拾 学者の特別指導
西暦7000 オレンの森 中奥部 sideシルク
遭難していたウパーさんの救助も無事に終わって、あとは犯罪者の逮捕ね。
バトルの指導? 今からよ。
「まずは私からよ。私からは特殊技についてよ。」
私は物理攻撃のセンスが皆無なのよ。種族の影響もあって、特殊技を極めたのよ。“好きこそものの上手なれ”ということわざがあるのは知ってるわよね?
私はそれを実践したわ。
「特殊技?」
ベリーちゃんが不思議そうに聞いたわ。
「ベリーちゃんなら[火の粉]、ラテ君なら[シャドーボール]がそれにあたるよ。つまり、直接攻撃しない技だよ。一部例外があるけどね。」
フライが簡単に説明してくれたわ。フライの説明はわかりやすいから、助かるわ。
「そうよ。 ……ラテ君、ベリーちゃん、特殊技の威力の源は知ってるかしら?」
「「源?」何かあるの?」
案の定、知らなかったらしいわね。世間一般には原理までは知られていないからね。
2人とも不思議そうに聞き返したわ。
「ええ。特殊技はそれぞれの[精神力]、つまり[集中力]に比例して威力が上がるわ。集中力を強化する利点は、技の威力を上げるだけではないのよ。」
集中すれば、周りの状況も更に掴めるからね。
「えっ!?そうなの!?」
ベリーちゃんが驚いて聞いたわ。
「うん。集中すると、周りに意識を研ぎ澄ませるでしょ?だから、目を瞑っていても周りの状況が掴めるようになるんだよ。」
「この事を応用すれば、砂嵐とか霧の状態でも確実に技を命中させれるようになるわ。」
一石二鳥でしょ?1つを強化するだけで2つも良いことがあるのよ!
「へぇー。」
「効率よく集中するコツは、身体全体で音、気配、匂い、風を感じるのよ。」
「風?」
「音?」
2人の頭上に疑問符が浮かんだわ。
「言葉だけだと分かりにくいから、実演するわね。あっ、ちょうどコラッタが来たわね。」
ベストなタイミングで2、3匹のコラッタが私達のいるエリアに入ってきたわ。
「実演するために、目を瞑って闘うわね。」
「えっ!?でも、見えないと場所もわからないよ。」
「技もかわせないし……。」
ラテ君とベリーちゃんは心配そうに言う。
「フライ、そこに落ちているスカーフで私の目元を覆ってくれるかしら?」
「うん。完全に光を遮断するんだね。」
ええ、そうよ。視覚を使ってない証明にもなるしね、
フライはそこに落ちているスカーフ、たぶん[キーの鉢巻き]ね、を私の目元で縛ったわ。
これで準備完了、
「さあ、はじめましょ!」
かけ声と共に相手の群れは私の元に走りだしたわ。
足音、風の対流からすると、3匹ね。
「[体当たり]!」
右から、
「[電光石火]!」
今度は左、
「[体当たり]!」
正面、逃げ場を潰す作戦ね。
一体目が右から突っ込んできたわ。
それを左に跳んでかわし、
二体目の接近を、
「[サイコキネンシス]!」
「!?」
超能力で拘束し、
三体目のほうに飛ばした。
二体はぶつかり合い、後者は気絶した。
まずは一体。
「凄い!同時に攻撃されたのに一度も当たってない!!」
ベリーちゃんの声。
私は構わずに、
「[目覚めるパワー]!
口元に暗青色の弾を形成。
一体目、身構えたわね。
風の当たり具合からすると、位置関係は5m右斜め前に一体、私の正面から左に30°の位置にもう一体ね……。
「「[電光石火]!!」」「甘いわね!」
二体は同時に接近、私は正面に向かって上に跳んでかわした。
「「っ!」」
正面衝突。痛そうね……。
その間に、暗青色の弾はバスケットボール程の大きさ(途中で溜めるのを止めたわ。 止めないとおさまりきらないから………)まで溜まっていた。
私は向きを変えながらそれを放ったわ。
「もう一発、[目覚めるパワー]!」
今度は溜めてすぐに放つ。
2つの弾は衝突し、弾けた。
そのまま二体に命中し、戦闘不能となった。
「こんな感じよ。」
私は縛っていたスカーフを首を振って落としながら鮮やかに着地、あっ、外れたわ。
「凄い……。」
2人とも、言葉を失っているわね。
「コツを掴めば簡単だから、すぐに出きるようになるわよ!」
私は満面の笑顔でいったわ。
………
sideフライ
シルクの実演が終わって、次はボクの番。
「コツを掴めば簡単だから、すぐに出きるようになるわよ!」
シルクの笑顔。
相変わらず魅せてくれるね!
「コツ? さっきの[風を感じる]ってやつだね?」
「ベリーちゃん、そうだよ。風を感じる事が一番簡単だよ。 ………じゃあ、ボクからは物理技を踏まえて戦略について教えるよ。」
ボクは特殊技より物理攻撃がどちらかというと得意だから。
……ボクの戦略のメインではないけどね。
「戦略?」
ラテ君が不思議そうに聞く。
「うん。それぞれの基本となる戦闘パターンだよ。人によっては自分の得意な戦闘パターンを生かして、更に技を強化する事が出来るんだよ。」
「へぇー。」
ベリーちゃんが感嘆の声を漏らした。
「私は特殊技を混ぜ合わせて攻撃する事を戦法としているわ。これはわ私のオリジナルよ。」
「シルクは特殊技のスペシャリストだからね。ちなみに、合わせるタイプによって効果が変わるんだよ。」
ボクはシルクの戦略について補足を加えた。
「効果が? ……ああー、今朝のあの技みたいなやつのことだね?」
「そうよ。」
「ちなみにボクは………今から実践するよ。」
言い終わる前に何者かの声、野生?だね。
「フライが闘うの、初めて見るよ!」
「僕も見てみたかったんだよね。」
2人とも、嬉しそう。
僕は今まで戦ってなかったからね。
よし、じゃあ始めようか。
相手はポッポ2体。
「[体当たり]!」「[風起こし]!」
一体はボクに向けて接近、もう一体は風を起こした。
威力、まだまだだね。
ボクも前者に向けて接近した。
3m.2m.1m、徐々に滑空して近づく。
50cmまで迫った時、
「!!?」
ボクは急激に高度を上げた。
そのまま宙返りし、
「[超音波]!」
死角から音波を放った。
すぐに右手に暗青色のオーラを纏い、
「[ドラゴンクロー]!」
切り裂いた。
これで一体。
「[電光石火]!」
残りの一体が接近を始めたね。
なら……
「[岩雪崩]!」
ボクはその行く手にいくつもの岩石を出現させた。
「!!?」
やっぱり驚いているね。
ボクは相手が気を取られている間に、相手の背後に回り込む。そして、
「[目覚めるパワー]!」
今度は手元に紺色のエネルギーを溜める。
その頃には岩石の降下は収束した。
相手は辺りを見渡している。確実にボクを見失っているね。
ボクはそのまま紺色の弾を放った。
死角から放たれた弾が為す術がなく、相手は技を受けた。
「よし、と。 ボクはこんな感じだよ。」
ひと息ついて、ラテ君達のほうを向いた。
「早くて……殆ど見えなかったよ。」
「フライって、こんなに素早かったんだね?」
「そうよ。フライの戦略は相手の死角に潜り込み、[超音波]で自由を奪うことよ。」
自分で言うのもあれだけど、ボクは相手の死角に潜り込むのが得意なんだよ。
「………こんな感じで、戦略を組みたてれば自分の長所を最大限に生かれるんだよ。」
「へぇー、勉強になったよ。」
ラテ君が深々とお辞儀、直角って……。
「私達からのお礼は以上よ。」
「この後の依頼で闘うなら、さっそくレンジしてみたらどうかな?」
それがいいね。どれもすぐに実践できるからね。
ボク達はラテ君達の特訓に付き合いながら奥地へと進んでいった。
ラテ君、ベリーちゃん、上手くいくといいね。