次元オバケのカメラマン
1:愛し愛されて生きるのさ
「ナーガーレーっ、起きてるかー」
 友達の声が聞こえて、私は目を覚ました。今日のお出かけのタイミングは完全に彼に任せていたので、すっかり眠り込んでしまった。小さな手のひらが顔に触れ、くすぐったい。
「おはよう、オルフェ、今起きたよ」
 ゆっくりと起き上がり、ふらつく頭をゆっくりと覚醒させていく。目を開ければ、小さな友達が自分の顔をまじまじと見つめている。ピカチュウという種族の小さな黄色い体は、ネズミのように騒がしい。
「今日は村長のところで稽古つけてもらうんだって言ったろ? しかも今日が最後なんだから。ぼんやりしてるとボコボコにされるぞ」
 彼の言葉は呆れが半分、心配が半分といったところだろう。この島に流れ着いて三ヶ月が経つが、まだまだ馴染めない文化がたくさんある。今日の用事も、その一つだった。
「あんまり気が進まないなぁ」
「ダメだって」
 冗談半分に言ってみると、不機嫌そうな声が返ってきた。あまりからかい過ぎると電撃を使ってでも連行されそうなので、ほどほどにしておくことにする。早く早く、と先走るオルフェに手で合図して、寝床代わりの脱出ポッドから降りる。

 脱出ポッドに乗って宇宙を漂流し、悠久の時を経て私は目覚めた。漂着したのは、多種多様な知的生命体の暮らす惑星だった。住民の姿はトカゲに似ていたり、ウサギに似ていたり、とにかく千差万別で、一言では言い難い。その多くが不思議な力を持ちながら、驚くほど平和に暮らしている。あまりに牧歌的で、おとぎの国に迷い込んだのかと錯覚するほどだった。
 彼らが友好的に接してくれるのはありがたいことだった。異星人に友好を示す手段は学んできたつもりだったが、実践となるとセオリー通りにはいかないこともある。どのようにこの星の住人に受け入れてもらおうか考えてはいたが、ほぼその必要は無かったと言える。脱出ポッドから出た時、私に向けられたのは新しいものに対する期待に満ちた視線だった。彼らはこちらが名乗るよりも先に、私のことを「ナガレさん」と呼んだ。流れ星に乗ってやってきた流れ者、という意味らしい。折角なので、今もそう名乗っている。
 海に落下したポッドを陸地まで引き上げてくれた、村の皆さん。ポッドを家代わりにできるよう、庇と階段をつけてくれたドテッコツのギルさん一家。服が必要な自分の為に編んでくれたハハコモリのジョイスさん。島の優しい方たちの好意を受け取りながら、穏やかな日々を過ごしている。
 ピカチュウのオルフェは私の良き話し相手になってくれた。私の故郷の星のことにとりわけ興味があるようで、暮らしぶりや面白かったことなどを沢山話した。色々な話をするうちに、彼とは一番気の置けない関係になった。
 彼の一家は漁師で、彼らの漁の手伝いをさせてもらうこともある。そんな日はたくさんの魚をお裾分けしてもらっている。取れた魚は、焼くとうまい。内蔵は捨てた方がいいもの、小骨の多いものなど、食べ方についても多くを教えてもらった。
 この日も朝は彼らの漁を手伝っていた。日が昇り気温が上昇する頃には仕事も一段落した為、帰ってオルフェが呼びに来るまで一眠りしていた、という訳である。
「あの時はびっくりしたなぁ。まだ昼間だって言うのに、空が光ったんだ」
 砂浜を歩きながら、オルフェは語る。自分の乗るポッドが落ちて来た時の話だった。
「とんでもない速さで、あっちからこっちまで飛んで行ってさ、見えなくなったなーと思ったら、その日の夜にドーン! っておっきな音がして、島のみんなで見に行ったんだよ。そしたら、ナガレの乗ってた家が沖合いに浮かんでた。ちょうどあの辺にさ」
 オルフェは沖の方を指差して、ぐるぐる腕を回した。この浜辺を通る度に、彼はこの話をする。話を聞いていると、ポッドは真っ直ぐ地上に落下したのではなく、この星をぐるっと一周して、この場所に落ちたと言うことなのだろう。
「まだその頃は中で眠っていたから、衝撃とかは感じなかった」
「そうなの?」
「ああ。出てくるちょっと前くらいになって、ようやく起きた」
 色々なケースを想定して、頭と心臓が弾け飛びそうだった。目覚めてから一番命がけだった瞬間だと、今でも思う。
「みんな優しくて、よかったよ」
「だろ?」
 へへへ、とオルフェは笑う。ははは、と私も笑う。

乃響じゅん。 ( 2019/11/03(日) 10:46 )