六拾泗 「無」の世界へ………
西暦7000年 トレジャータウン sideシルク
あの後、何とか説得してグラスさん達の事を信じてもらえたわ。
…………フラットさんは最後まで信じてなかったみたいだけど……。
途中からハクとシリウスにも加わってもらったから、説得力が増したわ。
あの時、他に現場にいたのは彼女たちとシロさんだけだから……。
「……みなさん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
説得を終えたチェリーが、続けて口を開いたわ。
頼み事?
「ええ、私達に出来る事があれば何でもするわよ!!」
「ウチらも協力するよ! シリウスもええよね?」
「………はい。自分達で良かったら、お手伝いします……!」「ボクも最初からそのつもりです!」
私達4人は、チェリーの問いに笑顔で答える。
チェリー、もちろんよ!!
調査は寧ろ私達の専門、リサーチ力なら誰にも負けないわ!!
「……ありがとうございます!!」
チェリーも、私達に負けないぐらいの笑顔で答えた。
「なら、[幻の大地]について調べてもらってもいいですか?」
「その先にある[時限の塔]に[時の歯車]を納めないといけないのよ。……塔が崩れる前に。」
彼女は後半部分に想いを乗せて嘆願した。
「「「[幻の大地]?」」何なん?その場所……?」
私達は聞き慣れない場所を耳にして、疑問に包まれた。
……この時代の出身じゃないせいか、聞いたことがないわね……。
「ぼく、知ってるよ〜!」
沈黙を破り、[ミズゴロウ]のウォルタ君が名乗りをあげた。
ウォルタ君、知っているの?
「どういうところなの?」
フライが疑問を投げかける。
「ええっと、伝説として細々と語られている場所なんだよ〜。確か、そこに行くためにはある[証]が必要みたいなんだよ〜。」
「私でも、初めてききましたよ♪!!でも、どうしてウォルタ君が!?」
ウォルタ君の解説を聞いて、フラットさんは驚きで声がうらがえった。
フラットさんでも知らない事があるのね!?
「ぼくがシルク達と出逢う前に、自分なりに調べていたんだよ〜。記録に殆ど残ってなかったから苦労したよ〜。………実はぼく、この歴史に埋もれた[真実]を解き明かすのがずっと夢だったんだよ〜。でも、まさかこんな所で繋がるとは思わなかったよ〜。」
彼が、長年募った想いをのせて、経緯を語った。
………ウォルタ君、これがあなたの[夢]、求める[真実]だったのね?
「ウォルタ君、その通りだよ。……そういう事なので、よろしくお願いします。」
彼の言葉に加え、シードさんが深々と頭を下げた。
「なら、決まりだね。…」
ラックさん、今日はちゃんと起きていたわね。
いつもなら居眠りしているから、心配だったのよ……。
「ギルドの維新にかけて、[幻の大地]を見つけだすよ!!」
ここで、ラックさんが声を張り上げる。
「「「「「おー!!」」」」」
この場にいないラテ君、ベリーちゃん以外のメンバーが勇ましく声をあげた。
チェリー、ウォルタ君、こっちは私達に任せて!!
「………ウォルタ君、[未来]へ行くなら、渡したい物があるわ。」
私は徐に話を持ちだした。
「渡したい物〜?」
当然ウォルタ君は不思議そうに首を傾げた。
「ええ。ちょっと来てくれるかしら?」
「えっ?うん、わかったよ〜。」
「なら、準備ができたらわたしのところに来て!」
「うん!」
チェリーが答え、私達は了承した。
そして私、ウォルタ君、一応ってことでフライが交差点に向けて進み始めた。
………
部屋 sideシルク
「……で、渡すものって何なの?」
私達の部屋に入るや否や、ウォルタ君が不思議そうに私に問いかける。
「危険な旅になるから、保険代わりにね。」
私はこう言いながら、部屋に備え付けてある棚を探り始めた。
一応、机もあるけど、私の実験場になり果てているわ。
もちろん、2人には了承を得ているわ。
「保険に?」
「ええ。………あった。まずはこれね。」
そう言って、私は赤い液体の入った小瓶を取り出した。
「ええっと、麻痺に効く特効薬だよね?」
「そうよ。」
フライが、思いだしたように言った。
この薬品は、[クラボの実]、[オレンの実]、[林檎]を1:2:2で配合したドリンクよ。
製法は解毒薬と同じだけど、強すぎる辛みを抑えるのに苦労したわ。
「まだ試作品だけど、これを持っていって。」
続けて、透明の液体の物を取りだした。
「初めて見たけど、何なの〜?」
「ボクも初めて見たよ。」
初めて見せるから、この反応は当然ね。
これの実験をする時は早朝の海岸でしていたから。
………それだけ、危険な薬品なのよ……。
「2人が寝ている間にこっそり実験して造ったものなのよ。 [2、4、6ートリニトロトルエン]……、私達の時代では[ダイナマイト]の主成分として知られているわ……。」
「[ダイナマイト]って………。」
フライが信じられないという感じで呟いた。
「……そうよ。爆薬の事よ……。[爆裂の種]の成分を抽出した時に偶然発見したのよ……。ちょっとの静電気でも大爆発を起こすから、ずっと棚の奥底に閉まっておいたのよ……。押しつけるつもりはないけど、万が一、シャドウ達に囲まれた時のために………、[最後の手段]として持っていて。」
私はその芳香族炭化水素の化合物の危険性を的確に説明した。
どのくらいの規模の爆発なのかは想像できないけど、決め手になるはず……。
「………そんなに、危険なんだ……。って事は、知らずに[爆裂の種]を使っていたってことだね〜……。」
ウォルタ君、フライ、共に真剣に聞いてくれた。
「………一応、[クラボの実]の辛み成分80%の溶液もわたしておくわ。………きっと目くらましとして効果を発揮するはずよ。」
追加で、さっきだした物よりも濃い赤の小瓶を取りだした。
「うん、ありがとう。」
「これで全部よ。」
とりあえず、渡したい物は全部渡したわ。
………
交差点 sideウォルタ
「………シルク、フライ、準備もできたからそろそろ行くよ〜。」
ぼくは、自分自身に言い聞かせた。
………これから訪れる困難に立ち向かうため……。
「ええ。私達は行けないけど、連れ戻してきてね……。」
「そして、阻止しよう!……[星の停止]を!!」
2人とも、真剣な表情で言った。
「もちろんだよ!!」
シードさんの話によると、全く鍛えていない一般のポケモンは5000年、シルク達みたいな経験を積んでいるポケモンでもプラス100年が限界みたいなんだ……。
もしそれを超えると、[記憶]に障害がでるらしい……。
「シルク達も、[幻の大地]の事、頼んだよ!」
「もちろんよ!!」「当然ですよ!!」
ぼく達はここで互いに握手を交わした。
「………じゃあシード、頼んだわ。」
「うん。……」
ぼく達は最後に顔をしっかりと脳裏に焼きつけた。
………しばらく、会えなくなるから………。
ぼく、チェリーはシードさんの元に近づく。
「[テレポート]!」
シードさんが技を発動させると、たちまちぼく達は光に包まれた。
…………シルク、フライ、絶対に、成し遂げよう!!
………
森の高台 sideウォルタ
光が収束し、ぼく達は開けた場所に降りたった。
「チェリー?ここは?」
ぼくは彼女に質問、でも、来たことがあるような……。
「ここは[森の高台]、わたしとウォルタ君、シルクが初めて出逢った場所よ。」
「チェリーと………、ああー、思い出したよ〜!」
そうだ!ここは遠征の時にシルクと来た場所だよ!
「今思えば、わたし達の出会いって、運命だったのかもしれないわね…。」
「うん、確かに、そうかもしれないよ……。僕がシルクさん達を導いてなかったら、ウォルタ君は彼女達に出逢ってなかったらし、チェリーも、ウォルタ君達と出逢ってなかったら僕達は赤の他人だった……。」
「そうだね〜。不思議だよね〜。」
ぼく達はそれぞれの出逢いを回想した。
………懐かしいよ……。
「でも、どうしてここに来たの〜?」
ぼくはふと思い出し、本題をぶつけた。
「あの時は言わなかったけど、ここには他の時代に繋がる[時の回廊]という、わたし達、[セレビィ]にしか使えない装置があるのよ。」
「[時の………回廊]?」
何何だろう……?
「[タイムマシン]みたいなものかな?」
シードさんが、ゆっくりと説明した。
「うん、何となくわかったよ〜。」
「そういう事よ。 ……ウォルタ君、改めて聞くけど、本当に行くのね?」
ここで、チェリーが再びぼくに質問した。
「もちろん!ぼくは[意志]を曲げないよ!!」
「[決意]は堅いのね。 ウォルタ君、[未来]ではたくさんの苦難があるかもしれないけど、絶対に[精神]を乱さないようね。………闇に呑まれてしまうから……。」
ぼくは大きく頷き、首からかけているネックレスを堅く握りしめた。
…………父さん、母さん、大切な人を連れ戻すために、行ってくるよ………200年後の[未来]に………。
「チェリー、準備できたよ!」
シードさんが声を張り上げた。
「あれ?シードさんは行かないの〜?」
「うん。 僕が行くと足手まといになるのは目に見えてるから、[幻の大地]の捜索にまわらしてもらうよ。……ウォルタ君の事はシロさんにも伝えておくから……。だから、僕ができるのはここまでだよ……。」
シードさん、わかったよ。
準備している時にも[チカラ]で伝えたけど、念のためお願いしますね。
「うん。ありがとね〜。」
「じゃあウォルタ君、行こっか。」
ぼくはシードさんに頭を下げた。
そして、ぼくはチェリーの元………、作動し始めた[時の回廊]に駆け寄った。
「シード、そっちは頼んだわ。」
「うん。チェリーも、怪我がないように……。」
2人も、互いに健闘を祈った。
「…………[時渡り]!!」
チェリーがそう叫ぶと、ぼくとチェリーは轟音と共に光の渦に呑まれた。
……………ベリー達がいる、[未来]に向けて…………。