拾七 紫の悪巧み
西暦7000 ギルドB2F side シルク
………せっかくの快晴なのに………今日ほど最悪な日はないわ……。
ギルドの遠征に……
毒ガストリオが参加するし……、何よりも
Brの悪のせいで高熱、頭痛、吐き気………最悪の体調……。
「シルクさん、体調のほうは大丈夫ですか?」
私のすぐそばで澄んだ心地のいい声、スズネさんが心配そうに話しかけたわ。
「2、3時間前よりは……熱は下がっているわ。……でも、毒が抜けてないから……頭痛と吐き気がまだしているわ……。」
「そうですか……。私が状態を治す技を使えたらいいんですけど……。」
スズネさん、……。
スズネさんは、自分の仕事を早めに切り上げて私に付きっきりで看病してくれているわ。
……スズネさんの優しさが心にしみるわ……。
感激して独りでいるときに涙を流したのはここだけの話……。また滲んできそうだわ……。
《シルク、お待たせ![毒消し]完成したよ。》
瞳にたまった涙を拭っていると、イヤホンから待ちに待ったベース調の声、風を切る音と共にフライの声がしたわ。
私は応答に答えるため、マイクに話しかけたわ。
〈フライ、完成したのね。〉
《うん。 シルクは大丈夫?》
〈熱は下がったけど、それ以外はまだ残っているわ……。〉
午前中よりはまだマシ。悪いのには変わりないけど………。
風を切る音、止んだわね。どこかに着陸しかのかしら?
〈フライ、今どこにいるの?〉
ダンジョンなら、まだまだかかりそうね。
でも、私の予想は良い意味で裏切られ……
《ブラウンさんに連れてってもらったダンジョンが思った以上に近かったから……》
「今着いたところだよ。」
私のいる部屋に待ちに待ったパートナーがブラウンさんと共に姿を現した。
「フライ!!」「シルク、お待たせ。」
私は重い身体を無理に起こした。
フライ、いつも以上に頼もしいわ。
「シルクさん!そんなに無理したら………」
スズネさんが慌てて私の行動を止めようとする。
私なら大丈夫よ。
「シルク、すぐにこれを飲んで!」
フライはスズネさんに構わず、ポーチから薄紫色の液体の入った小瓶を取りだした。
「フライさん、それは………」
スズネさんが不思議そうに聞いたわ。
私のオリジナルだから無理ないわね。
「フライさんが作った毒に有効な薬でゲス。」
沈黙していたブラウンさんが解説したわ。
「特効薬ですか……。」「フライ本当に助かったわ。」
私は前脚で小瓶の蓋を開け、一気に飲みほしたわ。
薬といっても、全然苦くなくて、甘みの中にほのかに酸味が広がっているわ。
たぶん好きな人はハマる味だと思うわ。
飲んだ直後、私の顔色は良くなり、蓄積していた毒素は[モモンの実]の主成分の効果で中和されたわ。
うん、まだ頭痛はするけど、吐き気は治まったわ!
フライ、ありがとう。
「シルクから作り方を聞いておいて良かったよ。」
私の様子を見て、暗かったフライが一気に明るくなったわ。
心配かけたわね。
「そうね。フライ、ブラウンさん、スズネさん、本当にありがとう!」
私は1日ぶりの笑顔をだしたわ。
感謝しても、しきれないわ。
「うん。ボクも、シルクが元気になって本当によかったよ!」
フライも心の底からの笑顔で応えてくれたわ。
「……それにしても、シルクをこんな目に遭わせるなんて、あの三人組、特にあのスカタンクは絶対に許せないよ!」
本当にそうよ!!あの異臭、本当にどうにかならないの!?頭にくるわ!
今の私なら、凄く危険な薬品、濃硫酸を大量に
Brにかけれると思うわ。
奴らには何かしないと気が収まらないわ!!
私は密かに奴らへの怒りの炎を燃やす。
Br、その臭いをどうにかしないと、痛い目に遭う、いや、遭わせるわよ!!
………
数時間後 食堂 sideフライ
やっぱり、シルクの薬品は効果絶大だね!
あんなに弱っていたのに、すぐ回復したからね!
やっぱり、シルクは[考古学者]より[化学者]のほうが相応しいよ。
「食事の時間……奴らが来るわね。」
「奴ら?シルク、何かあったの?」
シルクの隣でイーブイ、ラテ君が聞いた。
今日の事件が起きたのはラテン君達が出発した後だったから、知らないんだよね。
「あの紫三人組、いるでしょ?奴らの悪臭の影響でシルクがダウン、毒にやられて倒れたんだよ……。」
「「えっ!?あいつ等が!?」」
ラテ君とベリーちゃんが声を揃える。同時に振り向きながら。
「でも、フライとブラウンさん、スズネさんのお陰で何とか打ち消せたわ。あいつ等、タダしゃ済ませないわよ!!」
シルクは笑顔で言った。…………目は笑ってないけど………。
シルク、怖いよ……。
「なんであいつ等は人に迷惑しかかけないんだろうね。」
ベリーちゃん、本当にそうだよ!
「同じ探検隊として恥ずかしいよ。………ん?」
ラテ君ごもっとも………?まさか、この臭いは……。
「ケッ、俺達が最後かよ…。」
噂をすれば、やっぱり来た。
シルクは………!! 凄い形相……。憎しみを込めて一点を睨んでいるよ……。
ボクはどうなっても知らないからね!
シルクを怒らせたあんた達が悪いんだからね!
「クックックッ、タダ飯……………」
「[サイコキネンシス]!」例の奴の姿が見えた途端、シルクが小声で技を出した。
「うぐっ!」
あの様子だと、超能力で押さえつけているね。
あと、くるしんでいるから、奴の周りの空気を圧縮してる。
………お陰で臭い臭いが消えたけど……。
「「アニキ!!?」」
子分達が慌てて駆け寄る。
「フライ、今日のご飯、楽しみね!」
対してシルクは何食わぬ顔で話す。
「う、うん。そうだね。」
ボクは作り笑いで何とかごまかした。
………絶対にシルクだけは怒らせないほうがいいね……。
三人組は何とか自分達の席に着いた。
「全員揃ったな♪」
「じゃあ、みんな、……」
「「「「いただきます!!」」」」
フラットさんとラックさんの号令でみんな一斉に食べ始めた。
「クックッ、なぜ動※◑△☆※。」
1人を除いて。
完全に口も塞がれたね………。
………
sideラテ
あれ?ブロモ、どうしたんだろう?
さっきから何も食べずに立ち尽くしているよ……。
「ねぇ?シルク?どうしてブロモは硬直しているの?」ベリーが小さな声で聞く。
何でだろう………。
《あいつの態度と行動に堪忍袋の緒が切れたから、仕返しをね。》
僕と、たぶんベリーの頭の中にシルクの声が響いた。
シルクは僕達のほうをチラッと見て………、
シルク、笑顔で言う事じゃないと思うよ………。
「アニキ、どうしたんだ?しっ………」
「[瞑想]。」「「!??◑◆◇☆:→♂□」」
今、シルクの口から恐ろしい言葉が聞こえたような……気のせいだよね?
まっ、いいか。あいつらだからね!
僕は見て見ぬふりをした。………今まで酷い事をされたから……。
………
ギルドB2F 食堂 sideブロモ
………はっ!?俺様は一体………。
確か………チンケな食堂に入った途端身体が動かなくなって………、クソッ!考えても全くわからねぇじゃないか。
何故かコイツらものびている。
「オイ!てめぇら、何時まで寝ている!起きろ!!」
俺様はコイツらの頭を思いっきり殴る。
「「!?」」
やっと起きたか。
「アニキ、大丈夫か?」
「突然硬直しだしたから、心配したぜ?」
「バット、メタン、どういう事だ!?」
俺様が硬直??下手な冗談はやめろよ!
「アニキは突然、何者かに見えない力で押さえつけられてたんだ。」
「何っ!?」
「そのままアニキは気を失って、オレ達も気づいたらこうなっていた、ヘヘッ。」
馬鹿な!?俺様がやられただと!?そんこと、あり得るはずがない!
「それにしても、腹減ったなー。」
「食いそびれたからな。」
確かに、異様な空腹感、尋常じゃねぇな。
「お前達、良い話がある。」
「「良い話?」」
確か、アソコに……。
「ああ。ここの食糧庫に大量の[セカイイチ]が保管されているらしい。それを俺様達で食うのはどうだ?腹、減ってるだろ?」
「ヘッ、そうだな。」
「ケッ、アニキ、名案だな。」
そうだろ?あれは高価な品だ。オマケに大量だ。
食えなかった腹いせだ。
「クックックッ、お前ら、ついてこい!」
「ヘッ、さすがアニキ!」「ケッ、流石はアニキだぜ!」
俺様達は闇に紛れて食糧庫に忍び込んだ。