弐拾 シルクの料理
西暦7000年 食堂 sideシルク
今日も忙しい1日が終わって、ギルドのメンバーと話しながら夕食………
……とはいかなかったわ。
「ラテ、ベリー、お前達は[セカイイチ]の収穫に失敗したから夕食は抜きだ!」
「「そんなー。」」
ラテ君達はまさかの夕食抜き。罰にしては厳しすぎると思うわ。
フラットさん、別の罰があったと………
「でも、“ドクローズ”が邪魔しなかったら……」
ラテ君が必死に言い訳を…………えっ!?アイツ等が!?
「お黙り!!この後親方様に報告しにいくのはこの私なんだから………。私だけでは理不尽だから、“疾風の風”、お前達をくるんだ!」
フラットさん、そこまで怒らなくても………いいと思うわ………。
ウォルタ君、来ていきなりこんな事になって申し訳ないわ。
そんなわけで、私はあまり食事が喉を通らないわ………。
周りの張りつめた空気で…………というより、何かを知っているであろうあの紫三人組に対する怒りで……。
………
ギルドB2F sideシルク
「ラテ君にベリーちゃん、大丈夫でゲスかねー?」
「親方様のあれはキャーって感じですからね。」
食事の後、ラテ君とベリーちゃん、フラットさんはすぐにラックさんのところに言ったわ。
話しかけようと思ったけど、かなり落ち込んでいて、話せる状態じゃなかったわ………。
「ブラウンさん、シャインさん、ベリーちゃん達、いつもああいう感じなの〜?」
ウォルタ君が2人に聞いたわ。
後で知ったんだけど、ギルドのメンバーはウォルタ君の事を以前から知っていたらしいわ。
「普段はこういう事はないんでゲスけど……。」
「何かあったに違いないですわー。」
「聞くところにようと、そうらしいわね。まだ会ってから3日しか経ってないけど……」
あそこまで落ち込んでいているのを初めて見たわ……。
私がそういう前に、
「1つ引っかかる事があるんですけど、ラテ君、“ドクローズ”がなんとかって言ってませんでした?」
いつものようにフライに割り込まれたわ……。……気にしてないけど……。
「うん、そう言ってた気がするよ〜。」
「って事は、アイツ等にはめられたら可能性があるわね……。」
アイツ等ならやりかねないわ。モラルも何もない連中だから……。
「うん。………そんなことより、ラテ君達、お腹を空かせているはずですよ……。」
「そうに違いないですわー。シルクさん、それに皆も、ラテ君達のために食べ物を用意しませんかー?」
湧き上がるテンションを抑えながらも、シャインさんはこう提案。
「もちろん、私はそのつもりよ!空腹だけは……何事よりも辛い事だから………。」
私は一言ずつ力を込める。
………私以外に飢えで苦しませたくない……………。だから………。
「うん、そうだよね〜。でも、どこから準備するの〜?」
ウォルタ君が不思議そうに聞いたわ。
大丈夫よ。短時間、かつ少量で空腹感が満たされる方法があるわ!
「私が作るわ!フライ、[林檎]3つと[オレンの実]は持っているかしら?」
「うん。ギリギリ足りるよ。」
フライ助かったわ。これで作れるわね。
「ブラウンさん、にシャインさん、ウォルタ君も、私達の部屋に来てくれるかしら?」
ここで作るのはちょっとね……。
「わかったてゲス!」「わかりましたわー。」「うん、いいよ〜。」
なら、早速いきましょ!
………
部屋 sideシルク
「シルク、準備出来たよ。」
「わかったわ。じゃあ、はじめましょ!」
ここは私達の部屋。今はキッチンになりかけているけどね。
材料は揃ったから、はじめましょ!
使うものは[林檎]3つ、[オレンの実]1つ、[PPマックス]の空き瓶3つ。これだけあれば簡単に出来るわ。
ここで助手を紹介するわ。
フライゴンのフライよ。
「シルク、はい。[オレンの実]」
私はフライから青い木の実を受け取ったわ。
「[サイコキネンシス]!」
まずは[オレンの実]を搾り、空き瓶の1つに注ぐ。
次に、残りの2つに、ちょうど三等分になるように分ける。
私の場合、超能力できっちり分ける。身体の構造上、直立で作業するのはほぼ不可能なのよ。
今・小瓶には、1/4ぐらいまで[オレンの実]の果汁で満たされているわ。
「次は[林檎]。」
「ええ。」
均等に分けたら、瓶1つにつき1個の林檎を使って果汁を瓶に入れる。
ここからがポイントよ。
「フライ、20秒間頼んだわ。」
「うん!混乱するから、耳を塞いで下さい。」
「えっ!?うん。」
これからフライも技を使うのよ。
「わかりましたわー。」「わかったでゲス!」
私とウォルタ君、ブラウンさんは伏せて前脚で両耳を抑え、シャインさんは両手(………というよりは葉?)で保護したわ。
「大丈夫だね?[超音波]!」
フライは翼を細かく振動させ、振動数の高い音波を発生させたわ。
この音波で液体を共鳴させる。こうすることで、均一に混ざるのよ。
混ざる事で、[林檎]の塩基性塩と[オレンの実]の酸性塩が中和反応をひきおこす。
これで正塩の完成よ。
この正塩が、今回の目的の物質よ。
………えっ?知らない単語が出てきたって?わかったわ。解説するわ。
まず[酸性塩]は、水に溶け込んでいる塩、例えば食塩水の食塩、に酸の元の水素イオンが化合したものよ。
対して[塩基性塩]は水素イオンが、塩基の元の水酸化物イオンになったもの。
最後に[正塩]は、どっちも化合していない、中性の物質よ。
用語の解説はこのくらいにしておこうかしら?
反応した果汁はというと、淡い水色に変色したわ。
「これで完成よ。味を見てくれるかしら?」
私は完成したドリンクの一つを前に出したわ。
「いいの〜?」
「ええ。三人でまわして飲んでくれるかしら?」
「残りの2つはラテ君とベリーちゃんの分だからね。」
本来の使用方法は一回につき1つ。でも、味見だからね。
ちなみに効果は、空腹感の脱却。実際に空腹感が満たされるわ。
これは一昨日にダンジョンで初めて作ったのよ。もちろん、効果は実証済みよ!
この間にも、三人とも飲んでくれたわね。
「……!美味しいですわ!」「甘酸っぱくて美味しいよ〜。」
「フライさんの作った物とは違う味でゲスね!」
フライの? ああー、私が教えた解毒薬のことね?
「あれは元々シルクが考えたんですよ。」
………喜んでくれて嬉しいわ。
「………ん?外から声が聞こえない〜?」
ここでウォルタ君が物音………………あっ、聞こえたわ。
ウォルタ君は種族の影響もあって、聴力が優れているのね。
「「………………」」
遠くから見ると、ラテ君達、完全に意気消沈って感じね…………。
《ラテ君、ベリーちゃん、こっちに来て!》
「「……!?………シルク?」」
私はフラットさんに聞こえないようにテレパシーで伝える。
《皆さんも、ここからは小声でお願いするわ。》
もちろん、ウォルタ君達にもね。
「「「!!?」」」三人にこれで話しかけるのは初めてだからね、三人とも驚いているわ。
「これはテレパシーだよ。シルクはテレパシーが使えるんです。」ここでいつものフライの解説。
「………フラットに………遠征は諦めろって言われたんだ………。」ベリーちゃんが消え入りそうな声で言う。諦めろって………。
「そんなに落ち込まないで欲しいでゲス。またここから取り戻せばいいでゲス。」
「でも、誰かが選ばれたら………他の誰かが落とされる事になるけど………。」
「ラテ君、その時はその時ですわ。それに、2人が落ち込んでいるなんて、らしくないてますわ。」
「ぼくもそう思うよ〜。またここから頑張ればいいって〜。」
「これで落選するとはかぎらないよ!」
「諦めなければ、絶対に行けるわ!」そうよ!努力は必ず報われるわ!だから、諦めないで!!
「だから、これを飲んで元気出して。」目に暖かいものが溜まりはじめている2人に、フライが私達の作ったドリンクを差し出したわ。
「…………うん。ありがとう。わたし達、もう少し頑張ってみるよ。」
「……元気がでたよ。うん、まだまだこれからだよね?」
「そうよ。まだ決まった訳じゃないから、ね?」ラテ君、ベリーちゃん、その通りよ!諦めたら全てがおしまいよ。
ともあれ、ラテン君達が立ち直ってくれて良かったわ。
巻之泗 完 続く………