六拾弐 決意
西暦7000年 交差点 sideウォルタ
もしかしたらこのままだとラテ君が7200年代に連れてかれてしまう!!
何とかして止めないと!!
ぼくは力一杯羽ばたき、空を切った。
………手遅れになる前に……。
「どうか……、間にあって!!」
高速で階段を登りきり、坂から急降下する。
「えっ!?シード、嘘でしょ!?」
「チェリー、残念ながら本当だよ!!」
「!? チェリーにシードさん!?」
ぼくの視界に突然2人の[セレビィ]が現れ、危うくぶつかりそうになった。
ぶつかる直前で急上昇して、何とか免れた。
………ふぅ、危なかった……。
「「チェリー、大丈夫!?」」
「ええ、何とか。でも、あなた誰!?」
見慣れない[ウォーグル]に、チェリーは疑いの眼差しを向けた。
「ぼくだよ〜![ミズゴロウ]のウォルタだよ!! …今は[ウォーグル]だけど。」
「えっ!?でも………。」
当然、2人とも信じてないね……。
「チェリーには言ったけど、[真実のチカラ]、それで姿を変えれるんだよ〜!」
ぼくは言い終わる前に淡い光を纏った。
「「!!?」」「これでわかったでしょ?…」
いつもの姿、声で語る。
「……ぼくはシャドウに姿を知られているから、この姿で行こうと思ったんだ。……[真実]を知った以上、知らない人を巻き込まないためにも……。」
ぼくは再び光を纏う。
[真実のチカラ]の効果で素速さが上がってるけど、種族上[ウォーグル]のほうが速く動けるんだよね〜。
緊急事態だから尚更……。
「「人を、巻き込ま……」」
「別れるのはまだ速い!!!」
2人の言葉を遮って、誰かが怒鳴る声………、まさか……、シャドウ!?
「「今のは!?」」
「シャドウだ!! こうしてはいられない!!急がないと!!」
「待って!ウォルタ君!!」
ぼくはチェリーの言葉を無視して、どよめく
広場に向けて急加速した。
ウォルタ君、今助けるから!!!
………
トレジャータウン sideウォルタ君
「「「「「「「!!?」」」」」」」
ぼくが現場に到着すると、想像を絶する光景が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは、怪しく渦巻く黒い物体………、あれは何!?
周りにはラックさんをはじめとしたギルドのメンバー、トレジャータウンのみんな、ベガさん、デネブさん、アルタイルさん………。
……何より一番驚いたのが、シャドウがラテ君とベリーを鷲掴みにして、まさに黒い渦に引きずりこんでいる、その瞬間だった。
ぼくから渦まで大体10m、もう渦に入りかけているから間に合いそうにない!!
!!?
「ラテ君!!!ベリー!!!」無駄だとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
だけど、ぼくの叫びは虚しく空気を振動させるだけだった………。
言い終わるか終わらないかのタイミングで、渦は収束、消滅した。
「くっ……!遅かったか……。」
ぼくは右翼で頭を抱えた。
………シャドウ、やっぱり気づいてた………。
でも、なんでベリーまで………。
ベリーは………、グラスさん達とは全く関係ないのに……。
ぼくな事の無念さで歯を食いしばった。…………嘴だから歯なんてないけど………。
周りの人達は、立て続けに衝撃的な出来事が続いたから言葉を失っていた。
1つはシャドウの行動。もう一つはトレジャータウン、ギルドにはいないはずの[ウォーグル]、つまりぼくの登場。
「………やっと追いついた……。」
「この状況はまさか………、グラスさん……。」
沈黙を破り、チェリーとシードさんが到着した。
「チェリー、そのまさかだよ……。おまけに、ぼくの大切な人まで連れてかれた………。グラスさんと一緒に………。」
[ミズゴロウ]の時よりも低い声で呟いた。
「…………今のは一体……。」
「それに、チェリーさんとシードさんはともかく、[ウォーグル]のあなたは………♪」
シャインさんがやっとの事で口を開き、フラットさんがぼくのほうを見て言った。
「………フラットさん、ずっと黙っとったんやけど、[ウォーグル]の彼はウォルタ君なんよ……。」
ぼくが言う前に、事情を知っているハクが呟いた。
……難しい顔してるから、さっきのシャドウの行動と[水晶の湖]での出来事が引っかかっているのかもしれない………。
「……いやいやハクさん、またそんな冗談を………♪」
フラットさん、声が上づって、パニック状態だよ………。
「フラットさん、これは紛れもない[真実]だよ〜……。見てて。」
ぼくはゆっくり話し、注目を集めた。
目を閉じ、意識を集中させる。
「「「えっ!!?」」」
光がぼくを包み、ものの2秒で姿を変えた。
白い[真実の証]、銀のリングのネックレスをした[ミズゴロウ]………、みんながよく知っている普段のぼくが姿を現す。
「…………こういうこと。」
「!!?」
ハク、シリウスを除いて言葉にならない声が一斉にあがった。
「………この様子だと、やっぱり気づいていたのね………。」
「でも、どうして2人まで……。」
そこに、騒ぎを聞きつけて………正確には、ぼくの叫び声かな……?……、シルクとフライが駆け寄ってきた。
「……ぼくのことを踏まえて、[真実]を話すよ………。」
事情を知っている5人はゆっくりと、ラテ君の事以外の[真実]を語りはじめた。
ラテ君の事はチェリーとシードさんは知らないけど……。
………
数十分後 sideウォルタ
「………これで全部よ………。」
シルクの言葉で、[真実]を語り終えた。
もちろん、辺りは静まり返っている……。
「………ということはつまり、[ジュプトル]は実はいいやつで、チェリーさんと[星の停止]を食い止めるために[未来]からやってきた……♪そしてシャドウさんは極悪非道の黒幕で、[星の停止]を引き起こそうとしている……♪」
フラットさんが、さっきまでの話を纏めた。
………極悪非道とまでは言ってないけど………。
でも、どうしてベリーまで………。
ぼくが独り、考えこんでいる間に議論が展開される……。
………………よし、こうなったら………。
「………チェリー?チェリーはグラスさんをまた導くために、一度[未来]に戻るんだよね〜?」
「えっ?うん、わたしはそのつもりだけど……。」
チェリーは不思議そうに聞き返す。
「なら、ぼくも[未来]に連れてって!!」
「「えっ!!?何だって!?」」「「ウォルタ君、本気!?」」
ぼくの意外な言葉に、4人は一斉にぼくのほうを向く。
「ぼくは本気だよ!!2人とも、ぼくの大切な人、かけがえのない人なんだ!!」
ぼくは心の底から訴える。
特にベリーは幼い頃から仲良くしてきた親友…………、いや、それ以上。
母子家庭で、母さんも殆ど家に居なかったぼくにとっては、何にも変えられない大切な人………。
………ベリーがいなければぼくはどうなっていたんだろう……。
………ベリーがいなければ多分ぼくは孤独だった………。
ベリーがいなければシルク達とも出逢ってなかった。
ベリーがいなければここまで旅が好きじゃなかった。
ベリーがいなければ、今のぼくは存在しない!!「…………ウォルタ君、わかったわ………。」
「「シルク!?」」「シルクさん!?」
「ウォルタ君、きっと命懸けになると思うわ……。それでも、行くのね?」
「もちろんだよ!!ぼくは誰に何を言われようとも、[意志]を曲げるつもりはないよ!!」
ぼくはまっすぐ、真顔で4人を見つめた。
…………これがぼくの[決意]だ!!
[真実]の名を背負う者として………、いや、一匹の[ミズゴロウ]として、連れ戻してみせる!!2人を!!