泗拾六 検挙率No.1の実力
西暦7000年 言霊の森 sideウォルタ
「ここに来るのも1ヶ月ぶりね。」
「うん。前に来たときは遠征だったね。」
「そういえば、そう言ってたね〜。」
ぼくは空中で羽ばたきながら言った。
……最初のうちは墜落しかけたり、体勢を崩したりしていたけど、今では普通に飛べるようになったよ〜。
[トレジャータウン]を出てからずっと飛んでるから、コツを掴めたよ〜。
これで、技さえ使えれば完全に[ウォーグル]になれるよね?
「シルク、ウォルタ君を置いてきてしまったけど、大丈夫やったん?」
ダンジョンの入り口に着いて、ハクがシルクに疑問をぶつけた。
………ぼくはここにいるけどね〜。
「………それに、[ウォーグル]の彼、進化系にしては飛び方に違和感がありますけど………。」
シリウスもぼくを不思議そうに見つめた。
「ハク、シリウス、ウォルタ君はちゃんとここにいるわ。」
「えっ!?でも、ウォルタ君は[ミズゴロウ]やったよね?」
シルクの言葉を聞いて、ハクが驚いて振り向いた。
ここでぼくは、地面に降りて翼をたたんだ。
「……あと、彼は一体……」
「シリウス、その事についても一緒に話すよ。 見てもらったほうが早いかな?……」
シリウスの言葉を遮って、フライがシリウス、ぼくの順番に見て言った。
………ぼくの正体を明かすのは初めてだから緊張するよ〜。
「……じゃあ、頼んだよ。」
フライが真顔で言った。
………いよいよだね…。
「うん……。」
ぼくは一度頷き、両目を閉じた。
………刹那、ぼくは眩い光に包まれる。
「えっ!?」「!?」
次第に、ぼくの身体は実体がなくなり、それがかたちを変えはじめた。
光は別のかたちを形成し始める。
その後、ぼくの身体は実体化し、光が弱まっていく……。
「………こういう事だよ〜。」
ぼくは目を開けて本来の姿、[ミズゴロウ]の姿で言った。
「えっ、いや、でも、どういう………。」「………種族が………変わった!?」
2人共パニック寸前……、特にハクが……。
「そうよ。ウォルタ君は[ミズゴロウ]だけど、[真実のチカラ]で[ウォーグル]にもなれるのよ。」
シルクが打ち上げられた魚のように口をパクパクさせているハクを落ち着いた眼差しで見つめながら言った。
シリウスは、……もう落ち着いているよ。
「[真実のチカラ]………。聞いていたのとは違いますが、これが噂に聞いていた[チカラ]ですか……。」
シリウス?もしかして[チカラ]の事を知っていたの!?
「聞いていたって事は、もしかして……」
「…………いいえ、自分のトレーナーがスクールに通っていた時に授業で習ったので……。」
フライが珍しく言葉を遮られた。
フライ、慣れないからちょっとビックリしているね。
「「[トレーナー]?[スクール]?それって何なの〜?/それって何なん?」」「シリウスも私達と同じで[トレーナー]のポケモンだったのね。」
現代組のぼくとハクが、知らない単語を耳にして首を傾げた。
「………はい。ということは、シルクもですか?」
「ええ。フライも私と同じなのよ。」
「うん。ボク達のトレーナーは考古学者だったから………、もしかすると名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれないね。」
三人の間で、話が波に乗りはじめた。
「………ウチら、話に乗れなかったね……。」
「うん。………三人は時代は違うけど、[過去]のポケモンだから、仕方がないよね………。」
取り残されたぼく達はボソッと呟いた。
………盛り上がってるね……。
「ウォルタ君、三人を呼び戻したほうがええね。」
「……そうだね〜。ぼく達だけ取り残されちゃったからね……。」
このままだと、いつまで経っても進めそうにないよ……。
水を差すけど、仕方ないね…。
「「………シルク、フライ、シリウス、そろそろいいかな〜?/そろそろええかな?」」
とうとうぼく達はしびれを切らして3人に訴えた。
シルク達、本来の目的忘れてない〜?
「あっ、ごめんごめん、つい盛りあがって……。」
「……すみません……。」
「あっ、ごめんなさい!!」
三人か慌てて話を終わらせた。
待っていたのはぼく達だけど、何か申し訳ないね……。
「ウチらは全然気にしてないから、そろそろ行こっか?」
ハクが気まずい雰囲気を、持ち前の明るさで取り繕った。
………やっと進めるよ…。
「えっ、ええ。そうね。」
シルクが言ってから、ぼく達は薄暗い森に足を踏み入れた。
………
数分後 浅奥部 sideハク
「……さっそく来たわね!」
シルクが、待ってましたと言わんばがりに期待の声をあげた。
シルクも実力があるみたいやけど、どのくらいなんやろうね。
たのしみやわー!
……でも、まずは……。
「ここはウチらに任せて!」
私は高鳴る胸の鼓動と共に、シルク達に言った。
だってウチらは探検隊、それらしい所を見せやんとね!
「わかったわ!なら、任せたわよ!」
「丁度2人の戦い方を見たかったしね〜。」
シルク達は笑顔で答えてくれた。
「………じゃあ、始めようか!」
シリウスが闘志をむき出しにして言い放った。
……実は、シリウスは戦闘になると性格が変わるんよ。
「もちろん!![竜の舞]!」
「[影分身]!」
ウチは一度相手……[チェリネ]、[ユニラン]、[ゴース]、[ヨマワル]の4体……に睨みを利かせてから志気を高めた。
シリウスは3つの分身を作り出した。
……さあ、戦闘開始や!
「[瞑想]!」「[はっ葉カッター]!」「シリウス、いつもの行くで![10万ボルト]!!」
「……任せろ!………。」
ウチは体内から高電圧の電撃を放ちながら接近を開始。
この時点で距離は3m……。
4人のシリウスは相手を取り囲み、彼の周りに空気の渦を発生させた。
2m……、
ウチの電撃が相手の技を打ち消す。
1m………、
「[逆鱗]!」
ウチは技を発動させ、鬼神の如く相手に襲いかかる。
ウチの身体はながいから、この距離でも届くんよ。
0m……、
「っ!!」
1、
「!??」
2、
ウチは確実に技を命中させる。
3、
「っっ!!!」「ハク!!」」
ウチの背後からシリウスの合図。
4、
「わかった!!」
ウチは技を解除。
そして、
「[アクアテール]!!」「[かまいたち]!!」
瞬時に尻尾に水を纏う。
それを思いっきり地面に打ちつける。
それと同時に、ウチと相手を囲む四方から風の刃が放たれた。
ウチまで4m……。
3m……、
ウチは技の反動で上向きに力を受ける。
2m……、
勢いそのままに、ウチは上空に投げ出される。
1m……、
「[10万ボルト]!」
体勢を変えながら再び電撃を放つ。
0m……、
「「「「っ!!!」」」」
ウチらの技がほぼ同時に命中した。
ウチは重力に引かれ、そのまま着地。
風の影響で砂埃が立ちこめる……。
砂埃が晴れると、目を回した4体が崩れ落ちていた。
「………よし!……ウチらはこんな感じやよ!」
「………技を使うほどではなかったですね……。」
シリウスも技を解除。
確かに、言うほど強くなかったかな。
「すごいよ〜!」
「全く隙がなかったね。」
「1つ1つの技の威力も高いわね。」
ウォルタ君が目を輝かせながら言って、フライとシルクもウチらを賞賛してくれた。
「……見た感じ、2人ともまだ肩慣らしって感じね。」
「………シルク、ウチら、力のだし具合を見抜かれたのは初めてやよ。」
まさか、全力を出してない事を見抜かれるなんて、予想外やよ……。
シルクの観察眼、すごいやん。
「………どうしてわかったのですか?」
シリウスが、冷静に聞いた。
………彼の心の強さにもおそれいるわ……。
「…長年の勘、かしら?」
「シルクの戦闘歴は10年以上だから、かな?」
「正確には、13年よ。」
シルクが笑顔……えっ!?13年って、6歳の時から闘ってることになるやん!?
「……そんなに長かったのですね…。」
ウチが6歳の時は………、確か友達と遊びに明け暮れていたっけ?
「みたいだよ〜。ちなみに、ぼくはまだ2年目だよ〜。」
ウォルタ君がのんびりとした口調で言った。
会ったときから思ってたけど、ウォルタ君ってマイペースやな。
………………にしても、シルクってそんなに長い期間闘ってるんやな?
シルク達の戦法、どんな感じか気になるわー。