とある青年の物語 〜kizuna〜


























小説トップ
§14 In the rain
eighty-sixth
AM10:30 120番道路 sideシルク

オルト〈……ふぅ、……やっと抜けたな……。〉
シルク〈ようやくって感じね。〉

降りしきる豪雨(スコール)の中、私達の視界に翠以外の色が現れ始めた。

………案外、長かったわね。

草の香りは心地良かったけど、この長さが問題ね……。

少し掠っただけで千切れて、私の短毛に絡みつく……。

払い落としてもきりがないわ……。

私は煩わしい翠の破片を払いながら一息ついた。

ユウキ〈元のままだと草を払い落とすのにもっと苦労していたかもしれないな………。……あっ、君が[チルット]のラフだね?〉
ラフ〈えっ、あっ……うん、そうだけど……?……旅してるって言ってたけど、見かけない種族だね。〉

濡れた服に付くと全然落ちないからね………。

一回手伝った事があるけど、結構時間がかかったわ……。

[チルット]の少女、ラフさんが言葉をもらした。

ライト〈わたしはこの地方の出身だけど、あとのみんなは別の地方の出身なんだよ!〉
ラフ〈別の?〉

ライトの明るい声に対して、彼女は首を傾げて答えた。

ユウキ〈うん、そうだよ。簡単に紹介すると、僕はユウキ。種族は分かるよね?〉
ラフ〈うん! [ピカチュウ]でしょ?〉
シルク〈ええ、そうよ。で、私は[エーフィー]のシルク。私とユウキの出身地はジョウトよ。〉

私は優しく微笑んだ。

やっぱり、出だしが肝心よね?

オルト〈俺は[コジョンド]のオルトだ。〉
リーフ〈僕は[ジャローダ]のリーフ、よろしく!〉
ラフ〈よろしくね。(初めて会う種族だ……。)〉

オルトは軽く握手を交わし、リーフも優しく語りかけた。

スーナ〈ウチは[スワンナ]のスーナ、よろしくね♪〉
コルド〈そして僕は[コバルオン]のコルドです。 あと、オルトさんから僕までの出身はイッシュです。〉
ラフ〈うん!(イッシュ………どこなのか知らないよ……。)〉

スーナはとびっきりのスマイル、コルドは律儀に一礼。

やっぱりコルドは誰に対しても礼儀正しいわね。

彼みたいなポケモン、人はあまりいないと思うわ。

ライト〈最後に、わたしは[ラティアス]のライト。……あとひとり、地面タイプの仲間がいるけどあいにくの雨だからここにはいないんだ……。〉
ユウキ〈ええっと、こんな感じだよ。〉

私達の簡易的な自己紹介はユウキによって締めくくられた。

シルク〈ちなみに、最初に語りかけたのが私で、次がライト、最後がコルドよ。〉
ラフ〈へぇー。〉

ラフさんは2、3度頷いた。

ユウキ〈……ところで、どうして君は独りでこんなところに?雰囲気からすると8、9歳ぐらいだと思うけど……。〉

話題が1つ終わったところで、ユウキが本題を提起した。

親とはぐれたのかしら……?

ラフ〈……実は群れで移動している時にはぐれちゃって……。すぐに復帰しようとしたんだけど、私、方向音痴だから……。〉

無邪気な少女が少し暗くなった。

もしかして、この瞬間的豪雨(スコール)に驚いたからかもしれないわね。

オルト〈向かう場所が分かるなら、連れていく事も可能だが、どうする?〉
スーナ〈ウチらは今のところミナモシティーに行くつもりだけどどう?〉

そうね。

方向が同じなら可能かもしれないわね。

………方向音痴みたいだから、放っておけないわね。

第一に、親と離れ離れになるのもかなりの苦痛……。

だから絶対に無視出来ないわ!

ラフ〈ミナモシティー? ……なら、お願いしてもいい?毎年そこでしばらく休むから、いるはずなんだよ。〉
オルト〈なら、決まりだな。 ユウキ、いいよな?〉
ユウキ〈うん。 だから、遺跡の調査は後回しだね。〉
コルド〈そうですね。 相変わら降り方は変わりませんが、行きましょうか。〉
シルク〈そうね。〉

ミナモシティーなら、ちょうどいいわね!

ラフ〈うん! お兄ちゃん、お姉ちゃん、よろしくね!〉

無邪気な笑顔で、ラフちゃんが元気よく答えたわ。

…………可愛いわね。

子供は嫌いじゃないわ。

少しの間だけど、よろしくね!

一時的だけど、私達に小さな一員が加わった。

………

AM10:45 121番道路 sideユウキ

ラフ〈………他にはどんな所にいったの?〉
オルト〈雪が積もった場所や広い湿地だな……。〉

少し弱まった雨のなかで、一時的に加わったラフさんが興味津々でオルトの話を聴いているよ。

………それにしても意外だね……。

オルトはこんなに面倒見がいいなんて、予想外だよ……。

ラフさんはさっきからずっとオルトの元を離れないし……。

……完全に懐いているね。

当の本人も、満更ではない様子……。

クールなオルトの笑み、貴重だよ……。

シルク〈ユウキ、オルトの笑みを見るの……久しぶりよね。〉
ユウキ〈うん。 確か前に見たのは進化する前だったから2年以上になるね……。〉
スーナ〈ってことは、ウチと出逢う前だね♪?〉

うん、そのくらいだね。

リーフ〈オルトは頻繁に感情を表に出さないタイプだからね。〉
コルド〈常に平常心を保ってますからね。〉
ライト〈言われてみれば、そうかもしれないね。〉

オルトの精神は人一倍強いからね……。

でも正直、もう少し喜怒哀楽を出してほしいかな?

………そうなると、オルトらしさが無くなるから仕方ないか。

ユウキ〈素のオルトを垣間見られた……〉
A「きゃー、[ピカチュウ]じゃない!!」
B「うちらついてるね!さっそく捕まえようよ!」

僕の言葉を遮って、僕と同年代の女の人が勝負を仕掛けてきた。

スーナ〈ユウキ、ひょっとするとバトルになりそうだね♪〉

リーフ・A〈二人組だから、ダブルバトルだね。〉「うん![バルビート]、いくよ!」

シルク・B〈そうね。なら、私もいくわ!〉「[イルミーゼ]頼んだよ!」

ラフ・バルビート〈えっ!?バトル!?〉〈うん!ミール、ぼく達の愛の力で魅せるよ!〉

オルト・ミール〈ラフ、見ておいた方が良いぞ。〉〈ハイル、もちろんよ!!〉

相手は、愛真っ盛りのカップルを繰り出した。

アツアツだね……。

ユウキ〈相手が[愛]なら、僕達は兄妹の[絆]だね!〉
シルク〈ええ、そうね。 さあ、始めましょ!〉

血は繋がってないけど………、繋がりなんて関係ない!

A「バルビート、[シグナルビーム]!」
B「イルミーゼは[超音波]!」

ハイル・ユウキ〈うん![シグナルビーム]!〉〈[絆]の名に賭けて……、いくよ![10万ボルト]!〉

ミール〈もちろん![超音波]!〉〈ユウキは牽制ね?なら、私は[瞑想]、[シャドーボール]!〉

相手のハイル? は七色に輝く光線をシルクに向けて放ち、僕はそれに向けて電撃を放出した。

対して、ミール? は人には聞きとれない周波数の音波を発生させ、シルクは技の準備のために漆黒の弾をうちあげる。

黄色と虹色はぶつかって、互いに打ち消しあった。

ハイル〈威力は五分五分だね?〉
ユウキ〈さあ、それはどうかな?〉
ミール〈あなたは攻撃しないのね?〉
シルク〈私のこれは戦闘のための準備。だから…すぐには攻めないわ。〉

僕達は互いに言葉を交わす。

B・ユウキ「よし。 次は[虫のさざめき]!」〈シルク、混乱状態になっても平気だね?〉

A・シルク「こっちも、[虫のさざめき]!」〈ええ。[サイコキネンシス]、[目覚めるパワー]!〉

ハイル・ミール〈〈うん!/ええ! [愛]の[虫のさざめき]!!〉〉

シルクは精神統一で閉じていた目を開け、超能力で先ほどの弾と暗青色の弾を拘束した。

カップルは、同時に衝撃波を発生させた。

……流石は恋人同士、息ピッタリだよ。

ユウキ〈シルク、これ使って![目覚めるパワー]!〉
シルク〈発散! わかったわ!〉

僕は尻尾を打ちつけた反動で跳びあがり、紅蓮の弾を生成した。

シルクは溜めていた漆黒で上昇気流を発生させて、それに乗った。

A・ハイル・ユウキ「〈!? かわされた!?〉」〈っ! やっぱり、共鳴しているとキツいね……。〉

僕に衝撃波が命中し、撃ち落とされた。

僕はすぐに受け身をとって立ち上がった。

B・シルク「もう一度[虫のさざめき]!」〈化合!〉

ミール・ユウキ〈気持ちを切り替えないとね! ハイル! [虫のさざめき]!〉〈残念だけど、僕はこのくらいではやられないよ……、[気合いパンチ]!〉

シルクは残りの暗青色と僕の紅蓮を混ぜ合わせた。

すると、変色して暗紫色の塊が感性した。

ミールは再び技を出し、僕は右腕に力を溜めながらハイルに接近する。

シルク・ユウキ〈これで最後よ!〉〈これできめる!〉

ミール〈こっちだって、〉
ハイル・A〈負けないよ!〉「[電光石火]!」

シルクはそれを2つに分裂して発射、僕は右腕を大きく振りかざした。

ハイルは僕に向けて急速に接近し、ミールも僕に向けて近づいた。

……まずは僕を潰す作戦だね?

………でも、

ハイル・ミール〈〈っく!!〉〉

ミールの前では膨張した暗紫色の弾が小爆発を起こし、ハイルには僕の拳がヒットした。

B「えっ!?一発で!?」

ふたりは、力無く崩れ落ちた。

A「こうなったら……一か八か……、[モンスターボール]!」

この状況を見て、トレーナーの1人が僕に向けてボールを投げた。

ユウキ〈!?〉

急だったから、僕は咄嗟に反応出来なかった。

………僕は、ボールに登録されてないから一応[野生]の扱い……。

だから、このままだと……。

シルク〈ユウキ!!!〉

そんな僕の目の前に、薄桃色の影が立ちはだかった。

ユウキ・A・B〈シルク!?〉「「!?」」

そのボールはシルクに当たり、作動せずに地面に落ちた。

シルク《近くにはいないけど、私達はトレーナーのポケモンなのよ。》

A・B「「!!? ポケモンが喋った!?」」

ここでいつもの(くだり)………茶番だね……。

@ ( 2013/10/27(日) 02:32 )