プロローグ
塗りつぶされたように真っ暗な世界。
ピシャッという鋭い音とともに、真っ白な雷が降り注いでいた。そのなかを、二つの影が通り過ぎていく。
鳴り止むことを知らない雷は、容赦なく影のうちの一つを襲う。
「うあ……っ!」
「大丈夫か!? ……ッ!」
雷に襲われたほうは、痛みに耐えるように声を上げる。声からして少年だろう。
もう一人は気遣うように話しかけ、その真横を雷がすり抜ける。こちらは少し大人びた声、青年と呼ばれるくらいだろうか。
彼らは手を握り合っているも、今にも離れそうな危険な状態。
(一刻でも早く、目的地へ……!)
二人の心が重なり合った瞬間、遠くに僅かな光が見えた。雷のような鋭さのない、優しく柔らかな光。その光を見て、少しだけ気が緩んだのだろう、青年のほうがほっと息をつく。
その瞬間、まるで狙っているかのように青年に向かってくる雷。それを少年は見てしまった。
「危ねぇ! 避けろ!」
少年は声を張りあげ、青年を光の方向へ突き飛ばした。
突然の事に驚く青年は、間近で見てしまった。相棒が雷に打ち付けられる姿を。
「――ッ!」
青年の声は雷鳴に紛れてかき消され、少年の姿は雷光にかき消される。
その瞬間、少年の首元で何かが輝いた。
とても短い間で、それでも力強い光で――。
静かに波音が響く海岸。そこに一匹のポケモンが倒れていた。
(ここはどこ、だ……?)
周りを確かめようとするポケモンの意思に反し、体は全く動かず、まぶたも閉じられようとしていた。
その上、体全体が傷で覆われ、ポケモンは痛みに耐えるように声を出す。
「く……っ」
(駄目だ、意識が……)
意識は、消えるように飛ばされた。