28 S 雷鳴の化学者
夜 ヤマブキシティー sideシルク
トリ〈……あのテトラが旅を……。〉
私達は街灯に照らされながら、夜のオフィス街をつき進む……。
……それにしてもこの感じ、久しぶりね。
都会育ちの私にとっては凄く懐かしいわ……。
シルク〈ええ。私のトレーナーじゃないけど、よくしてもらってるわよ!……だからトリさんの知ってるテトラちゃんとは良い意味で少し変わってるかもしれないわ。〉
私は行く先を見据えながら、横目で同族の彼女に近況報告……なのかな?
出逢ってからのテトラちゃんの様子を的確に伝えた。
トリ〈テトラ、あんなに他人不信だったのに……、変わったんですね……。〉
トリさんは、懐かしそうに、そして嬉しそうに呟いた。
テトラちゃん、私が知っているだけでも凄く変わったわ。
シルク〈そうよ。 今では仲間と連携してダブルバトルで闘えるまで成長したのよ!〉
トリ〈……変わったんですね……。…油断するとワタシも負けてしまいますね…、旅しているなら……。〉
トリさんは、フフって笑みを浮かべながら自身の妹に思いを馳せた。
シルク〈……あっ、そういう。テトラちゃん、進化したのよ!〉
トリ〈えっ!?本当ですか!?〉
シルク〈ええ。〉
{進化}という私の言葉を耳にして、彼女は急に声を荒げた。
……妹の事だもの、気になるのは当然よね?
私も喜んでくれた事への嬉しさで、自然と口元が緩む。
シルク〈テトラちゃん、この地方では珍しい[ニンフィア]になったのよ。〉
トリ〈あの、フェアリータイプのですか!?〉
シルク〈ええ。……それも、少数派の特性のね!〉
テトラちゃん、本当に恵まれていると思うわ。
……憧れの対象、って事ではないけど、色違いで少数派の特性持ちのポケモンは滅多にいないわ!
特性も、戦いに特化したものだから、尚更だわ!
間違いなく、強くなるわね!
トリ〈………シルクさん、話を聞いたら会いたくなりましたよ!〉
彼女は、無邪気な声で言った。
シルク〈……案外、すぐに会えるかもしれないわよ?〉
トリ〈どういう事ですか!?〉
シルク〈テトラちゃん達、今ジムを巡ってるんだけど、今日は[ハナダ]のジムに挑戦するって言ってたのよ。順調に進んだら明日にもココに来ると思うわ。〉
トリさんは、期待の眼差しと共に私を見つめた。
それに、私もにっこりと笑顔で答える。
トリ〈明日にも!?〉
シルク〈ええ。〉
トリさん、会えるといいわね!
………
数分後 sideシルク
トリ〈……ここです。〉
シルク〈このマンションがそうなのね?〉
私の前を歩いていたトリさんは、一棟の高層マンションの前で立ち止まった。
トリ〈はい!〉
私達は、エントランスに続く自動扉をくぐった。
……セキュリティーは万全そうね?
パッと見た目感じ、防犯カメラが4台、住宅に繋がる通路への扉はパスワードで管理されている様子……。
シルク〈トリさん、ここまで来ればもう大丈夫よね?〉
パスワードで管理されているから、もう問題ないわね、きっと。
トリ〈はい。今日はありがとうございます。〉
シルク〈なら、私はそろそろ……〉
トリ〈あっ!ちょっと待ってください!〉
シルク〈!?〉
彼女を送り届けて、出口に向けて歩きだそうとしたその時、私は彼女に呼び止められた。
……?
立ち止まり、彼女のほうに向き直った。
トリ〈トレーナーと仲間は別々になって調査してるって言ってましたよね?〉
シルク〈? そうだけど?〉
トリ〈……なら、ウチに泊まっていきませんか?もう暗いですし……。〉
彼女は、側にある小窓をチラッと見て言った。
………えっ!?いいの?
私は彼女の言葉を聞き、ハッと見た。
シルク〈えっ!?でも、私はあなたにとっては他人だ……〉
トリ〈同じ[エーフィ]でしょ?それに、助けてもらったお礼もしたいんです!〉
私の言葉を遮って、トリさんは弾けんばかりの笑顔で言った。
………本当に、いいのかしら……?
一応、謙遜してるけど…。
……でも、この時間だとセンターは今一番忙しい時間だし……。
私の心の中で、泊まろうか泊まるまいか、葛藤が繰り広げられた。
シルク〈でも……〉
トリ〈それに、ワタシのトレーナーにも紹介したいんです!〉
………笑顔が、眩しいわ………。
……この笑顔を見ると、断れないわね……。
シルク〈……じゃあ、お言葉に甘えようかしら?〉
とりあえず、私は泊まらせてもらう事にしたわ。
トリ〈…じゃあ、すぐに開けますね!〉
トリさんは嬉しそうに、ダイアル式のパスワード認証機がある台に飛び乗った。
……トリさんも、字が読めるのね?
彼女は慣れた手つきでそれを入力した。
すると、ガチャっと音がして、その後すぐに扉が自動で開いた。
そして、すぐに飛び降りて、
トリ〈シルクさん、閉まる前にはいりましょう!!〉
シルク〈えっ、ええ。……じゃあ……。〉
小走りでそこをくぐった。
私も彼女に続いた。
………
数分後 sideシルク
トリ〈[念力]! ただいま!〉
私達はエレベーターで4階まで上がり、彼女は超能力で玄関のとびらを開けた。
………エレベーターのボタンも、届かないからそれを使っていたわ。
彼女は、中に入るとすぐに声をあげた。
???「おかえり。遅かっ……!?もう一匹!?」
シルク〈えっ!? あなたは、もしかして……〉
部屋の奥から女の人が出てきて、二匹の[エーフィ]を目の当たりにして驚きの声をあげた。
……その彼女の事も、私は知っていた……。
………というか、有名人で驚いたわ……。
シルク〈トリさんのトレーナーって、化学者のカレンさん!?〉
トリ〈はい!シルクさんのトレーナーのユウキさんみたいに、ワタシのトレーナーも研究者なんです!〉
まさか、私と同業者……それも私が尊敬する人のうちの1人が……。
まさか、会えるとは思わなかったわ!
私は憧れの人との出逢いに胸が高鳴った。
シルク〈やっぱり、間違いなかったのね!!〉
興奮して、思わず声のトーンが上がる。
彼女は、先頭中に一時的に守備力を上げる薬品、[ディフェンダー]を開発した事で有名なのよ!!
私も、薬品とか道具の開発に使わせてもらってるのよ!!
私はいてもたってもいられず……、
シルク《カレンさん、私、[シルク]と言います!!私、あなたの大ファンなんです!!まさか会えるなんて、夢みたいですわ!!》
[テレパシー]で語りかけた。
カレン「!? まさか、ポケモンにうちのファンがいたなんて、ちょっと嬉しいわ。」
一瞬、私の声に驚いたけど、すぐに私の言葉に答えてくれた。
やった……会話できた………。
トリ〈カレン、シルクさんも化学者なの!〉
カレン「へぇー、彼女も?」
トリ〈うん!シルクさんは……〉
シルク〈ちょ、ちょっと待って!もしかしてカレンさん、あなたも私達の言葉を理解できるの!?〉
カレンさんは、ごく普通にトリさんの言葉に答えた。
えっ!?
という事は……、まさか………。
驚きに打ちひしがれた私に、ある仮説が生まれた……。
……いや、まだ決定的な証拠が無いわ……。
カレン「そう。 公にはしてないんやけど、うち、君たちの言葉解るんよ!」
カレンさんは、笑顔で言った。
トリ〈……とにかく、玄関先で話すのもあれだから、部屋に上がってください。〉
シルク〈………えっ、ええ。〉
私は彼女に言われるがままに、持論を展開しながら部屋にあがらせてもらった。
………私達の言葉が解るのなら、何かしらの伝説に関わっているのは間違いないわね……。
それとも、ライトみたいにポケモン自身が人に姿を変えているか……。
私は彼女の顔、肩………と、順に視線を落としながら彼女の装いを眺めた。
人なら、アレを着けているはず……。
………今のところ、上半身には着けてないわね……。
私が論を展開している間に、トリさんは私との出逢いを、語っていた。
段々下の方へと………。
………………!!!
シルク〈あっ、やっぱり、着けていたわね!!〉
右の足首に着けているそれを目で捉えたその瞬間、私の仮定が確信に変わった。
あのリング、間違いないわ!!
私の脳裏に衝撃が走った。
私が急に声をあげたから、2人ともハッと私の方に振り返った。
対して、私は確信をもって……、
シルク〈カレンさん、唐突だけど、あなたのもう一つの顔が分かったわ。……カレンさん、あなた、[四鳥伝説]の[雷鳴の防人]よね?〉
導き出した結論を述べた。
カレン・トリ「〈えっ!?何故分かったの!?〉」
当然、ふたりは驚きの声をあげる。
シルク〈今、私を含めた仲間とトレーナーが調査している伝説……、それが[四鳥伝説]なのよ。カレンさんが足に着けている黄色いリング、[雷鳴の証]よね?〉
そのリングは、間違いないわ!
[氷雪の防人]のセツさんがしていた水色のリングと瓜二つ……、形状がそっくりだわ!!
トリ〈でも、どうして分かったんですか!?〉
トリさんは、若干パニック状態になりかけながら、疑問を私にぶつけた。
カレン「………まさか、うちの正体がバレるとは……思わなかったわ……。……シルクって言ったわね……?きみは一体……。」
シルク〈単刀直入に言うと、私、[氷雪の防人]に一度会ってるのよ。彼も私の言葉が理解出来て色違いのリングを着けてるから、間違いないと思ったのよ。……あと、私達ポケモンの言葉が解るのは、伝説に関わってる人しかいないわ!〉
……という事は、彼女も姿を変えられるわね。
カレン「[氷雪]に!?」
シルク〈ええ。連絡先も、貰ってるわ。〉
そう言いながら、私は鞄の外ポケットを漁った。
内側は木の実とか薬品で一杯だから、メモとかそういう類のモノはそこに閉まってあるのよ。
そして、私はその彼の連絡先……、名刺を手渡した。
トリ〈話では聞いていたけど、他にも[防人]がいたんだ……。〉
カレン「…ええっと、{ジョウト放送 専属気象予報士 セツ}………。」
シルク〈[氷雪]だから、[フリーザー]を連れていたわ。 トリさん、あなたの仲間に[イカヅチ]という名前のポケモンがいるわよね?〉
[雷鳴]なら、そのはず……。
トリ〈そこまで知ってたんですね………。明日ぐらいまで出かけていて今はいないんですけど………。〉
彼女は呆気にとられながら呟いた。