんだろうね……。
………わたしは、テトラの、わたしを気遣う想いに涙が出そうになる………。
テトラ〈彼がヒイラギさん!? あの人はもっと若いはずだよ!!……ライトとはいえ……そんな証拠が………〉
ヒイラギ《………これなら、どう?》
フレア〈ヒイラギ、完全に誤解されてるな。〉
テトラ〈!??…〉
沈黙を続けていたヒイラギは、とうとう言葉を念じた。
……流石にヒイラギでも、[テレパシー]での声は変えれないみたいだね……。
……[テレパシー]って、頭の中で考えている時の声だし……。
テトラ〈…この声って……。もしかして私……、誤解してた!?〉
彼女は彼の正体に気付いた途端、恥ずかしさから顔が赤くなった。
テトラ〈ほ………本当に、ごめんなさい!!私、てっきりあなたが犯人かと………。〉
すると咄嗟に、これでもかっていうぐらい、頭を床に付けて謝った。
………テトラ、間違えることぐらい、誰にでもあるよ?
ヒイラギ「僕も説明不足だったから、仕方ないよ。気にしてないから、顔をあげて?」
テトラ〈……本当に?〉
ヒイラギ「うん。」
少し沈んていたテトラを、彼が宥めてくれた。
ティル〈………なら、一体誰が?〉
ラグナ〈………まさか、またあいつか!?〉
ライト「………………………………うん。」
………ラグナ、そうだよ……。
わたしはコクリと頷いた。
ラグナ〈……俺達の言葉は伝わらないから仕方ない言葉だが………、[カトル]……、まだ改心して………〉
ヒイラギ・フレア「〈!!? 今、何て言った!?〉」
ラグナ〈…いな……!?〉
えっ!?
ラグナがガンマの本名を口にした途端、ふたりは声を荒げた。
ラグナ〈……[カトル]だが………、どうかしたのか?〉
フレア〈…そいつ、今の俺達のターゲットだ!![グラエナ]のあんたが何故!?偶然にしては情報が合いすぎだろ!?〉
ヒイラギ「いや、でも、そんなはずはない! ………だけど、矛盾してる点もいくつかある!!ターゲットのメンバーは3匹、[グラエナ]、[ラッタ]、[オコリザル]のはず……。でもさっきは[ラッタ]と[ベトベター]。……ボールを4つ所持してるはずなのに、3つだった………。……何故!?」
……数々が合わないのは、ラグナが抜けたからだね……。
ラグナ〈……あいつのメンバーの[グラエナ]……、俺だからな。俺が抜けたから、数が合わないのは当然だな…。〉
フレア〈ハァ!? 一体どういう事だ!?〉
ラグナ〈俺はあいつが持つ俺自身のボールを壊した。………あいつの言動に愛想が尽きて自ら離別したと言った方が正しいな…。〉
ティル〈ラグナ………、彼が言うには、ラグナの前のパートナーは一年ぐらい前からライトにしつこく付きまとっていたみたいで……〉
………本当はわたしが説明しないといけないんだけど、こんな状態だから、ティルがラグナの補足説明をしてくれた。
………………本当に、心配かけて、ごめん…………。