六十九 明け方の海岸で
西暦7000年 海岸 sideウォルタ
「………っ………、砂?」
ぼくは羽毛を通して感じる風の流れで目覚めた。
寄せては引く波の音、遠くで聞こえる木々のざわめき…………。
…………間違いない。ぼく達の時代だ。
「あっ、ユー………」
「チェリー、もう[ウォルタ]でいいよ。」
立ちあがって、周りを見ると、[ジュプトル]と[アチャモ]と………、
………そうだったね。あの時、ラテ君、[進化]したんだったね。
……………種族はわからないけど。
元々[イーブイ]だったらしいシルクに聞けばわかるかな?
「あっ、この時代にはシャドウはいないからね。」
「3人とも、まだ意識が戻ってないから今のうちに戻るよ〜。」
ぼくはそれだけ言うと、目を閉じで本来の姿をイメージした。
すぐに光に包まれ、[ミズゴロウ]の姿に戻った。
そして、そのまま鞄を探った。
「あったあった。…………よし、やっと[ウォルタ]に戻れたよ〜。」
母さんからもらった大切な銀のリングのネックレスを首に通した。
………ふぅ、やっとひと息つけるよ〜。
何か、肩の荷が降りた気分だよ〜!
「ところでウォルタ君? 沢山聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「うん。向こうでは言う暇がなかったからねわ〜。ぼくも伝えたい事があるからね〜。」
たぶん、チェリーが聞きたいと思ってる事はラツェルさんとラテ君のこと……。
そして、ぼくもラテ君について話さないといけない事があるから……。
「ええっと、まずは…………」
まだ日が昇らない明朝の海岸で、ぼくは事の[真実]を語り始めた。
………
ギルドB2F 部屋 sideシルク
「…………今日でウォルタ君達が[未来]に行ってから二日目……。大丈夫かしら………。」
私はいつものように日の出と共に目覚めた。
あの後、短い間に、フラットさん、ベガさん達への説得と協力要請。
ハク達はすぐに協力してくれたけど、フラットは骨が折れたわ……。
一時間かけて説得した直後からは、[幻の大地]の調査………。
伝承、場所は何となくはわかったけど、そこへ行くのに[証]が必要だってわかった時点で足踏み状態………、
何かの石盤みたいなんだけど……、図が残ってなかったわ………。
……あっ、もちろん、私とフライはこの時代の文字は読めないから、シリウスに助けてもらったわ。
そして昨日、ラックさんが何か思いあたる事があったらしくて、突然出かけていったわ。
そうこうしているうちに時が経って、今に至るわ。
時刻は朝の5時30分。勿論、私以外、誰も起きてないわ。
きっと、調査の疲れもあるのかもしれないわ。
「それにしても、今日もいい天気ね。清々しいわ。」
私は独り呟きながら、薬品が沢山入ったケースを持ちだした。
もちろん、行き先は海岸よ!!
………
数分後 海岸 sideシルク
私は早朝の風を切り、砂浜への下り坂を駆け降りた。
ひんやりとした風に潮の香りが乗り、私の毛並みを撫でる。
それが水色の[絆の従者の証]を靡かせ、二股に分かれた私の尻尾まで一気に駆け抜ける。
これがないと、1日が始まった気がしないわ!!
私は鼻歌混じりに砂地に足を踏み入れた。
「……あら、あれはもしかして………。」
静寂に包まれているはずの海岸に先客………、5つの影………。
でもそれは私が待ちに待った人物だった。
「チェリー!ウォルタ君!帰って来れたのね!!」
「シルク!!何とかみんな無事だよ〜!」
「5人共、揃っているわ!!」
私はいても経ってもいられずに、2人の元に駆け寄った。
「本当に、本当に無事でよかったわ!!」
私の瞳からは、自然と涙が溢れた。
私達は互いの無事を確かめるように抱き合った(私達は、二足立ちになるわね……)。
「うん。 ラテ君とベリー、グラスさんはまだ目覚めないけど、そろそろ起きるはずだよ〜!」
「って事は、まだ戻ってきてそんなに経ってないって事かしら?」
目覚めないって事は、そうなるわね。
私は目の前にいるウォルタ君から、横たわっている3人に目を向けた。
「ええ。わたしが目覚めた時はまだ日が昇ってなかったから……、まだ一時間ぐらいしか経ってないわ。」
チェリーの言葉を聞きながら、三人を見る。
左から[ジュプトル]のグラスさん。
次に[アチャモ]のベリーちゃん。
そしてその隣には[ブラッキー]の……………?
「[ブラッキー]? ウォルタ君?[ブラッキー]の彼って、ラテ君?」
ラテ君は[イーブイ]。5100年代の出身だった事を考えると、ラテ君自身の細胞は[終焉の戦]の前のものははず……。
聞いたところによると、7200年代は暗黒の世界………。
私の進化前の[イーブイ]は環境の変化で種族が変わる。
そして、[ブラッキー]への進化条件は“薄暗い場所で長時間過ごす”こと……。
ベリーちゃんと一緒にいるから、確実ね。
「うん、そうだよ〜。でも、どうしてわかったの〜?」
当然、ウォルタ君が不思議そうに私に質問する。
「論理的にかんがえたら、そういう結論に至ったわ。」
「論理的に?」
「ええ、そうよ。まず、私、嘗てのラテ君の進化前の種族、[イーブイ]について話すわね。」
私は、自分達の種族について解説を始めた。
「私の時代では、[イーブイ]はとても不安定な細胞を持つことで有名なのよ。ちょっとした環境の変化で種族自体が変わる………、[進化]してしまうわ。例えば、私、[エーフィー]になるためには、“日当たりの良い、明るい場所”で過ごすこと。[ブラッキー]はその逆で、“薄暗い場所”で過ごせばなれるわ。他にも、環境次第で火、水、雷、草、氷の5種類、あわせて7種類の種族に進化可能なのよ。」
「……へぇ〜。」
「わたしも知らなかったわ。」
簡単に言うと、こんな感じね。
………
sideラテ
「………こんな感じね。」「………っ…。」
誰かの話し声が聞こえて、僕は目を覚ました。
目を開けると………、
砂浜?それに、海?
……………良かった。元の時代に戻って来れたんだ……。
「……あっ、ラテ君、気がついたわね。」
「この声は、シルク?……」
僕は黒い前脚で目を擦りながら、立ちあが…………?
えっ!?黒!?
[イーブイ]って、茶色と白の長い毛並みのはずだよね!?
「えっ!?黒!? !!?」
でも、僕の身体は明らかに黒くて毛が短い!??
「一体何が!?それに、声が低くなってる!?」
おまけに、いつもの僕の声じゃない!?
何で!??
「ラテ君、混乱しているところに追い討ちをかけるかもしれないけど、あなたは[進化]したのよ。」
「えっ!?[進化]!?」
でも、どうして僕が!?
「何て呼んだらいいのかしら………。とりあえず、今の名前で……。ラテ君、気づいてないかもしれないけど、[ヤミラミ]に囲まれた時、あなたは[進化]したのよ。」
!? チェリーさん、本当ですか!?
確かに、技を出した直後からは溢れる力が収まったような気がするけど………。
「あの時に!?」
「そうらしいわ。ラテ君、その前に[進化の兆候]があった事に気づいたかしら?」
「「「えっ!?[進化の兆候]?」」」
僕達の声が揃った。
[進化の兆候]?何何だろう?
「この時代のポケモンにはないみたいだけど、ある時代以前のポケモンは条件さえ満たせばいつでも[進化]できるのよ。そのタイミングは人によっては、私みたいに10歳の時に[兆候]が見られる人もいれば、30代でようやくそれが現れる事もあるわ。 話に戻ると、[進化の兆候]は、進化を控えて、身体の奥底から力が溢れる現象の事をいうわ。」
「!!?」
あの時に溢れてきた力、あれって[進化の兆候]だったんだ…。
………ん?でも、待って……。
僕が[未来]の住民で、本名は[ラツェル]って事はわかったけど、僕は1回しか進化しないから、20歳にならないと[進化]できないはず……。
でも、ぼくはまだ14歳、なのに進化した……。
何故?
「シルク、確かに、あったよ、それ。」
「なら…………、ラテ君、心して聞いて。」
突然、シルクが真顔になった。
???
「………うん。」
僕はゆっくり頷いた。
「ラテ君、あなたは[未来]のポケモン……、いや、人間ではないわ。覚えてないかもしれないけど、ラテ君、あなたは[終焉の戦]以前、つまり[過去]の人間だったのよ………。」
…………!!?
「「ええっ!!?嘘でしょ!?」」
僕が、[過去]の……………?
衝撃が大きすぎて、僕とチェリーさんは腰を抜かした。
まさか…………、僕が……………?
巻之拾弐ー丙 完 続く