37 S 噂をすると…………
夕方 クチバシティー sideシルク
スーナ〈………とりあえず今日は一旦休んだ方がいいんじゃないかな?〉
フライ〈ずっと調査で動きっ放しだったしね。〉
シルク〈第1に、今日はあまり時間が無いから、それが一番いいわね。〉
私達はいつものように早々と、これからの要項を確定させた。
事を決めるのが早い理由は多分、みんなが役割分担して作業をしているからかもしれないわ。
私は主に推敲、オルトは考察、ユウキとコルドは情報伝達、スーナとリーフ、フライが調査。
これがいつもの役割なのよ。
………今更言う必要もないわね。
A「………なんか凄い事聞いちゃったなー。」
B「………で、何て話してたの?」
私達が揃ってユウキが予約してくれていたセンターに向かおうとしたその時、すぐ近くで誰かが話す声がした。
A・ユウキ「何か調査とか言ってたかな?」〈!? 誰!?〉
驚きと共に振り返ると、そこには2人の少ね………えっ!?
どういう事!!?
声の主はポケモンではなくて、10歳ぐらいの少年の1人が、もう1人に何か新しい発見をした時のように目を輝かせている瞬間だった。
………もしかして、私達の言葉が聞こえていた!?
私達全員が、慣れているはずの言葉に目が点になった。
フライ〈ユウキ!? もしかして………〉
ユウキ〈うん、絶対に理解してるよ!〉
シルク〈その可能性が高いわね!〉
ユウキの今の姿は[ピカチュウ]だから………間違いないわ!!
その結論に至るのにあまり時間はかからなかった。
リーフ〈………って事は、あの子はもしかして………〉
オルト〈ああ、……そのまさかだ………。〉
伝説の、関係者。
ユウキ、オルト、スーナ………。
[絆]の7匹の声が揃った。
………私達、ポケモンの言葉が分かるのは、ライトみたいにポケモン自身が人間に姿を変えているか、伝説に関わっている人間しかいない………。
………他の例は聞いた事が無いわ!!
おそらく、これは必要十分条件………、反例は無いはず……。
シルク〈ユウキ、あの子達に詳しく話を聞いて見た方がいいと思うわ!〉
コルド〈僕達の言葉が分かる以上、何かの伝説に関わっているのは間違いないですからね。〉
コルド、私もそう思うわ!
私は思いがけず差し込んだ希望の光に高揚して、兄の返事を待った。
………きっと、みんなも同じ気持ちね!
ユウキ〈うん。………じゃあ、シルク、コルド、頼んでいいかな?〉
シルク・コルド〈ええ!〉〈はい!任せてください!〉
筆談では時間がかかるから…………ここは[テレパシー]を使える私達の出番ね!
私とコルドは大きく頷いて、その彼らの元に駆け寄った。
……それにしても、よく聞こえたわね……。
彼らと私達は大体20mぐらい離れていたから、よっぽど聴力が良くない限り聞き取る事が出来ない。
………まして、人間ではほぼ不可能………。
私達が大声で喋っていたら別だけど……。
…………だとした、彼は一体何者!?
私は自問自答を繰り返しながら、歩幅が広いコルドの後を追った。
コルド《………すみません、少しお話を伺ってもいいですか?》
コルドは、2人に正確に伝わるように、丁寧に念じた。
A・B「……あっバレちゃった?」「!? 何!? この声!?」
目を輝かせていた彼は、悪戯をした子供のように笑い、もう1人は凄い表情で腰を抜かした。
………彼、やっぱり聞こえていたのね?
ポケモンの声を聴くのに慣れている様子だから………。
シルク《スクールで習ってると思うけど、[テレパシー]を使ってるわ。》
A「……って事は……。」
B「うん。 僕にも聞こえてるよ!………エレンっていつもこんな感じなんだね……。」
一人目は、もう1人の方に振り返って、その子は一人目………エレンという子に、圧倒されながらも何とか平生を取り戻して言った。
コルド〈シルクさん!〉
シルク〈ええ、予想通りだわ!!〉
私達は顔を見合わせ、歓喜に湧いた。
エレン君、絶対にそうだわ!!
私の中に提起されていた仮説が、確信へと変貌を遂げた。
エレン「予想通りって何が?」
彼は私達の言葉を聞き取って、首を傾げた。
シルク《エレン君って言ったわね………。単刀直入に言うと、あなたが私達が捜していた人物の可能性が高いわ!》
エレン・B「「えっ!?」オイラが!?/エレンが!?」
2人は、あまりの事に声を荒げた。
………それもそうよね。
誰でも突然見知らぬ人物から{捜していた}って言われたら驚くもの……。
…………いや、驚かないほうがおかしいわ!
スーナ〈…シルク、コルド、どうだった?〉
………と、そこに、遅れてスーナ達が私達に追いついた。
そして、着地しながらスーナは私達を見て事の是非を聞いた。
コルド〈みなさん、思った通りです!!〉
私が言う前に、コルドが嬉しそうに言い放った。
B「………でも、どうしてエレンが?」
もう1人の子が、不思議そうに訊ねた。
シルク《………まず、エレン君、あなたには他の人には無い能力があるわよね?》
私達の言葉が分かるんだもの………、その可能性は十分にあるわ!
ユウキ〈……もしあったら、教えてくれるかな?………もちろん、秘密は絶対に守るよ。〉
私が伝えている言葉に、ユウキは一言付け加えた。
エレン「うん。……オイラ他の人よりもずっと耳がいいんだよ。」
B「あと、ポケモンの言葉が分かるよね?」
エレン「うん!」
エレン君は、大きく頷いた。
………聴覚が、発達してるのね?
…………これは今までにないパターンだわ。
B「それに、僕しか知らない秘密だと、エレンはポケモンにもなれるもんね!」
一同〈〈〈〈!!?〉〉〉〉
!?
ユウキ同じ!?
………なら、伝説の当事者確定だわ!!
エレン「ちょっとそれだけは誰にも言わないでって言ったのに……。」
辺りは騒然とした空気になった。
姿を変えれるって事は、[証]が存在する位置付け………。
………でも、見たところそれらしいモノは無いわね。
………という事は、彼はまだ[チカラ]が芽生えた段階って事?
ユウキ〈………エレン君、心して聞いてくれるかな?〉
エレン「えっ?」
彼は、神妙な様子で話すユウキの言葉に振り返った。
ユウキ〈エレン君、キミは伝説の当事者だよ………、突然で驚くかもしれないけど……。〉
エレン「!?伝説!?」
彼は、次の瞬間膨大な疑問に押しつぶされた。
B「えっ、エレン!?伝説がどうかしたの!?」
エレン「えっ……いや……でも……伝説って………。」
………目が、泳いでいるわね……。
シルク〈エレン君の能力………、それが何よりの証拠よ!〉
私は慌てふためいている彼に優しく語りかけた。
エレン「しょ……証拠!?」
リーフ〈うん。 伝説に関わっている人間はみんな特殊な能力を持ってるんだよ。〉
彼に対して、リーフは落ち着いて根拠を述べた。
エレン「………能力を………?」
オルト〈ああ、そうだ。〉
スーナ〈そうなんだよ♪………エレン君、早速で申し訳ないんだけど、どの伝説に関わっているか判断したいから、姿、変えてくれるかな?〉
エレン「えっ!?姿を!?」
シルク〈あと、技もお願いできるかしら?〉
どんな種族、どんな技を使えるかは、凄く大切だからね……。
もし、技みたいに普通では覚えられない技を使えるなら、位置付けを特定する判断材料になるのよ。
………例えば、[氷雪]の[冷凍ビーム]、[豪雷]の[10万ボルト]みたいにね。
B「………何て言ってるの?」
エレン「オイラのポケモンの姿を見せてだって。…みんなの話を盗み聞きしちゃったから……うんわかったよ。」
…………今気づいたけど、エレン君、早口ね。
彼は何かを決心したように呟いた。
B「えっ!?本当にいいの!?」
エレン「うん。………じゃあいくよ!」
エレン君、表情が変わったわね!
私にバレて落ち込んでいたけど、立ち直ったみたいね。
彼は大きく息を吸い、ゆっくりとはいて心を落ち着かせた。
………そして、目を閉じて意識を集中させる………。
ユウキ〈………やっぱりね………。〉
すると、エレン君の姿は、ユウキのソレと同じように歪み始めた。
…………しばらくすると、歪みが収まる。
………そこには、人間ではなく、ポケモンの姿となった彼。
フライ〈………確か、[ブイゼル]だったよね?〉
オルト〈ああ、間違いない。………となると、水に関係する位置付けだな。〉
………どうやら、そのようね。
水タイプで伝説の種族なのは確か………、私が知る限りでは[スイクン]、[ルギア]、[カイオーガ]の3種族。
[カイオーガ]は[ホウエン地方]、あとは[ジョウト地方]………。
前者のほうは、もう調査済みで、人に就く事はないって分かっている………。
………その伝説に関わったルビーさん(第2作参照)に聞いたんだもの、確実だわ!
…………とすると、[ジョウト]にいる種族………。
………あとは使える技次第ね、
ユウキ〈水タイプか………。技のほうは?〉
私が思考を巡らせていると、ユウキが冷静に[ブイゼル]のエレン君に訊ねた。
エレン〈[水鉄砲]と[燕返し]の2つ。…………でもこれでなんでわか………〉
ユウキ・シルク〈〈[燕返し]!?〉〉
飛行タイプ!?
確か、[ブイゼル]は使えないはずよね!?
…………という事は…………。
リーフ〈……大当たりだね。〉
フライ〈うん。飛行タイプの技だから間違いないよ!〉
みんなも、気づいたのね!
シルク〈ええ!エレン君、あなたの伝説上の位置付けは[四鳥伝説]の[水冷の防人]だわ!!〉
水タイプで飛行技………。
みんなの調査結果から考察すると、これしか思い浮かばないわ!!
私は確信をもって彼に伝えた。
エレン〈[四鳥伝説]…………?何なのそれ?〉
当然、首を傾げる。
フライ〈ここと[ジョウト地方]の両方に密かにつたわっている、天候に関係する伝説なんだよ。〉
エレン〈天候?………でも何でわかるの?〉
スーナ〈この伝説を象徴する種族はどれも飛行タイプを持ってるんだよ♪〉
{四匹の鳥の伝説}と言われているのも頷けるわね。
コルド〈その飛行タイプを、普通では使えない[ブイゼル]のエレンさんが使える………、これが理由です。〉
エレン〈へぇ…………。………でもどうしてポケモンのみんながそんな事を知ってるの?〉
エレン君、ようやく気が付いたのね?
ユウキ〈それは………、僕が考古学者だからね。〉
エレン〈えっ!?でもどう見ても[ピカチュウ]だよ!?〉
彼は、ユウキのほうをハッと見て、疑問をぶつけた。
ユウキ〈エレン君、実は僕も君と同じ存在だからね。〉
エレン〈えっ!?オイラと!?〉
………もう数えきれないけど、何回目かの驚愕の意を込めた声を発した。
リーフ〈うん。 この[ピカチュウ]……、本当は人間なんだよ。〉
エレン〈!!?〉
ユウキ〈……とにかく、見てて。〉
そう言って、ユウキは慣れた手順で姿を歪ませた。
エレン・B「〈!!?〉えっ!?何!?何が起きたの!!?」
空気になりかけていたもう1人の少年は、突然の事に訳が分からず慌てふためいていた。
…………申し訳ないけど、あなたの事を忘れかけていたわ………。
私は心の中で彼に謝った。
ユウキ「こういうこと。」
エレン〈!!? もしかして、あの考古学者のユウキさん!?〉
突然の有名人の登場に、2人とも腰を抜かした。
オルト〈公にはしてないが、こういうことだ。〉
エレン・B「〈…………。〉」
ふたりは、あまりの事に、打ち上げられた[コイキング]のように口が開いていた。
………無理ないわね……………。