0匹目
出会い

 目覚めると何も無かった。いや、ただ見えないだけなのかもしれない。

 さっきまであったはずのビルも、ゴミ箱も、マンホールもない。
 ずっと鬱陶しかった、あのじめじめとした空気もない。

 ここはどこまでも真っ暗で、少し寒かった。

 
 「よう。」
 
 
 「ひぃっ!?」


 予想外の音に驚き、情けない悲鳴をあげる。
 どうやらさっきのは間違いで、自分の他にも『何か』がいるらしい。
 

 「お、お前誰だよ…いきなりびっくりするだろ…」


 「ごめんごめん。そんなに怯えられるとは思わなくて。むしろ俺が驚いたくらいだぜ?」

 
 小馬鹿にするように笑ったそいつは、じっと目を凝らしていないと見失ってしまい
そうで、ただ紅い瞳だけが儚く輝いていた。


 …怪しい奴にしかみえない。

 
 よく見るとそいつは腰にベルトを付けていて、そこには二丁の銃が装備されている。
 特別珍しい訳ではないが、俺の居た場所では、銃はそこそこ金を持っていないと手に
入れられない代物であり、扱える奴も少ないため、あまり出回っていなかった。
 
 …それに、銃は『命を奪う道具』と言われていて、持ちたがるやつも少ない。

 そんな物を、こいつは二つも持っているんだ。
 慎重にいかないと俺も殺されてしまうかもしれない。


 「…?なんだ?これが気になるのか?」


 「う、わあっ!!」

 
 びっくりした!!いきなりそういうことしないでくれよ…普通に怖い。
 

 「だから怖がるなって。別にとって喰おうって訳じゃないんだからさあ。」

 
 「え、いや、その…。」

 
 無理に決まってるだろ。銃口こっちに向けてる謎の黒い奴なんぞ怖がらずにいられるか!
むしろ恐怖しかない!!


 「まぁいいや。お前もこの状況をイマイチわかってねぇみたいだし。教えてくうちに
打ち解けられればオーケーか。」


 心の声ダダ漏れだぞ…てかそういえば此処どこだ…?なんで俺、ここにいるんだっけ?

 
 「あ、あの…此処は何処なんですか?俺、気づいたらここに居て…真っ暗で何も無くて何がなんだかわかんなくて…」


 「ああ、此処ねぇ。此処は俺の管理下の世界だよ。」

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氷輪 ( 2016/05/11(水) 12:56 )