七拾九 別れ
西暦7000年 時限の塔付近上空 sideシロ
………何だ………?この胸騒ぎは?
何かとんでもない事が起こってるような気がするのは、気のせいだろうか………。
拙者はそびえ立つ塔に沿って飛びながらふと考えた。
ウォルタ殿の話によると、[時]が壊れかけているということは、それを司る者…………ツァイトの自我が崩壊しかけている………。
……古い付き合いだが、大丈夫だろうか………。
彼奴に限っていかれ狂う事はないはずだが……。
塔の状態を見るとやはり心配だ………。
「………定かではないが、[闇]に沈みかけている者を救う方法は、染まりきる前に力付くで倒す事だったか……。」
拙者は対処法を自分に言い聞かせた。
塔の形がまだ残っているということはまだ染まってないはずだが、最悪の場合、拙者が相手しなければ………。
「………急がなければ………。」
拙者は翼に力を込め、塔の頂上へ急上昇した。
………
時限の塔頂上 sideシロ
「……こ、これは一体…………?」
拙者がそこにたどり着くと、無惨な光景が広がっていた。
そびえ立っていたイオニア式の柱は粉々に砕け、床も所々に穴が空いている……。
瓦礫に埋もれ、5つの影が力無く横たわっている………。
1つは目立った外傷はないが意識を失っている[エーフィー]。
1つは背中の
痣が目立つ[フライゴン]。
きっと飛ばされた時に柱で強打したのだろう。
1つは何とか力を振り絞って立ち上がろうとしている[ブラッキー]。
……だが、とても危なっかしいな………。
もう一つは切り傷が目立つ[アチャモ]。
そして最後に、彼らに対するように倒れている[ディアルガ]。
………闘った直後のようだな。
「皆、無事か!?」
拙者は着陸しながら叫んだ。
「シロ……………さん……?」
「………っ、ボク達は………何とか………。」
「ただ…………シルクが……………力尽きて…………。」
彼らは何とか言葉を繋げた。
「シルク殿がか!?」
「うん…………。[サイコキネンシス]で………[時の…………歯車]を………納めたら………倒れたんだ………。」
「だから………何とか間に合ったよ……。」
ベリー殿、フライ殿に言われ、祭壇を見ると、確かに5つの[時の歯車]が正確に納められていた。
………そうか……、間に合ったのか……。
拙者はホッとして肩をなで下ろした。
「…………っ!」
「!?………まだ………戦うの……?」
拙者の背後で、青黒い影が突然動いた。
「……身構えなくても………いい……。正気は………取り戻したから……。」
振り返ると、拙者の旧友、[ディアルガ]のツァイトが体勢を起こした。
「………ツァイトさん………、はじめまして………ですね………。シロさんから………話は………聞いてます。」
「…………貴方は……この時代の者ではないな……。それに[エーフィー]も、………同じだな……。」
流石はツァイトだな。
[時代]に関してはお見通しだな。
「如何にも。」
「……だが、暴れ狂う自分に怯えずに、倒してくれたんだな。」
「シルク………、この………[エーフィー]の技の………お陰です。」
「彼女が……?」
「………うん。気づいてないかもしれないけど………、君の守りを極限までさげてもらったんだよ……。」
そうやって、戦ったのか。
ベリー殿達、少しずつだが息が整ってきたな。
「ええっと……まずは………」
彼らは、ゆっくりと戦闘の模様を語り始めた。
………
幻の大地遺跡外部 sideチェリー
「………そんな事もあったわね。」
「うん。それに、温泉にいった時も楽しかったよね!」
わたし達はこの3ヶ月間のシードとの思い出話に華を咲かせていた。
………これが、わたしに残された最後の時間………。
わたしは最後ぐらい、笑顔で気丈に振る舞った。
………でも、さっきから身体がだるくなってきたわ……。
……きっと、成し遂げたのね……。
「そうね!………っ!」
「! チェリー、大丈夫!?」
わたしは突然ふらつき、倒れそうになった。
「……何とかね。……ひょっとすると、最期の時が近づいているのかもしれないわ。」
「最期の時ってことは………。」
わたし達の話を聞いていたウォルタ君が、暗い表情で呟いた。
「……きっと、成し遂げたのだと思うわ。」
わたしはとうとう耐えられず、浮遊するのを諦め………というより、力が抜けて地についた。
「……そうなんだね……。………!!チェリー!その光は!?」
「「えっ!?光?」」
光!?
わたしとシードは声を揃えた。
………確かに、私から小さな光が、発せられているわね。
………ということは………。
「……もしかすると、もうお別れかもしれないわ。」
「お別れって………。」
「そうよ。[未来]が変わったから、わたしは消滅するわ………。」
とうとうこの時が、来たのね……。
いざ、直面すると、怖いわね………。
この世界から、わたしの存在が消える事になるから………。
………光が、少し強くなったわね………。
「………ウォルタ君、わたし達の出逢いは壮絶だったけど、会えて本当に良かったわ。伝えたい事が沢山あるけど、時間が足りないわ………。」
わたしは意を決して別れの言葉を………語り始めた。
「チェリー、ぼくもだよ。いろいろと忙しくてゆっくり話したり出来なかったけど、それでも楽しかったよ〜!」
「ウォルタ君………。」
わたし達は堅く握手をかわした。
もう、会えなくなるのね………。
わたしの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
また、強くなった………。
「シード、あなたはわたしの全てだったわ………。もう会えなくなるのは辛いけど……。でも………わたしにはあなたと過ごした3ヶ月間の思い出が有るから、ちっとも悲しくないわ。」
思いが溢れて、わたしの言葉に嗚咽が混ざり始めた。
「チェリー、君の事はいつまでも忘れないよ。………本当はもっと一緒にいたかったけど………。………ここで悲しい顔をしても仕方がないよね。 うん。 チェリー、君はいままで、そしてこれからも、僕の大切な……[彼女]だよ!!」
シード………。
彼からも、透き通った流星が緒を引いて流れ落ちた。
……凄く、激しくなってきたわね………。
たぶん、保ってあと1分………。
「シード、もちろんよ!! ウォルタ君! もう時間がないから、シルク、フライさん、ラツェル、ベリーさんに伝えておいて。……ありがとうって。」
「うん。しっかり伝えるよ〜!」
……………もう、時間ね……………。
「頼んだわ! シード!」
「チェリー!!」
わたしは最後の力を振り絞り、彼に飛びついた。
「シード、最後に、あなたに、これを贈るわ!」
「!? チェリー。」
そして、彼と厚い口づけをかわした。
「チェリー!!!」
…………わたしはそのまま、光と共に消滅した。
…………シード、だいすき………。
………
幻の大地遺跡付近上空 sideシルク
「……………? 風?」
「あっ!シルク、気がついたね!!」
わたしは吹き抜ける風で目を覚ました。
……!? 周りが、白い!?
ここはもしかして、[天国]!?
「ここは?」
さっきとは景色が違いすぎるから………、私、[死]んだの……?
今思い出したけど、[時のほうこう]を二回受けたわね、私。
「シロさんの背中の上だよ。」
白の草原をかき分けて、[ブラッキー]のラテ君が姿を現した。
「シロさんの……?」
「うん。戦い終わってから3分ぐらいで来たんだよ。」
「如何にも。説明が着いた頃にはシルク殿は既に意識がなかったからな。」
そういう事だったのね。
どうりで、景色が白かったわけね。
「そうだったのね。………でも、フライとベリーちゃんは?声が聞こえないけど……。」
ここがシロさんの上だって事はわかったけど、2人の姿が見えないわ。
「2人なら、眠ってるよ。 怪我もしていたから。」
「怪我? 2人は大丈夫なの?」
大怪我を負ってないといいけど………。
「フライ殿は背中に打撲を負ったが、それ以外は何ともない。」
「それに、ベリーは掠り傷だけだよ。」
「そっか。なら、よかったわ……。」
私は戦友の無事を聞いて肩の荷が下りた気がした。
本当に、無事なのね………。
この後、遺跡にいるウォルタ君とシードさんと合流して、[幻の大地]の入り口に向かったわ。
……………チェリー、いってしまったのね……………。
それに、[ラプラス]の彼、6人も乗せて重くないのかしら?
巻之拾参 完 続く