七拾伍 父親
西暦7000年 海上 sideウォルタ
「………ライルさん、ちょっといいかな〜?」
満天の星空の下で、ぼくは泳ぎ続けているライルさんに話しかけた。
もう夜も遅いから、ぼくとライルさん以外は夢の世界に旅立ってるよ。
………何故か眠れなくて………。
「眠れないのですか?」
彼が振り向きながら優しく答えた。
「うん………。目が冴えちゃってね……。」
「そうですか……。」
「ライルさん、ずっと泳ぎっぱなしだけど、大丈夫なの〜?」
ぼくは彼を気遣って声をかけた。
………かれこれ5時間ぐらい、かな?
「平気です。[時の案内人]は他の方とは違って特別なので。」
「特別、というと、何か特殊な能力があったりするの〜?」
「はい。僕の場合、技を使えない代わりに疲れを感じないんです。 それと、[時の波]を越えれるようになったんです。」
[時の………波]?」
何何だろう、[時の波]って?
[幻の大地]についていろいろ調べてきたけど、聞いたことないよ。
「いわば、この空間と別の空間を隔てる川みたいなものです。」
「なるほどね〜。 って事は、[幻の大地]はその先にあるって事〜?」
きっと、そうだよね。
「そうです。 よくご存知で。」
「[幻の大地]の謎を解き明かすのが、僕の小さい頃からの夢なんだよ〜。」
ぼくが考古学者を目指したのも、父さんの影響かな?
……会ったことないけど………。
「………やっぱり、親子は似るのですね……。」
「えっ!?親子は、って、もしかして、父さんを知ってるの!?」
!? 今、何て言った!?
「古くからの友人です。[ラグラージ]の彼、[ラムダ]も、[幻の大地]を見つけるって意気込んでいました。」
えっ!?父さんも!?知らなかったよ。
「古くからの友人って……」
「彼は、僕が[時の案内人]に任命される前からの親友なんです。」
彼は、ぼくの言葉を穏やかに遮った。
「……親友なんだ……。」
「そうなんです。任命された当時、ラムダは凄く喜んでくれました。 兄弟がいない僕にとってはかけがえのない存在だったので、僕も嬉しかったです。………任命されて、この空間を一時的に離れなければならなくなった時も一緒に付いてきてくれたんです。………確か……、14年前でした………。」
14年前って、ちょうどぼくが産まれる少し前ぐらい……。
確か、父さんの行方が分からなくなったのもそのぐらいって、母さんが言ってた……。
ライルさんは話を続ける。
「14年前って……」
「彼は、申し訳ない事をしたって、後悔しているそうです。………残してきた妻と、息子に謝りたいと………。」
「………父さん………。」
ぼくの瞳から、一滴の光が流れ落ちた。
後悔、してたんだ……。
「でも、どうして戻らなかったんだろう………。」
後悔してたなら、どうして……。
「実は、彼は[幻の大地]について少ししてから、左目に大怪我を負ってしまったんです……。」
「えっ!?目を!?」
「はい……。場所が悪くて左目を失明してしまったんです……。それからというもの、怪我が相次いで今に至ってます。」
「でも、怪我って、大丈夫なの!?」
怪我!?だとしたら…………。
「……左目以外は、至って普通です。」
「……良かった……。」
ぼくはホッと肩を撫で下ろした。
本当に、良かったよ………。
怪我で、戻って来れなかったんだね……。
ぼく達を捨てた訳じゃなかったんだ……。
「………でも、どうしてぼくが彼の子供ってわかったの〜?」
そう言えば、何でだろう……。
「その、[銀のネックレス]です。」
「これが?」
父さん、大切に持ってたんだ………。
「はい。彼は対になる[金のネックレス]を肌身離さず大切につけています。 それで、もしかしてと思ったんです。」
「そっか………。」
ぼくは首のそれを堅く握りしめた。
「…………ライルさん、ありがとう。 …………父さんの事を話してくれたし、ぼくの事を話すよ。」
「あなたの、ですか?」
ライルさんが振りかえった。
「うん。ぼく、[ウォルタ]っていう名前なんだよ〜。それと、[英雄伝説]って知ってる?」
ライルさんなら、話してもいいね。
「[英雄伝説]、ですか? 子供の頃に聞いたおとぎ話ですよね?」
「うん。 あれ、実は実話なんだよ。」
「実話、なんですか?」
彼は冷静だけど、少し声が上づった。
「そうだよ〜。ライルさんは特殊だって言ったよね〜?……ぼくも、そうなんだよ。」
「??」
彼は不思議そうに首を傾げた。
「ぼくも特殊な能力があるんだよ〜。」
ぼくはそこまで言うと、海に飛び込んで彼の前に出た。
「能力、ですか?」
「うん。見てて!」
ぼくは深く潜って、勢いをつけてとびあがった。
そして、身体が水から離れた瞬間に光を纏った。
「!?」
ここで初めて彼が驚きの声をあげた。
光が収まり、ぼくは[ウォーグル]の姿になった。
「ぼくは伝説に出てくる、17代目の「真実の英雄]なんだよ〜。」
[ミズゴロウ]の時よりも低い声でいった。
ぼくは彼の泳ぐスピードに合わせて羽ばたく。
「[真実のチカラ]って言ってね、ぼくの場合技が2つ使えない代わりに姿を変えられるんだよ〜。……つまり、ぼくも特別なんだよ〜。」
それだけ言うと、ぼくはライルさんの背中の上まで飛んで、そこで姿を戻した。
「どっちの姿でも、技は2つだけだよ〜。」
ぼくは明るい声で付け加えた。
「僕以外にも、特殊な人がいたんですね………。」
「そうだよ〜。…………なんかスッキリしたよ。……おかげで寝れそうだよ〜。」
「そうですか……。」
それだけ言うと、眠りに落ちるのにあまり時間がかからなかった。
………
翌日 sideウォルタ
「あの光は何だ?」
寝る前は暗かったから分からなかったけど、見渡す限り海原だね。
ぼくが気付いた時には既にみんな起きてたよ。
そして、ぼくが起きてから30分ぐらいが経つと、水面に光の筋が出現した。
「あれが、昨日話した[時の海道]です。」
「[時の海道]?」
「そっか、ベリーは話してた時には既に寝てたね。」
ベリー、真っ先に眠ったからね。
「着いてからでも話すわ。」
「じゃあ、行きますよ!!」
ライルさんが大きな声で注意を促した。
すると、徐々に加速を始めた。
「しっかり捕まってください!!」「「えっ!?浮いてる!?」」
「何故だ!?」
ぼくとライルさん以外が驚きで声を荒げた。
「ライルさん、[時の波]に乗ったんだね〜?」
「その通りです!」
「「「「「!!?」」」」」
完全に浮いたかと思うと、突然周りが激しい光に包まれた。
ぼくのより、強い!!
「皆さん、あれが[幻の大地]です!」
ぼくはゆっくりと目を開けた。
「!! あれが!?」
「浮いてる!?」
「凄い!!」
「あれがそうなのね?」
「………いよいよだな。」
それぞれが声をあげた。
…………あそこに父さんが………。
ぼくは溢れる期待を胸に、念願の大地を見つめた。