七 異臭騒ぎ
西暦7000年 ギルドB2F sideフライ
「………だから、ボクにもタメ口でいいよ。」
今後の相談の後、しばらくの雑談。
そこでボクはラテくんとベリーちゃんにボクへの呼び方について、1つ頼んだんだ。
敬語を使われたら深まる[絆]も浅いままだからね。
「シルク、今から今日の依頼を探しにいってもいいかな?」
「ええ、ラテ君達の仕事だからね。」
探検隊は未開の地の調査だけでなくて、困っている人を助ける事もしてるって言ってたっけ?
「依頼が載っている掲示板は上の階にあるから、来て!」
「わかったわ。ラテ君、あなた達の仕事の様子を見せてもらってもいいかしら?」
「ボクもいい?ついでに、この時代の事も教えてくれる?」
ボク達はこの時代について知らなすぎるから、聞いておいて損はないよね?
「わたし達でよかったら、いいよ!」
ベリーちゃんがにっこり笑ってかえしてくれた。
無邪気な笑顔、嫌いじゃないよ。
「依頼として受けとってくれるかしら?」
「うん。」
「ボク達、何も持ってないから、お礼はバトルの指導でいいかな?」
シルクの技の伝授と被るから、これが一番いいね。
「戦い方を教えてくれるの?」
ラテくんが驚いたように聞いて……。
「私達は伝説に関する知識とバトルの技能ぐらいしか持ってないのよね。」
「7000年以上前の伝説を話しても役に立たないでしょ?」
ボク達のいた地方とは限らないし、無駄知識になるもんね。
「そう、だね。」
納得、って感じだね。
間を置いてボク達は笑いあった。
「だから、見に行こっか。」
「「そうだね。」」「そうね。」
ラテくんのかけ声を合図に、ボク達は螺旋階段を登っていった。
………
ギルド B1F sideフライ
「この階は結構広いのね。昨日は通過しただけだったから気づかなかったわ。」
確かにそうだね。ボク達はすぐに一番下まで降りたからね。
「……にしても、ギルドのメンバーでない人もいるけど、どうして?」
見たところ、さっきいなかった種族のポケモンもいるんだよね。どうしてだろう……。
「このフロアは一般にも解放しているんだよ。」
「この辺で活動しているフリーの探検隊のためにね!」
ラテくん、ベリーちゃんの順に言った。
つまり、探検隊の情報塔って事だね。
「へぇー。」
「………シルク、フライ、ひとくくりに依頼と言っても沢山種類があるんだよ。」
えっ?ラテくん、そうなの?
「そうなの?」
「うん!救助とか、道案内、道具の捜索が一般的かな?」
「それに、お尋ね者の逮捕とかかな。」
「いろいろ種類があるのね?」
そんなにあるんだー。 お尋ね者って、犯罪者の事なのかな?
「うん。 ええっと、今日はどれにしようかな……。」
そう言ってラテくんが右側(通常の依頼のほう)に歩いていって……、
あれ?誰かいるね……。
「ケッ、良さそうな依頼はないか……。」
「どれもチンケな物ばかりかよ……」
見たところ、種族はズバットとドガースかな?
「あっ!あなた達は!!?」
「「!?お前は!」」
ん?どっちも同じ反応だけど……、知り合いなのかな?
「あの時のコソドロ2人組!?」「誰かと思えば、あの時の弱虫くんじゃねぇか。」
「あら?ラテ君?知り合いなのかしら?」
知り合いにしては2匹の事をラテくんは睨んでるけど…………。
「知り合いもなにも、この人たちはわたしの宝物の盗んだ悪者だよ!! ……弱かったけど……。」
えっ!?盗んだの!?
「へっ、あの弱虫が探検隊になってたとはな。」
「ベリーの事を悪く言う奴は僕が許さないよ!実力がないのに、よくそんな事が言えますね!?あなた達こそ、ここで何をしているんですか!?」
ラテくん、ベリーちゃん、怒ってる……。こんな2人、初めて見たよ………。
……まだ逢ってから2日目だけど……。
「ケッ、探検隊が依頼を探していて何が悪い?」
「あの時はアニキがいなかったからな。」
探検隊だって!?物を盗むなんて、人の風上にも置けないね、この人達……。
「「アニキ??」」
ラテくん、ベリーちゃんは首を傾げた。
「あっ、この[臭い]は!噂をすればなんとやらってやつだぜぇ。」
「「臭い??」」
ボクとシルクは声を揃えた。
ん?臭い?
……確かに、アンモニア臭というか、硫黄臭というか……変な臭いが………。
シルクも顔をしかめているから、気のせいじゃないね……。
……………、
「「臭っ!?」」
うっ、鼻が曲がりそう………。今日は晴れてるから、五感が冴えてるシルクはもっと感じているんだろうな……。
「キャー、臭いですわー!」
「あっしじゃないでゲス。」
シャインさんとブラウンさんの方まで……一端誰が……。
何者かの気配に気づいて、このフロアにいた全員が螺旋階段の方を向いて、
「「アニキ!!」」
そこにはガラの悪そうなポケモン、種族、わからないからホウエン以外の種族なのかな?
「どけ、邪魔だ!」
そいつがベリーちゃんのほうに歩いていって……、この人、完全にチンピラだ……。
「ベリーは何もしてないのに、何ていう態度なんですか!!礼儀を……」
ラテくん、礼儀正しいから、我慢できなかったんだろうね……。わかるよ、その気持ち。
「邪魔だ!「スモッグ]!!」
そう言って、汚染物質……えっ!?何だって!?
「うわっ!」
ラテくんは突然の攻撃で飛ばされて………、酷い……。
「お前もこいつみたいになりたいか?」
そいつは眉を吊り上げて挑発した。
………さすがにボクでも腹が立つよ……。
「やっぱりアニキは強いや!」
「クックックッ、まあな。 お前ら、よくも俺様の……」
「あなた、力でものを言わせるなんて、許せないわ!」
「ハァ!?なんだ?姉ちゃん!?」
シルク、完全にキレてる。
暴力で説き伏せてたから、無理ないか……。
「あなた、何の罪のないひとに暴力を振るうなんて、人を何だと思ってるのかしら!?[サイコキネンシス]!!」
シルクはその粗暴な………
「!? ウグッ!」「[シャドーボール]、[目覚めるパワー]!!」
ポケモンを超能力で押さえつけて、口元で暗青色の弾と漆黒の弾が渦を巻くように混ざって……あれ?いつもは撃ちだしてから混ぜてたのに……。
ある程度の大きさになってから放たれた。
「「アニキ!?」」「あなた達も同罪よ!もう一発!!」
シルクはすぐに同じ弾を小さめに造って……深青色の弾めがけて放った。
気持ちはわかるけど、やり過ぎじゃあ………。
「「「3つの技を同時に!?」」」
ボク、何とか立ち上がったラテくん、ベリーちゃんが声を揃えた。
その間にも、大きさの異なる同色の弾丸は衝突して……四方に弾けた。
「「「!!?っ!!」」」
押さえつけられていたリーダー格のポケモンに命中した。
駆け寄っていた二匹も巻きこまれ………三匹共気絶した。
「スカタンクのあなたは暴行罪、ズバッドとドガースは窃盗罪、罪を犯した当然の報いよ!!」
シルクは怒号混じりに言い放った。
素直で温厚なシルクをここまで怒らせるなんて、ある意味凄いかも……。
「あんなに高い威力を出されたのに、あんなにあっさり倒れるなんて……、シルク、強すぎる……。」
ラテくんとベリーちゃん、驚きすぎて顎が外れてる……。
「キャー、シルクさんの技、すごかったですわー!」
「あの技を受けたら、ひとたまりもなさそうでゲスね。」
2人とは対称的に、シャインさんとブラウンさん、興奮してる。
シルクの合わせ技は別格だからね。
「……ふぅ、すっきりしたわ。 でもまだ臭いが残ってるわね……。フライ、[目覚めるパワー]を貸してくれるかしら?」
気が済んだみたいだね。
「えっ?うん、[目覚めるパワー]! シルク、鼻は大丈夫?」
ボクは手元に紺色のエネルギーを溜めながら言った。
「嗅覚が麻痺しかけているわ…。[目覚めるパワー]、[サイコキネンシス]!」
シルクは竜を秘めた弾を放ち、ボクは悪を秘めた弾、それをシルクの超能力でそれらを拘束した。
「皆さん、どこかにつかまってくれるかしら?」
シルクはフロア全体に聞こえるように声を張り上げた。
案の定、疑問符で満たされてる。
なるほどね、換気するんだね?
「えっ?うん、つかまったよ。」
「わたしもいいよ!」
ラテくんとベリーちゃんも準備が出来たみたいだね。
「ボクは大丈夫だよ。」
「ええ、わかったわ。っ!!」
そう言ってシルクは拘束していた二色の弾を発散させた。
「「「「!!!!?」」」」
その瞬間、シルクを中心に台風に匹敵するような突風が発生した。
「安心して、強い風だけどダメージはないから。」
フロア全体がパニックに陥らないように、ボクは説明を加えた。
………うん、臭い、消えたね。
「臭い、消えたわね。」
4、5秒してから、風は収まった。
「………収まった……のかな?」
堅く目を閉じていたベリーちゃんが辺りを見渡した。
「うん、もう大丈夫だよ。 シルクのお陰で臭いも消えたはずだよ?」
「?………ほんとだ!臭くない!」
ラテくんも、立ち直ったね。
「シルクさん、どうやって4種類以上も技を使ったんでゲスか!?」
あっ、ブラウンさんが駆け寄ってきた。
「私が使えるのは、[瞑想]、[サイコキネンシス]、[シャドーボール]、[目覚めるパワー]の4つよ。それぞれの技の性質を応用したのよ。」
シルクは笑顔で応えた。
ちょっと前とは大違いだね。
「凄いでゲス!」
ブラウンさんの目が眩しいよ。
にしても、[ゲス]が口癖なのかな?さっきから連呼してるけど……。
ともあれ、シルクのお陰で異臭騒ぎが終息したよ。
ああー、やっと深く呼吸が出来るよ……。