38 L 本気
午後 タマムシシティー sideライト
ツバキ〈……ねえライト? 折角会ったんだから久しぶりバトルしようよ。〉
ライト「えっ?」
わたしとユウカちゃんを含めて、みんなで雑談で盛り上がっていると、徐にツバキがこう提案した。
……会話と言っても、ユウカちゃんは言葉が分からないから、わたしの通訳を交えてだけど。
いつもは文字を習ったツバキを通して喋っているみたいなんだよ。
ニトル〈前にした時は引き分けだったもんね。〉
[シャワーズ]のニトル君が明るい調子で言った。
……彼の言う通り引き分けだったんだよ。
確か、ツバキが[リーフストーム]、わたしが[竜の波動]で相打ちだったかな?
クロム〈そうだったね。………あのスピード感のあるバトルはぼくには出来ないね……。〉
種族に似合わず、未だに自分の事を{ぼく}って言っている[ボスゴドラ]のクロムは、あの日の事を思い出しながら呟いた。
………彼とも一回戦った事があるんだけど、あの守りの硬さには苦戦したよ。
それに、ユウカちゃんの2番手で、物理技の威力も高いからなかなか接近できなかった…。
……ツバキとは間逆のタイプって言ったらいいかな?
フィルト〈そうだな。同じドラゴンタイプの俺でもあれはムリだな。〉
どちらかというと大人しい[ボーマンダ]のフィルトは、半笑いで言った。
……彼とはあまり話した事がないけど、ニトル君が言うには、ステータスのバランスがとれてるみたいなんだよ。
………機会があったら、闘ってみたいよ。
ライト「ツバキはスピードと技の威力特化してるからね。」
ティル〈へぇー。 星を持ってるって言ってたし、強いんだろうなー。〉
テトラ〈闘ってみたいけど、今の私達では無理だね、きっと。〉
ショウタ〈僕と殆ど変わらないのに、リーグを制覇したんだー……。〉
みんなは、それぞれに感嘆の声を漏らした。
ツバキ〈私達がリーグを制覇できたのも、ライトとあの人のおかげだよ。〉
ラグナ〈あの人………。………俺の記憶が正しければ、あの考古学者だな?〉
ニトル〈うん! ユウキさんがいなかったら、今のぼく達は存在しないと思うよ。〉
………ニトル君、それはわたしも同じだよ!
……あの時、[トウカの森]でユウキ君達に助けてもらってなかったら、わたしはジム巡りをしてないと思う………。
……そもそも、ユウカちゃんとも、ティル達とも出逢えてないはずだよ!!
………きっと、あれは[運命]だったのかもしれないね。
ツバキ〈うん。 ………話に戻るけど、どう?する?〉
…………ツバキ、当たり前でしょ?
わたしがツバキとのバトルを断ると思う?
わたしは言うまでもなく、{うん。}って言いながら大きく頷いた。
ライト「もちろんだよ! ……ユウカちゃん、ツバキとバトルさせてくれる?」
わたしは何となく話を聞いていたユウカちゃんに目線を変え、彼女に聞いてみた。
ユウカ「バトル………、うん!いつものだね。…」
……だって恒例でしょ?
ユウカ「…なら、{有星者ルール}にする?」
ツバキ・ライト・ショウタ〈うん!もちろん!〉「〈{有星者ルール}? 何なの、それ?〉」
わけありトレーナーのわたしとショウタ君は揃って首を傾げ、それが何なのか知っているユウキカちゃんのメンバーは{それが良いね。}って感じで頷いた。
………何なんだろう………、{有星者ルール}って………。
ライト「……それって、何なの?」
わたしは疑問に捕らわれながら、1つ星トレーナーの彼女に質問した。
ユウカ「ええっと、星を持ってるトレーナー………本当は2つからなんだけど……、その人がジムに挑戦する時に着けられる追加ルールなんだよ。……2つ星のしか分からないけど、それはトレーナーはポケモンに指示が出せない、っていう制限が付くんだよ。」
ライト「へぇー………。……って事は、闘う側の独断で行動しないといけないって事?」
……指示出来ないなら、そうなるよね?
………そういえば、トレーナーとしてのユウキ君のバトルスタイルって、そんな感じだったっけ?
…………たまにしか指示してなかったし……。
………うん、きっとそうだね!
今度会った時に、ユウキ君に聞いてみようかな?
[ニビシティー]で会った時、3つ星だって言ってたし……。
わたしは自分なりに結論を出した。
ユウカ「そう、そういうこと。………じゃあライトちゃん、始めよっか。」
ツバキ〈手加減は無しだからね!〉
ライト「うん! ツバキも、手加減しないでよね!」
ツバキ、言われなくてもそのつもりだよ!!
わたしは勇み立って、意識を集中させた。
テトラ〈……………そういえば、ライトが本気で闘うところって見たこと無いよね?〉
ティル〈言われてみれば、そうだね。………出逢ってから何回か見てきたけど、いつも楽勝って感じだったよ。〉
ラグナ〈俺も呆気なく倒されるぐらいだからな……。〉
………あっ、そうだったね。
わたしが初めてティルに正体を明かしたのはラグナと戦った時だし、他はガンマ絡みで一回戦ったのと、みんなの特訓でちょっと技を使っただけ………。
いろんな意味で付き合いが一番長いラグナにでさえ、見せてなかったね。
わたしは姿を元に戻し、浮遊しながらみんなの言葉を聞き流した。
…………よし、本気で戦おう。
トレーナーとしてじゃなくて、一匹の[ラティアス]として………。
ツバキ〈じゃあライト、行くよ!!〉
ライト〈ツバキこそ!!〉
親友とのかえあいがきっかけとなって、わたし達の全力の勝負が幕を開けた。
………前は引き分けだったけど、今日はわたしが勝つからね!!
ツバキ〈最初から全力でいくよ![リーフストーム]!〉
ライト〈[竜の波動]!〉
宣言と共に、ツバキは犇めく深緑の嵐を引き起こしながら走り始めた。
………全力って言ってたけど、この勢いからすると風速15mぐらいかな?
ツバキのコレは大体30mぐらいだから………定石通り、牽制だね。
わたしは相手の技の出し具合を瞬時に判断して、口元にソレを打ち消せるぐらいのエネルギーを蓄える……。
頃合いを見て、竜に変換………、そして、勢いよく放出した。
ツバキ・ライト〈[リーフブレード]!〉〈[サイコキネンシス]!〉
互いに命中しないって分かっているから、結果を見届けずに、次なる行動に移った。
わたしは衝突して残った葉に狙いを定めて、超能力で拘束する。
……シルクだったら、このまま自分の技と組み合わせているところだけど、わたしには無理……。
……だから、そのまま維持して高度を上げる。
対して、相手はわたしの行動を予測し、ビルの外壁を思いっきり蹴ってわたしに迫る……。
跳びながら、ちょうど腕の部分に鋭利な草刃を出現させる。
シュッ っと風を斬る音をたてて、わたしの左翼のギリギリを掠める。
ツバキ〈これだけ高いビルが多いから、いつも通りにはいかないよ!!〉
彼女は身を翻しながら声を荒げる。
ライト〈………でも、これならどう?〉
維持していた超能力に意識を強め、ちょうど標識に足がついた彼女に向けて草を撃ち返す。
彼女はそれに力を込め、再び蹴る。
ツバキ〈[リーフブレード]!!〉
今度は草の双刀で迎え撃ってくる………。
この時、わたしとツバキの直線距離は7m…………。
6m…………、
わたしは葉に勢いをつけて、技を解除する。
彼女は、両腕の刃を構えた。
5m………。
わたしは彼女に向けて、飛ぶスピードを速める……。
……と同時に、手元に超属性のエネルギーを溜め始める。
わたしが放った葉が、彼女に達する。
ツバキ〈無駄だよ!!〉
右、左、縦にと、葉を一刀両断する。
裂かれた葉は勢いを失い、ハラハラと下におちていった。
3m………、
ライト〈[ミストボール]!!〉
勢いに乗っているツバキ向けて放つ。
ツバキ〈!?〉
1m………
ライト・ツバキ〈連射!!〉〈…っく! [ドラゴンクロー]!〉
……よし、当たった!
わたしは立て続けに2発、純白な弾を放ち、そのうちの1発が命中した。
………ツバキは技の威力とスピードが高いけど、守りはそれほど高くない。
技の威力では勝てないかもしれないけど、命中さえすれば………。
0m………
ライト〈っ!!…しまった…!〉
彼女の手元が暗青色のオーラを纏っているのに気づかず、わたしは不覚にも苦手な竜属性の斬撃をくらってしまった。
………ツバキ……、威力、またあがったね………。
………でも、このまま勝たせないよ!!
わたしはすぐに気持ちを切り換えて……、
ライト〈[サイコキネンシス]!!〉
ツバキ〈!!?〉
降下を始めた彼女を……拘束した。
………不利な状況だけど……、絶対に勝たせない……!
ツバキは抵抗出来ないと悟り、身構える。
そして……わたしはそのまま……高度をあげる……。
ライト〈これなら……防げないでしょ!!〉
ツバキ〈っ!!〉
念じる力を強くして、彼女を超能力で締め付けた。
ある程度締め付けてから………、
ライト〈これで……決める!!〉
垂直に向きを変えて……、
正面に向けて思いっきり飛ばした。
………蹴るモノが無いから………かわせないはず……!
勢いがついたところで……技を解除して………
ライト〈[ミストボール]……連射!〉
接近しながら……3つの純白の弾を放つ。
………離れ過ぎでも………当たらない……。
だから……
ライト〈[サイコキネンシス]!!〉
ツバキまで5mに迫ったところで……純白の弾に超能力をかける。
ツバキ〈!? 両側……から……!?〉
そして、ソレで彼女を……取り囲む。
ツバキ〈っぐ…!〉
彼女は地面に………叩きつけられ………、
ライト・ツバキ〈[竜の……波動]……!〉〈……っ………[ドラゴン………クロー]……!〉
わたしはすぐに……内側にむけて技を…解除してから………、すぐに竜属性のブレスを……放った。
[ミストボール]をうけた直後なら………動けない……はず……。
彼女の激突で……辺りに、さっきの細分化された木の葉が………舞い上がっていた………。
ライト・ツバキ〈!?…………。〉〈っ………。〉
……!!?
木の葉が邪魔で………見えなかった………。
わたしのブレスがヒットしたのと同時に……………………、彼女の竜纏った……拳が………、わたしの胴を………捉えていた………………。
……………また、…………相打ち…………?
わたしは…………予期せぬ攻撃を………かわす事が出来ず……、大ダメージを………うけた。
そして、……体勢を上げることが出来ず………そのままの勢いで………彼女に突っ込んだ………。
………………起き上がる事が出来ず…………わたしの意識は………ここで途切れた。