#111 目的の場所へと
中間地点を越え、『熱水の洞窟』の更に奥へと歩む彼ら。先程とは大分温度や湿度が和らいでいて、前半と比べれば幾らか過ごしやすい気候ではあった。後半では、原理は不明だが何故か吹いてくるそよ風により涼しさを感じる場面もある。
「……でもやっぱまだ暑いなあ……マシになったといえばなったのかもしれないんだけど」
例え、少し熱気が緩和されたからといって、サンが暑さを感じない訳はなかった。もふもふの体毛、首もとのマフラー。暑いに決まっている。真夏にふわふわもこもこの防寒具を着て運動しているようなものだ。そう考えるとサンの辛さがわかる。
「シズク、暑くない?」
「私はもう慣れたわ。なんか平気」
「そっか」
サンがうだっている中、シズクとケンジはそう会話を交わす。ケンジはシズクのことを心配する気満々であったが、彼女はというとそこまで暑さを感じていないようだった。シズクの体毛もふわふわと柔らかいが、サン程ではないため彼女自身あまり気にしていなかった。ケンジはなんだか悲しそうな顔をしていたが。
「何だろうな、この温度と湿気の差って」
「んー、やっぱし一番は慣れたからじゃない?物理的な温度変化もあるだろうし」
「一回水浴びしたいなあ」
「まずは手っ取り早く此処を抜けるのが大事だな……っと」
だらだらと歩いていると、近くの岩が砕けた。何が起こった、とその方向を向き構える。するとその辺りからはグランブルが飛び出てきた。此処最上部よりも前半の地点で出現したブルーの進化系だ。その分力も強くなっている。先程の砕けた岩は、多分グランブルが噛みつくかなんかを使って砕いたものだろう。野生ポケモンの思考は全く以て理解不能である。
グランブルが『舌で舐める』で誰かを麻痺させようと突っ込んでくるが、それは全員が横に素早く避けた。麻痺にされたら動くことも技を使うことも、また自身を守ることも道具を使うことも出来なくなる。要約すれば『動けなくなる』。ダンジョンの中でそうなったら厄介なことこの上ない。特にこの暑い中ではよっぽど。
「シズク、電磁波できる?」
「……任せなさい」
遠方から出したケンジの指示に答えシズクは電光石火でグランブルの方に飛び出す。グランブルは応戦しようと、炎を纏った牙を剥き出した。だが、所詮は近距離攻撃。近づかなければ傷つくことはない。グランブルの動きを見極めた上で、シズクはグランブルの背に電磁波をヒットさせた。
すると、見事に硬直していく。電磁波を当てられた部分からじわじわと、身体が動かなくなっていく。グランブルはもがくが、もう身体は言うことを聞かなくなっていた。
「今っ!」
「ラジャー!!」
グランブルが動けなくなったところで、ケンジがはっけい、サンがシャドーボール、フライが蔓の鞭、シズクが十万ボルトを一斉に繰り出す。避けようとも避けることができないグランブルは、あっという間にその攻撃の威力を全て受け、気付けばボロボロの身体で横たわっていた。
「遠距離攻撃って動かなくって便利ー」
「動かなくても暑いのは変わらないと思うんだけど」
「んー、なんか気分的に!」
今出てきたグランブルの他に、前半にいたポケモンの進化系はブーバーくらいであった。だが、ブーバーがまた面倒な相手なのだ。進化前のブビィに比べるとレベルも高いし『騙し討ち』という技も持っている。特性はそのまま『炎の身体』であるから近距離専門のサンとケンジは不利になるしフライは弱点のタイプだしで結局そういう類いのポケモンはシズクが全て請け負ったのだ。
前半で出てこなかったポケモンは、ツボツボやバルビート、イルミーゼなど。バルビート等は常に光を纏っているため、洞窟の壁をちらちらとした光が照らせば大体こいつらだと分かる。そのため、バルビート、イルミーゼとの無駄な戦闘はある程度避けられた。時折恋人のような関係で飛んでいるものもいたが、そういうのは大抵此方から変に手を出さなければ単なる一般ポケでしかなかった。
「……リア充は他所に行ってほしいなあ!ほんっとイライラするんだけどー!!」
「まあまあ。危害は与えてこないんだし、今はスルーすれば……今は、ね?」
「確かに無駄な体力は使いたくない……しかし今のこの状況は非リア念願の『リア充爆発』が達成されるかもしれない……」
「馬鹿なことはやめろよ?」
「突っ走んないで、サン。私疲れてんの」
「全部サンが責任負ってくれるなら俺は別にいいよ?」
「君達はリア充候補だもんね……くそ……」
なんて、アホな話をしながらも彼らは順調に進んでいた。バルビート、イルミーゼの関係に和んだか、敵もそこまで頻繁には出てこない。サンはひたすら『リア充爆発』と呟いていたが、進みやすいのは良いことであった。
「あと何階くらいかしら?」
「結構上ったし、一、二階かな?どっちにしろ、もうすぐだと思うよ!」
階段を五個越えたあと、少し休息しながら周りを見渡していた。怖くなるほど静かだ。一階よりも、明らかに敵が少ない。戦わないのはいいかもしれないが、普通はいるであろう野生ポケモンがいないことは余計不安を掻き立てた。
「なんか……いるのかなあ……?」
「頂上になんかがいるから、頂上付近のポケモンが逃げるとか、そういう現象なんじゃないの?」
「そう……なのかな………」
誰もいない、何もない。何処と無く不穏な空気に、身を震わせるものもいる。何だろうか、この静けさは。この嫌な予感は。誰もいないのに、何者かの気配を感じるこの感じは。明らかに、可笑しいだろう。
「……早く抜けましょう。嫌な予感がする」
「奇遇だね、俺もだよ。……あっあれ!階段!」
少しでも早く此処を抜けたいと願っていた矢先に階段が発見された。ナイスタイミング。全員がその階段に向かって駆け込む。目の前に階段が迫って、さあ駆け上がろうと足にずっしり力を込める。
その時
「………易々と、その先に行かせる訳ない」
少し小さめ、けれどはっきりと、アルトの声が、響き渡った。
「な……何?……誰?」
彼らの目の先には、マグマッグの進化系であるマグカルゴとヘルガーで構成された軍団がいた。ざっと会わせれば三十匹ほどいる。そしてその戦闘に立っているのは、一匹の、犬のような風体のポケモン。暗い灰色をしていて、足と頭の毛の先、目の上は血のように明るい真紅。瞳は冷たく光るエメラルドグリーン。
突如現れたポケモンの軍団に、全員の動きが一時制止した。野生ポケモンなら頷ける……だが、今この灰色のポケモンは、しっかりと『言葉』を発した。意思があるということはダンジョンのポケモンではない、ということは分かる。なら何者だ……?同じく霧の湖を目的とする探索者か。それとも……しかし他に候補は思い付かない。此処は未開の地だ。お尋ね者が紛れ込んで、なんて、有り得ない想像である。
「ねえ、君達は一体誰な、の?」
ケンジが当たり前のことを問おうとした瞬間、ものすごい形相で灰色のポケモンがケンジを睨み付けた。その眼光は誰かを殺せそうなほどで、思わずケンジも、シズクでさえも怯む。
しばらく沈黙の時間が続く。誰も何も言わず、誰も動かない。訳のわからない現状に、サン、シズク、ケンジは目に見えるほど狼狽えていた。しかし、フライは冷静に………端からはそう見えた………殺気を湛えた目で灰色のポケモンをじっと見つめ返していた。まるで喧嘩を売っているように。『許さない』、『逃がさない』と言っているように。しかしその感情は、何故か灰色のポケモンの方からも感じられた。
沈黙を破ったのは、翡翠の蛇。
「……………ろ………」
「え……?なんか言った?フラ……」
「逃げろ!!!今すぐ!!!!」
「……は!?」
いきなり大声で叫んだフライの声は掠れていた。その目は怒りと焦りに駆られている。何かが可笑しいと、シズクは瞬時に感じだ。なんか変だ……だがその違和感の正体を、彼女は知らない。
「逃げろって、何言ってんのよ、それならあんたも………」
「僕のことはいいから!!頼む、早く逃げてくれ!!!」
「じゃああんたその大軍どうすんのよ!一匹でなんとかできる量じゃないわよ!!?」
「そんなのやってみなきゃ分からないだろ!!こいつらは僕が止めるから!!お前らはさっさと逃げろ!!」
「ッ……!」
「行け、頼む、行け」
フライの言葉は懇願に満ちていた。これは従わなければどうにもならないだろう。シズクの脳内を、聞いたような聞いてないような、懐かしい声が流れる。
────────男が一度覚悟を決めたなら、誰もそれに干渉するな。
仲間を置いていくことの苦しさに目を瞑り、決意したように開く。シズクは、サンとケンジに呼び掛けた。
「……行くわよ」
「え!?でも………!」
「いいから、行くわよ!!」
シズクは渾身の力を込めて、渋る二匹を階段に押し込んだ。フライを置いていくのは気が引ける。やりたくない事だ。でも時には……『そう』しなきゃいけない時がある。
「……絶対生きて、追い付いて。死んだら許さないからね、フライ」
「………嗚呼」
頭のいいフライなら、きっと真ん前で戦わずに撒く方法を考え付くだろう。今は、彼の判断に任せるしかない。シズクは一歩一歩階段をのぼる。
「行かせる訳ないって言っただろ」
灰色のポケモンが階段をのぼるシズクの背中を狙って飛び出すが、それはフライのリーフブレードにより阻まれた。頬を深くざっくりと切られ、鮮血を流しながら鋭い眼光で灰色のポケモンはフライを睨む。
「………絶対に、あいつは………あの方は、殺されないでくれよっ……!!」
*
「しぶとい。頭くる。結局お前、レベル変わってない」
「当たり前だろ。……此処に来てからも、鍛えてきたんだからな」
「鍛えたからといって力がつくわけでもない。力は持って生まれる天性の才能。生まれつき持てる力は限られてる」
「……そんなもん、決めつけられたら困るな」
僕の放ったグラスミキサーが、あいつの騙し討ちで受け流されていく。僕とあいつの実力は同じぐらいだ。あいつよりは、きっと倒しやすい。だが、実力が五分五分だといって確実に倒せるというわけでもない。
正直、こいつらが現れた時は心臓が一拍すっ飛ばしたと思った。本当にビビった。それに、焦った。もう少し、あともう少しだったのに。そんな想いが頭と心を駆け巡って頭のなかが真っ白になった。
来るとは予想していた。だが、惜しかったのだ。あと少しで頂上まで辿り着けたのに、その寸前で遭遇するなんて。まず最初に思ったのは使命のことだった。使命を果たすために守らなければならないあの方のこと。あの方は生きなければならない。その為に、こいつらに後を追わせてはならない。
考え抜いた、というよりはぱっと頭に浮かんだことだった。僕が囮になり、あの方を逃がす。僕がどうなろうと知ったこちゃない。けれど、この階には丁度裏道への、唯一把握した扉がある。毎階にはあるのだろうが、掴むことのできた『裏道』の入口はこの階のみだ。此処で追われたのは不幸中の幸いである。逃げ道が、あるのだから。
「……お前、相手は俺だけだと思ってる」
「……は」
目の前の、ポケモン……灰色の犬のように見えるポケモン、ゾロアの声で僕は思考の海から抜け出す。冷静になって周りを見れば、そこらにいるマグカルゴとヘルガーの軍団。そうだ、こいつらがいた。ご丁寧に僕の苦手な炎タイプを揃えてきやがって。裏道があるとしても、状況は最悪だ。
死にたくはない。僕はまだ生きていたい。任務をこなすために、僕は生きていなければならない。
「………っく……」
ダメ元で、攻撃手段ではなく目眩ましの為にグラスミキサーを打ち出す。ゴオオッと轟音を立てて渦巻く翡翠色の竜巻は、一瞬で視界を悪くさせた。だが……ダメだ。まるで示し合わせたように繰り出された火炎放射により、瞬殺されてしまう。
どうする。どうする、僕。生きて追い付くと約束したじゃないか。あの方と追い付かなければならないのに。弱気になっても、得るものなんて何もない!
「ゥラァァアアア!!!」
とにかく突破口を。とにかく逃げ道を。僕を中心に輪になったマグカルゴとヘルガーを薙ぎ倒して、道を創ろうと蔓の鞭を振り回す。素早さには負けない。逃げ出せれば僕の勝ちだ……。
「自棄になった生き物ほど、倒しやすいものはない」
あのゾロアの声が聞こえた途端、僕の身体は宙に浮いていた。刹那の浮遊感の末、岩壁にぶつかり背中から鈍い痛みがじんじんと身体を襲う。
「くそっ…………」
「諦めて眠れ。お前じゃ俺に勝てない」
「んなの……やってみなきゃわかんねえだろうが……!」
切れ切れの息でとりあえず言葉を吐く。ほぼ見栄を張った状態。それでも諦めることはできない。殺されてはならない。息を吸う度に肺に痛みが走り、身体が言うことを聞いてくれない。ふらふらと上半身を起こすが、そこに追い討ちが入ってまた壁に頭をもたせる状態になる。
負け惜しみにリーフブレードを発動させるが、マグカルゴの火の粉で打ち消される。数の力というのは強い。今、『あれ』を発動させれば……勝機はあるが、密閉された空間では動ける範囲が限られている。曖昧な視界でゾロアが留め、というように騙し討ちを使おうと手に力を込める。が、
「ッオラァァアア!!」
突如水飛沫があがり、マグカルゴとヘルガーの群れを辺りに散らせる。直ぐに水浸しになった。この洞窟内で、ゾロアは少し狼狽えた素振りを見せた。続いて水の波動が大軍を薙ぎ倒す。何が起こったか分からないまま、マグカルゴ達は倒れていく。
「……何だ……?」
「俺だよ。助けに来たぜ!」
陽気な成で飛び出してきたのは、水色と紺色のポケモン。足の側部にはクリーム色の貝殻が二枚ついている。フタチマル、というポケモン。
「グッドタイミングだな、クラウ」
「此処にきてんのは予想してた。騒ぎが聞こえたから来ただけだ。
お前はこの先に用があんだろ?此処は俺が止めてるから、早く行け。俺なら大丈夫だ」
「今回の目的はお前じゃない。だがお前も敵。邪魔。お前を倒して、あいつを追う」
「俺を倒せたら、の話だがな!!
………行け!!」
「嗚呼……!恩に切る!」
クラウによって創られた輪の穴から抜け出して、裏道の扉へと一目散に走る。走りながら後ろを振り返って、力の限りあいつに向かって叫んだ。
「生きろよ!!」
「あったりまえだボケェ!!!」
*
「フライ、大丈夫かなあ………」
「分かんない、けど、あいつは強いし、仲間、信じなさいよ」
「……うん………」
フライと別れてから、サンはずっと項垂れていた。あの大軍を前に、一匹だと死ぬ可能性だって拭えない。しかも相手は、あの見たことないポケモンと、フライの苦手な炎タイプのポケモンだ。上手く逃げ出してくれればいいんだけど。
「今は、目の前の目的を達成しよう。フライのことは、信じてるから。霧の湖に辿り着けば、フライの為にもなる。……きっと」
しばらく歩けば、階段が見つかった。その先の明かりは、外のものだと断言できる。柔らかな日光が、荒い階段を照らしている。洞窟内とは、明らかに違う光だった。
「………この先が、多分外ね」
「外かぁ……何が待ち受けているんだろ」
「何かがいるってことは、確定だよね」
待ち受けているであろう何かへの不安と、先で待っているであろうロマンへの期待がごちゃまぜになりながらも、彼らは階段をのぼる。眩しい陽光に照らされ、シズクは少し目を細めた。日の光を浴びたのが久しぶりに感じる。この暖かさ、何処か懐かしい。
しかしその心地よい空気を吸うのも、一瞬で終わった。
「なんか、妙………」
「確かに。張り詰めた感じ……って言うの?全身の皮膚が逆立つ、みたいな……」
「うん、なんかこう、ぞあーってする」
平坦な土の地面。そこをなぞるように降りてくる、酷い威圧感。緊張の糸が、その場にぴんと張られたように感じられた。否、そう見えるほどに。
「グォォオオオオオーーー!!!」
突然、この地の向こう側から力強い咆哮が轟いた。それは地面を震わせ、ケンジ達も震わせた。しかしその時、シズクに異変があることにケンジは気付いた。
彼女は、鋭い眼でその奥を睨み付けていた。だが、その眼が、まるでフライの眼のように翡翠色だったのだ。蒼に黄色を混ぜた、というような混色ではなく、純粋な翡翠色。ペリドットのように輝く、美しい瞳。その変化に、ケンジは唖然とした。幸いサンはそれに気付いていない。ケンジは、シズクのことをそっとサンから隠した。
「シズク?」
「………危険な予感がするっ……!今から出てくるの、きっと私達よりレベルが段違いのポケモンよ」
彼女がそう言ったあと、翡翠の眼は再びサファイアに戻った。どちらにしろ宝石のようで綺麗だ……否、そんなことを考えている場合ではない。
もう一度響いた咆哮、足音のような衝撃。それは咆哮よりも更に地面を揺らし、シズク達の身体も持ち上げた。ドスン、ドスンと、体重の重い何かが、此方へと向かって歩いてくる。
「………来る………!」
威圧だけの、
操り人形が。
*
「ヘイヘイヘーイ!皆!此方だぜえー!」
所変わってグラードンの石像前では、ヘイライが他のギルドメンバーを連れて戻ってきていた。ギルドメンバー達は、いきなり霧が晴れたことに驚き、一旦ラペットがいるベースキャンプまで戻ってきていたのだ。よって、ヘイライは片っ端から皆を探して回る必要が無くなったのだ。
「ほう、これか。グラードンの石像というのは」
ラペットはその場で、かなり傷だらけの石像を眺めていた。歴史的な物である。情報屋であるからにして、そういうものには興味があるのだろう。ラペット本人は、『グラードンの石像』という物を頭のメモ帳に書き留めていた。
「しかし……驚くほどに、誰もいないですわね」
「おいヘイライ!お前本当に親方様も見たんだろうね!?」
「ヘイ!確かに!
おいらがベースキャンプに帰る途中、親方様とすれ違ったんです。おいら声を掛けたんですけど、それよりも親方様はセカイイチを追いかけるのに必死になっててそれどころじゃなかったみたいでさあ。
ガーネットとエメラルドは先に行っているし、多分親方様もそのあとを追ってるんじゃないかと思うぜ?」
ヘイライの話に、皆がうんうんと頷いた。これで全員がこの先に進む意思を示したのだ。異論があるものはいない。さあ行こう、と思ったとき、唐突に地面が揺れだした。
「なっ、地震か?」
「とにかく伏せろ!倒れそうな木からは離れて!」
迅速なラペットの指示により、皆一ヶ所に固まって頭を守る。何か倒れてきたり落ちてきたりすることはなく、揺れは直ぐに収まった。
「なんだったんでゲスかねえ……?」
『グォォ…………』
ベントゥが揺れについて感じだ疑問を口に出したとき、遥か遠くから、微かに唸り声のような叫び声のようなものが聞こえた。とても小さく、だがはっきりと。
「なんだ……?」
「鳴き声……でしょうか……」
「ヘイ!この上で何か起こってるのかもしれねえぜ!皆急ごう!!」
ヘイライの言葉により全員が足音を立てて一斉にその場から駆け出した。ドドドド、と、砂埃を巻き上げ『熱水の洞窟』へと向かい。その中、一匹のディグダ……リナーがふと足を止め、後ろを振り返った。
「……?ねえお父さん。今何か聞こえなかった?呻き声みたいなのが……」
「気のせいだろう。それより、急ぐぞ」
「………うん」
渋々ながら、リナーは父親であるベコニンについてその場を去る。彼らが完全に立ち去ったあと、その呻き声は先程よりも少しだけ大きく響いた。
リナーの足を止めた音の正体。それはミグロ、ガナック、ディビ等ドクローズの三匹だと言うことは、ドクローズの三匹とパティ以外に知るものはいない。