伍拾八 輝く水晶、チェリーの想い
西暦7000年 水晶の洞窟奥地 sideラテ
「ベリー、ここが一番奥みたいだね。」
「うん。………にしても、凄いね、ここ。」
僕達は順調に進み、遂にダンジョンの奥地にたどり着いた。
ベリーの言うとおり、見事な光景が広がっているよ。
鋭利に突き出した水晶の小部屋に、柱みたいな結晶が4本そびえ立ってる。
色も違っていて、薄紫色、茜、碧、浅青色に輝いているよ………。
更に、柱の中心にはひときわ大きな結晶が鎮座…………。こんなに大きな水晶は見たことないよ………。
でも、水晶は同じだけど、[時空の叫び]で見た景色とは違う………。
第一に、こんなに大きな結晶は無かった。
もしかして、空振り………?
でも、ブラウンさんが持ってきた結晶はここの物のはず………。
「……うわっ!ラテ!!水晶の色が変わったよ!!」
「えっ!?」
僕はベリーの感嘆の声で我に返った。
えっ!?色が!?
ベリーのほうを見ると、さっきまで茜色だった水晶が淡黄色に変わっていた。
どういう事!?
ベリーは間髪を入れずに別の水晶にも触れた。
「!!?本当だ!!今度は碧色が紫色に変わった!?」
ベリーが触れた水晶は、音をたてて変色した。
これはもしかして、何かの仕掛け?
そういえば、[霧の湖]の時も[グラードンの像]の謎を解かないといけなかった。
昨日の[地底の湖]だって、思いもしない所に隠されていた。
………っていう事はもしかして、この先にも道が続いている!?
「ラテも触ってみたら?」
「うん!僕も気になることがあるから、触ってみるよ!」
ベリー、言われなくてもそのつもりだよ!!
僕は前脚で浅青色の水晶に触った。
「!? 今度は碧色に!?」
また色が変わった!?
「それにしても不思議だね。わたし、こんな水晶初めて見たよ。」
「僕もだよ! ベリー、僕はこの水晶が何かの仕掛けになってると思うん…………」
……だ……。
そう言おうとしたら、あの目眩……、[時空の叫び]が……。
「ううっ……。」
僕は前脚で割れるように痛む頭を押さえてうずくまった。
「ラテ!?大丈夫!?………もしかして、[時空の叫び]が発動したの!?」
ベリーが僕を心配そうに覗き込む。
「……………かもしれないよ……。」
それだけ言うと、僕が見る世界が闇に包まれた。
やがて、一切の物音が聞こえなくなる。
辺りは静寂に包まれた暗闇……、何も見えない……。
「…………そういうことか!!つまり、水晶の色を青色に揃えればいいんだ!!」
この声は………、[霧の湖]の時と同じ声………。
きっと同じ人……。
「[アグノム]を表す色は[青]だからな。」
今度は別の声!?でも、どこかで聞いたような………。
「さすがは[グラス]!!僕だけでは解らなかったよ!」
「いや、[ラツェル]の閃きが無ければ解らなかった!」
いつも聞いていた人の声、やっとわかったよ!!
あの人の名前は[ラツェル]!シロさんに乗せてもらっている時に聞いた声もきっとそうだ!!
「流石、僕のパートナーだ!」
ここで、声が途切れた。
しばらくすると、僕の意識が覚醒した。
「………どう?何かわかった?」
「……うん。何とか謎が解けそうだよ……。」
僕はうっすらと笑みを浮かべた。
「なら、ラテに任せるよ。」
そう言うと、ベリーは一歩下がった。
………ええっと、整理すると、色を青色に揃えればいいんだっけ?
それに、[ラツェル]と[グラス]って誰なんだろう……。
[ラツェル]っていう人は僕の声と似てた気がするけど……。
……でもまずは水晶の謎を解かないと!
「ええっと、確か青色に揃えればいいんだっけ?」
僕は再度、確認しながら水晶に近づいた。
一回、二回………、
4本の柱は次第に一色に統一されていく……。
「………よし、と。これでいいかな?」
時計回りに揃えていき、元の場所に戻ってきた。
「青………?でも、どうして?」
「聞こえた声が[青]に揃えればいいって…………」
言ってたんだ……。
そう言おうとした時、
グラグラグラ……と、轟音をたてて洞窟が震れ始めた。
「「!!?」何!??」
僕達は揺れに脚をとられながらも、何とか水晶から距離をとった。
一体何が!?
僕達は互いに身体を支えあった。
「………収まったた………?」
「……みたいだね……………。」
揺れが収まり、僕は堅く閉じていた目を恐る恐る開けた。
「うわっ!!何、あれ!?」
「もしかして、洞窟の入り口!?」
「ラテ!!さっさまでなかったよね!?」
うん!!あんな穴、なかったよ!!
やっぱり、この4本の水晶が鍵になっていたんだ!!
「もしかすると、まだ続きがあるのかもしれないよ!!」
「行ってみよう!!」
「うん!!」
っていう事は、この先に昨日見た光景があるかもしれない!
僕達は互いに視線を合わせて、頷き合った。
そして、突如として姿を現した水晶のアーチをくぐった。
………
数十分後 sideウォルタ
「とりあえず、ダンジョンは抜けたわね。」
「うん。 それにしても、ほんとに綺麗だよ。[デコボコ山道]の光景に匹敵するよ、きっと。」
「ねえ?その[デコボコ山道]ってどんな所なの〜?」
ぼく達はここまで和気藹々と歩みを進めてきた。
………何度かモンスターハウスに足を踏み入れちゃったけど、3人で協力して難なく突破したよ。
「俗に言う、活火山よ。常に火山灰が降りそそいでいたわ。」
「灰に光が反射して、凄く幻想的だったんだよ。」
へえ〜、一度見てみたいな〜。
「でも、私達の時代だから、ウォルタ君は行けないわね。……シードさんに頼めば話は別だけど……。」
そうなんだ……2000年代の場所なんだね……。
「……ふぅ、やっとここまで来れたわ……。一人で突破するとなると、やっぱり厳しいわね……。」
ぼく達が話をしていると、疲弊しきった声が辺りに響いた。
「チェリー、やっぱりあなたもここに来たのね?」
「えっ!?シルクにウォルタ君、それにフライさんも!?どうしてここに………。」
突然のぼく達の登場に、チェリーは驚きに押しつぶされている……。
チェリー、君の目的地はわかっているよ……。
「真の黒幕の野望を阻止するためにね。」
「チェリー、あなたには止められたけど、どうしても目をつむることが出来なかったわ……。ごめんなさい……。」
フライがぼく達の目的を語り、シルクがチェリーに向けて謝罪した。
ぼくも、[真実]を知った以上、無視は出来ないよ……。
それに、7200年代ではコンビだった2人の衝突を避けるためにも、そこに行かないといけない。
たぶん、嫌な予感がしているのはそのせい………。
「チェリー?1つ聞きたいんだけど、あの時、別れ際に漏らした言葉って………。」
場の空気はそのままで、シルクは真剣な表情で言った。
あの時って、昨日の事かな‥……?
「…………[タイムパラドックス]って知ってる……?」
「「「[タイムパラドックス]?」」」
ぼく達は知らない単語を耳にして復唱した。
「そう……。[過去]があって[現在]、[現在]があって[未来]があるでしょ?その[現在]を変えたらどうなると思う?」
チェリーも真剣に話しはじめた。
「[未来]が、変わる事になりますね……。」
フライが一言ずつ区切って答えた。
「その通り。その時、[矛盾]が発生するわ……。」
「確かに。あるはずの出来事が起こらなくなるから、既存の[未来]は存在しなくなるわね……。」
場に思い空気が流れた。
「その結果、既存の[未来]のポケモンはどうなると思う?」
立て続けに問題を投げかける。
「「「…………その[未来]のポケモンが存在しなかった事になる………。」」」
ぼく達は恐る恐る口を揃えた。
「そう……。この時代は、このまま進むと[星の停止]を迎えるわ……。でも、その結末を変えると、既存の[未来]の住民、つまり、わたしとグラスさん、ラツェルさん、奴まで消滅する事になるわ………。」
「「「…………」」」
ぼく達は衝撃的な[真実]に、言葉が出なかった。
……………もしかして、チェリーはラツェルさん…………、ラテ君が[過去]の人物って事を知らない………、かもしれない……。
「………この時代に来る前は、この世に未練なんて無かった………。わたしはただ、真っ暗で変化のない、[無]に染まったつまらない世界を変えたかった………。でも、この時代に来てから………、わたしは変わった………。」
チェリーの瞳が涙で潤み始めた。
「………この時代に来てから3日目……、わたしは同族のシードに出逢った……。………彼に一目惚れしてしまったわ……。彼もそうだったみたいで、苦しくも、わたし達は両思い、かけがえのない存在になってしまったわ………。」
チェリーの頬を、幾つもの光が緒を引いて流れ落ちた。
…………心が痛むよ………。
「………彼と同じ[時]を過ごしていると、今までに感じたことがない幸福感に満たされたわ……。でも、この時代に来た以上、後戻りは出来なかった……。出逢ってから1週間経ってから、わたしは意を決して彼に全てを話したわ………。暗黒の[未来]の事も………、わたしが消滅する事も………。シードは受け入れてくれたけど、内心はわたし以上に辛かったはず………。でも、話した後の彼のわたしに対する態度は全く変わらなかった………。むしろ、わたし達に協力してくれるようになったわ………。とても嬉しかったけど、いずれ来る永遠の別れを思うと、胸が苦しくなったわ……。………………もし、可能なら、もっとシードと楽しく過ごしたい………。[生きたい]……!シルク達とも、まだ温泉に行ってないし、もっと色んな場所にも行きたい!!…………でも、それは成す事が出来ない儚い[夢]………。」
とうとう、チェリーは泣き崩れた………。
チェリー………………。
「チェリー…………。そんな思いで、今まで過ごしてきたのね………。」
ゆっくり振り向くと、シルクからも暖かいものが流れていた。
「チェリーさん………、チェリーさん達が消滅する[未来]があるように、チェリーさんが消滅せずに、今と変わらない[未来]もあるはずだよ………。……よく考えてみてください。本来なら、ボクとシルクはこの時代には存在しないはず……。だから、この時代は少なからず変わっている事になる。」
フライが、ゆっくりと優しく話しはじめた。
「確かに、そうかもしれないよ…………。ぼくも、シルク達と出逢ってなかったらここまで強くなってなかったし、なにより[真実の英雄]に任命されてなかった。………[未来]が変わっているはずなのに、チェリーの知っている通りに事が進んでいるよ……。2人がいなかったらこの時代は無かったはずなのに………。」
だって、そうでしょ?
シルク達と出逢ってなかったらぼくはチェリーと出逢ってないし、昨日も、ベリーとラテ君は[時]を止める波に飲まれていたかもしれない………。
もっとさかのぼると、[エレキ平原]の時だって、シルク達と出会ってなかったら、そこで力尽きていたかもしれない……。
シロも駆けつけて無かった………、いや、シロとは出逢ってなかった。
もっとさかのぼると、ぼくはこうして[考古学]の真髄に触れることは無かった。
全ての始まりはあの時、あの場所で2人と偶然出逢ったのが始まりだった………。
「………だから、チェリーも、グラスさんも、ラツェルさんもちゃんといて、今と変わらない、あかるくて楽しい、変化がある[未来]もあるはずだよ〜。」
「…………フライさん、ウォルタ君、ありがとう………。[希望]を持たないとね……。元気がでたよ!」
チェリーは溢れる涙を拭いながら、[希望]を含めた笑みを浮かべた。