32 LS 姉妹
朝 部屋 sideシルク
シルク〈………〉
トリ〈……あっ、シルクさん、おはようございます!〉
………?もう朝?
私はふと耳に入った物音で目を覚ました。
目を閉じたまま聴覚に意識を向けると……、昼夜の喧騒が嘘のように外は静まり返っている………。
微かに聞こえる[ポッポ]や[オニスズメ]の囀りが、新たな1日の始まりを告げる………。
……外の音が聞こえるって事は、きっと快晴ね!
清々しいわ!
………そして、ゆっくりと目を開けると、窓から暖かな光が差し込んでいるのが目に入る……。
その光に照らされるように、私と同じ[エーフィ]のトリちゃんが日光浴を楽しんでいた。
……早起きした特権ね。
辺りは静かだし、リラックスするのには丁度良いのよ。
心も静まってるから、私の場合、次にどんな実験をするか、アイデアが閃きやすいのよ。
……だから、私は落ち着ける早朝が大好きなの…。
シルク〈……おはよう! トリちゃん、あなたはいつも日光浴を楽しんでいるのね?〉
トリ〈はい! 種族の影響が強いのかもしれないけど、やっぱり朝っていいですよね!〉
トリちゃんは心地良い日差しにまどろんで、心身共に癒されながら呟いた。
……本当に、気持ち良さそうね。
私達は、まだ寝ているカレンさんを起こさないように小声で感嘆の声を漏らした。
シルク〈本当にそうよね………。〉
私も起き上がって、彼女の元に歩み寄った。
トリ〈シルクさんって、早朝は何をしてるんですか?〉
シルク〈私?…〉
種族特有の会話ね……。
[エーフィ]は他の種族に比べて朝が早いらしいのよ。
日の出と共に目覚める、って言われているらしいわ……。
トリちゃんは、穏やかな声で私に質問した。
シルク〈私は……、薬品の整理とか化学実験かしら? もし失敗しても被害が少ないわよね? ……それに、早朝のほうが落ち着いて出来るのよ!〉
実験で硫化水素とか、塩化水素が発生する事があるから換気が必要なのよ。
………というよりは、ただ朝一で実験するのが私の日課……って言った方が正しいかもしれないわ。
トリ〈……そっか。……だから誰も発見出来ないような事を見つけられるんですね?〉
シルク〈……ううんと、……ええ。そんな感じね。〉
彼女は、朝日の煌めきに負けないような眼差しで私を見つめた。
私の頬は朝日色に色づいた。
トリ〈…………あっ、そうだ! シルクさん、シルクさんは今日はテトラのジムを見にいくんてすよね?〉
夢心地の彼女は、ふと思い出したように声をあげた。
シルク〈ええ、そのつもりよ! トリちゃん、良かったら一緒に来る?〉
トリ〈はい! ぜひお願いします!!〉
私の言葉を聞いて、トリちゃんの瞳が一気に輝いた。
………それもそうよね。
トリちゃんとテトラちゃん、もう3年ぐらい会ってないらしいもの……。
血の繋がった姉妹となると、尚更ね………。
………ちょっと羨ましいわ………。
私は、ふと湧き出した感情をトリちゃんに悟られないように、何事もなく押し留めた。
そして、私は何気なく、
シルク〈テトラちゃん、精神的にも実力的にも成長しているわ。 期待してもいいと思うわよ!〉
笑顔で彼女に太鼓判を押した。
トリ〈はい!!〉
彼女は、嬉しそうに答えた。
…………
午前 sideシルク
トリ〈じゃあカレン、あとでね!〉
カレン〈うん! イカヅチと先に行っとるよ。 シルク、ユウキさん宜しくお願いね。〉
シルク〈ええ! [豪雷]について、しっかりと伝えておくわ。〉
私は右前足、[ムクバード]の姿のカレンは羽毛に覆われた右翼で、再会を誓いあった。
カレンとは一晩で仲良くなれたわ!
彼女、凄く気さくで話しやすいのよ!!
それに、趣味も同じだったからトリちゃんとも話が弾んだのよ。
予定が合ったら今度、私達それぞれの故郷に遊びに行く約束をしたわ!
……本当に楽しみだわ!!
私はにっこりと笑って答えた。
………ちなみに、今私達がいる場所は彼女達の部屋の玄関。
カジュアルなインテリアが並んでいていい感じなのよ!
私、こういうのも嫌いじゃないわ。
シルク〈………あっ、そうだ。一応、ユウキの連絡先も渡しておくわ!〉
私はふと思い出して、背中側にまわしていた鞄の収納部分から超能力で兄の名刺を取りだす。
カレン〈ありがとね。 じゃあ、うちも。〉
彼女もどこからかは見損ねたけど、自身の名刺を取りだした。
……カレン、しっかり受けとったわ。
シルク〈ありがとね! ……じゃあ、そろそろ行くわね。〉
カレン〈そやね! ジムに行くって言っとったね。〉
{じゃあ、またね。}
って、もう一度言葉を交わして、私とトリちゃんはこの部屋を後にしたわ。
………えっ?カレンがポケモンの姿でいる理由がわからない?
………!
言うのを忘れてたわ!
彼女、研究室に行く時はいつもベランダから
飛んで向かってるらしいわ。
研究室の人達も、その事を知っているそうだわ。
それに、[チカラ]の影響で[テレパシー]を使えるみたいなの。
………だから、{いつでも意思疎通が出来るから楽やわー!}って言ってたわ。
………と、改めて言うけど、私とトリちゃんはライト達が挑んでいるはずのジムへと向かった。
…………
午前 ジム sideシルク
フーディン〈[サイケ光線]!!〉
ライト「ティル、同じ技で迎え撃って!!」
ティル〈……[サイケ光線]!!〉
シルク〈……あっ、やっぱり戦ってたわね。〉
私の予想通り、ライトは4箇所目のジムに挑戦していたわ。
ティル君が戦っている相手からすると……、二匹目ね。
相手の二番手でライト側がティル君って事は、彼女はティル君だけで勝ち抜くつもりなのかもしれないわ。
私達が入った時、丁度両者が技を発動させたところだった。
トリ〈シルク? あの人がそうなの?〉
シルク〈ええ。彼女がテトラちゃんのトレーナーなのよ。〉
私が状況を分析している横で、トリちゃんは不思議そうにライトに目を向けた。
トリ〈そうなんだね?………見たことない種族だけど………。〉
ええっと………。
………あっ、いたわ。
私は戦っている彼等から目を離し、別のふたり………いや、二匹組に目を向けた。
視線の先には、……二匹の[ロコン]……。
………もう誰かは言わなくてもわかるわよね?
シルク〈彼は[テルーナ]っていう種族なのよ。……ショウタ君、コロナちゃんライトのジム戦は順調みたいね。〉
そう……、片方は♂。………そして、もう片方は♀。
ショウタ〈………あっ、シルクさん……がふたり!?〉
コロナ〈………シルクさん?彼女は誰?〉
♂の[ロコン]……、元トレーナーのショウタ君はトリちゃんを見て素っ頓狂な声をあげた。
………異様といえば異様な光景ね………。
同族のポケモンが二組も揃っているからね……、なかなか無いと思うわ。
………正確には、ショウタ君は違うけど……。
計14本の尻尾が寄り添って、言葉を交わす。
トリ〈シルク?知り合い?〉
シルク〈ええ。♂の方がショウタ君、♀の方がコロナちゃん。………で、彼女はトリちゃん。テトラちゃんのお姉さんなのよ。〉
私は正面からゆっくりと視界を巡らせながら、三匹にそれぞれ紹介した。
ショウタ・コロナ〈〈えっ!? コロナちゃんの??〉〉
トリ〈うん。よろしくお願いしますね。〉
ショウタ〈………でも、姉妹なのに種族が違うよね?〉
ショウタ君、気づいてないみたいね。
シルク〈ショウタ君達はあの時にはいなかったから知らないと思うけど、テトラちゃんの種族の[ニンフィア]も、[イーブイ]の進化系なのよ。〉
トリちゃんは丁寧に、ぺこりと頭を下げたわ。
…………コルドと一緒で、礼儀正しいわね。
コロナ〈そうだったんだ……。〉
シルク〈ええ。……ショウタ君、コロナちゃん、今のライト達の状況を教えてくれるかしら?〉
話が始まらないうちに、彼女達の途中経過を訊ねた。
………聞きたいことを聴く前に逆に質問されそうだったから……、トリちゃんの事について。
……あと、ショウタ君達の事もね。
………
数十分後 ヤマブキシティーポケモンセンター sideテトラ
ライト「ティル、テトラ、お疲れ様。」
ティル〈うん! ちょっと苦戦したけど、何とかなったよ。〉
テトラ〈私は眠らされたから………いまいちかな……。〉
私はさっきのバトルを振り返りながらボールから出た。
………ライト、そんなに気にしなくてもいいと思うよ?
だって、ライトの指示が無かったら私も相手を眠らせれなかったし……そもそもティルと協力して勝てなかったもん!
私は左右に首を振って、ネガティブな考えを無理やり掻き消した。
ラグナ〈相性的に有利な俺でいかなかったから心配だったが、何とかなったな。〉
ラグナさんは、ボールから出るとホッと肩撫で下ろした。
………正直、私もビックリしたよ。
私はてっきりラグナ中心で闘うのかと思ってたけど、まさか私が闘うとはね………。
シルク〈………って事は、作戦が成功したのね?〉
話の内容から判断したらしくて、シルクは納得したように頷いた。
ライト「うん! [未来予知]をされて少し予定が狂ったけど、ティルとテトラが………〉
???〈シルク!? テトラのトレーナー、シルク達の言葉に答えたよね!?〉
私からはティルの影で見えないけど、誰かがライトの言葉を遮って驚きの声をあげた。
………でもこの声、何故か懐かしい気が………。
……でも、まさかね………。
彼女はトレーナーのポケモンのはずだから、シルクと単独でいる筈がない!
シルク〈ちょっと訳があってね、私達の言葉が分かるのよ。………それより、彼女よりも話したい相手がいるんじゃないかしら?〉
テトラ〈……えっ?私?〉
?
シルクは、そのひとと言葉を交わしながら私に視線を移した。
………私がどうかした?
………もしかして………、いや、でも……そんなはずはない……。
私の中で、
希望 と
期待の喪失 を巡る葛藤が繰り広げられた。
???〈うん。〉
そう言って、彼女はティルの影から歩み…………えっ!!?
嘘でしょ!!?
テトラ
〈トリ姉!?どうしてこんな所に!!?〉トリ〈………テトラ……。本当にテトラなんだね……?〉
声の持ち主は……、4年前にトレーナーに捕まったはずの姉さん………、[エーフィ]のトリ姉が、私が彼女の妹であるのを訊ねるように、疑問系で言葉を噛み締めた。
トリ姉……。まさか………こんな所で会えるなんて………。
テトラ〈うん………。私は私………。トリ姉、私はあの[トキワの森]で迫害に遭ってた色違いの[イーブイ]で間違いないよ………。………トリ姉、………
会いたかったよ!!!〉
もう会えないって諦めてたのに………。
私の瞳から、大粒の光が………滝のように流れ落ちる………。
………私はついに、生き別れ(?)た実の姉の元に駆けよった。
トリ〈
テトラ、ワタシもだよ!!………シルクの言う通り、見違えるほど明るくなって…………、本当に…………嬉しいよ………。〉
トリ姉も、嗚咽混じりに再会を喜ぶ………。
私達は寄り添い…………、私は触手をトリ姉の後ろにまわし、直に姉の温もりを心に感じる………会えなかった4年分の…………。
テトラ〈私のトレーナー………ライトとみんなのお陰で、私、変われたんだよ!〉
トリ〈シルクから聴いてるよ!〉
テトラ〈今ではもう[色違い]だって事を笑い飛ばせるし、何より楽しい事を見つけたんだよ!!〉
トリ〈楽しい事………〉
テトラ〈うん!! 私、一方的に攻撃されない……正々堂々としたバトルを楽しめるようになったの!………それに、森の奴等みたいに卑劣じゃないを[仲間]にも出会えた。………[仲間]がこの[コンプレックス]と[憂鬱]の塊の私を変えてくれた………。………感謝してもしきれないよ!!〉
溢れる想いと共に、[喜び]と[幸福]………最後に話した時には無かった感情をありのままにぶつけた。
トリ姉…………、本当に……………
本当に…………。
…………言葉に表せられないくらい嬉しいよ!!