拾泗 紫、再来。
西暦7000年 オレンの森 sideシルク
「……終わった?」
「……うん。そうみたい……だね。」
ラテ君の渾身の一撃で、犯罪者のラクライは倒れたわ。
見たところ、ラクライの実力はラテ君達より上だったけど、よく頑張ったわ。
少しだけど、私とフライの指導の成果があったわね。この先が楽しみね。
「ラテ君、ベリーちゃん、よかったよ。」
「本当に?」
ベリーちゃんが声を弾ませたわ。
「ええ。[気合い溜め]をしてからの[火の粉]、いい組み合わせだと思うわ。ラテ君も、この森に入る前よりも[集中力]が上がってるわ。」
「大ダメージを……受けたから……まだまだだよ……。」
ラテ君、自分に厳しいのね。でも、私は今日の成果を誇ってもいいと思うわ。
「そんなことはないと思うわ。私の考察だと、相手の実力はラテ君達より上だったわ。これも2人の実力、連携が向上している証拠、誇ってもいいと思うわ。」
2人で交代して、攻撃の流れを絶やしていなかったもの。
「ラテ、搬送する準備出来たよ。」
そこにベリーちゃんの声、手際が良いわね。……何をしたのかわからないけど。
「ベリー、……ありがとう。」
「うん、じゃあ、帰ろっか。」
これで依頼は終了ね。今日もあのバッチで戻るのかしら?
「うん。昨日の方法で帰るんでしょ?」
「フライ、そうだよ。シルクもいいよね?」
ベリーちゃん、私は特に用事はないからいいわよ。
「ええ。私達も試したい事が出来たから、いいわよ。」
道具の効果とかもわかったし、[木の枝]を代用できることもわかったからね。
「ラテもいいね?」
「うん。……帰って休めば……何とかなるよ。」
ラテ君は、弱々しいが笑顔を見せた。
「じゃあ、いくよ!」
ラテ君の代わりに、ベリーちゃんが例のバッチを掲げたわ。
すると、私達は発せられた光に包まれ、その場から姿を消したわ。
もちろん、身柄を確保したラクライも一緒にね。
ラテ君、ベリーちゃん、お疲れ様。
………
ギルド B1F sideシルク
無事に帰還して、ラテ君達の手続きも終わったわ。
依頼主のウパーさん、本当に嬉しそうだったわ。
私達は直接関わってないけど、こっちも幸せな気分になったわ。
その間にも、ラテ君はすっかり元気になったわ。
「フライ、ひとつ提案したいんだけど、いいかしら?」
「ん?どうしだの?」
フライは不思議そうに聞き返したわ。突然だったから無理ないわ。
「今朝、このギルドで遠征があるって言ってたわよね?」
「そういえば、言っていたような………。」
「遠征?ああー、あれね。」
ラテ君も思い出したわね。
提案したいこと?それは……
「遠征で遠くまでいくでしょ?元の時代に戻るためにも、同行して情報を集めようと思うのよ。私達、土地勘がないから、そのほうがいいでしょ?」
私達はこの時代に来てからまだ二日目、ましてや知らない場所に2人だけで行くなんて、無謀すぎるからね。
「シルクもそう思ってたんだね!?ボクもそう考えていたんだよ!」
フライもなの!?私と同じ事を考えていたのね!?なら、話は早く済むわね。
「奇遇ね。フライ、決まったわね。」
「うん。 とりあえず、フラットさんにお願いしに行こっか?」
フラットさんなら、可能よね?ラックさんはここの親方、忙しいはずだからね。
「ええ、そうね。まだ夕食には早いから大丈夫よね?」
時刻は午後4時ぐらいかしら?今から食べると、夜には空腹感に襲われるからね。
………えっ?時間を知る方法?太陽の傾きよ。昼間の気温から推測すると、今はたぶん春か秋、時間を計るのには一番楽な季節なのよ。昼と夜がほぼ同じ長さだからね。
「うん。シルク、いこう!フラットさんのもとに。」
「ええ!」
そうね。フライ、行きましょ!
私達は傾きかけている日差しが入る部屋の中、頷きあったわ。
………
ギルドB2F sideシルク
私達はギルドの螺旋階段を降りたわ。……フライは飛んでだけど。
そして、私達はラックさんの部屋の前………あつ、フラットさんいたわ。
「シルクさんにフライさん、お疲れ様です♪“悠久の風”の2人が迷惑をかけませんでしたか?」
「いいえ、むしろたくさん教えてもらったから、そんな事ないですよ。」
フラットさん、そんなことはないわ。
「そんな事より、1つお願いがあるんですが、いいかしら?」
私は本題にはいったわ。了承してくれるかしら?
「本当ですか!?学者のシルクさん達なら大歓迎ですよー♪わたくしも情報として……」
よかったわ。案外あっさり許可してくれるのね。
「……太古の伝承を把握したいですし……」
……決め手は私達と話がしたいからだったのね?
「フラットさん、ありがとうございます。ボク達は全力でサポートしますよ。」
「……いえいえ、二組の方に助っ人として加わっていただけるなんて、心強いですよ♪」
「私達も調べたいことが沢山あるから、目的が一緒だからちょうどいいわよね。………」
……ん?二組?私達以外にもいるのかしら?
「フラッ……」「フラットさん、ボク達以外にも協力する人達がいるんですか?」
………フライに先を越されたわ……聞きたいことが同じだったから気にしないわ。それに、フライだからね。
「はい、フリーの探検隊の方が今朝申し出てくださったんです♪」
「探検隊なのね?専門家なら、私達より心強いわね。」
でも、考古学者として調査の手際とかは負けない自信があるわ!
「いやいや、研究のシルクさん達も頼りにしていますよ♪」
フラットさんが笑顔で答えたわ。……謙遜したつもりだったんだけど、フォローされるなんて思ってもいなかったわ。意表を突かれたわね。
「そうと決まったら、部屋と食事は無料で提供しますよ♪」
「「いいんですか!?」」
私とフライがハモった。本当にいいの!?
「はい。昨日、泊まる場所がないって言ってらっしゃったので。」
本当にいいのね?なら、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかしら?
フラットさん機転が利くのね。助かるわ。
「助かります。」
ともあれ、了承してくれてよかったわ。
………
翌朝 ギルドB2F sideシルク
昨日の夜はラテ君をはじめ、ベリーちゃんやフラットさんとかと雑談をして過ごしたわ。
一昨日よりも楽しかったわ。でも、まさかギルドの責任者のラックさんがあんなに子供っぽい人だったなんて………驚きだわ。
話してみてわかったことは、誰も個性的で楽しい人達ばかりだったわ。
話、変わるけど、私達が遠征に参加する事は言ってないわ。……ラックさんをのぞいてね。
いわゆるサプライズを計画しているわ。ラテ君達にも言ってないから、きっと驚くわね。
そして、場面は午前7時の地下2階、朝礼の時間………
「えー、今日は1つ、嬉しいお知らせがある♪」
昨日と同じように、フラットさんの一言で始まったわ。
「お知らせって、何でゲスか?」
私の前でブラウンさんが聞き返したわ。
「近頃行う遠征に二組の方が協力してくださる事になったんだ♪」
「キャー、二組もくるのですねー!」
シャインさん、朝からテンションが高いかも……。
「そうだ♪一組目は……」
ここでフラットさんが言葉を止める……。メンバー全員が固唾をのんでフラットさんの方を見たわ。
「……シルクさんとフライさんだ♪前へどうぞ♪」
「ええ。」「うん。」
私達は、フラットさんに呼ばれて、私は回り込んで、フライは飛び越して前に出たわ。
………少し緊張するわね。
「フラットさんの言うとおり、私達も参加させてもらうわ。」
私は満面の笑みで語りかけたわ。
「自己紹介しなくても、ボク達の事はもう知ってるよね?」
「ヘイ!もちろんだ!」
「それに、昨日見たことがない凄い技を使ってたから、心強いてゲス。」
「そんなに凄かったの?」
シザーさん、ブラウンさん、ホール君の順に言ったわ。盛り上がったわね。
「うん。わたし達は昨日、技とか戦い方とかを教えてもらったんだよ!」
「どれも高度で、シルク……さん達の技の威力、凄く高かったよ。」
メンバーの前だから、一応“さん”付けね?
「盛り上がっているところに水を差すが、二組目を紹介する♪」
本当に水を差したわね。
私達はとりあえず一歩下がったわ。それにしても、もう一組の人たちってどんな人かしら?楽しみね。
「それでは、どうぞ♪」
フラットさんはわきにある螺旋階段に向けて大声で言ったわ。
上の方で足音と臭い………!? 何!?この臭い!?
「「臭っ!?」」「何!?くさい!?」
この臭いは………まさか………。
「クックックッ。」「ケッ。」」「ヘッ。」
現れたのは昨日の異臭の発生元、紫三人組………。よりによって、なんでコイツ等なのよ??
「オレはズバットのバットだ。」
「俺はドガースのメタンだ。」
「そして、俺様がチーム“ドクローズ”のリーダー、スカタンクのブロモだ。」
……ズバットはそれなりの名前、ドガースはCH
4(メタン)、アルカンの脂肪族炭化水素ね。スカタンクは
Brね?
あっ、この2つは化学の専門用語だから、気にしないで。
「なんであなた達なんですか!!」
「おや?知り合いかい?なら、話が早いな♪」
いや、ラテ君達とはそんな健全な関係じゃないから。あいつ等に腹が立ってる私も含めて……。
「フラットさん、コイツ等はリアクションがオーバーなだけですから。」
Br、完全に猫をかぶってるわね。ますます腹が立つわ……。
「そうですか♪こいいう事だから、くれぐれも迷惑をかけないように……。以上♪」
この後、昨日と同じかけ声………毒ガストリオの影響でみんな沈んでいたけど………で朝礼は幕を閉じたわ。
…………これからはこまめに換気する必要があるわね………。
巻之参 完 続く