29 S 雷鳴と絆
夜 高層マンション sideシルク
トリ〈そこまで知ってたんですね………。明日ぐら いまで出かけていて今はいないんですけど………。 〉
トリさんはは呆気にとられながら呟いた。
……だって、そうよね?
見ず知らずのポケモンに、カレンさんの最高秘密を言われたのだもの。
私でさえ、赤の他人に私が[絆の従者]だって公言されたらビックリするわ。
……ましてや、ごく少数の友人しか知らない情報だから……。
シルク〈それともう一つ。カレンもポケモンに姿を変えられるのよね?[四鳥伝説]というだけあって、飛行タイプかしら?〉
カレン「そこまで知ってるとはね……。」
……図星のようね?
明らかに動揺してるし……。
トリ〈シルクさん、その通りです。 ……シルクさん? シルクさんって本当に化学者なんですか? 今のとこ考古学者にしか思えないんですけど…?〉
トリさんは、私の事を不思議そうに見つめながら言った。
シルク〈私はまだ最近化学者になったばかりなのよ。 ……トレーナーが考古学者っていう影響もあるけど、転職前、私も考古学者だったからかな?………いや、寧ろ私も伝説の当事者として別の伝説も気になるから、……っていうほうが正しいわ。〉
………この際、いってしまおうかしら?
私は話の流れをそのままに、自分へのフラグを立てた。
………第三者が聞くと、意味深な発言ね……、さっきのは……。
カレン「伝説に??」
トリ〈色んなアクセサリーを着けている以外は、どう見ても普通と変わらない[エーフィ]ですけど!?〉
……やっぱり、反応したわね。
私の思惑通りに、彼女達は私に疑問をぶつけた。
耳飾りにしているこの青い鉱石、[時鉉石](〜過去と未来の交錯〜参照)は、確かにそう。
珍しい鉱石……というよりは、5000年後の世界での思い出の品だわ。
シルク〈ええ。 ……イッシュ地方の[英雄伝説]をご存知かしら?〉
私は、疑問符で埋め尽くされている彼女達に、私自身が関わる伝説について語り始めた。
数分後 sideシルク
シルク〈………こんな感じね。〉
私は本来は何時間にも及ぶ説明を、10分程度の文章に要約して語った。
………知っている人は知っているかもしれないけど、ユウキ達が言うには、
{シルクは物事を纏めるのが上手い。}……らしいわ。
私にはそんな意識はないけど、そうらしいわ。
実際、ユウキが論文の原稿を書き上げた時は私が推敲したし……。
今更だけど、みんなが言う事は事実らしいわ。
カレン「……ユウキさんも、うちと同じやったんやな……。」
シルク〈…唯一の違いは、カレンさんとは違って、ユウキはたった2年前に[チカラ]が開花した事かしら?〉
カレンさん、自分の能力に気づいたのはセツさんよりも早い、8歳の時だったらしいわ。
トリさんが言うには、カレンさんはユウキと同様にバトルの腕をあげてるらしいのよ。
一般のトレーナーのポケモンぐらいなら何とか倒せるみたいなのよ。
……ちなみに、カレンさんの[雷鳴のチカラ]は、守備力の全てを犠牲にして、状態異常に弱くなる代わりに[10万ボルト]と[テレパシー]を使えるって言ってたわ。
[代償]は私にも同じモノがあるけど、[テレパシー]は初めてね。
トリ〈そうなりますね。……カレン? 折角だからシルクさんと闘ってみたら?明日の朝はゆっくり出来るし、どう?〉
流石はエスパータイプ。
勘が鋭いわね!
私と同じ、エスパータイプの[エーフィ]であるトリさんは、見事に私の心の声を言い当てた。
……だって、憧れの人と手合わせが出来るのよ?
会える事だって滅多に無いこと、……貴重な機会だわ。
私は平生を装いながら、彼女の返答を待った。
カレン「そうやね。いいよ。」
シルク〈いいんですか!?〉
いいの!?
私は期待の眼差しでカレンさんを見つめた。
カレン「もちろん。」
トリ〈……なら、屋上に行かないとね!部屋の中だと出来ないし。〉
本当に、いいのね!?
シルク〈ありがとうございます!!〉
私は嬉しさのあまり、額が床に着くまで深々と頭を下げた。
カレン「じゃあ、行こっか!」
シルク・トリ〈ええ!〉〈うん!〉
まるで少女のように目を輝かせながら、カレンさんは二匹の[エーフィ]に語りかけた。
私達も、それに笑顔で答えた。
………
夜 屋上 sideシルク
シルク〈大都会の夜景、久しぶりだわ!〉
私は眼下に望む光の競演を目の当たりにして、感嘆の声を漏らした。
白を基調として、所々に飲食店の有色の光が漏れ出す……。
それらに負けじと、信号機の赤や、黄、青も随所で点滅をくり返す……。
……こういう光景を見ると、[コガネシティー]でユウキと幼少期を過ごした頃を思いだすわ……。
[コガネシティー]、今はどうなってるかしら……。
私は懐かしの故郷に思いを馳せた。
カレン「故郷の[エンジュシティー]とは違って、近未来的な街も好きなんよ……。……じゃあ、始めようか。」
シルク〈ええ!〉
カレンさん、[エンジュシティー]の出身だったのね?
近くだったから、私もよく行ったわ!
私は、彼女の言葉で気持ちを戦闘に切り替えた。
……楽しみね!!
それだけ言うと、カレンさんは目を閉じて意識を集中させた。
すぐに姿が歪みだし、ものの数秒でポケモンへと姿を変えた。
姿を変える時間は、その本人の実力に比例するらしいから、話は本当のようね!
シルク〈カレンさんは[ハトーボー]に姿を変えられるのね?〉
カレン〈そう。 シルク、本気でかかってきてくれへんかな?うちも本気でいくから!〉
カレンさんは、そのつもりなのね?
カレンさんは、真っ直ぐ私を見つめた。
シルク〈わかったわ! 私も、[絆の従者]として丁重にお相手させてもらうわ!!〉
そして、私は彼女に対峙する。
………[ディアルガ]と戦った時と同じ睨みを効かせながら……。
トリ〈目力が……凄い……。〉
カレン・シルク〈じゃあ、いくよ!!〉〈[絆]の名に賭けて……いくわよ!!〉
宣言と共に、伝説関係者同士の戦闘が幕をあけた。
カレン・シルク〈[高速移動]!〉〈[瞑想]、[サイコキネンシス]!!〉
互いに、戦闘に備える…。
カレンさんは身軽に身体を動かし、私は集中しながら超能力を発動させる。
………お互いに、守備力がほぼ皆無だから、一度でも攻撃を当てた方の勝利ね?
カレン〈シルク、うちからいかせてもらうよ!![電光石火]!!〉〈[シャドーボール]!〉
彼女は、腕にあたる翼を素早く動かし、私に急接近する。
対して、私は目を閉じたまま、漆黒のエネルギー塊をストックする。
私まで、10m………。
私は、音と風の流れで位置関係を把握する……。
7m………。
シルク〈[目覚めるパワー]!!〉
続いて、竜の暗青色……。
これで、二色。
これらを、維持している超能力で拘束する。
4m……。
カレン・シルク〈余裕やね!!〉〈発散!!〉
漆黒の一部を分離させ、それで上昇気流を発生させる。
1m………。
カレン〈!? 見えてる!? 〉
シルク〈昼ほど鮮明ではないけど、空気の流れである程度は把握できるわ!!〉
それに飛ばされ、私は上空に投げ出される。
カレンさんは、即座に反応し、私のソレに便乗する。
3m……。
カレン〈空中なら私のほうが有利なのに、…判断ミスっちゃうかな?[燕返し]!!〉
シルク〈さあ、それはどうかしら?発散!!〉
彼女は、私に攻撃を当てるべく、羽ばたくスピードを強めた。
………流石ね。
気を抜くと追いつかれそうだわ……。
カレンさんのスピード、ライト並みにあるわね。
油断出来ないわ!!
今度は、竜のエネルギーの発散させて、私自身を左に飛ばした。
カレン〈技でかわした!?〉
シルク〈そういう事よ!! 私もそろそろ攻撃させてもらうわ!![ベノムショック]!!〉
彼女は驚きながらも、冷静に対処する。
私は、斜め下に降下しながら体内に溜まる毒素を放出、拘束した。
2m……。
シルク〈化合!!〉
紫と、暗青色を混ぜ合わせる。
すると、守備減退作用を秘めた藤色の弾が生成された。
彼女は、負けじと私を追跡する。
………もしかすると、私以上……、フライ並みの素早さかもしれない…。
1m……。
私は、それを撃ちだした。
カレン〈何!? あの技!? っ!……痛く……ない!?〉
距離の関係でかわす事が出来ず、彼女の守備力は更に減退した。
その間に、私は地面に華麗に着地した。
このままだと…、負けるわね……。
シルク〈発散!!〉
カレン〈!!?〉
私は咄嗟に漆黒のエネルギーを利用して突風を発生させた。
……ダメージは無いけど、相手を遠ざけるのにはちょうど良いのよ。
漆黒の全てを費やして発生させたそれは、急降下する[ハトーボー]のカレンさんを吹き飛ばした。
………いわゆる、技の[吹き飛ばし]の代用ね?
カレン〈シルク、なかなかの実力やね!どうやってかは知らないけど、飛行タイプのうちが飛ばされるなんて、初めてやよ!〉
出身地独特の訛りで、彼女は言った。
シルク〈カレンさん、あなたこそ!あなたわ私の素早さに特化した仲間に匹敵するぐらい速いわ!!〉
カレン〈……なら、これならどう?[10万ボルト]!!〉
彼女は、気流から外れて急降下。
そして、固定技である高電圧の電撃隊を放った。
私まで15m……。
シルク〈とうとう来たわね!! [10万ボルト]!!〉
彼女に、同じ技で対抗する。
………[チカラ]の効果で強化されてるから、私のほうが圧してるわね。
両者共に、通常では使えない技で火花を散らした。
カレン〈くっ………、[高速移動]!!〉
彼女は技の劣勢を察知し、解除して素早さを高めた。
………夜だから、カレンさんを捉えるのは難しいかもしれないわ……。
………なら、
カレン・シルク〈[燕返し]!!〉〈[10万ボルト]、[シャドーボール]!!〉
風に乗ったカレンさんは、
獲物めがけて急接近する。
対して、私も維持していた竜と、漆黒と黄色を単発で放った。
カレン〈凄い数………。〉
彼女は素早い身のこなしで三色のエネルギーの林を見切る。
3m………。
カレン〈これで決める!!〉
シルク〈!? [10万ボルト]!!〉
三色の林を何とか潜り抜けた彼女は、虎視眈々と私を狙う。
エネルギーの量が仇となり、気づくのが遅れた私は、内心焦りながら電気を纏った。
………このスピードでは………かわせない!!!
私は衝撃に備え、身構えた。
シルク・カレン〈〈っ!!〉〉
両者の技は………互いに………命中した。
カレンさんは……墜落し、私も………崩れ落ちる………。
………結果…………引き分け。
…………カレンさん、見事だったわ………。