補之伍 シルクのチカラ
西暦7000年 交差点 sideシルク
〈フライ、シャドウさん、頼んだわよ!!〉
私は大声を出せないから、直接脳内に語りかけたわ。[テレパシー]でね。
……届いているけど、向こうからはたぶん聞こえないわね。
「………エレキ平原が危険って、なんでだろうね?」
2人を見送っていると、シズクちゃんが不思議そうに声をあげたわ。
「さあ、僕もわからないですよ。……シルクさんは何か知っていますか?」
「いいえ、私にもわからないわ。……空気が乾燥しているから、天候が不安定かもしれないわね。」
ブルー君に聞かれ、私は持論を展開したわ。
地学は専門ではないけど、天気は私にとっては凄く大切だから、それだけは把握しているわ。
気圧とか気温が物質の溶解に関係するのよ。
……っと、また話が逸れそうになったわね。
やっぱり、[化学]は奥が深いわ。
「空気が乾燥………?それと何の関係があるんですか?」
ブルー君が興味津々で私に質問したわ。
[英雄伝説]について話した時もそうだったけど、ブルー君は好奇心旺盛なのね。
[好奇心]と[探究心]は研究者にとってはすごく大切なの。きっとブルー君は研究者の素質があるわね。
「この分野は専門ではないけど、空気が乾燥していると雷が発生しやすいのよ。……乾燥しているから、火事も起こりやすいわ。」
私はわかる範囲で説明、自然現象を例にしたから、解ってくれたかしら?
「へぇー、雷が……。なら、僕達にとっては命取りですね。」
「そうなるわね。でも、地面タイプを持っているフライにとっては逆に好都合なのよ。」
地面タイプにはダメージを与えられないからね……。
……ん?雷といえば、電気よね?
電気も[化学]とは関係がある………。
電気があれば電気分解ができる。
それがあれば、薬品の開発の幅が広がる。
でも、私のトレーナー以外電気技は使えない……。
私は電気タイプの技を種族上覚えられないから……。
ん?まって、[従者のチカラ]は、使えないタイプの技を覚えられる…………。
「そうだわ!!一つ目は電気タイプにすればいいわ!」
「!!?シルクさん!?」
電極は[銀の針]、ビーカーは空き瓶で代用できる!
それに、電気タイプの効果は拡散型、草とも混ざるから攻撃の範囲が広がるわね!
………ブルー君は、突然私が声をあげたから、驚きで腰を抜かしたわね……。
驚かしてごめんね………。
………でも、今私は技が使えない………。すぐにでも練習したいけど……。
………なら、
「ブルー君、シズクちゃん、5人が戻ってくるまで、私につきあってくれるかしら?」
2人に協力してもらって、[集中力]の強化をすればいいわ!
2人の技の特訓にもなるし、丁度いいわね!
「えっ?あっ、はい。僕達は今日はこれ以外予定がないから、いいですよ。」
「うん!私もいいよ!」
2人は笑顔で答えてくれたわ。
「なら、海岸に来てくれるかしら?」
そこなら広いし、なにしろ、野生のポケモンに襲われる心配もないしね!
「海岸、ですか? はい。」
「2人も了承してくれたから、行きましょ!」
私達は昼前の海岸に向かったわ。
ちなみに、今日の天気は晴れ。絶好のバトル日和よ!
………
海岸 sideシルク
「ここなら大丈夫そうね。」
昼前の海岸。波の音が心地いいわ。
寄せては退き、また寄せて退く………。
常に一定のリズムで心に語りかける……。
私にはその言葉はわからないけど、精神統一をするには最適ね。
賑やかな場所もいいけど、時々静寂に包まれた場所が恋しくなるのよ。
昔、私のトレーナーと学問を学んだ事が影響しているのかもしれないわね。
「………ですけど、どうしてここに来たのですか?」
私が浜辺のハーモニーを楽しんでいると、ブルー君が不思議そうにきいたわ。
「帰って来るのを待つ間暇だから、精神統一と技の練習をするついでにブルー君達の技を見てみたいなーって思ったのよ。精神統一をするためには、誰かに妨害してもらわないと出来ないのよ。ブルー君達のためにもなるでしょ?ねっ?」
私は笑顔で伝えたわ。
ブルー君は技に自信がないって言ってたから、助けになるかもしれないわね。
「えっ?僕の技を?」
「お兄ちゃん、面白そうだから、やってみようよ!」
ブルー君は戸惑ったけど、シズクちゃんは無邪気な笑顔で承諾してくれたわ。
「ええ。簡単よ。水タイプなら、[泡]とか[水鉄砲]みたいな技をするだけでいいから。」
「それだけでいいんですか?」
「もちろんよ!その代わり、全力でね。」
全力じゃないと、強さが測れないのよ。
「なら……はい。いいですよ。」
「決まったわね。私も準備するから、その後で始めましょ!」
私はそう言うと、予め端に置いていた鞄から[キーの鉢巻き]を取り出したわ。
普段は[サイコキネンシス]で結んでるんだけど、使わないとなると大変ね……。
………やっぱり、慣れないわ……。
数分後
「ごめんね、待たせたわね。」
「えっ!?シルクさん、その状態でするんですか!?」
「それで見えるの?」
なんとか私は準備することができたわ。
「ええ。種族上、天気がいいと五感が敏感になるのよ。だから、視界を遮っても音と風、気配で位置関係がわかるのよ。」
「へぇー。」
私の場合、音より風のほうが敏感に感じられるわ。
「そういうことよ。 じゃあ、始めましょ!」
「はい!なら僕は、[水鉄砲]!」「[泡]!」
私のかけ声と共に、水があちらこちらから放たれた。
……………、このイメージは、あの技が解放されたわね……。
「[瞑想]……。」
私は辺りの状況把握に意識を集中させた。
[チカラ]は、段階的に解放されるのね………。
一時間後
「………ここで一度休憩にしようかしら?」
「ハァ、……さすがに、疲れましたよ。」
2人には、無理しない程度に技を出し続けてもらったわ。
本人は気づいてないかもしれないけど、ブルー君の[水鉄砲]の初速が強化されたと思うわ。
始め、距離が5mの時は私の所に到達するまで2秒ぐらいかかってたけど、終盤は1秒半ぐらいで来るようになったわ。
些細な進歩かもしれないけど、時間が短かったから十分だと思うわ。
シズクちゃんのほうは、水泡の数が増えたわ。
…………私のほうは、集中を続けている間に残りの技が解放されたわ。
私は、解放された[サイコキネンシス]で鉢巻きを解きながら言ったわ。
「シルクさん、一時間も続けたのに息が切れてないなんて、すごいですよ……。」
「それに、一回も当たってなかったよね!」
2人は座りこみながら言ったわ。
2人共、お疲れ様。
私は解くとすぐに、[PPマックス]2つと、薄いクリーム色の液体が入った小瓶を3つ取り出した。
「集中していたからね。 さあ、2人とも、これを飲んで!」
私はその2つを2人に差し出す。
「シルクさん、これは?」
「これは、[林檎]と[オレンの実]の果汁を一定の比率で混ぜ合わせたドリンクよ。手作りだけど、味は保証するわ!」
私はそう言いながら、自分のを飲み干した。
林檎の爽やかな甘みが広がり、あとから酸味が追いかける……。
この味にたどり着くまで何回も失敗したわ。
「………ほんとだ。美味しい。」
「喜んでもらえて嬉しいわ。飲み干せば、空腹も満たされるはずよ?」
………、そういえば、丁度今くらいで[従者の証]を授かってから丁度1日になるわね。
………試しに、やってみようかしら?
私は目を閉じてイメージを膨らませる……。
電気タイプだから、身体中が痺れる感覚をイメージすればいいのかしら……?
色は黄色……、属性固有の効果は垂直方向への拡散………。
…………………?
体内に、電気が、溜まってる?のかな?
体内に違和感が………。
…………、毛が、逆立ってきた?
……これなら、[瞑想]を重ねればいけるかもしれない…。
「[瞑想…………。」
私はこの状態を維持しながら精神を統一する……。
「あれ?シルクさん、毛が逆立ってるけど、どうかしたんですか?」
「………ブルー君、シズクちゃん、悪いけど少し離れて……。」
私は目を開け、2人に警告する。
ダメージを与えることはないと思うけど、念のため……。
「えっ?あっ、はい。シズク。」
2人は私から距離をおく。
次第に、私からパチパチと音が発せられる……。
ここまで溜まったら、技として使えそう…。
私は、電気タイプで最も基本となる技のイメージを鮮明にする。
…………いける!!
私は、近くにあった木に狙いを定めて、
「[電磁波]!」
すべての電力をそれに向けて放出した。
電波は一直線に標的に命中、表面が少し焦げた。
「………できた……。」
技は成功。
でも、出すのにまだまだ時間がかかるわね……。
これから、練習を積まないといけないわね。
…これから派生させれば、攻撃手段として使えるわね!
補之伍 完 続く