泗拾九 ウォルタの思い
西暦7000年 言霊の森奥地 sideシルク
〈…………わかったわ。〉
チェリー、その事を自分なりに調べてみるわ。
………私1人で……。
「チェリー、伝えておくわね。」
「うん。頼んだよ。」
10分にも及ぶ無言の会話がおわった。
「シルク、終わったね?」
「何が終わったん? ずっと黙っているようにしか見えんかったけど……。」
ハクが不思議そうに私に尋ねた。
「シルクは[テレパシー]を使えるんだよ〜。」
「………[テレパシー]を、ですか?」
「ええ。 元の時代で練習したから使えるようになったのよ。」
「えっ!?でも、[テレパシー]って、伝説のポケモンの専売特許のはずやんね??」
「シルク曰わく、経験さえ積めばエスパータイプのポケモンは誰でも使えるらしいんだよ。」
疑問の輪廻に囚われているハクに、フライがいつものように説明……、これは一体何回目かしら?
「………みたいなのよ。わたしもその事を知ったときはビックリしたわ。[テレパシー]はわたしみたいな伝説のポケモンにしか使えないのが常識だからね。」
「えっ!?あなたって伝説のポケモンやったん!?」
ハクが驚いて声を荒げた。
………ハク、あなたは今日は驚かされてばっかりね……。
きっと今日という日を忘れられないかもしれないわね………。
「うん、そうだよ! もしかして、もっと大きなポケモンかと思った?」
チェリーが笑いながらハクに言った。
「えっ、ええ。小さい頃から聞いていた昔話では、大きなポケモンばっかりやったから……。」
「わたしの種族、[セレビィ]にはあまりパッとした伝承はないからね……。強いて言うなら、[時]を越えられるぐらいかしら?」
チェリーが少し暗めの声で言った。
「[時]を………?」
「………そうだよ。自分も、この時代に来る時に、彼女ではないけど、お世話になったんです……。」
チェリーの言葉を聞いて、シリウスが辛そうな表情で言った。
…………何か、あったのね……。
「………ということは、あなたがシードが言っていた[アブソル]?」
「…………はい。」
シリウスがいつになく暗い声で言った。
「…………、辛い事があったみたいだから、聞くのはやめておくわね……。…………話したいことも伝えれたらし、わたしはそろそろ失礼するわね。」
シリウスの気持ちを察して、チェリーは無理やり話を終わらせたわ。
……確かに、そのほうがいいわね………。
「そうだね。そろそろ夕方だから、ボク達も帰る事にするよ。」
「そうやな。門限もあるし、間に合わないかもしれやんからね。」
「うん。チェリー、今度、約束していた温泉に行こうね〜!」
私達は互いに別れを惜しんだ。
「うん。またその時にね!」
「ええ、その時まで!」
元気でね!チェリー!
チェリーは、一通り私達を見ると、一度微笑んでから飛び去った。
《…………本当は行きたいけど、奴のせいで……会えないかもしれないけど……。……それに、シルク達といろんな場所に行きたかった…………。》
私だけに心の叫びを残して…………。
チェリー、それってどういう事??
「………じゃあ、ウチらも帰ろっか!」
「うん。ハク、頼んだよ!」
それだけ言うと、ハクは尻尾でバッチを掲げた。
私達を光が包み、一瞬で私達は姿を消した。
………
ギルドB2F sideウォルタ
「………フラットさん、今帰りまし……あれ?皆さん、集まってどうかしたんですか?」
ぼく達が地下2階に降りると、何か張り詰めた空気でギルドのメンバー全員が揃っていた。
「フライさん、シルクさん、ウォルタ君、それに“明星”のお二人も、大変な事になってしまったんです!!!」
「ふ、フラットさん、まず落ちついて!」
「フラット、らしくないですよ…。」
フラットさん、取り乱しすぎじゃないかな〜?
でも………、ん? みんなの陰ではっきり見えないけど、この声は、もしかして…………
「母さん!?」「ウォルタ!!どうしてあんたがここに!?」
やっぱり、♀の[ラグラージ]………、[探検隊連盟]の幹部役員の母さんがそこにいた。
どうして〜!?
普段は本部にいるはずなのに!?
「えっ!?もしかして、ハイドの一人息子って、ウォルタ君♪!?」
「………そうだよ………。この人がぼくの母さんだよ……。」
「「「「「「ええーっ!!?」」」」」」
ここにいるみんなが驚いて声をあげた。
「えっ!?ウォルタ、それって本当なの!?」「ウォルタ、やっと探検隊になる気になったの………」
「母さん、だから、ぼくは探検隊にはならないって何回言ったらわかるの〜!!」
ぼくは母さんの言葉を遮った。
「ならないって、まだそんな事を………。よりによってあの人と同じ考古学者なんかに……」
「“なんかに”って………、今すぐに父さんとシルクとフライに謝ってよ!!」
母さんったら、どうしてぼくの思いを聞いてくれないんだ!!
会ったことがないけど、尊敬している父さんを悪く言うなんて……。
ぼくだけならともかく、シルク達をもけなすなんて……。
「………こんなに怒ったウォルタ君、初めて見るわ……。」
「あんな人にどうして謝らないといけないのよ!!よりによって家庭の事なんて気にとめない、自分の事しか考えない考古学者なんかに…。」
「「!!?」今、何て言いました!?」「っ!!考古学者は、そんなんじゃない!!それは偏見だよ!!ぼくがなりたい考古学者をどうしていつも何時も悪くいうんだ!!」
「………私達までけなされた気がするのは気のせいかしら………。」「それは、あんな人と同じ道を歩んで欲しくないからよ!!!」
「………もういいよ。母さん!母さんが間違っていることを実力で証明するよ!!それに、母さんだってぼくの事なんか構わずに仕事に明け暮れていたじゃんか!!」
これだから、母さんは嫌いなんだ!!
ぼくの事を省みないくせに、ぼくの将来を強制する………。
ぼくの未来は他人に決められる筋合いはないよ!!
「………わかったわ!!そのかわり、あんたが負けたら考古学者なんて諦めるのよ!!」
「望むところだよ!!母さんなんかにぼくの将来を決められてたまるものか!!!」
ぼくは怒り、憎悪を込めて母さんを睨んだ。
「と、と、と、とにかく、ここは落ちついて………」
「「五月蝿い!!フラットは黙ってて!!!」」
これは、ぼくの戦いだ!!
誰にも邪魔はさせない!!
「絶対にやめさせる!!」
「やめてなるものか!!」
「[水の………]……」「[ハイドロ…………]………」
「もう、いい加減にしなさいよ!![サイコキネンシス]!!」
「「っ!!」」
突然、シルクに止められた。
邪魔しないでよ!!
「2人とも、ここをどこだと思っているのよ!!もっと周りをよく見たらどう!!」
シルクが怒号混じりに言った。
「ここはギルドの中、それに、これだけたくさんいるのよ!!ここで戦ったらどうなるとおもう!?当然怪我人がでるわ!!それに、ここの設備や備品に被害が及ぶわ!!………2人の気持ちもわかるけど、もっと状況を把握しなさいよ!!」
「「…………」」
………………、シルク、正論だよ……。
「それに、怒りに身を任せて……しかも血の繋がった肉親と喧嘩だなんて…………、私の身にもなってよ!!血の繋がった親族がいない私のことを……!!」
シルクが涙を流して訴えた。
シルク…………。
「私には………、家族喧嘩したくても…………する親が………いないんだから…………。」
シルクが嗚咽混じりに言った。
………………………………………………。
沈黙…………。
……………気まずいよ…………。