七拾弐 磯の争乱
西暦7000年 磯の洞窟奥地 sideシルク
「ハァー………。本当に懲りないわね…。」
「本当にそうだよ。」
とりあえず、紫三人組は倒したけど呆れるわ……。
何の恨みを持ってやっているのか知らないけど……。
「………[サイコキネンシス]……。ベリーちゃん、取り返したわよ。」
「あっ、うん。ありがとう。」
呆気にとられていたベリーちゃんが、私の言葉で我にかえった。
私は超能力で目的の物を探り出し、彼女に渡した。
…………エネルギーの無駄使いになったわね……。
「ところでシルク?分からないことが1つあるんだけと……。」
「私の技よね?」
疑問に思うのも無理ないわよね。
技は4つしか使えないのが常識。
にもかかわらず、私は6つ。
おまけに本来使えないタイプを使用するとなるとね………。
「そっ、そうですよ♪シルクさん、あなたは……」
「最後の探索だから、この際、言うわね。…」
慌てふためくフラットさんの言葉を遮って、私は話す。
フラットさん、言いたいことは分かっているわ。
「私が[絆の従者]であることは遠征の時に話したわよね?」
「うん。[英雄伝説]のだよね?」
ベリーちゃんが答えた。
「そうよ。私には
古の[チカラ]があるのよ。[従者のチカラ]といって、様々な特殊能力が授けられたのよ。その1つが、[技の制約の緩和]。私の場合、通常使えないタイプの技を2つ使用可能になったわ。2つ目が、[攻撃力強化]。意味はそのままよ。」
私はありのままに[チカラ]の説明をした。
…………良いことばかりじゃないんだけどね。
「そうなの!?シルク、凄いじゃん!!」
ベリーちゃんが興奮して言った。
「ただ、良いことばかりじゃないのよ。私には[回復行動の制約]、[守りの軟化]、[状態異常効果の倍化]……、つまりデメリットがあるの。」
「だから、シルクは
迂闊ににダメージを受けられないんだよ。……シルクは言い忘れてたけど、[自然回復力の低下]、つまり、ボク達みたいな普通のポケモンに比べて回復するのに時間がかかるんだよ。」
……言い忘れてたわ。
フライ、ありがとね。
「………こんな感じよ。」
これで、分かってもらえたかしら?
そうこうしているうちにハク達とチェリー達が追いついたわ。
………
数分後 最奥部 sideシルク
「とりあえず、ここが一番奥かな?」
終始元気なラックさんが、異様なテンションで言った。
確かに、そうかもしれないわね。
ダンジョン特有の雰囲気も無くなったからね。
出口が近いのか、潮風が濃くなって、少し明るくなってきたわ。
ちなみに、今の隊列は、前からラテ君、ベリーちゃん、ウォルタ君、その後ろに私とフライ、フラットさん、最後にハクにシリウス、チェリーにグラスさんって感じよ。
「種族のせいかもしれやんけど、ええとこやな!」
ハク、気持ち良さそうね。
[ハクリュー]は水辺を好む種族だからね。
水タイプではないのに泳ぎが得意なのも、その影響かもしれないわね。
純粋なドラゴンタイプだし………。
「ボクはイマイチか………」「「「[岩石封じ]!!」
フライが話しているところに………えっ!?奇襲!?
大量の岩石がラテ君達の頭上から降りそそいだ。
「「「ええっ!!!?」」[守………]……」「!?危ない!!ぐっ!!」
「「「「フラットさん!!!」
フラットさんは硬直している三人を突き飛ばし……!!?
三人の身代わりになった……。
フラットさんは飛行タイプだから、効果は…………、抜群………。
でも、一体誰が!?
「「フラット!?」」「フラットさん!?」「よかった………………無事で………。」
フラットさんはそれだけ言うと意識を手放した。
「ちっ、外したか……。」
刹那、3つの影が天井から落ちてきた。
「フラット!! また僕の為に………。」「あなた達が!? でも、どうして僕達を!?」「フラットさん、しっかりして!!……………、気絶しているわね……。」
脈は…………!? 止まっている!?
直ちに治癒しないと!!
私は記憶をさぐり、彼に心肺蘇生法を試みた。
二体の[オムスター]と、一体の[カブトプス]が姿を現した。
「俺達の住処に侵入したからな!」「………フライ!私の鞄から………っ! [回復薬]を取り出して!!」
三人組は闘志むき出しにして言い放った。
私は火傷の後遺症で痛む喉に構わずに声を張り上げる。
激痛がはしっているけど、そうも言ってられないわ!!
「ラテ、もしかして戦わないといけないかもしれないよ!!」「うん、わかった!!」
フライは私の鞄を漁り、目的の物を取り出してフラットさんの口に無理やり流し込んだ。
「そうみたいだよ!!」「ラテ君! チェリーさん達も、ここはウチらに任せて先に進んで!!!」
ハクが声を張り上げる。
それが最善策ね。
「「[ハイドロポンプ]!!」」「4人で先に進んでください!!」「ウォルタ君も!!私達は後から何とかして追いつくから!!」
二つの高圧水流が私達に向けて放たれた。
「!?[10万ボルト]!!」「[目覚めるパワー]!!」「えっ!?でも……、フラットさんが……。」
ハクが高電圧の電撃で、フライは紺のエネルギー弾で打ち消した。
「ちっ。」「ウォルタ君!![幻の大地]の謎を解くのが夢なんでしょ!!だから、早く!!」「でも、この状態で突破できるのか!?」
「!? そうだけど、これとそれでは話が別だよ!![命]がかかってるんだから!!」《大丈夫よ!! 今すぐに目を閉じて!!》
私は人工呼吸、心臓マッサージを継続しながら超能力で一つの小瓶を取り出した。
[マトマの実]から抽出した溶液、濃度85%。
きっと希硫酸に匹敵するこの薬品なら、時間を稼げるはず………。
私は確認せずにそれを瓶ごと飛ばした。
「「「「「「うん!!」」」」」」「はい!!」「わかったわ!!「わかった!!」
全員、閉じたわね!!
弧を描き、相手に向けて飛んでいき、目の前に着弾した。
「「「!!? 目が!!!」」」《フライ!!この薬品はすぐに気化するから吹き飛ばして!!》
「[ベノムショック]、[サイコキネンシス]、発散!!」
私は毒素を放出し続け、それで突風を発生させた。
「シルク、わかったよ!!」
フライも、私の指示に応じて翼で風を発生させる。
………あっ、フライの眼は種族上特殊な構造になってるから平気だったわね。
「シルク、もう大丈夫だよ!!」
フライは声をあげた。
それに反応して私は目を開けた。
…………換気できたわね。
「ラテ君、ベリーちゃん、ウォルタ君、チェリー、グラスさん、今のうちに!!」
精一杯の声量で、私は叫ぶ。
「「うん!!ありがとう!!」」「シルク、皆も任せたわよ!!」「すまんな。」「なら、ここにシロが来るはずだから、一緒に来て!!伝えておくから!!」
「頼んだわよ!!」
5人とも、無事に行ったわね!
そっか。シロさんも来るのね。
ということは、シードさんも一緒に違いないわ!!
「……………よし。フライ?心肺蘇生法は知ってるわよね!?」
5人を確認すると、私はフライの方を向いて言った。
万が一の時のために、私達のトレーナーから教わったから知っているはず………。
「うん!!知ってるよ!!」
「なら、私とハク、シリウスが戦っている間、フラットさんの事を頼んだわよ!!」
相性的にも、これが一番いいはず。
フライは地面タイプ。シリウスは悪タイプで相性は普通。
私とハクは電気タイプの[10万ボルト]を使えるから、私達が主力で戦えば………いける!!
「うん!!」
「ウチもええよ!!」
「任せてください!!」
2人とも、完全に戦闘モードね!!
「じゃあ、[絆]の名に賭けて………、いくわよ!![瞑想]、[10万ボルト]!!」「くっ、まだ見えん!!」
「[影分身]!」「[竜の舞]!!」
私のかけ声を合図に、戦闘の
烽火があがった。
私は精神統一と共に電撃で時間を稼ぐ。
ハクは志気を高め、シリウスは5人の分身を作り出した。
「[シャドーボール]、[ベノムショック]、[サイコキネンシス]!!」「[アクアテール]!!」「[
鎌鼬]!!」
ハクは尻尾に水を纏いながら滑空して接近し、私は口元で渦を巻くように暗青色のエネルギーを生成して超能力で彼女のそれにコーティングする。
水と超能力で保護されているから大丈夫のはず。
6人のシリウスは相手を取り囲み、渦巻く風の刃を飛ばした。
ハクは相手の目前で地面に打ちつけて、反動で飛びあがる。
水しぶきと同時に、超能力を解除して、守備軟化作用を秘めたエネルギーが拡散した。
「「「っ!!」」」
交換は、普通ね。
「ハク、シリウス!相手の守りを下げたがら一気にいくわよ!!」
空中で浮遊するハクと、6人のシリウスに、私は勇ましく言った。
「シルク、わかったよ!!なら、[逆鱗]!!」「わかりました!![捨て身タックル]!!」「[10万ボルト]、[シャドーボール]!!」
ハクは降下すると共に、竜を帯びて猛攻を開始した。
本体を除く5人のシリウスは、一直線に相手に突進した。
私はその後で、別々に漆黒の弾と電撃を放った。
「「「っぐ!!!」」」
真っ先にハクが攻撃し、シリウスが来たのを確認すると退避した。
5人のシリウスは、相手を挟むように突進すると消滅した。
その直後、黄色と黒のエネルギーが相手に命中した。
技の衝撃で砂埃が立ちこめる。
「どう!?おわった?」
「手応えはあったわ!!」
「これで倒せたはずです!!」
私達は固唾を呑んで結果を見守る。
……………。
煙が晴れると、3つの影が力なく倒れていた。
…………よし!!