泗拾弐 明かされたラテの能力
西暦7000年 エレキ平原最奥部 sideフライ
「フライさん!もうすぐ最奥部です!!」
「はい!! 2人共、無事だといいけど………。」
ボクとシャドウさんは、ウォルタ君達の危機を救うため、雷鳴が轟く平原を疾走………滑空って言ったほうがいいのかな?ボク、移動する時は飛んでるし……、とにかく、目的の場所に急いだ。
ここまで来るのは凄く楽だったよ。
ここのダンジョンは電気タイプが中心で、ボクは地面タイプを持ってるからね。ダメージはゼロで、技も[銀の針]と[ドラゴンクロー]合わせた一回だけしか使ってないよ。
……………いわゆる、無双状態だね。
だから、きっとシャドウさんが戦うタイミングは殆ど無かったかもしれないね。
話に戻ると、ボク達はラテ君達が戦っていると思われる目的地に急いだ。
………
同刻 sideラテ
「………へぇー。ウォルタ君とシロさんは昨日知りあったんだね?」
「如何にも。 ラテ殿、ベリー殿、以後宜しく頼むぞ。」
「うん!もちろんだよ!!」
僕達は、互いに挨拶を交わした。
ウォルタ君、こんなに凄い人と知り合いなんて……、君って一体……。
だって、ベリーが言うには伝説のポケモンでしょ?
遭遇するのでさえほぼ不可能なのに………。
………でも、シロさんは凄く馴染みやすいよ。
喋り方が古風だけど……。
「…………っ!………ここで………やられる訳には……。」
「「「!!?」」」
僕達が話していると少し離れたところで、切れ切れに声……、ライボルトが立ちあがった。
…そうだった!!僕達は戦闘中だったんだ!!
「[雷]………!!」
「しまった!!」
僕達に向けて高電圧の電撃が放たれた。
[守る]をしても間に合いそうにない!
……くっ、油断した……。
「そこまでだ!!」「そこまでです!!」僕が大ダメージを覚悟したその時、僕達とライボルトとの間に緑と黄色の影が立ちふさがった。
……えっ!?フライ!?
フライに電撃が直撃した。
「誰だ!!………貴様等……。」「「「えっ!?フライ!?」」それに、シャドウさん!?」「その者達はあなた達の住処を荒らしに来たのではない!!」
突然の助っ人に僕達は腰を抜かした。
「何……だと……?」「フライ!!大丈夫なの!?」
「この者達は、ただ落とし物を拾いに来ただけだ!!……」「ベリーちゃん、ボクは地面タイプ、だからボクには電気タイプの攻撃は効かないんだ………えっ!?シロさん!?」
二カ所で同時に会話が展開される……。
「……あなた達が過去にこの場所で受けた奇襲の悲惨さは把握しているつもりだ。……」「フライ殿、貴方も来ていたのか……。」
「……このような事から、あなた達がこの時期に神経を尖らせているのも知っている。……」「うん。ウォルタ君達の身に危険が迫っているって聞いたからね。」「えっ!?フライも知り合いだったの!?」
「……だから、この者達を見逃してやってくれないかな?………ボルタ。」「うん。ラテ君、三人で[真実の頂]に行ったときに知りあったんだよ〜。」
「………なぜ、自分の名を………。…………3分間だけ待ってやる。……その間に立ち去れ。」
そう言うと、ライボルト達はふらつきながら立ち去った。
「………よし。シャドウさん、ありがとうございます。」
「いや、私はただ彼らを説得しただけですよ。」
そう言って、フライとシャドウさんは握手を交わした。
「それより、[水のフロート]はいいんですか?」
[水のフロート]………?あっ!!
「「そうだった!!」」
僕とベリーがハモった。
いろんな事がありすぎてすっかり忘れてたよ!!
僕とベリーは、急いで目的の物を拾い上げた。
これで、目的は達成したね。
「…………それより、岩陰でコソコソしている三人組がいるようだが…。」
シロさんが、一点を見つめて………正確には見下ろして、なのかな?たぶん、身長は3mぐらいあるだろうから。
………見上げると首が痛くなるよ。
「岩陰だね?シロさん、わかったよ。 ……隠れても無駄だ!![ドラゴンクロー]!!」
穏やかな口調が一変して、フライは荒々しく声をはりあげた。
それと同時に、ポーチから[銀の針]を一本取り出した。
「「「えっ!?」」」
手に持つと、フライは暗青色のオーラを纏ったまま、それを1つの岩に投げた。
………今日は驚かされてばっかりだよ……。
[銀の針]は一直線に飛んでいき、いとも容易く岩石を貫いた。
………威力、高いよ……。
「っ!!?」
陰から悲め…………えっ!?
「何っ!?バレた!?クックックッ。」
砂煙が晴れると、そこには目を回した[ズバット]と、目が点になっている[ドガース]、いたって冷静な[スカタンク]………
「バレたもなにも、まだ懲りないなんて……、おまけにラテ君達を騙してこんなに危ない目に遭わせるなんて、あんた達はポケモン失格だ!!」
……まさか、“ドクローズ”!?
「えっ!?どうし……」「ラテ殿達を騙しただと!?モラルがなってないとは、拙者でも許すことが出来んな………。[クロスフレイム]。」
驚いている僕達を横目にして、フライは声を張り上げた。
シロさんは怒りの感情………というより、呆れて技を使った。
さっき僕達の危機を救った炎……、ここまで熱波が伝わってくるよ。
「クックックッ、やるか?[辻ぎ…………]…!?」
ベリーのとは比べものにならない火力の炎塊が“ドクローズ”に降りそそいだ。
「「!!??」」
言葉にならない悲鳴が木霊した。
「種族と名前は知りませんが、ありがとうございます。今のうちに行きましょう!」
このタイミングを見計らって、シャドウさんが声を張り上げた。
「えっ!?あっ、うん。」
「なら、拙者に乗るといい。体格差からして、4、5人は大丈夫だ。」
そう言って、シロさんは翼?腕?を地面につけて、背をかがめた。
「シロ、助かるよ。ほら、ラテ君にベリーも〜!」
飛び乗って、ウォルタ君が僕達に、乗るように促した。
「えっ? はい。お願いします。」
僕達は、遠慮気味にシロさんに乗った。
………暖かくて気持ちがいいよ………。
「みんなのったね?じゃあ、行こうか!」
「御意!」
声を揃えて言うと、シロさんとフライは翼を羽ばたかせて飛び上がった。
………“ドクローズ”はというと、気絶して横たわっているよ。
その後の三人は………、言わなくてもわかるよね?
………
上空 sideラテ
「うわー!凄く高い!」
「それに、駆け抜ける風が気持ちいいよ。」
シロさん、フライ並に速いスピードだよ。
ベリー、僕の順番に感嘆の声を漏らした。
ウォルタ君は………、黙って何か考えているよ。
今日は、何もしていない時はずっとこんな感じだけど、どうしたんだろう?
「………私も乗せてもらって良かったのですか?」
僕の隣でシャドウさんが不思議そうに聞いた。
「ウォルタ殿達のために駆けつけてもらった故、お礼がしたいのでな。」
シロさんが、羽ばたきを休まずに答えた。
「そうですか。」
「………ううっ……。」
………、またあの目眩が……。
「あれ?ラテ君、大丈夫〜?」
「……うん……、ちょっと目眩が……。」
「目眩? もしかして、いつものあれが発動したの?」
ウォルタ君とベリーがシロさんの体毛をかき分けて、ボクの様子をうかがった。
「………かもしれないよ……。」
これだけ言うと、目の前が真っ暗になった……。
〈………本当に、いいんだね?〉
真っ暗な空間に、聞いたことがない声が響いた。
今までにない声………。
〈うん。こんな時代から離れられるなら、僕は構わないよ。〉
この声は、[濃霧の森の時にも聞いた声。
きっと同じひと……。
〈でも、その代わりに、君の・・・を消させてもらうよ。〉
また別の声。
……一体誰?
おまけに、肝心な所が聞きとれない。
〈それでも、僕の意志はかわらないよ!それに、この時代に思い残す事はないよ!だから、お願い、・ード!〉
またさっきの声。
〈君の意志は堅いんだね。……・・ェル、目が覚めたら、君は・・・を失っているはずだよ…。じゃあ、始めるよ。……〉
ここで、声が途切れた。
僕の意識が戻る。
……これは、[過去]?それとも[未来]?
………でも、今までとは違うような……。
「……っ!」
「ラテ、どう?何かわかった?」
僕の意識が戻ったのを確認すると、ベリーが心配そうに僕を見つめた。
「………声しか聞こえなかったけど………」
僕は、さっき聞いた事を忠実に話しはじめた。
2分後
「…………つまり、何者かが、誰かの何かを消したという訳だね〜?」
「うん、そうだよ。だから、[過去]か[未来]かはわからないよ……。」
僕が話している間、フライを含めて4人が相づちをうちながら聞いてくれた。
「………[過去]か[未来]がわかる……。もしかすると、その能力は[時空の叫び]かもしれません。」
沈黙を続けていたシャドウさんが呟いた。
「「「「[時空の叫び]?」」」」
僕達は声を揃えた。
「はい。あなたの言った通り、物に触れれば[過去]や[未来]がわかる能力です。………珍しい能力です。」
珍しい……?
「………もしかして、ラテ?シャドウさんならわかるかもしれないよ?」
これだけ聞くと、ベリーが僕のほうを見て言った。
……シャドウさんは物知りだから、わかるかもね……。
「………、うん。………実は僕、ある時点から前の[記憶]がないんです。」
「「えっ!?[記憶]が!?」」
シャドウさんとウォルタ君が声を揃えた。
「はい。それに、僕は元々人間だったんです。」
「「人間だった!?」………もう一度伺いますが、あなたの名前は……?」
シャドウさんが僕に、一言ずつ区切って聞いた。
「……[ラテ]です。………何かわかりますか?」
「…………………」
シャドウさんは腕を組んで、考えこんだ。
…………あれ?今、微かに笑ったような…………。
……気のせいかな?
「………すみません。わかりません。」
「………そうですか……。」
シャドウさんでも、わからないなんて……
「……私にわからない事があるなんて、正直悔しいです。 ラテさん、是非、私に、なぜラテさんがこのようになったのかしらべさせて下さい!!」
シャドウさんが、僕を真っ直ぐ見つめて言った。
「………はい!お願いします!!」
僕は期待を込めて答えた。
巻之八 完 続く