とある青年の物語 〜kizuna〜


























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§15 examination
ninety-third
PM4:30 キンセツシティー上空 sideスーナ

ライト〈とりあえず、カジノ街(ここ) には着いたね。〉
スーナ〈うん。 日が暮れる前には何とか着いたし、先に部屋予約しに行こっか♪ ……もういっぱいかもしれないけど……。〉

煌めく朱の陽光を背にして、ウチらは夜の街にたどり着いた。

目線を下にやると、ちらほらとネオン灯が点き始めている……。

空中で体勢を維持しているウチらの間を宵の風が吹き抜け、やがて訪れる黒の刻の到来を万物に告げる……。

ウチらは眼下の夜景を見下ろしながら呟いた。

ライト〈もしそうなったら近くのシダケタウンに行けば空いてるかもしれないね。〉
スーナ〈そうだね♪〉

シダケタウンなら、空いてる可能性が高いよね?

うん、そうだね!

一応、シダケタウンはウチが気になってる町の1つだし。

スーナ〈じゃあまずはダメ元でここの………〉
???〈ライト!? 何故ここに!?〉

スーナ・ライト〈!? 今度は誰!?〉〈!? この声は、もしかして………。〉

ウチらが高度を落とそうそしたその時、どこからか声が聞こえた。

………!?また姿が見えない!?

辺りを見渡しても誰もいない!?

しかも空中だよ!? ここ……。

ライト〈……姿が見えないって事は、アオイさん……?〉
アオイ〈流石はライト。この私が姿を消している事を見抜けるようになったなんて、成長したのね。〉
スーナ〈アオイ………? どこかで聞いたような……。〉

アオイと呼ばれた姿無き人物がまるで何かを懐かしむように言った。

ポケモンって事は分かったけど……、♀にしては低めの声……。

それに、プライドが高そうな言いまわしというか……。

ライト〈だって、わたし達の中で[ステルス]を使えるのはシンオウ地方に行ったあの人とお兄ちゃん、そしてアオイさんしかいないでしょ?その中でホウエン地方にいる[ラティアス]はアオイさんだけでしょ?〉
アオイ〈………やっぱりライトの洞察力には負けるわね………。〉
スーナ〈……話している所を悪いけど、ライト? アオイさんって♪?〉

本当に、誰だったっけ…?

ウチは記憶を辿りながら彼女に質問した。

ライト〈……そうだったね。あの時スーナはユウキ君達とは別行動だったから、会ってなかったね。 簡単に紹介すると、アオイっていう名前で、わたしと同じ、[ラティアス]だよ。…………今は見えないけど。〉
スーナ〈ライトと同じ種族で……?〉
アオイ〈そう……。 姿、見せるわね。〉

…………あっ!今思いだしたよ!!

フエンの洞窟で同じ名前のポケモンに会ったってシルク達が言ってた!!

確か、[鋼の封印石]を護っていたんだっけ?

そうこうしている間に、ウチの目前で光が乱反射し始めた。

!? 今度はなに!?

スーナ〈!?〉
ライト〈こういう事だよ。〉

光が収まると、ライトより少し大きめの[ラティアス]がウチの目の前で浮遊していた。

アオイ〈……こうして火山以外で姿を現すのはいつ以来かしら……。〉
ライト〈確かわたしが[ミストボール]を習得したぐらいだから、1年ぶりぐらいじゃないかな?〉

一年も……?

アオイ〈そうだったわね……。 ところで、飛行タイプのあんたは誰?〉

つんとした表情で、ウチの事を不審そうに見つめた。

………クロさん並みに眼力があるかも……。

スーナ〈……あっ、ウチは[スワンナ]のスーナ♪………イッシュにしかいない種族だからわかるかな……?〉

ウチは簡単に自己紹介した。

アオイさんはまるでウチを見透かすように凝視した。

…………そんなに……、見なくても……。

アオイ〈………なる程ね。水タイプで、なかなかの実力の持ち主という訳ね………。……でも、残念ながらこの私には及ばないわね………。〉

…………自信過剰?

それとも、ただプライドが高いだけ………?

………何故か見下された気が………。

………でも、ウチはただならぬ彼女の様相を前に何も言い返せなかった………。

強さは雰囲気だけで十分伝わってくるけど、ここまでストレートに言われると………悔しいよ………。

ライト〈………そういえば、どうしてアオイさんがこんな所に?〉

劣等感を感じはじめているウチの隣で、ライトがふと思い出して言った。

アオイ〈………ソウルに用があるのよ……。〉

………?

夕日のせいかもしれないけど、今、顔が少し赤くなった……?

もしかして、ツンデレ……?

ライト〈アオイさんも!? わたし達も、ソウルさんに聞きたい事があるんだよ!〉

ライトは弾ける笑顔と共に揚々と答えた。

アオイさん、もしかしてソウルさんの事が好きだったりして………。

彼の名前が出ただけで赤くなってたし……。

………意外と可愛い所あるじゃん。

こういうひと、なかなか憎めないよ。

………少なくとも、ウチは……。

スーナ〈なら、一緒に行きませんか♪?〉

ウチは彼女への態度を改め、いつもの調子で伺った。

アオイ〈そうね。分かったわ。〉
ライト〈じゃあ、行こ!〉

うん♪

ウチは2匹の[ラティアス]と共に、以前彼と出逢った場所へと向かった。

………

PM5:00 110番道路 sideスーナ

アオイ〈………この辺なら、大丈夫そうね。〉
ライト〈うん! もう薄暗くなってきたし、人通りも少ないもんね!〉

ウチらは誰もいない木陰の側に降りたった。

その後すぐに、ふたりは顔を見合わせて頷いた。

スーナ〈ふたりとも、人間に姿をかえるんだね?〉
ライト〈ううん、アオイさんは違うよ。〉

えっ!?

アオイ〈私は他の[ラティアス]とは違って、特殊だから。〉

特殊!?

スーナ〈ライト、どういう事!?〉

ウチは疑問符と共に、彼女に訊ねた。

ライト〈アオイさんはソウルさんと同じで、人間に姿を変えられない代わりに別の種族に変化できるんだよ!〉
アオイ〈まあ、見て………。〉

ウチとは対照的に、アオイさんは落ち着いた様子で呟いた。

直後、ふたりは眩い光に包まれた。

薄暗いから、目立つけど……。

ライトは人へと姿を変えた。

アオイさんは、炎タイプで9本の尻尾を持つポケモン、[キュウコン]へと姿を変えた。

スーナ〈……そういう事なんですね♪?〉
アオイ〈確かスーナと言ったわね。 あなたは非現実的な事が起こっても驚かないのね?〉

アオイさんが少し上擦った声で言った。

スーナ〈ウチら、こういう事はもう慣れてるから♪ ウチらのトレーナーがそうだからね♪〉
ライト「アオイさん、その彼に会ってるはずだよ?」
アオイ〈いいえ、私は人間との接触を一切絶ってるから、有り得ないわ。〉

彼女は当然の事、とでも言うように首を横に振った。

スーナ〈左腕に青いバンダナを着けた[ピカチュウ]と言ったら分かりますか♪?〉
アオイ〈……そういえば、来たわね……。普通のポケモンにしては違和感があったし、何よりこの私の名前を言い当てられた…。見たこと無い種族のポケモンとも一緒にいたから、今思えば不思議なポケモンだったわね……。〉
ライト「そうだよ。その[ピカチュウ]が、スーナ達のトレーナー、人間なんだよ。」
アオイ〈何ですって!?〉

ウチらの言葉を聞いて、アオイさんは声を荒げた。

ユウキみたいに、人からポケモンに姿を変えれる人物はほぼいないに等しいもんね。

………ウチらが知らないだけでまだいるかもしれないけど……。

スーナ〈その証拠に………、ライト、そろそろふたりを出した方がいいと思うよ♪?〉
ライト「あっ!そうだった!」

タイミング逃していたけど、やっとふたりに出てもらえるよ。

………決して忘れてた訳じゃないからね!!

ライトはウチに言われて、慌てて肩から提げている鞄から2つのボールを取りだした。

コルド・オルト〈遅かったですが、どうかしたんですか?〉〈ライト、スーナ、着い………てないな……。〉

アオイ〈ライト!? まさかあな……〉
ライト「違うよ。今は調査のために二班に別れて行動してるから、わたしはスーナ達のトレーナーじゃないよ。 その彼、ユウキ君のメンバーだから。」

アオイさんの言葉を遮って、ライトはすぐにウチらの素性に補足を加えた。

コルド〈ユウキさんから伺ってます。あなたが[鋼の封印石]を護っているアオイさんですね?〉
コルド〈………だが、何故ここに?〉
アオイ〈……はあ…。後で話すわ。〉

唖然として、アオイさんは空返事で応じた。

……だって、トレーナーでなくて、ポケモンのライトが[モンスターボール]を持ってたから……、驚くのも無理ないよね……。


@ ( 2013/11/15(金) 00:31 )