35 S 合流
昼前 街道(ヤマブキ→クチバ) sideシルク
シルク〈………このペースで歩けば、きっと昼には着くわね。〉
背後にそびえ立っていた経済都市のビル群も、今ではすっかり小さくなってるわ。
……その代わりに、海側から吹き込む季節風が、辺りの草花、木々を心地いいハーモニーと共
弄ぶ………。
南中しかけている太陽は、柔らかな光と共に行き交う人、ポケモン達の日常も暖かく見守る………。
…………非の言いどころがないぐらい陽気な日になったわね……。
何も用事が無ければ草花が香る草原で微睡みたいぐらいだわ……………。
……………でも、そういうわけにはいかないわね。
私はのどかな昼前の静寂に趣を感じながらも、次の目的地に向かうために、[従者の証]、尻尾を靡かせながら先を急いだ。
………これから[クチバシティー]でみんなと合流する予定なのよ!
情報交換を兼ねてね!
私は順調だけど、みんなはどうなのかしら?
………それに、カントーリーグを制覇した2ヶ月前から全員揃ってないから、本当に楽しみだわ!!
………特にフライとスーナは行き違いが多くで全然会えてないのよ……。
私は微かに見え始めた海辺の街に思いを馳せた………。
数十分後 sideシルク
シルク〈………あと、もう一息ね。〉
………私の短毛を靡かせる風から潮の香りが漂い始めたわね………。
私の位置から船に積まれたコンテナを降ろすクレーンも見えてきたから、近いわね!
私は高鳴る胸の鼓動と共に………
???〈シルク、こんな所にいたんだね♪!〉
シルク〈!?〉
……足を………!?
突然名前を呼ばれて、私は思わずビクッとした。
………辺りを見渡しても知り合いは誰もいないし……、この澄んだ声からすると………。
私は確信と共に、声が聞こえた方角………、天頂を見上げた。
視線の先には、全種族からすると中型の鳥ポケモン………。
シルク《スーナじゃない!!まさか合流する前に会えるなんて思わなかったわ!!》
私の親友で、仲間のうちの一匹………、[スワンナ]のスーナ。
仲間の中では、私を除いて唯一の♀のメンバー……。
私は大声で語りかけたい衝動を抑えて………でも、抑えきれないからやむを得ず言葉を念じて彼女に喜びを伝えた。
…………こういう時に喉の後遺症は厄介ね………。
………未だに慣れないわ……。
スーナ〈シルクも今からクチバに行くんだね♪?〉
シルク〈………という事は、スーナもなのね!?〉
スーナ〈うん♪〉
私の言葉が伝わって、メッセンジャーバッグを首から斜めに掛けた親友は勢いよく降下した。
スーナの今日の予定は書類を受け取る事だけのはずだから、間違いないわね!
…………もちろん、筆談でね!
シルク〈スーナ? 一緒に行くのはどうかしら?〉
スーナ〈うん♪折角ここで会ったもんね! 2ヶ月ぐらい話せなかった分も話そうよ♪!〉
シルク〈いいわね!…じゃあ、前みたいに乗せてもらってもいいかしら?〉
スーナ〈うん♪もちろんだよ♪〉
スーナ、あなたならそう言ってくれると思っていたわ!!
久しぶりの会話に、自然と声のトーンも揚がる………。
……そして、………ティル君じゃないけど………我先にと彼女の背中に飛び乗った。
……誰かに乗せてもらうの……本当に久しぶりだわ!!
スーナ〈じゃあシルク、いくよ♪!〉
シルク〈ええ!〉
スーナは2、3度羽ばたいたかと思うと、私を乗せたまま一気に高度を上げた。
…………吹き抜ける風が気持ちいいわ………。
………で、私達は2ヶ月ぶりのガールズトークに華を咲かせながら風を切った。
……
正午過ぎ クチバシティー上空 sideシルク
シルク〈ええっと、確か待ち合わせ場所はセンターの前のはずだったわよね?〉
スーナ〈うん♪そのはずだよ!〉
ソプラノ調の澄んだ声で、私とたわいのない雑談で盛り上がっているスーナは、その方角を種族上長い嘴で指しながら言った。
シルク〈そういえば、みんなで集まるのも2ヶ月ぶりだったわよね?〉
スーナ〈うん。ウチ、リーフとオルトにはあまり会ってないんだよね…。〉
シルク〈私はフライかしら……。〉
そうね………。
オルトとリーフ、コルド、そして私は主に本島。
スーナ、フライ、ユウキはナナシマを中心に調査してたのよ。
両方を行き来していたユウキはともかく、こういう訳で会えなかったのよ。
………でも、まだ会ってないフライも既に本島にいるはずよ?
だって、彼は戻ってきたついでにリーフと[岩山トンネル]を調査しているはずだから……。
………たぶん、私がトリちゃん達といる間に遊びにきているラテ君達と調査していたはずよ?
スーナ〈本島には今朝戻ってきたばかりだから、楽しみだよ♪………あっ、シルク、見えたよ♪〉
………二匹で話しているうちに、もう着いたのね?
彼女に言われて視線を眼下の景色に向けると、そこには誰がどう見ても、それが何の建物か分かる建造物が堂々と鎮座していた。
シルク〈………という事は、あの[ピカチュウ]がユウキ、[コジョンド]がオルトね?〉
スーナ〈だって、カントー地方にはオルトのとウチ、リーフの種族はいないもんね♪〉
ええ、間違いないわ!
一匹は、鞄を提げた[コジョンド]。
もう一匹は、同じく鞄を抱え、左腕に青いバンダナを着けた、右頬の痣が目立つ[ピカチュウ]……。
絶対にそうだわ!
確信と共に、
シルク〈スーナ、行きましょ!〉
スーナ〈うん♪〉
風を掻き分けて降下した。