β 辞令
午前 コガネシティー sideセツ
セツ「……以上、天気予報をお伝えしました。…」
A「………はい、OKです!」
僕は生放送のカメラに頭を下げ、今日の原稿を一通り読み終えた。
B「セツさん、今日もお疲れ様でした。」
セツ「みなさんも。」
OKサインが出て、僕は一息つきながらスタジオから退室した。
……どうも、僕はジョウト放送局に勤めている、気象予報師のセツといいます。
これでも僕、この地方では結構名が知られているんですよ。
……理由?
何故なら、僕はこの5年間、朝の顔として1日の天気を伝えてきましたから。
スクール時代に気象学を学んだのもあるんですけど、僕のもう一つの肩書きの影響が大きいかもしれないですね…。
一度話に出ていますが、僕は[四鳥伝説]の[氷雪の防人]、いわば伝説の当事者なんです。
考古学者のユウキさんと同じように、[証]も持ってます。
僕の場合、常に左足に着けている水色のリング……、[氷雪の証]がそれにあたります。
まず[チカラ]は、飛行タイプのポケモンに姿を変えること、[冷凍ビーム]を使用可能となること、素早さが若干強化されること、人の姿でもポケモンの言葉が分かるようになること……、この4つです。
対して[代償]が、技の数が3つになること、守備力が一切無くなること、自然回復力が低下することの3つ……。
使える技が3つしかないのはポケモンとして不利ですね……。
……だから、ポケモンとしての性質で空気の流れを詠みやすいので、僕の予報はよく当たるんです。
………自分で言うのもあれですけど……。
もちろん、伝説関係の事は全部伏せてあります。
………僕の事についてはこのくらいですかね……。
……では、話に戻りましょうか。
セツ「…お先に失れ……」
C「ああー、セツ君、ちょっと待ってくれるかな?」
セツ「…い……!? 社長!?」
楽屋に戻ろうとしたその時、僕はこの局の最高責任者である社長さんに呼び止められた。
社長自ら用があるなんて、今まで無かったのに……。
僕は急に呼ばれてハッとし、疑問に捕らわれながら振りかえった。
社長「名残惜しいが、辞令を受けとってくれるかな?」
セツ「!? 辞令ですか!?」
辞令!?
でも、どうして!?
何の知らせも無くクビなんて………。
あと、名残惜しいとは如何に……?
首を傾げ、復唱した。
社長「キミにとっていい知らせのはずだよ?」
彼はそう言いながら、例のモノが入れられたら封筒を手渡した。
突然の事に唖然としている僕は、されるがままにそれを受け取った。
僕は最悪な事を考えながら、封を切った。
クビだけは………どうか…………。
妻と子供を養っていかないといけないのに………。
セツ「………ええっと………、{本日付けで、カントー本社への移動を命ずる}………………。」
………………、
セツ「…………えっ!? カントー!?」
カントーに移動!?
嘘でしょ!?
カントーといったら、全国放送!?
書面に書かれている文章を認識するのに、結構な時間がかかった。
社長「そう。[タマムシシティー]から直接君にオファーがきたんだよ。またとないチャンスだ……、請けてくれるかな?」
向こうから、直接に?
セツ「……でも、僕の代わりの人は決まってるんですか? 僕がさせて頂いているものは看板番組ですよ?」
社長「それなら心配ない。もう声はかけてある。」
そうか………。
この局のことは心配しなくても良いという事ですか…。
彼の言葉を聞き、僕は腕を組んで自分の思考を巡らせた。
……………………………………。
セツ「………僕で良かったら、お願いします。」
遂に決心し、僕は決意を表明した。
社長「君ならそう言ってくれると思っていたよ。……なら、頼んだよ。」
セツ「はい!」
ぜひ、そうしたいです!
………なら、すぐにでも妻やスノウ達に報告しないと!
僕は深々と一礼し、一目散に自分の楽屋へと急いだ。
………
屋上 sideセツ
セツ「ウェズ、スノウ、お待たせ!」
僕は局の12F、屋上に着くとすぐに、自分のメンバーをボールから出した。
……中はスタジオ以外は出せないんですよ……。
ウェズ〈…あれ?今日は何か嬉しそうだね?〉
スノウ〈何か良いことがあったのね?〉
ボールの赤い光が消えると、無邪気な声で[ポワルン]のウェズが、透き通った声で[フリーザー]のスノウが、ほぼ同じタイミングで言った。
……何故屋上かって?
……言わなくても分かりますよね?
街のド真ん中で突然伝説のポケモンが現れたらどうなると思います?
きっと大変な事になるでしょうね。
セツ「そう。 カントー地方に移動が決まったんだ。」
僕は胸の高鳴りと共に言った。
ウェズ〈カントーに!? ………って事はとうとうセツも全国進出だね!〉
スノウ〈今まで以上に名が知れ渡るわね!〉
ふたりも、僕の昇進を喜んでくれた。
………ちなみに、妻には楽屋で真っ先に伝えました。
彼女も、僕の移動を快く祝福してくれました。
セツ「そうなるね。 スノウにとっても良い話じゃないかな?」
スノウ〈ええ! 何時間もかけてカントーに行かなくてもよくなるから、嬉しいわ。〉
二匹…、特にスノウが嬉しそうに言った。
僕と同い年で、彼女は伝説の種族だけど、こういう所が可愛いんですよね……。
……彼女の知り合いには会ったことないけど、彼女と同じで伝説の種族かもしれませんね。
ウェズ〈なら、尚更いいね! セツ、移住の準備とかしないといけないと思うから、早めに帰った方がいいんじゃない?〉
セツ「……うん、そうだね。……じゃあ、一度戻ってくれる?」
ウェズ〈いいよ! だって、いつものことでしょ?〉
僕は和気あいあいと話しながら、彼のボールを手に取った。
本当は僕を含めた3匹で飛んでいきたいんだけど、彼のスピードでは追いつかないから………。
ウェズは快く答えてくれて、すぐにボールに収まった。
スノウ〈セツ、私は先に上がっているわね。〉
セツ「うん。」
彼女はそう言い残し、羽ばたいた。
涼しい風が吹き抜ける………。
セツ「……じゃあ、僕も準備中しないと……。」
僕は自分の鞄を肩から斜めに掛け、建物の隅へと歩いた。
……そして、広がる街を背にして、建物の縁に登る。
それと同時に、目を瞑り、もう一つの姿を強くイメージする………。
勢いに身を委ね、風を切りながらうしろに倒れ込む。
……もちろん、僕の身体は宙に投げ出される……。
普通の人なら、これは自殺行為……。
……でも、僕は違う。
足が建物から離れると、僕の身体はレンズの焦点がずれるように歪み始める……。
身体のありとあらゆるものが変化していく………。
歪みが戻った時には既に、僕の身体は変わっていた。
変化を終えて、目を開ける。
そして、腕にあたる翼を羽ばたかせ、体制をたてなおす……。
黒と白の羽毛を靡かせ、上昇する……。
セツ〈スノウ、お待たせ。待った?〉
スノウ〈いいえ、そんな事ないわ。 [ムクバード]の姿に変わるのに時間がかかるから、仕方ないわ。……じゃあ、行きましょっか。〉
セツ〈うん。〉
ジョウト地方最大の都市に、二種類の鳥ポケモンの
囀りが響いた。
そして、僕達は時代がある[アサギシティー]に向けて羽ばたいた。