参拾伍 チカラと代償
西暦7000年 真実の頂5合目神社 sideウォルタ
「…………話は以上だ。」
まさか、昔にあんなことがあったなんて………。
これが、隠された[真実]……?
…………えっ?でも、おかしくない!?
シルクとフライはともかく、母さんやラックさんは進化してるよね?
「……ねえ?シロさん〜?進化出来なくなったって言ってたけど、どうして進化してる人がいるの〜?」
話と事実が矛盾してるよね?
「……世界は壊滅的な被害を受けたといったが、戦火を免れた所が少なからず存在する。そこでなら進化が可能だ。」
「父さんが進化したのはそこだったんだね?」
シロさん、わかったよ。
ルアン君も納得って感じで言った。
………あっ、シルクがノートに書く音が止まったね。
「…………、よく考えたら、私達にとっては3000年先の未来の事だから、聴いても何もできないわね。」
「言われてみればそうだね。ボク達はその事に関して何もできないしね…。」
そっか。シルクとフライにとっては未来の話だもんね。
「………、ウォルタ殿、シルク殿、貴方達に渡しておくものがある。」
「えっ!?ぼくに?」「ウォルタ君はともかく、私にも?」
渡すもの?一体何何だろう?
「ああ。まずは[英雄]には欠かせない物だ。」
それだけ言うと、シロさんは右手?右翼って言ったほうがいいのかな?……、をつきだした。すると、そこに光が集まって………、うーん、高すぎてよく見えないよ………。
「シロさん、ウォルタ君に渡す物って、宝具の[真実の証]よね?」
[真実の証]………? あっ、そういえば、遠征の時にシルクが言ってたっけ?
「如何にも。」
「[真実の証]……。シルクから聞いているよ。シロさんと、どこにいても話せるんだよね?」
[テレパシー]みたいなものって言ってたよね?……確か……。
「その通りだ。……それ以外にも特別な[チカラ]が授けられる。………」
「「「「[チカラ]?」」」[賢者]と同じようなものかしら?」
ぼく、シルク、フライ、ルアン君が声を揃えた。
「そうだ。だが、特殊な[チカラ]故に[代償]もある。」[利点]はすぐわかるとして、[代償]から話そうか。」
シロさんは白い布?を持って言った。
「[代償]………つまり、それがないとつりあいがとれないということですね?」
フライがまとめた……のかな?………。
[代償]って事は、ぼくにとってはマイナスの事だろうな………。
「そういう事だ。………一つ目は………」
……いくつかあるって事なのかな………。
「…………使える技が4つから2つになる………。」
「えっ!?技が………!?」
嘘………でしょ?
ぼく達、ポケモンは4つの技を使えるのに……、半分に……?
それだけ[チカラ]が強大ってこと?
シロさんは言葉を続ける。
「2つ目は、守りが弱くなる。………以上が[チカラ]の[代償]だ。」
「技が制限されるって、デメリットが大きすぎない?」
「ルアン君、確かにそうよね。」
守備まで!?
「そんなに……。」
「だが、[利点]の効果も強大だ。一つ目は、守りが弱くなる代わりに、素速さが格段に向上する。」
素速さが?
「ってことは、守りを捨てて素早くなるってこと〜?」
「そうなるわね。」
守りを……ね……。
「2つ目は…………、口で言うより、直接身に着けた方が早いな。ウォルタ殿、[チカラ]と[代償]、これらを踏まえてこれから貴方に起こる現実を受けいれる[覚悟]はあるか?」
「えっ!?どういうこと〜!?」
「…………、そういう事ね…。」「非現実的的な事が起こる、とだけ言っておこうか………。」
非現実的な事?
気になるけど、使える技が減るし………。
何が起こるのか不安だけど、ぼくは[真実の英雄]………知る義務がある……。
たぶん、ぼくの前の人たちも受け入れた………。
[チカラ]と[代償]…………。
…………………………………………。
…………………………………………よし!!
「……………、うん!受けいれるよ〜!ぼくは[真実の英雄]に任命されたんだ!だから、何があっても[後悔]はしないよ!!」
ぼくは自分に言い聞かせた。
ぼくは[真実の英雄]………、現実を受け入れないと!!
「御意。では、着けてもらおう。」
シロさんは身をかがめて、ぼくにその白い布を手渡した。
「ウォルタ君、スカーフみたいに、首に着けるのよ。」
「首に?うん。」
ぼくはシルクに言われた通り、自分の首に[英雄の証]を着けた。
一瞬の事だけど、ぼくには何時間にも、何日間にも感じられた。
「………、シロさん、着けたよ。」
ぼくは再び目線を上にやった。
「………なら、目を閉じ、心を無にするといい。………全てがわかる。」
ぼくは頷いた。
目を閉じて………………、心を、無に………。
……………………………………。
「「ウォルタ君!?」」
…………何だろう……………、この感じ………………。
身体が……………殻から………………解き放たれるような………………。
………………身体が……………、軽い……………。
………力が………………溢れてくると言うか……………、漲ると言うか…………、不思議な感じ…………。
「………うそ……でしょ?夢…………だよね………?」
暗闇からルアン君の声がした………。
「ウォルタ殿、目を開けてみるといい。」
「…………、うん。」
ぼくはシロさんに言われて、ゆっくりと目を開けた。
「…………?目線が………高くなった………?」
シルクとルアン君って、こんなに背、低かったっけ?ぼくとはほとんど変わらないはず………。
「………ウォルタ君………なの?」
「うん。ぼくはぼくで変わりない………?あれ?ぼくってこんなに低い声だったっけ?」
ぼくは首を傾げた。
「それに………前脚がついてない!? えっ!?羽!?それに、これって、翼??」
おかしいよ![ミズゴロウ]には羽なんて生えてないし、翼もないはず……。
何で!!?
「シロさん、どういうことなの〜!?」
全くわからないよ!!
「ウォルタ殿、2つ目の[チカラ]は、……………[英雄]の姿、そのものを変える事だ。」
「[絆の賢者]と同じ能力ね。」
「姿を……………かえる…………?」
えっ!?姿を変えるって…………
「ええっ!!?本当に!??」
これって、夢じゃないよね!?
「ウォルタ君、本当だよ。今の君の姿は、誰がどう見ても[ミズゴロウ]じゃないよ。」
フライが言った。
「[ミズゴロウ]じゃない?」
「ええ、そうよ。今のウォルタ君の姿は、完全に[ウォーグル]よ。」
えっ!?[ウォーグル]??あの飛行タイプの??
「[ウォーグル]………?」「17代目は[ウォーグル]だったか………。言い忘れたが、その姿と元の姿、両方とも好きな時に代える事ができる。第2の姿でも、使える技は2つだ。……今から2、3日は使えなくなるがな。」
この姿でも、技が使えるんだ………。
こっちも2つ。
………結局は、使える技の数はかわらないって事だね………?
「………でも、シロさん?どうやって元の姿に戻るの〜?」
ぼくはシロさんに聞いてみた。
難しかったらどうしよう………。
「もう片方の姿を強くイメージすればいい。」
「…………それだけ?」
「そうだ。これだけだ。」
なんだ〜。何か儀式とかがいるのかと思ったけど、それだけでいいんだ〜。
「………。うん。わかったよ〜。なら、さっそくやってみるよ〜。」
「慣れる事が肝心よ。」
………うん。イメージすればいいんだね?
ぼくはまた目を閉じた。
………………………………。
………またこの感じ………。
この間に、ぼくの身体が変化してるのかな……?
………………おさまった………かな?
ぼくは目を開けた。
…………、見慣れた景色………。
前脚も…………、うん、いつも通り。
「………戻った。」
間違いなく、[ミズゴロウ]の姿だ。
[英雄のチカラ]、凄すぎるよ………。