伍拾九 現した本性
西暦7000年 水晶の湖 sideグラス
「ふっ、ようやくここで最後か………。」
ラツェルとはぐれてから約2ヶ月、チェリーと彼女と同族の[セレビィ]の助けがあって何とかここまで来れた……。
これまで集めた[時の歯車]は4つ、ここのさえ回収できれば………。
「しかし、ここまで長かったな………。」
今思うと、元の時代で調査を開始した頃が懐かしいな……。
ラツェルと出逢ったのもそのぐらいだったな。
当時の俺は人間を目の当たりにして腰を抜かしたっけな……。
俺の口角が微かに緩んだ。
消息は全くわからないが、無事でいてくれよ……………。
俺の生涯、ただ一人の相棒…………………、愛称を込めてこう呼ぼう……、[ラテ]………。
俺は回想に浸りながら歩みを進める。
……[キザキの森]、[導きの大河]はどうって事無かったが、[熱水の洞窟]と[流砂の洞窟]には番人がいた……。
ここもその可能性がある………。
………そういえば、日頃からあいつに言われていたな…。
<油断はするな>……と……。
そうこうしているうちに、目的の湖にたどり着いた。
…………いよいよだな。
《………………やっぱり、ここにも来ましたか………。》
「………やはりな……。」
俺と湖の間に、意志の神が舞い降りた。
「ぼくの命に変えても、絶対に[時の歯車]は渡さない!!」
「………どうやら、戦わないといけないようだな……。これも[未来]のためだ………。………許せ………。」
仕方ない………、これも明るい[未来]のため………、シャドウの野望を阻止するため……。
「何が[未来]のためだ………、盗賊[ジュプトル]!!お前のもくろみはわかっている!敗れたベガとアルタイルのためにも、絶対に負けない!![悪巧み]!」
「……フッ、俺も意に反するレッテルを貼られたものだな………。[穴を掘る]。」
相手は戦意むき出しで志気を高めた。
俺は自分自身を鼻で笑い、地中に潜った。
「出てこい!卑怯者!![未来予知]!」
地上で相手が叫ぶ声がした。
…………自分の居場所を知らせる事になるぞ……。
俺は地上に向けて一気に掘り進む。
急に光が差し込み、予定通り相手の真下を掘り当てた。
「………[峰打ち]!」
「くっ!!」
俺は腕のブレードで相手を切り裂いた。
「っ!!…………[峰打ち]なんて…………、屈辱………だ………。」
あの様子だと、限界だな……。
「……俺もどこかの誰かのように冷酷ではない。脱出する余地を……っ!!………与えた…だけだ。」
話している所に、相手の仕掛けが俺に対して発動した。
…………実力の差は歴然だな。
「………!!?全然……………効いてない………!?」
「お前も無理はするな…………。宣言通り、貰っていくぞ………。許せ……。」
俺は地面に落ちかけている相手を背に、湖に飛び込もうとした。
その時、
「「そこまでだ!!盗賊[ジュプトル]!!」」背後で二つの声がした。
新手か!?
………
sideラテ
「ラテ、ダンジョンも突破したし、もうすぐだよ!!」
「うん!!絶対にそうだよ!!さっき[時空の叫び]で見た光景に近づいてきたから確実だよ!!」
僕達は迫り来る相手をほとんど無視して、風のように水晶の迷宮を駆け抜けた。
お陰で、エネルギーを節約できたよ。
「………!!?全然……………効いてない………!?」
「お前も無理はするな…………。宣言通り、貰っていくぞ………。許せ……。」
「ラテ!!今の聞こえた!?」
「うん!!確かに聞こえたよ!」
僕達から少し離れたところで、緑色のポケモンがまさに青いポケモンにとどめをさそうとしている光景が目に入った。
!!!これは!!
「ベリー!あれは僕が見た光景そのものだよ!!」
僕はこれだけ言うと、四肢に力を込めた。
「えっ!?なら、大変だよ!!」
ベリーも、僕の言葉を聞いて走り始める。
このままだと、[時の歯車]が盗まれてしまう!!
「「そこまでだ!!盗賊[ジュプトル]!!」」僕達はありったけの声量で叫んだ。
「誰だ!!?」
[ジュプトル]は慌てた様子で辺りを見渡した。
「僕達は探検隊“悠久の風”、あなたを捕まえにきました!!!」
あの人には一度助けられたけど、これとそれでは話は別。
何より、[星の停止]を引き起こそうとしている!!
「……新手か……。だが、[使命]を果たすためだ。戦か……」
「それは…………、絶対に………、させない…………!……」
僕達の前で、青いポケモンが言葉を振り絞っていった。
まさに……、倒れる寸前。
「こんな時の…………ために………ある仕掛けを…………しておいたんだ………。っ!!」
「何っ!?」
ジュプトルが慌てて振り返った。
「!?何!?」
「凄い揺れ?」
刹那、けたたましい揺れとともに、まるで[時の歯車]を囲むように水晶が出現し始めた。
もしかして、それで守ろうと………。
「クソっ!やっとの事でここまで来たのに!!」「ラテ!!今のうちに[ジュプトル]を倒そう!!」
「うん!!気が動転している今しかないよね!!よし、ベリー、いくよ!!」
僕は意を決した、戦うと!!
「最初からそのつもりだよ!!」
「[火炎放射]!!」「[シャドーボール]!!」「何っ!?」
僕達は、相手に奇襲攻撃を仕掛けた。
ベリーは燃え盛る火炎を放ち、僕はそれに向けて漆黒の弾を撃ちだした。
黒い弾は赤い炎によってコーティングされ、えんじ色に変色した。
やった!初めて成功した!
「色が変わっただと!? くっ!!」
相手の目の前で、小爆発を起こした。
「ベリー、このままいくよ!![穴を掘る]!」
「うん!!一気にいくよ!!」
僕は地中に潜った。
………
sideベリー
「ベリー、このままいくよ!![穴を掘る]!」
「うん!!一気にいくよ!!」
ラテはかけ声と共に、地中に潜った。
よし、わたしも!!
わたしは立ちこめる砂煙に向けて走り始めた。
「[光玉]!!」
「うわっ!!眩しい!!」
突然、激しい光がわたしの視界を奪った。
っ!!
わたしは反射的に目を閉じた。
すぐに目を開ける。
「しまった!!見失った!!」「そこだ![真空ぎ……]……、あれ!?」
だけど、相手はそこにいなかった。
まさか、目くらまし!?
そこには、虚しくラテが空をきる光景だけがあった。
「よそ見をするな!![穴を掘る]!!」
「!?下から!?っっ!!」
「ベリー!!」
足元の地面が裂け、相手が姿を現した。
当然反応が遅れて、わたしは大ダメージを…………受けた。
………っ!…………強い………。
効果は抜群で…………、わたしの意識は…………闇に沈んだ…………。
ラテ……………、あとは…………………頼んだよ………………。
………
sideラテ
「ベリー!!」
僕がパートナーの悲鳴を聞き、慌てて振り返ると、まさにベリーに攻撃がヒットした瞬間だった。
「…………すまんな……」
「よくも………ベリーを………。[シャドーボール]!!」
僕の心の奥底から、燃え盛る何かがこみ上げた。
僕は漆黒の弾に怒りの感情を乗せた。
「!!?[高速移動]!!」
相手は僕の弾より速く動いて、難なくかわした。
………クソっ!
相手は勢いそのままに、僕に急接近する。
くっ!!速い!!
「[真空切り]!!」「[リーフブレード]!!」
同時に技をだす。
僕は圧縮した刃で切り裂き、相手は緑色の長刀で切りかかる。
「「くっ!!」」
結果、相打ち。
でも、まだまだだ!!
「[シャドー………]……」「[リーフ………]……」
両者が次の技を出そうとした時、
「…味方同士で……ご苦労だったな………。[シャドーボール]。」《そこまでよ!!バトル………!!?シャドウ!?》「なんで、なんでシャドウがここにいるのよ!!」
僕の斜め右後ろから1つ、左後ろから1つ、頭の中に1つ、声が響いた。
「「!!?」ぐっ!!!………誰……………?」
背後から何者かの攻撃を受け、僕は戦闘中にも関わらず意識を失った。
………………声の………持ち主を……………確認する…………前に…………。
………
sideシルク
「…味方同士で……ご苦労だったな………。[シャドーボール]。」《そこまでよ!!バトル………!!?シャドウ!?》「なんで、なんでシャドウがここにいるのよ!!」
私達4人は全速力で走り、短時間で最奥部に到達した。
私はありったけの力で念じ、チェリーは思わず驚きの声をあげた。
ほぼ同じタイミングで、事の黒幕、シャドウがラテ君に向けて漆黒の弾を命中させた。
ラテ君は何の抵抗も出来ずに力尽きた。
「ラテ君!!」「ベリー!!」
フライとウォルタ君も、精一杯………、!?まさか、ベリーちゃんも!!?
私達は慌てて駆け寄る。
「くっ、まさかお前がこの時代に来ていたとはな………。シャドウ!!」
「当然だ!」
おそらく、2人は私達に気づいていないわ…。
「チェリー、あの[ジュプトル]がグラスさんね。」
「そうよ!」
「………やっぱり、ぼくの思った通りだ………。」「ある程度は覚悟していたけど、どうしてラテン君まで………。」
「なら、今すぐにでも止めないといけないわ!![絆]の名に賭けて………。[ベノムショック]、[シャドーボール]、[サイコキネンシス]!!」
とうとう、本性を現したわね!!
私は気づかれないようにシャドウに撃つための暗紫色の弾を生成した。
「グラスさん!!」
「チェリー!!?」「!?」「拡散!!」
私は超能力を駆使して弾を細かく分裂させ、それで奴を8方向から取り囲んだ。
「チェリー!!今すぐ逃げろ!!」《シャドウ!あなたの正体はしっているわ!!絶対に、グラスさん達には手出しはさせないわ!!収束!!》「フライ、ぼく達も加勢するよ!!」「!!?シルクさん!!?」
奴を中心に小球を凝縮させた。
「チェリー!!そいつ等は何者だ!?」「ぐっ!!! ………ダメージが、無い!?」「もちろんだよ!!シルク、受けとって!!「[目覚めるパワー]!!」」
私とフライはそれぞれ暗青色、紺の弾を作り出した。
それらを私は拘束する。
「グラスさん、私達の協力者よ!!」「くっ、いつから私の正体に気づいていた!!」「[10万ボルト]!」「ぼくも、[水の波動]!」
今度は電塊を作り出し、ウォルタ君からは水塊を受けとった。
「協力者!?」「[時の歯車]の場所を絞り込んだ時だ!![岩雪崩]!」「[ベノムショック]!」
紫をエネルギーを生成。
そして、複数の岩石も拘束する。
「そうよ!」「[シャドーボール]!あとは、[木の枝]!」
漆黒のエネルギーを創り出すと、私の頭上には暗青色、紺、水色、黄色、紫、茶色、黒、そして[木の枝]の緑が漂う。
過去最高の8色。
これだけのエネルギーは扱ったことがないけど、私は本気よ!!
………
sideウォルタ
シルクの頭上に、沢山のエネルギーが漂っている。
それに、今までに感じたことが無いシルクの雰囲気………。
……本気で、戦う気だ………。
なら、ぼくは万が一の時のために……。
(シロ、聞こえる!!)
《ウォルタ殿、切羽詰まった様子でどうしたんだ!?》
シロに応援要請。
ラテ君もやられて、いやな予感は的中してしまった………。
(今すぐに[水晶の洞窟]にある湖に来れる!!?)
《御意!!拙者は今、丁度[テレポート]を使える古い友人といるところだ!だから、今すぐに2人で向かう!!》
(うん!!頼んだよ!!)
よし、これで、最悪な状況は免れた。
「くっ!!お前ら、総攻撃だ!!」
[真実の力]で交信を終えた途端、シャドウの声が響いた。
………
sideハク
「!!?今、凄い音がしなかった!?」
「……確かに、自分にも聞こえました!!」
ウチらは途中でギルドのメンバーと合流し、轟音のした湖に向けて速度をあげた。
「と、とにかく、急ぐよ♪!!」
「言われなくても、」
「そのつもりでゲス!!」
もしかしたら、先に進んでいるシルク達か、ラテ君達のどっちかが盗賊と戦っている最中かもしれない!!
「シリウス!!ウチらはいつでも戦えるように、準備するよ!![竜の舞]!」
「もちろんだ!![影分身]!!」
シリウスも完全に戦闘モード。
待ってて!すぐに行くから!!
………
sideフライ
「なら、あなた達も私の敵という事だな!!」
シャドウは、今までの様子からな考えられないような形相になっていた。
………まるで怒り狂う般若そのもの………。
今の彼は何をしても不思議じゃない!!
ボク達も本気で戦わないと倒される!
「[真実]を背負う者として、負けるわけにはいかない!!」「最初からそのつもりでボク達はここに来たんだ!!」
「お前ら、総攻撃だ!!」
「「「「「「「「ウィーーー!!!」」」」」」」」
「「「「「!!?囲まれた!?」」」」」
ボク達は突然、どこからともなく現れた8匹の[ヤミラミ]に囲まれた。
まさか、シャドウの手下!?
「「「「「「「「[金縛り]!!」」」」」」」」
8方向から技を…っ!!…出された。
くっ!!動けない!!
完全に、形勢逆転されられた……。
「「「「「「「「[シャドーボール]!!」」」」」」」」
「「「「「っ!!」」」」」
ボク達は為す術がなく、くっ!!まともに………漆黒の弾を………受けた。
一発は………それほどでも……無いけど………、身動きが取れないと………なると……、ダメージが倍増する……。
[代償]の効果で守りが弱いシルクは、もう力尽きる寸前………、意識が
朦朧としているよ………。
この攻撃で、シルクが溜めていたエネルギーもすべて雲散、空気と化した。
ボク、シルク、ウォルタ君、チェリーさん、グラスさんは完全に丸腰………。
打つ手が無い………!!
まさに絶体絶命………、逃げ場が無い!!
「グラス………、チェリー……貴様等のもくろみもここまでだな……。」
「クソッ!やっとここまで来れたのに!!」
誰もが最悪の結末を覚悟したその時、
「!!?今度は何だ!?」
ボク達のすぐそばに光が集まり始めた。
この光は………[テレポート]の………?
すぐにその光が収まった。
しかし、そこにはさっきまでいなかったふたつの影………、
「ウォルタ殿!!!」「チェリー!!!」[レシラム]と[セレビィ]………、もしかして、ウォルタ君が呼んだの!??
突如現れた光は、ボク達に[希望]をももたらした。