参拾六 従者のチカラ
西暦7000年 真実の頂5合目神社 sideシルク
「…………戻った。」
ウォルタ君、とうとう[真実のチカラ]を手にしたわね。
今日からあなたは[真実の英雄]よ!
[絆の従者]として、私も嬉しいわ。
ウォルタ君を包んでいた淡い光が収まった。
「ウォルタ君、練習さえすればもっと手早く変化できるようになるわよ。」
「本当に〜!?」
ウォルタ君は、期待を込めて私を見つめたわ。
……これから様々な困難に直面するかもしれないけど、頑張ってね!
これだけしか言えないけど、応援しているわ!
「ああ、そうだ。第2の姿が[ウォーグル]なら、空を飛ぶ事も可能だ。」
シロさんがウォルタ君をまっすぐに見下ろして言ったわ。
ウォルタ君、空も水中も行動出来るようになるのね。
…………うらやましいわ……。
「それから、シルク殿、貴女にも渡しておくものがある。」
シロさんは私に視線を移した。
「そういえば、私にもあるって言ってたわね?」
「そうだ。貴女の時代のものではないが、[従者]にも[証]が存在する。2000年代には存在しなかったものだ。故にこの宝具の効果も存じてないだろう…。」
シロさんがさっきと同じように右翼を突きだすと、今度は水色の光が集まりはじめたわ。
水色………?
確か[絆]は青。だとすると………。
「ええ。私が知っている[証]は[理想]の黒、[真実]の白、[絆]の青、[友情]の緑、[志]の赤の5つだけ。だから、水色の[証]は知らないわ。………青系の色だから、ある程度は想像がつくけど……。」
水色だから、[絆]に関係するのは確実ね。
「察しの通りだ。この[従者の証]は[絆]に属する者に授けられる。」
「[絆の従者]にも、あったんだね……。」
フライが呆気にとられながらも、落ちついて言ったわ。
私も知らなかったぐらいだし…………。
おそらく、2000年代以降のものなのね?
「シロさん、[従者の証]にも[チカラ][代償]があるのよね?」
「御名答だ。[代償]から話すと、1つ目は、[真実]同様に守備が低下する。」
守りが……ね……。
ということは、それ以外のステータスが上がるはず……。
「攻撃に弱くなるのね? わかったわ。」
私は見上げたまま答えた。
…………そろそろ首が痛くなってきたわ………。
「………2つ目は、自然回復力の低下。3つ目は、状態への耐性の軟化だ。」
「…………毒とか火傷の影響が大きくなるのは厄介ね…。」
快晴の時にくらったら、致命傷になるのは間違いないわね。
これからは極力、攻撃を受けないようにしないといけない……。
注意が必要ね。
「4つ目は、外部からの回復行動が無効となる。」
「外部からの回復?………。つまり、道具を使って体力を回復する事が出来なくなるってことかしら?」
これは………厄介ね……。
なら、尚更気が抜けないわ………。
闘う時は、一度でも攻撃をくらったら、私は確実に負けるわね……。
捨て身の攻撃が出来なくなる………。
「シルク殿、[代償]は以上だ。」
「私の場合、4つなのね? 私、バトルには自信があるから、何とかなるわ。」
「シルクは1日で、伝説の種族を1人、フライと協力してもう1人倒したぐらいだからね〜。憧れるよ〜。」
「えっ!?シルク?あの前にも闘っていたの??」
ウォルタ君の言葉を聞いて、フライが私の方に振り向いたわ。
そういえば、言ってなかったわね。
「ええ。そうよ。」
「シルクさんの強さって一体……。」
ルアン君、きっと呆気にとられているわね。
「シロさん、[チカラ]ほうは〜?」
私とシロさんが言う前に、ウォルタ君が口を開いたわ。
「[従者の証]の[チカラ]は主に2つ。 1つ目は、守備を捨てる代わりに技の威力が向上する。」
「………攻撃特化ということね……。」
これは、ウォルタ君の[チカラ]と同じような感じね。
「2つ目は、第5、第6の技を使用可能になる。ただし、種族上、使えないタイプに限る。」
「ぼくとは正反対……。でも、シルクのほうが[代償]の数が多い事を考えると………。」
ウォルタ君は言葉を濁した。
技の数が増えるのは魅力的だけど、その分リスクが大きい………。
「[シルク殿、[従者の証]の[チカラ]は以上だ。」
「私も2つなのね。……シロさん、わかったわ。………………[チカラ]と[代償]、全部受けいれるわ。」
[絆]の名の下に誓い、[絆]の名を持つ者として、受け入れないと……………、いや、受け入れてみせるわ!!
私には長年の戦歴、そして[化学]の知識がある。
[化学]をさらに使えば、短所をまかなえる。
だから………
「御意。シルク殿、貴女の意志は堅いようだな。」
「ええ。[絆]の名を持つ者として、これは[使命]だと思っているわ。」
[絆]の名に賭けて………。
「…………では……。」
それだけ言うと、シロさんは私に水色のスカーフ、[従者の証]を手渡した。
私は何も言葉を発せず、黙々と身に着ける。
身体の構造上難しいけど、[サイコキネンシス]を使えば容易にできる…。
「………よし、できたわ。 シロさん、私もウォルタ君と同じで、今日から2、3日は技を使えなくなるのよね?」
たぶん、この期間は身体が[チカラ]に適応するための時間………。
「…………これで、任命と贈与は以上だ。……」
シロさん、お疲れ様。
覚醒してすぐなのに、[使者]も大変ね……………。
「……………ああー、17回目だけど、どうしてもこの喋り方、慣れない!!だが、儀式だから仕方ないか……。」
「「「「!!?」」」」
えっ!?シロさん!?くだけすぎてない??
ギャップが凄いんですけど…………。
シロさんは頭をかきむしりながら呟いた。
「ウォルタ殿、シルク殿、フライ殿、ルアン殿、拙者は堅苦しいのは嫌いだから、気軽に接して欲しい。もちろん、拙者の事を[シロ]と呼んでも構わない。」
「「「「………はい‥………」」」」
シロさん、思った以上にフレンドリーなのね………。
シロさんの口元が緩んだ。
………
数分後 sideルアン
シルクさんとウォルタ君………、おいらとほとんど変わらない年なのに、背負ってるものが大きすぎるよ………。
それに、一番びっくりしたのが、[レシラム]のシロさん………。
伝説のポケモンってまさに雲の上の存在かと思ったけど、あんなに馴染みやすい人だったんだ…。
伝説でも、やっぱりおいらと同じ、ポケモンなんだね。
おいらの名前も覚えてもらえたし、嬉しいよ。
………あっ、いけない。
おいらが語るのははじめてだから、挨拶しないといけないよね。
すっかり忘れてたよ。
一応自己紹介するけど、おいらは[ゾロア]のルアン。
年は15。夢は…………今のところはないかな?
たぶん、このままいくと、父さんのあとを継ぐ事になるね……。
正直、神主は退屈すると思うから、それ以外になりたいんだけど……。
きっと反対されるんだろうな………。
「久しぶりの世界だ。拙者はしばらく各地を飛びまわることにするか……。」
「シロ?もしかして、旅するのが好きなの〜?」
ウォルタ君がシロさんに聞いた。
「ああ。時代、場所によって景色が変わるから、その違いを見つけるのが楽しくて仕方がないんだ。」
シロさんは少年のように心を弾ませて言った。
少年といっても、シロさんって何歳なんだろう……。
大昔から生きてるみたいなんだけど、どこか子供っぽさもあるというか…………。
不思議だよ………。
「シロさん、その気持ちわかるよ。実は、ボクも旅するのが好きなんだよ。その場所でしか見れない景色もあるしね。………なんだか、ボクはシロさんと話が合いそうだよ。」
フライ君もテンション高めで言った。
「旅って、良いわよねー。景色だけでなくて、出逢い、繋がりも広がるから………。私はインドア派というより、アウトドア派なのよ。」
…………そんなに、旅っていいものなのかな?
「シルク殿も、話が合いそうだな。 では、拙者はここで失礼する。」
そう言って、シロさんは真っ白な体毛?羽毛?をなびかせて飛びたった。
シロさんの白色が夕日に映えてるよ………。
「……………じゃあ、私達もそろそろ行こうかしら?」
シロさんを見送ってから、シルクさんが口を開いた。
「えっ?もう行っちゃうの?」
「うん。ボク達が寝泊まりしている所は、日没までが門限なんだよ。」
「だから、もう出発しないと間に合わないんだよ……。」
門限?
「ルアン君、私達は[トレジャータウン]という街を拠点に活動しているから……」
「えっ!?[トレジャータウン]で!?あの有名なギルドがある街にいるの!?」
「うん。そうだよ〜。それに、ぼくの出身もそこなんだよ〜。」
へぇー。なら、おいらだけでも行けそうだよ。
「へぇー。今度、会いに行くよ。」
「うん。ボク達も楽しみにしているよ。」
「じゃあ、その時まで。」
「元気でね!」
シルクさんとウォルタ君は、フライ君の背中に乗った。
「ええ。ルアン君もね!」
「じゃあ、いくよ。」
うん。
フライ君は2人を乗せて飛びあがった。
おいらはいつまでも飛び去った方向を見つめた。
巻之七 完 続く