参拾七 ウォルタのチカラ
西暦7000年 ギルド sideラテ
「……………足型は[ポッポ]!」
傾いた日差しが入る穴の中、僕はヘルツさんに聞こえるように声をはりあげた。
ええっと、今日の僕達の仕事は見張り番。ホール君が用事で出かけているみたいだから、ベリーと代わりを任せられたんだよ。
…………おかげで喉が痛いよ………。
「ラテ?時間的にも、もうすぐ終わりじゃないかな?」
ベリーがカスカスの声で言った。
やっぱり、何回やっても慣れないよ。
ホール君、これを毎日やってるなんて、凄すぎるよ。
「そうだね。外の光も弱くなって来てるし、もうすぐ門限の時間だね。」
門限になったら入れなくなるから、そこで仕事が終わるんだよ。
………ん?足音が………。
誰か来たね。
「ポケモン発見!」
僕は声が掠れないように注意しながら大声を出した。
「誰の足型だ?」
暗がりからヘルツさんの声が響く。
「足が………」
「あっ、今日はラテ君達なんだね?」
……たは………。
僕の言葉を遮って、はるか上から低い声がした。
「この声は、フライだね?」
ベリーが僕の横で声を弾ませた。
「私もいるわよ。」「ぼくを一緒だよ〜!」
続けてシルク達の声もした。
「だから、足型はフライさん! たぶんすぐに入れると思うよ!」
「フライさん達だな? 今行く!」
僕はシルク達の帰還を伝えた。
「ええ、……あっ、開いたわ。」
「時間には間にあったみたいだね〜。」
上で門が開く音がした。
それに続いて3つの足音……。
「ラテ、ベリー、今日の仕事は終了だ♪」
足音が消えるか消えないかのタイミングで、業務終了の合図。
この時を待っていたよ!!
………
食堂 sideシルク
「なんとか間にあったわね。」
「うん〜。フライ、ありがとね。」
フライのおかげで、ギリギリ間にあったわ。
やっぱり、フライのスピードは凄いわ。
陸路でいくと3時間はかかったけど、フライはその距離をたった30分でたどり着いたわ。
………私達が乗ってたから、実際はもう少し速いかもしれないわね。
私はフライの苦労を労いながら、いつもの席についたわ。
「……えー、シルクさん達も帰ったから、食事にするよ♪親方様、お願いします♪」
「うん。じゃあ、いただきます。」
「「「「いただきます!!」」」」
全員が声を揃えて号令………、やっぱりこれがないと1日が終わった気がしないわ。
「あれ?シルク?今日の朝にそのスカーフを着けてたっけ?」
ラテ君は、皿に盛られた林檎にかじり付きながらいったわ。
そのスカーフとは、今日シロさんから貰った水色の[従者の証]のこと。
ウォルタ君は、白の[真実の証]。
私達、まだコントロールできないから、うかつに[チカラ]を使えないわね。
私も、技を何にするか決めてないし、………。
………明日から練習したほうがいいわね。
「いいえ、してないわ。 これは御守りみたいなものよ。」
「御守り……? あっ、そういえば、今日は[真実の頂]の神社にいくって言ってたね。」
ベリーちゃんが思い出したように言ったわ。
「ええっと、うん、そう。ぼくのもそうだよ〜。」
とりあえず、[証]は御守りってことにしておいたわ。
ウォルタ君は特に、伏せておく必要があるからね。
「ウォルタのもなんだね?」
「うん。ボクは持ち合わせがなかったから買えなかったんだよね……。」
フライが空気をよんでいったわ。
これが[証]とは、人が多い所では言えないわ。
…………ええっと、この後はいつもの雑談で夜が更けていったわ。
…………
部屋 sideウォルタ
「シルク、フライ、今日はいろいろあったね〜。」
「そうね。 ダンジョンの突破、絶景………。」
「それに、登山と[チカラ]だね。」
日付が変わる頃、ぼく達は旅の余韻に浸っている。
ギルドを出発したのが随分昔なような気がするよ〜。
「うん。それに、まさかぼくが[英雄]に任命されるとは思わなかったよ〜。まだ実感が湧かないや〜。」
突然だったから、びっくりしたよ〜。
「私のトレーナーが任命された時も突然だったわ。 ……ウォルタ君、技の練習はできないけど、変化する事は出来るから、練習してみたらどうかしら?」
……うん。ぼく達は明後日ぐらいまで技は使えないから、これぐらいしかできないね。
「うん、やってみるよ〜!」
慣れるためにも、練習しないとね〜。
ぼくは目を閉じて、[ウォーグル]の姿を強くイメージした。
……………ぼくは[ミズゴロウ]じゃなくて[ウォーグル]だ………。
「……始まったね。」
ぼくは次第に淡い光に包まれる。
ぼくの姿も実体がなくなり、光と同化する………。
痛みはなくて………むしろ心地がいいくらいだよ。
光がだんだん鳥のかたちを形成し始める。
……光が弱まり、ぼくの身体も実体化する。
「………ウォルタ君、終わったわよ。」
ぼくはシルクに言われて、ゆっくりと目を開ける。
嘴、羽毛、翼、爪………
「まだ時間がかかるけど、コツを掴んだよ〜。」
そして、普段よりも低い声……。
「その調子だね。」
今のぼくは、誰がどう見ても[ウォーグル]。
たぶんシルクとフライ、ルアン君、そしてシロ以外には、ぼくがぼくであることに気づかないだろうな〜。
声も低くなるし……。
「頑張るよ〜。 フライ、今のぼくって、どんな感じ?」
ぼくはフライのほうを見て言った。
今日はまだ自分の姿をみれてないから、ぼくがどんな感じかわからないんだよね。
「カッコイいよ。」
「それに、並みの[ウォーグル]より、少し大きいわ。」
「へぇ〜。ぼくってそんな感じなんだね〜? シルク?1つ聞いてもいい?」
そういえば………
「ええ、いいわよ。」
シルクはにっこり微笑んだ。
「[ウォーグル]って、どんな種族なの〜?野生では見たことがあるけど、どんな種族かわからないんだよね〜。」
自分の種族の事を知っておかないといけないよね?
「ボクも知らないから、教えてくれる?イッシュの種族っていうことくらいしかわからないから……。」
フライも、知らなかったんだ…。
「ええっと、確かノーマル、飛行タイプで、一度進化している種族よ。特殊技より、物理技の方が相性が良くて、攻撃に特化した種族だったと思うわ。……………うろ覚えでしかないけど………。」
「ノーマルと飛行だね〜? うん、わかったよ〜。ありがとね〜。」
うん、大体わかったよ〜。
「[ウォーグル]について説明できたから、そろそろ寝ましょ。明日も早いからね。」
「うん、そうだね。」
「じゃあ、お休み〜。」
たぶん、話している間に日付、かわったね?
ぼくは[ウォーグル]の姿のまま眠りについた。