44 L 別れと出逢い
午前 タマムシシティー sideライト
ライト「……えっ? 前から言ってた事?」
ショウタ〈うん。そろそろ大丈夫かな、って思って……〉
タマムシシティーのジム戦を終えて、センターへと向かう道中で、[ミュウ]の姿のショウタ君がわたしを真っ直ぐ見て言った。
ショウタ〈…。僕ももう自分で自分の身を守れるようになったし、何よりもトレーナーとして旅する事が諦められないんだよね……。〉
コロナ〈条件をクリアした直後の事故だったから、出来なかったもんね。〉
わたしの側を歩いているコロナちゃんも、神妙な様子で呟いた。
………そういえば、ショウタ君達を一時的に保護する事になった時、{[ミュウ]として普通に生活出来るようになったらコロナと独立したい。}って言ってたんだよ。
元々ショウタ君も一人のトレーナー。
ポケモンの姿になったけど、中身は変わらないもんね。
ライト「そういえば、わたし達と出会った時はまだ旅立ったばかりって言ってたね。わたしはいいと思うけど、みんなの意見も聞いてみた方がいいと思うよ?」
ティルとテトラはこの事を知ってるけど、ラグナは知らないから、話した方がいいね、きっと。
コロナ〈そうだね。突撃居なくなったら心配かけちゃうし……。〉
ショウタ〈うん。 ……だから、みんなが回復した後に話すよ。〉
うん、わたしもそう思ってた。
わたしはふたりの意見に頷いて、メンバーを回復してもらうために目的の建物へと急いだ。
………この日が必ず来るとは分かっていたけど、やっぱり寂しいよ……。
………
数十分後 sideライト
ラグナ〈………なる程な。俺が加わる少し前にそういう話をしてたという訳か。〉
回復を終えて、わたし達はラグナに事の終始を手短に伝えた。
……もちろん、ティルもテトラもこの場にいるよ。
ショウタ〈……[ミュウ]としての能力も使えるようになったし、どうかな?〉
ティル〈前からの約束だし、俺はそれでいいと思うよ?〉
テトラ〈そもそも、ショウタ君達が決めた事だから、私達に口出しされる筋合いなんてないでしょ?〉
ラグナはまだ考えてるけど……、ティルとテトラは分かってくれたみたい。
ショウタ君の元々の荷物もわたしが預かっている訳だし、あとはラグナだけだね。
………ラグナは絶対に自分で決めたことは曲げないから、説得は難しそうだけど………。
コロナ〈…どう?〉
深く考えている彼を見て不安になったのか、コロナちゃんは心配そうに彼の様子を伺った。
ラグナ〈……賛成……〉
ショウタ〈本当に!?〉
彼の言葉を聞いて、不安そうだった二匹はパッと明るくなった。
ショウタ君、コロナちゃん、よかったね!
ラグナ〈……だが、気がかりな事が1つある。〉
ティル・テトラ〈〈{気がかりな事}って?〉〉
?
何の事だろう?
彼の言葉に、ここにいる誰もが首を傾げた。
ラグナ〈……俺の元パートナーだ。あいつは一度目を付けたらしつこく執着する奴だ。もしそうなったら、またあいつが迷惑をかける事も考えられる。〉
ライト「……言われてみれば、そうだね。」
……ガンマの事だね?
納得だよ。
ショウタ〈もちろん、その事もちゃんと考えてるよ。リヴさんが使っていた[テレポート]を思い出せば、すぐに逃げれるでしょ?やり方は聞いてるから、きっと大丈夫だよ!〉
コロナ〈私には出来ないけど、エスパータイプなら簡単に出来るって言ってたもんね!〉
ちゃんと、考えていたんだね?
………なら、安心だよ!
元々、リヴさんは並みの野生ポケモン以上の実力を持ってたみたいだし、きっと大丈夫だね!
……うん、きっとそうだよ!
わたしは彼らの考えに納得して、肯定の意を込めて大きく頷いた。
ラグナ〈[テレポート]か…。………なら、大丈夫だな。〉
ラグナも、納得してくれたね?
ショウタ〈うん!〉
ショウタ君、嬉しそうだね。
ライト「…………で、どうする?少し時間はかかるけど、ショウタ君の荷物、出せるよ?」
ショウタ〈ううんと、ライト達、これから地下鉄を使うって言ってたから、待っている間にするよ。〉
コロナ〈さっき二匹で話したんだけど、私達、[シオンタウン]に行くことにしたんだよ。方向的におなじだから、その時ならちょうどいいかなって思ったんだよ。〉
………なる程ね。
って事は、わたし達が先に降りる事になるね。
……あっ、そうそう。
この地方の中心部には街と街をつなぐ地下鉄が通ってるんだって!
ユウカちゃんが言うには、[ハナダシティー]、[タマムシシティー]、[クチバシティー]、[シオンタウン]、[ヤマブキシティー]の順番に止まるらしいよ。
ライト「…じゃあ、その時だね。」
ショウタ・コロナ〈〈うん。〉〉
ふたりは、こくりと頷いた。
……そしてわたし達は、とりあえず、という事で、地下鉄の駅を目指した。
………
数十分後 入り口 sideライト
ライト「えっ!? 1人につき一匹しか出せないの!?」
ティル〈一匹って事は、ボールに入れないショウタ君だけ!?〉
テトラ〈って事は、ここでお別れ!?〉
ラグナ〈そのようだな。〉
地下の駅へと続く入り口の前に着いた時、わたし達はある看板を目にして驚愕した。
一匹だけ!?
それも、小型の種族だけなの!?
………あっ、単語の説明をしないといけないね。
{小型}っていうのは、見ての通り種族での大きさの事を言うんだよ。
{小型}、{中型}、{大型}の3つに別れていて、最初のが1m以下…例えば、シルクの[エーフィ]がその例かな?
次が1m〜2mの種族で、わたしの[ラティアス]とか、スーナの[スワンナ]がそれにあたるよ。
……で、最後のが、2m以上。
フライの[フライゴン]がそう。
……ううんと、こんな感じかな?
…じゃあ、話に戻るよ。
コロナ〈……何か、寂しくなるね。〉
テトラ〈でも、お互いに旅してるんだから、またどこかで会えるよ!私も長年会えなかったトリ姉にも会えたぐらいだし!〉
ティル〈そうだね!〉
みんなは別れを惜しみながらも、笑顔で握手を交わし合った。
テトラ〈……じゃあ、コロナちゃん、ショウタ君、また今度ね!〉
ショウタ〈うん。みんなも。〉
ティル〈もちろんだよ!……ライト、あとはお願いね。〉
ライト「うん。」
……みんな、挨拶は済んだみたいだね?
みんなの事を確認して、ティル、テトラ、ラグナ、そして後ろ髪を引かれる思いでコロナちゃんをボールに戻した。
ライト「………じゃあ、いこっか。」
ショウタ〈うん。〉
そして、わたし達は地下へと続く階段を一段ずつ踏みしめて降りていった。
………
数十分後 地下鉄内 sideライト
アナウンス《間もなく[クチバシティー]に…》
ホームに降りたら、案外早く来て、ほとんど待たずに乗れたよ。
中は中で、そんなにかからずに………[タマムシシティー]の次だから当たり前なんだけど……、着いた。
ライト「ショウタ君、中に君のトレーナーカードとか、あの日に持ってた物が全部入ってるから。」
ショウタ〈…うん、しっかり受けとったよ。〉
ブレーキがかかっていて、若干身体が流されながらも、そこは踏ん張って彼の荷物の全部を手渡した。
………持ちきれるかちょっと心配だけど、元々わたしと同じで浮遊する種族だからきっと大丈夫だね。
ライト「……ショウタ君、コロナちゃんにもよろしくね。」
ショウタ〈うん、ライトのほうこそ。〉
そして、わたしは電車が止まるまで、彼と堅く握手を交わした。
……ショウタ君、あまり無理しないようにね。
ライト「じゃあ、いくよ。」
ショウタ〈うん。〉
発車のブザーが鳴り始めたから、彼にもう一言声をかけてから、列車から慌てて下車した。
………そして、彼を乗せた列車はゆっくりと動き出し、次なる目的地へと発車した。
ライト「………ここで悲しんでも仕方ないよね!」
わたしは寂しさを何とか心の中に押し込んで、気持ちを切り替えた。
………わたしが沈み込んでたら、みんなが心配するもんね!
………だから、わたしはわたしで……、しっかりしないと!
自分にそう言い聞かせて、改札へと歩いた。
ライト「……改札も出たけど、みんなを出すのは外に出てからかな?」
……だって、ここは公共の施設。
電車の中でもあまり自由利かないもんね。
わたしは早くみんなを出してあげたいから、足早に………
???「……ここに来るだろうと思ってた張り込んでいたが……いつまで待たせたと思ってあいるんだ……。」
ライト「!!? ガンマ!? まだ諦めてなかったの!!?」
ガンマ「当たり前だ!……[ラティアス]、お前一匹なら尚更好都合だ。…」
…?
突然後ろから話しかけられて振り返ると………!?
!?
いい加減シツコくない!?
わたしに付きまとっているストーカー、本名を[カトル]という元密猟組織の幹部がわたしを待ち伏せしていた。
ガンマ「[ラッタ]、[ベトベター]、あいつを捕まえるんだ!!」
!?
ラッタ・ライト〈すまないね、うちのトレーナーの我が儘だから……。〉「ちょ………ちょっと、ここをどこだと思ってるの!? 公共の場所だからバトルは禁止のはずだよ!!」
ガンマ「そんな事、知った事か!! お前ら、やれ!!」
えっ!?
まさか、ここで戦う気なの!!?
周りの事とか考えないの!?
……おまけに、今はちょうど昼で人通りも多いんだけど……正気なの!?
ガンマはモラルが無いのか、わたし自身にバトルを仕掛けてきた。
ガンマ「[ラッタ]、[電光石火]であいつを追いかけろ!!」
場所が悪くてメンバーを出せない状況のわたしは、身の危険を感じて、全速力で地下からの出口を目指した。
………もちろん、溢れる人混みを掻き分けながら……。
……ぶつかったら……ごめんなさい。
………全部、あのストーカーが悪いんだから……。
わたしは行き交う人達を押しのけながら、出口を……
ラッタ〈[電光石火]!!〉
ライト「!? このままだと、追いつかれる!?」
……目指し……だけど、正直ヤバイかも……。
ストーカーのメンバーであるラッタが、もうわたしのすぐ後ろまで迫っていた。
…………ここは、やむを得ないか………。
わたしは苦肉の策で、焦りと共に光を纏った。
………周りが騒然となったけど、気にしていられない!!
わたしは即行で姿を元に戻して、人々の頭上を滑空した。
…………でも、ここは一体どこなの!!?
階段を上がった先は、運悪く地下街。
……しかも、入り組んでる!?
ラッタ〈見つけた!!〉
ライト〈えっ!?もう来た!?〉
地下の狭い空間に、わたしの声が木霊した。
……追いつかれたら……本当にマズい……。
何をされるか分からない!!
……わたしの野生としての本能が、身の危機をシツコイぐらいに伝えた。
………死に物狂いで、地下の迷宮を駆け抜け………いや、滑空した。
………………本当に、出口ってどこなの!?
………
数十分後 クチバシティー sideライト
ライト〈…………ハァ………ハァ………、やっと……出られた……。〉
………わたし、地下鉄からどこかの建物の地下街に出ちゃったみたいで………、数少ない出口を捜すのに………凄く時間がかかった……。
…………本当に迷路みたいで……、方向感覚が麻痺しそうだったよ………。
……でも、何とか出れ……
ガンマ「………やっと捕まえた。……ここならお前も袋のコラッタだな。」
ライト〈!?〉
…!!
まさか……先回りされた!?
建物から出ると、その先では勝ち誇ったような笑みと共にガンマが仁王立ちしていた。
………通行の邪魔をしてるにも関わらず……。
…………でも、こんな状況だから、わたしの珍しさと騒動の発生で人集りが出来ていた……。
…………技を使うにも………使えない!
………もしかわされたら、一般の人に被害が出てしまう……。
………かといって、ボールの中のティル達を出すにしても、ポケモンのわたしがポケモンを出すには不自然すぎる………。
………お兄ちゃんから習ったことわざを借りると………、まさに{四面楚歌}………。
………為す術が無くて………逃げ場が無い!!
ガンマ「[突進]と[ヘドロ爆弾]で撃ち落とせ!!」
ラッタ・ベトベター〈……任せな。[突進]!!〉〈チェックメイトだ![ヘドロ爆弾]!!〉
ライト〈!!! 防ぎきれない!!〉
打つ手が無くて困惑しているわたしに、一匹が跳び、もう一匹が汚染物質を放出してきた。
………対して、全速力で何十分も飛び続けたわたしは、疲れ果てて息があがってる……。
……おまけに、わたしがかわしたら他の人に当たってしまう……。
…………やられた……。
わたしが最悪な状況を覚悟して身構えたその時、
???「フレア、[二度蹴り]!!」
フレア〈よし、任せな![二度蹴り]!!〉
一同「〈〈〈!!?〉〉〉」
放たれた毒素の
矢面に何者かが立ちはだかり、それを受けたかと思うと、そのままの勢いで相手の二匹を蹴り飛ばした。
!!?