泗拾伍 事件の予兆
西暦7000年 部屋 sideフライ
「そして、ぼくはこの時代の……、17代目の[真実の英雄]なんだよ〜。……ぼくはまだ任命されて1日しか経ってないけどね〜。」
シルクに続いてウォルタ君が正体を明かした。
ハクさんとシリウスさん、キョトンとしてるね……。
「シルクさん、あなたって偉人やったんやね……。」
「………ウォルタさんも、すごいですよ……。」
2人とも、本当に呆気にとられているね。
まだ会って間もないけど、結構喋っているハクさんが黙っちゃったし……。
まっ、無理ないよね。
シルクに至っては歴史の登場人物だし。
ウォルタ君は伝説では重要な位置付けだから。
…………よく考えたら、ボク達三人は誰も普通ではないよね。
ボクもこの時代のポケモンじゃないし…。
………その代わり、知識は誰にも負けないけどね。
「………私事だけど、私達の事は普通に[さん]付けしないで呼んでくれるかしら?年下というのもあるんだけど、私、敬語を使われるのはあまり好きじゃないのよ。…………一部を除いてね。」
シルクは笑顔で語った。
シルクの笑顔、♂のポケモンに対してはかなり殺傷能力があるよ……。
実際に、ブラウンさんはシルクがいる時、いつも赤くなってるし……。
…………あれは絶対に惚れてるね。
でもボク達は過去のポケモン、叶わぬ恋だよ。
……切ないね………。
「うん!なら、ウチのことも遠慮せずに[ハク]って呼んでええよ!もちろん、フライとウォルタ君もね!」
ハクさん改め、ハクも澄んだ笑顔で答えた。
……♂のボクから見ると、多分この2人の競争率は高いだろうね。
「うん!じゃあ、よろしく、ハク!」
ボクは親しみを込めてハクの名前を呼んだ。
「……シルク、フライ、ウォルタ君、よろしくお願いしますね……。」
シリウスも律儀に答えた。
シリウス、ラテ君と仲間の1人に匹敵するぐらい礼儀正しいね……。
「ええ、こちらこそ!」「うん!よろしくね〜!」
ボク達は互いに握手を交わした。
シルクの言葉を借りると、[絆]の橋が架かったね。
………
深夜 霧の湖 sideベガ
「…………くっ!………やっぱり………あの人達の……………[記憶]を…………消すべきでしたね……………。………シードの言うことを……………信じずに…………。」
第一に…………シードは………[過去]のポケモン………。
この時代の……………っ!住民じゃない……。
「言っておくが、俺は何ヶ月も前からこの場所を知っていた。………」
自分を襲った緑色のポケモン………、[ジュプトル]が…………鋭い目つきで…………言い放った。
そいつは…………自分とは正反対で…………傷ひとつない…………………。
「…宣言通り、[時の歯車]をもらっていくぞ。これも[使命]を果たすためだ。……許せ。」
「……待って………、それだけは………。」
そいつは…………自分の言葉を無視して……………[時の歯車]が…………安置されている…………湖の中に………入っていった。
自分は…………その光景を…………見た時点で………視界が………闇に………包まれた。
………
翌日 部屋 sideシルク
「…………、んんー、もう朝ね……。」
私はいつものように日の出と共に目覚めた。
前脚を前にのばして伸びをする。
睡眠で硬直した筋肉をほぐして、
「………さあ、今日も一日が始まるわね!」
息を深く吸い、ゆっくりと吐く。
私は寝ている2人を起こさないように、声を細めて呟いた。
天気は晴れ、清々しい風が吹き抜けているわ。
「………今日も天気が良いから海岸に行こうかしら?」
もう朝一番に海岸に行く事は習慣になっているわ。
何も遮るものがなくて、景色もいいから落ちつけるのよ。
たまにそこで技の調子を確認したりしているわ。
私は、起こさないように足を忍ばせて、静まりかえっている部屋を抜けだした。
………
一時間半後 sideシルク
「…………それでは、今日も張り切っていくよ♪」
「「「「「おー!!」」」」」
フラットさんのかけ声と共に、新たな1日が幕を開けたわ。
やっぱり、こうでないとね、
ブラウンさんやシャインさんは、それぞれの仕事のために散り散りになっていった。
「シルク?ここっていつもこんな感じなん?」
朝礼が一段落すると、ハクが呆気にとれながらも私に質問したわ。
「ええ。これが日課なのよ。」
「それに、今日はなかったけど、この時に連絡事項とかが伝えられるんだよ。」
私に続いて、フライが説明を加えたわ。
これもいつもの事ね。
「………つまり、朝礼という訳ですね。……自分はこういうの結構好きですよ……。」
シリウスが、まだ眠いのか、大きな欠伸をしながら呟いたわ。
………きっと朝に弱いのね……。
「そういうことだよ〜。 シルク、フライ、今日はどこを調査する〜?」
ウォルタ君はハク、シリウスのほうを見、私達のほうを見て聞いたわ。
「そうね……、しばらくは調査は休みにして[チカラ]の実践練習をしましょ。」
「そうだね。忘れてるかもしれないけど、ボクとシルクは復帰してからまだ2日しか経ってないし、まだ本調子じゃないしね。」
そうだったわ、いろんな事がありすぎてすっかり忘れていたわ。
「だから、今日は練習を含めて[言霊の森]に行きましょ!」
そのなら、ウォルタ君にとっても都合がいいからね。
ダンジョンのレベルはシルバーぐらいだから、よっぽどの事がない限り大丈夫よね。
うん、そうね。心配ないわね!
「[言霊の森]?なら丁度ええね!ウチもそこに関する依頼が貯まってるんよ。」
「………確か………4つぐらいありますよ。………なら、一緒に行きませんか?」
「うん、賛成だよ〜!」
ハク達も?
いいわね!
私達も、丁度あなた達の戦法とかを見たかったしね!
シリウス、名案ね!
「じゃあ、シルク、フライ、ウォルタ君、一緒に行こっか!」
ハクが私達に呼びかける。
「ええ!」「うん!」「もちろんだよ〜!」「……楽しくなりますね。」
私達は高鳴る胸の鼓動と、期待に満ち溢れた声を揃えた。
「………みんな、ぼくはちょっと準備して来るから、先に交差点で待ってて!」
ウォルタ君、道具とかを買いに行くのね?
「わかったわ。皆は大丈夫かしら?」
「ボクは殆ど消費してないから大丈夫だよ。」
「ウチらも問題ないよ!」
「……自分も、必要な物は揃ってます。」
ウォルタ君以外は完璧のようね。
私達は、一度ウォルタ君を別れ、交差点で彼を待つことにしたわ。
………
数十分後 交差点 sideシルク
「………みんな、お待たせ〜!」
私達が雑談に華を咲かせていると、白いスカーフを首にかけた鳥ポケモンが空からバランスを時々崩しながら舞い降りたわ。
「[ウォーグル]? シルク、フライ、彼って知り合いなん?」
ハクは不思議そうに彼を見つめて私達に聞いたわ。
少し声が低い彼、もう誰かわかるわよね?
「2人ともよーく知っている人だよ。」
「………でも、自分達に[ウォーグル]の知り合いはいませんけど……。」
「ここでは話せないから、ダンジョンの入り口に着いたら話すわ。」
この時間帯は人通りが多いから、大変な事になるからね。
「そういう事だから、シルク、フライ、ハクにシリウスも、行こっか〜。」
「えっ!?なんでウチらの名前を知っているんや?」「……!?どうして自分達の名前を………。」
2人は、見知らぬ[ウォーグル]から名前を呼ばれて素っ頓狂な声をあげたわ。
……私とフライがクスッと、密かに笑ったのは2人には内緒ね?
それにしてもウォルタ君、飛べるようになったのね?
私も[電気ショック]ぐらいはだせるようになったから、大分[チカラ]が馴染んだという事よね。
もう1日半以上たったからね!
私達は、[言霊の森]に向けて歩き始めたわ。
………ハクとシリウスの頭上に疑問符が浮かんだまま………。