参 罠の脅威
森の中 中奥部 sideシルク
「ここまで飛べば大丈夫だよね?」
「ええ、フライ、助かったわ。」
私は少し前、正気を失った複数のポケモンに襲われて……、フライのお陰で何とか逃れることが出来たわ。
でも、どうしてここのポケモンは正気を失ってるのかしら………。謎が深まるばかりだわ……。
「それにしても、ここにはちゃんと意識がある人はいないのかな?」
「私も気になってたところよ。何かあったのかしら?」
「そう考えるのが一番自然だね。」
確かにそうよね。突然この状況になるはずはないから………、ダメだ。全く検討がつかないわ。
「それに、ここの森に沢山物が落ちてるよね?誰かが落としたにしては不自然
じゃないかな?」
「言われて見れば、そうね。」
逃げている途中にも、沢山の木の実、針みたいな物、種、兎に角、落とし物にしては不自然な量よね。誰かが意図的に置いたとしか考えられないわね。
「シルク、これを踏まえて調査してみない?」
「私達はこの森についての情報がなさすぎるから、そのほうがいいわね。」
フライ、名案ね。
「うん。 またさっきみたいに襲われるといけないから、別行動は止めたほうがいいね。」
「そうね。奇襲攻撃される可能性もあるからね。」
こういう時こそ、まとまって行動したほうが安全よね。
私達は近辺の捜査を開始したわ。
………
数十分後 sideシルク
あれから何分かしたけど、例のポケモンと出くわすだけで何の成果もないわ………。
この森は一体……。
「シルク、もう何時間も歩き続けているから、一度休憩にしない?」
「そうね。私達がこの森に入った時にちょうど太陽が一番高かったから、随分時間が経ってるわね。周りに誰もいないから、そうしましょ!」
「そうだね。」
太陽の傾きからすると、軽く3時間は歩き続けているわね。
「とりあえずこの辺りで………」
休みましょ、そう言いきる前に、
カチッ
「ん?シルク、何か音がしなかった?」
「確かに、したわね。」
右前脚で何かを踏んだような………、気のせいよね?
「気にすることは……!!?シ……」
「えっ!!?」
フライの言葉を聞き終える前に視界がブレて、身体の内側から持ち上げられる感覚に襲われ………どこかに飛ばされた。
…………えっ!!?
………
同刻 sideラテ
あっ、みなさん、はじめまして。突然場面が変わったからびっくりしたよ。
僕は人げ……いや、イーブイのラテといいます。えっ?何故僕がここにいるかって?
実は僕、相棒のアチャモのベリーと探検隊をしているんです。……まだかけだしだけどね……。
本題に入ると、僕達は今依頼をこなすために、この森に来ているんです。
「ラテー、はやくー!」
「あっ、待って、今行くよ。」
あっ、彼女が相棒のベリーです。
僕は急いでベリーの元に走った。
「ええっと、確かこの辺に落ちてるはずだよね?」
「[カゴの実]だよね?」
「うん!」
僕達の今日の依頼、落としたカゴの実を拾ってくること。
「ラテ、依頼が終わったらどうする?」
「太陽の高さが低くなり始めているから、帰ってすぐに夕ご飯だね。」
「やっぱりそうだよね!はやく見つけて帰ろうよ!」
「うん。そうだね。」
僕はいつものように笑って答えた。
ベリーは身体は小さいんだけど、食いしん坊なんだよね……。
女の子だからもう少し食べる量とか気にして欲しいんだけど……。
あっ、別に異性としてそういう感情はないから!
「ねぇ、ラテ?もしかして依頼された物って、これじゃないかな?」
「え?」
ベリーはおもむろに青い木の実を拾ってきた。それは間違いなくカゴの実だった。
「確かに、[カゴの実]だね。」
「やった!これで今日の依頼は終わったね!」
ベリーは自分のトレジャーバッグに目当ての物をしまった。
「じゃあラテ、帰……」
「ああー、もう、この森はどうなってるのよ!!!」
[穴抜けの玉]を取り出して森を脱出しようとしたけど、誰かの叫び声がして……。
えっ!?大変だ!!
「ラテ!今の声、聞こえた!?」
「うん!行ってみよう!」
僕達は声がしたほうに走っていった。
………
sideシルク
「ああー、もう、この森はどうなってるのよ!!!」
私は何かを踏んで、どこかに飛ばされて……、多分あれは罠ね。……!こんな場合じゃなかったわ!!
飛ばされた先でまた例のポケモン、しかも軽く8匹以上。よりによって半分以上が虫タイプ、ああー、猫の手があったら借りたいわ!
「[糸をはく]!「[虫喰い]!」「[葉っぱカッター]!」
「同時に!!?[瞑想]、[サイコキネンシス]!!」
集中攻撃に襲われた……。
私はとっさに目を閉じ、五感を研ぎ澄ませた。それと同時に超能力の層を作り出して、飛び交う技を止めた。
それを見て相手は声にならないうなり声をあげたわ。
私の行動に意表を突かれた、って感じね。
「攻撃するなら、私もさせてもらうわ![シャドーボール]!」
私は口元から漆黒の弾を放って葉の塊と混ぜ合わせたわ。
形容し難い色になったけど、私の予測通り弾の軌道と平面方向に垂直に弾けたわ。
「糸でもできるかしら……でも、やるしかないわね。っ!」
私は四肢にありったけの力を込めて垂直に跳んだ。
すぐに残っていた糸を地面の方に発散させた。
その瞬間、私が吹き飛ばされる程の風圧が発生、私は空高く投げ出されたわ。
これも私の作戦よ。
「[目覚めるパワー]連射!!」「あっ、いた!大丈夫ですか!?」
誰かの声がした気がするけど、空耳よね?
そんな事はきにせず、私は暗青色の弾を4つ放った。
2つずつ衝突して計8つになり、それがまたぶつかって16個、そしてまた拡散……こんな感じで無限に増えていった。
この光景を例えると、グレーの雨かしら?
「「「「「!!!??」」」」」「「えっ!!?何!?あの技!?」」
相手のポケモン、腰を抜かしているわね。
黒の雨は相手に降りそそいで、次々と倒れていったわ。瞑想で強化したから、当たったら痛そうね。
私は身体を
翻し、綺麗に着地した。
「ふぅ、とりあえず危機は去ったわね。」「凄い………あんなにいたのに……。」
「たった1つの技で………。」
近くから感嘆の声が漏れ出てるわね。
…………えっ?声?
「凄い、凄いですよ!!」「声? !!! やっとまともなポケモンに会えたわ………。」
そう言いながら、1匹のアチャモが私の元に走ってきた。
あっ、イーブイもいたのね?
「あの技、どうやって出したんですか!?」
アチャモ、興味津々って感じね。
「[シャドーボール]を一定の法則に従って増殖させたのよ。 ……ところで、あなた達は?」
「僕はラテといいます。」
「わたしはベリーです!わたし達は[探検隊なんだよ!」
ラテに、ベリーね。元気がいいわね。それにしても………、
「探検隊?どういうものなのかしら?」
知らない単語が出てきたから、聞いてみたわ。
「「えっ!?知らないんですか!?」」
えっ!?どうしてそんなに驚くの!?
「えっ!?ええ。私はまだこの辺の事についてよく知らないのよ。この近隣のボランティア団体か何かかしら?」
「違います。各地に拠点がある国際的な団体なんです。」
「わたし達はまだ新人だけど、それなりの成果をあげているんだよ!」
結構有名な団体だったのね。やっぱり世界は広いわね。
「………でも、あなた達、種族の組み合わせからすると、野生ではないわね? だとしたら、トレーナーの姿が見えないわね……?」
「トレーナー?トレーナーって何?」
えっ!?ベリーさん、今、なんて言ったの!?
「知らないんですか!? トレーナーは、私達、ポケモンとは切っても切れない関係にある、常に行動を共にする人間のことで………」
「「えっ!?人間ですか!?」」
えっ!?どうしてそんなに驚くの!?
「人間って、会ったこと、あるんですか!?」
「何千年も前に姿を消したはずなのに!!?」
「半日前…………えっ!?姿を消したですって!?」
聞き間違い、よね!?
「ラテに、ベリーって言ったわよね!?今、何年!?」
「えっ? 今年は7000年のはずだけど………。」
なるほどね。7000年ということは、単純計算で2000から引くと………!!?
「!!?7000年ですって!?2000年代じゃなくて!!??」
「えっ?はい。そうですけど?」
……ってことは、ここは5000年後の未来ってこと?
「まさか……私達って、タイムスリップした………の…かしら………。」
嘘よね? 時代を越えるなんて………不可能なはずなのに……。どうして………私達は……、あっ、もしかして、あの光とポケモンが!?いや、まさか……、でも、そう考えるしか………。
「落ち込んでるみたいだけど、どうかしたの?」
あの光とポケモン以外かわった出来事はなかったから……そう考えるしか………ないのかしら……。
「あのー、聞こえてますか?」
「はっ! えっ、ええ。本当に………」
《シルク、聞こえる!?》
聞き覚えのある低い声………あっ!いけない!!
私は重大な事を思い出して通信機の応答に答えた。
………
同刻 sideフライ
シルクが突然姿を消してから1時間、未だに応答がない……。
聞こえるのは闘っている音だけ。シルク、大丈夫かな……。
「シルクに限って、やられることはないよね。」
うん、そのはずだよ。シルクは仲間の中で一番強いんだから、有り得ないよね。
それにしても、返事はないし、空から捜しても姿が見えない……。
よし、ダメ元でもう一度、連絡をとってみよう!
「シルク、聞こえる!?」
《あっ、フライ、ごめん、連絡をとるのが遅れてしまったわ。飛ばされた後に、大群に襲われて……それどころじゃなかったのよ………》
シルクにしては珍しく、沈んだ声がイヤホンから発せられた。
「でも、無事で良かったよ。シルク、今どこにいるの?」
《私もよくわからないから、[シャドーボール]を打ち上げるわ。それを目印に来てくれるかしら?》
「えっ?うん。[シャドーボール]だね。」
《ええ。今からあげるわ。》
シルクが言ってから数秒すると、遠くに何かが打ち上げられたような………、たぶんあれかな?
「シルク、見えたよ!」
《あんまり離れてないのね? あと何発か打ち出すわ。》
「うん、ありがとう。すぐに行くよ!」
《ええ。待ってるわ。》
よし。やっと合流できる! 待たせる訳にはいかないから、急がないとね!
ボクは翼に力をこめて、できる限り素早く動かした。
………
sideシルク 合流
「[シャドーボール]! ……このくらい打ち上げれば大丈夫かしら?」
「シルクさん、さっきから何をしているんですか?」
「はぐれた仲間に私の居場所を知らせているのよ。」
空からだと見つけにくいからね。
私はただシャドーボールを打ち上げるだけでなくて、ラテ君達に私の自己紹介を済ませたわ。さすがに私達が過去から来たことを伝えたら、2人共腰を抜かしていたわ。
私も驚いたぐらいだから……。
「シルクさんの仲間って、どんな種族なの?」
「[フライゴン]よ。」
本当は私達のトレーナーを含めて6人いるけどね。
これは話がややこしくなるから、心の中だけに留めておいたわ。
「そうなんですかー。」「シルク、お待たせ!」
フライ、無事で良かったわ!
「フライ、そっちは大丈夫だったかしら?」
「何回か襲われたけど、平気だよ。 あれ?この人達って……。」
今までまともなポケモンを見なかったから、疑問に思うのも当然よね?
「私が闘っている最中に偶然出逢ったのよ。こっちのイーブイはラテと言って、こっちのアチャモはベリーという名前よ。」
私はフライに簡単に紹介したわ。
「僕はラテです。」
「わたしはベリー、よろしくね!」
「うん。ボクはフライ、よろしく。」
互いに会釈、その後に私も含めて握手(私とラテ君は右前脚、フライは右手、ベリーちゃんは左脚で)した。ベリーちゃんは左利きなのかしら?
「……シルクさん、フライさん、ここはまだ安全という訳ではないので、別の場所で話をしませんか?」
ラテ君、そのほうがいいわね。
「そうね。」
「でも、ここはまだ森の中だけど、どうするの?」
フライ、確かにそうね。
「すぐに脱出出来るので、大丈夫です。」
「えっ?でも、どうやって?」
「抜け道でもあるのかしら?」
「いいえ、見ていてください。」
ラテ君はバッグに付けてあった、卵に羽の飾りが付いたバッチを取り外して、
「脱出!」
それを空高く掲げた。
すると、私達は光に包まれて、浮遊感に包まれた。
………えっ!?また!?
そのまま私達はどこかにまた飛ばされたわ。
………一体何回飛ばされればいいのよ!?