#108 因縁の対決
「待ちな、お前らっ!!」
大自然の草原の中に不意に出現したはっきりとした『異物』。全体的に毒々しい紫色や青色をした三匹のポケモン達……ミグロ、ガナック、ディビのドクローズは、変わらない嫌らしい嘲笑いを顔に貼り付けて石像の真ん前に現れた。
「ッ、お前ら………ッ!」
「……何、あんた達生きてたのね」
突如現れた三匹に、ガーネットの二匹は敵意を剥き出しにした。ケンジはまるで猛獣を想像させるように狂気を湛えた鋭い目線で三匹を睨み付け、シズクは地味に酷い言葉を呟きながら青い瞳に赤い炎をちらつかせながらどす黒いオーラを放っている。
先程まで謎が解けたことから生まれた幸福感でいっぱいだったのに、風船が萎むように急速に興奮が醒めていった。エメラルドの二匹……とりわけサンが、シズクとケンジが纏うオーラの変わりように若干驚いていた。
フライはというと……此方も、かなり凄い顔をしている。いつもの穏やかな彼からは想像もつかないほどの殺気に染まっている。翡翠色の眼はギラギラと輝いていて、それは『睨み付ける』という技を通り越して視線でドクローズを貫き殺しそうだった。それほどまでに殺意に犯されている。そんな彼を見て、更にサンは呆気にとられていた。
「ご苦労だったな、クククッ」
「ケッ、謎さえ解いてくれればもうお前らに用はねえよ」
始終上から目線な彼らの態度に、段々とサンの彼らへの嫌悪感も増してくる。この三匹は、確かにギルドに来たときからメンバー達のブーイングを浴びていた。それは単に臭いからか、それとも裏に隠されているであろうゲスい性格を察したからか分からないが。ただ、ラペットやパティが何故だか彼らを庇っていて、この二匹の前では三匹……特にミグロは全くボロを出さなかったため『悪』ということを確信できる証拠がなかった。
けれど、今……敬語をかなぐり捨て、悪い顔丸出しにし、偉そうに言葉を紡いでいくこの三匹は、確かに『悪』であった。疑いの予知もない。……彼らは、シズク達四匹のことを完全に『自身より弱いもの』として見ている。簡単に力で捩じ伏せられる相手だと。
「この先へは俺達が行く!!へへっ、お前らはここで無様に倒れて……仲良しギルドメンバーの助けでも待ってるんだな!」
雑魚感満載のディビが、四匹を馬鹿にしたような言動をし、へらへらとせせら笑う。この中で一番弱いだろうな、と思えるディビにそんなナメられたようなことを言われ、シズクの目付きは更に鋭くつり上がっていく。青い硝子の向こうでちらちらと燃えている『赤』は、後ろにいるサンとフライには見られていない。彼女の様子を見て、ケンジは少しだけだが戦慄が走った。が、直ぐに立て直す。
「せめて……せめて、謎を解く努力ぐらいするべきじゃないか、ミグロ?自分は考えないで、他人が導き出したものを横取りするってのか?」
「世間はそんなもんだ。自分で苦労するよりも他人に動いてもらう方が随分楽だろう?
…………『強者』……『勝者』のみがあの先へ行くんだ。『弱者』はこの先には不要だぜ」
「それじゃああの先へ行くのは……私達ね」
シズクがそう放った瞬間、彼女の頬袋から細い電気が漏れでてパチパチと弾ける音がする。耳も尻尾もぴんと直立していて、彼女が知らない内に身体は戦闘体制に入っている。シズクがこの様子なら、戦うことは免れないかもしれない……その場の全員が、そう直感した。
「『ドクローズ』、ねえ………。
お前達がギルドに入ってきた時から評判は悪かったって気付いてるよな?『悪』の探険隊……だなんて言われてたが僕には単なる『チンピラ』にしか見えなかったがな……。
何故お前達は僕の……僕らの邪魔をする?理由はなんとなく分かってるが、とりあえず聞いとかないと攻撃するわけが得られないんでね。僕には時間がないんだ。自己中の馬鹿に構ってるような時間はない」
「へえ、言うじゃねえか。『悪の探険隊』か。それはそれでいい響きだ。
俺達がお前らの邪魔をする理由?そんなの聞かなくても分かることだと思ってたけどなぁ。まず一つ目。俺達が霧の湖に辿り着いて……そこの宝を奪うこと。
二つ目……ガーネットを此処で潰すこと!!俺達とガーネットの二匹はギルドに入る前からいざこざがあって、俺らの間にある険悪ムードには誰だって気付いてただろ?ギルドのメンバー達が嫌な目で見てきてるのも知ってた!!だがギルドメンバーがどう思ってようが気にもならないことだろうが?何故なら……パティもラペットも、それに気付かねえんだから!ギルドの上に居座る二匹が俺達のことを『良い助っ人』だと信じきっているなら何も心配することなんてねえだろ?
ギルドなんてそんなもんなんだよな……ラペットは勿論のこと、親方のパティでさえ気付かねえ!そもそもパティは頭のネジが一本ぶっ飛んでんだ……俺達が裏でどんな悪事を働いてようと………探ってこようともしねえ!」
「……訳が分からない理屈だね」
「この際そんなもんはどうだっていい………理屈だの常識だのは、世の中に流されれば終わりなのさ!!」
サンはこのやりとりで、ドクローズから……否、ミグロから何か違和感のようなそうじゃないようなものを感じていた。理屈や常識に押し流されることを嫌い……そんな世界諸とも毛嫌いしているように思える。一体彼に何があったのだろうか、なんて妙に彼女は勘繰ってきた。
「宝ね……やっぱりそれが目的でギルドの遠征隊に入り込んだのか」
「クククッ当たり前だろうが。宝は嘘をつかねえからな」
「霧の湖の宝は……お前らなんかには釣り合わない」
「ククッ、勝手に言ってろ。………先へ進むのは、俺達だ。
シズク………あの林檎の森での時から……俺達がお前に妙な執着心を持ってたってこと、気付かなかった訳じゃねえよな?」
「当然気付いてたわよ?……めんどくさい……でも丁度いいわ。私もあんたを……あんた達をぶっ潰したくて仕方なかったからね!!」
彼女の瞳が一瞬、ぼおっと紫に染め上がる。それはドクローズの三匹しか見ている者はいなくて、その紫もすぐに収まっていく。シズクが四肢に力を込めて戦闘体制に入るのを見て、後ろに構えるサン、ケンジ、フライも身体に力を込める。
(俺よりも遥かに小さく………そして弱い奴等が三匹。唯一の危険因子はシズクだが、あとはなんとかなるだろう……)
「……来てみろ」
「そんなに潰されたいなら」
ミグロの薄笑いと共に発せられる挑発にのり、シズクの頬袋から『漏電』よりも更に強い電撃が放たれ辺りが緊張につつまれ、震え始める。
「今すぐにでもそうしてやるわッ!!」
お互いに憎み合い、いがみ合い、何度も何度も倒したかった相手との、正に『因縁の対決』と言うべき戦いの火蓋が…………
────────────今、切って落とされた。
*
さあ、まずは誰から潰そうか。
お互い無闇に飛び出すことはせず、まずは相手を睨み付けて出方を窺っている。ミグロは後ろにガナックとディビを従えながら目の前の四匹を見つめ、内心舌なめずりしながら考えていた。
エメラルドの戦闘能力はまだ計り知れない。この二匹が戦っているところを、ドクローズは見たことがない。そしてシズク……彼女は、ミグロにとって最も面倒な相手だった。となれば、確実に倒せそうな弱虫の……ケンジを、先に手っ取り早く倒してやろうか。そして動揺した残り三匹を呆気なく……そんな単純な計画を頭の中で練り上げ、ミグロは密かに嗤った。
「………おい、お前ら」
「へい、なんすか?兄貴」
四匹に聞こえないような小さな声で後ろにいる子分二匹に計画を囁いた。『まずはケンジを狙え』と。その意図を理解した二匹はミグロのような悪い笑みを浮かべ『分かりました』と返事を返す。
正直、ガナックとディビの弱さにはミグロも落胆したところがあった。この二匹が弱いということはミグロでさえ充分分かっていた。だが、いざとなればガナックと自分の『毒ガススペシャルコンボ』を使えば。また毒ガスの中でシズクの訳が分からない力が放たれるかもしれないとは思っていたが……それがドクローズの最終兵器であった。
再び目の前の敵を……特に最初の標的としたケンジをじっと見据えた。最初に狙いつけられて可哀想な奴だなあ、とガナックは僅かに思う。勿論、敵に同情などいらない。ガナックは嘲るように心の中でにやついた。
勝てる。こんなちっぽけなよわっちい奴等に、俺達が負ける訳ねえじゃねえか。負ける要素なんてこれっぽっちもねえ。こいつらは皆、強大な力の前にひれ伏すんだ!
欲望と自信を剥き出しにした表情で、にらみ合いの末ミグロが動き出した。
ミグロは種族上俊敏な動きをしにくい。図体が大きいため自分で素早い動きだと思って突っ込んだとしても簡単に避けられてしまう。ピカチュウやリオルなどといった小柄な種族ではないのであるから、当然だ。
そのため突っ込んでいくのは相手に隙を見せる行為になってしまう。それならば……と、ミグロは真っ黒い煙───『煙幕』を吹き出した。
『煙幕』は風に乗って四匹の方向に漂い、彼らを完全に覆いつくした。突然の攻撃で不意をつかれ、あの煙の中で慌ててる奴等の姿が目に映る。ミグロはにやりと笑い、ディビとガナックに合図を出す。二匹は『待ってました』と前に出て、ガナックは毒ガスを、ディビは毒針を煙幕の中に撃ち込んだ。
更に濃くなる煙とガス。視界最悪の中に撃ち込まれた状態異常系の攻撃。この煙が晴れたあと、どんな姿で出てくるか。楽しみだ。
「こういう姑息な手、使ってくるって分かってたわ」
澄んだ声が響き渡り、晴れるまでまだ時間がかかるだろうと思っていた毒ガスと煙幕が一瞬にして蹴散らされた。辺りにはフライの放ったグラスミキサーの葉が渦巻いている。毒針も四匹には全く当たっていない。ミグロは思わず目を見開いた。
「僕の『守る』で攻撃は無効にさせてもらったよ。あの弱々しい毒針なんて、全くもって効きやしないさ」
よく見れば四匹の目の前には、フライの眼と同じような翡翠色の膜が張られていた。まるで盾のように彼らを護っている。
「ッ……ふざけんな」
「それは此方の台詞だよ。訳分かんない因縁ふっかけてきてさ。これから未知の場所に挑むのに、あんまり体力消耗したくないんだよね」
翠の壁からケンジが飛び出てくる。そもそも最初の標的はケンジだった。しめた、とミグロはケンジの方に意識を集中させる。リオルという種族は近距離戦が得意である。よって攻撃するには、此方に近づいてくるはずだ。
案の定ケンジは手にはっけいを構えて電光石火で近づいてくる。ミグロは応戦しようと前方に向けて火炎放射を発射した。だが、その炎が当たることはなかった。彼は火炎放射が当たる前にぴょんと飛び上がり、ミグロの頭上を通り越して後ろのガナックを狙ったのだ。
『弱い者から先に片付けてしまおう』
考えていたことは、同じだったのだ。
ケンジのはっけいが当たったガナックは一瞬で倒れた。ディビは翼で撃つを構えるが、それはケンジの『ただの蹴り』で呆気なく抑えられてしまう。後ろのことに意識が行っていたミグロは、急に前から痺れを感じた。振り向けばシズクが電気ショックを放ったところだった。突如のことでミグロは膝をついてしまう。
「威勢張ってたのは何処の誰?それとも虚勢だったのかしら?」
シズクは電気ショックを浴びせたと同時にミグロに電磁波を当てて麻痺に追い込んだ。動けそうもないミグロを見つめ、未だこりずに毒針を連射するディビを見つめる。だが、そちらの方は気にしなくてもよかったようだ。フライの頭上にだけ注ぐ強い日差しのおかげで威力の増した極太のソーラービームがディビに直撃したからだ。サンとフライはこの弱いズバットに心底呆れていたようだった。
「そろそろ諦めれば?あんた達が弱すぎてさ、釣り合うこともないわ。面倒だし邪魔なのよね。それとも、私達のこと簡単に倒せるとでも思ってたの?」
「当たり前……だろうが。ガナックとディビの弱さは分かっていた。こうなることも想定済みではあったさ。あとは数が公平じゃないだけ。サシなら勝てたとは思うぜ?クククッ。
それにギルドの連中だってそうさ。あのペラップだって俺達のことを崇拝してやがる。馬鹿な弱者ばっかりだ。正直呆れたぜ。あの有名なプクリンのパティだってどうせよわっちいんだろ?覇気ってもんが感じられねえよ、笑わせやがって全くよお。
そしてお前らは……此処で終わりだ」
ミグロの言葉が終わった途端、ミグロの身体が赤く光り始めた。同時に彼らの足元も危険な赤い光を放ち始める。何かする気だ、と感じたが、何をするかは分かっていなかった。
「まさかこれ……『大爆発』じゃ………!?だとしたら……。
おい、逃げろ!!!」
「え……?」
「今更遅いぜ、ククククッ。皆吹き飛びやがれ!!」
朱色はだんだんと広がっていき、その場の空間をも紅く染めていく。シズク達は巻き込まれないよう必死に足を動かすが、その程度じゃ逃げ切れないことをミグロは知っている。嗚呼、勝ちだ!結局虚勢を張ってたのはそっちじゃねえか!まだ勝っていないにも関わらず、彼は『もう勝った』と確信していた。……のだが。
「あーん!!待ってぇ〜!!」
まさか横槍が入るとは、思ってもいなかった。
「な……なん、だ?」
フライのソーラービームを受け地面に横たわっていたディビが意識はあったようなのでそう呟いた。ケンジに殴られたガナックも半身を起き上がらせバッグの中のオレンを探している。二匹が復活したらまた振りだしのようにも思えるが、何故かシズクはこれで終わりだと感じていた。
何故なら……まるでミグロとシズク達の間にとおせんぼするかのように転がってきた林檎には、見覚えがあったからだ。普通の林檎よりも格別に大きく、赤みの深い……『セカイイチ』。となれば、当然声の主は想像がついた。
「セカイイチー♪セカイイチー♪」
セカイイチを追ってこの激戦(?)に割り込んできたのは、他でもないプクリンのパティだった。シズクはなんとなく予想がついていたが、ケンジは本気で驚いているような顔をしていた。
パティは転がってきたセカイイチに飛び付き、ほっとしたような表情で頬擦りしている。その光景を見て、全員の緊張感が抜けていった。両者とも思わず戦闘体制を解く。
「やぁっと捕まえたっ♪僕のセカイイチ♪セカイイチが無くなったら僕は………僕はぁ…………うるうる………
……あれ?君達………それに僕の友達も♪皆一緒だ♪わーい!!わーい!!」
やっとのことで現状を理解したミグロは、ガナックやディビよりも先に自我を取り戻した。もう少しでこの四匹を木っ端微塵に出来た筈なのに……と唇を噛むが、それを外に漏らしてはいけない。精一杯落ち着いたような声を出した、できる限り丁寧な物腰でミグロはパティに話しかけた。
「あの、親方様……此処で一体何をしているのですか?」
「ん?何って?森を散歩してたらね、セカイイチが僕からころころ逃げ出しちゃったの……んで、それを追い掛けてたら此処に来ちゃったって訳♪まあ偶然だね〜♪
………そうだ!」
散歩なんて呑気な……と隠す気もないジト目でパティのことをガン見していたシズクは、いきなりパティに指差されびくっと肩を揺らした。ミグロとの会話からの方向転換が早くて、何故か身体が反応してしまったのである。シズクはそんな自分にも呆れた。
「君達、こんなところでサボってちゃいけないよ?」
「は?」
「………えっ?」
「君達のお仕事は森の探索でしょ?ほら先へ行って行って♪」
「え、いや、でも……」
「親方の言うことが聞けないのかい?…………ぷんぷんっ」
このまま先へ進むことに渋るケンジに向けて発せられた一言。ただの言葉の筈なのに、脅迫のようなものを感じてしまった。『いいか、先へ行け』と、そんなパティの気持ちが込められているような気もした。だが、語尾につけられた擬音によりそんな違和感はさっさと消え去ってしまう。この言葉と雰囲気から、シズクとフライは『もしかしたら……』とパティを見つめたが、彼から大した反応は返ってこなかった。
「……じゃ、じゃあ、行こっか」
「そうね」
「うん、私達こんなとこで止まってる場合じゃないもんねー!行こ、フライ!」
「………ああ」
パティに背中を押されるようにして、彼らはようやくその場を脱しあの空に浮かぶ大地へと足を進めた。
「頑張ってね〜♪
あー、早くいい知らせが来ないかなあ〜♪ルン♪ルルルン♪ルンルン♪ルルルン♪ルンルン♪」
鼻歌に合わせ楽しそうに体を前後に揺らすパティと遠ざかっていく四匹の背中を見ながら、ミグロは微かな焦りを感じていた。このままあいつらを行かせてはならない。なんとかパティを丸め込んで追わなければならない。霧の湖の宝は絶対に手に入れたい……。
「…………あのー、親方様………」
「ん?どうしたの?友達♪」
「……我々も、探索に出掛けようと思うのですが………」
「ええ〜!?いいよう、友達にそんな苦労はさせられないよう。探索はあの四匹に任せて………此処で一緒に知らせを待ってよ♪ルルルン♪ルンルン♪ルルルン♪ルンルン♪」
ミグロの必死の策もあえなくパティによって完全に潰され、ミグロは焦燥に駆られた。このままじゃ駄目だ、どうにかしなければ。考えを仰ぐように部下の方を見ても、何も浮かんでいないようで困惑した表情を隠しきれていなかった。とりあえず計画を相談しなければどうにもならない。ミグロは一旦、まだリズムに乗り続けているパティから目を離した。
「………兄貴ー、なんだか妙なことになってきましたね……」
「このままじゃガーネットとエメラルドの奴等に先を越されますぜ。どうするんです?」
「……どうもこうもねえだろう。仕方がない………パティは此処で、俺達が倒すんだ!そして、ガーネットの奴等を追い掛けよう」
手段がそれしかないことは知っていた。この状況下でパティを言いくるめるなんて無理な話になってきた。ならば方法はもう一つしかないのだ。『パティを倒す』……倒さなければならない。
「でも、大丈夫ですかねえ……」
「パティって、なんか不気味ですぜ」
「…………心配するな、大したことない。あの面を見てみろよ、何処が強そうに見える?野生ポケモンよりもよわっそうなナリしてやがる……気にすることもねえだろう。
それに、パティはギルドの自室に貴重なお宝を持っているという噂がある」
「ぇぇ!?………お、お宝?」
「……そうだ。前々から奪ってやろうと思っていたから好都合だ」
それでもまだヒビっている二匹にパティの宝の話をして上手くその気にさせる。パティが宝を持っているという噂やそれを奪おうと思っていたということは本当だ。ガナックとディビはミグロの思った通りそれに引っ掛かり、恐怖など吹き飛んだようだ。
「おいガナック、毒ガススペシャルコンボの用意だ」
「へい!」
………いける。やれる。警戒心ゼロで、俺達を心から信じ込んでいるんだ、倒すのなんて簡単だ。手っ取り早く片付けて早くあいつらのあとを追わなければ。あんな弱そうな奴。毒ガスでイチコロだろう。
「ルンルン♪ルルルン♪ルンルン♪ルルルン♪」
「………パティは、俺達が此処で倒す!!悪いが………あの有名なギルドの親方、パティも此処で終わりだ!……クククッ」
その意地汚い小さな目でパティのことをじっと睨む。パティはその視線に怯むことも笑顔を崩すこともせず、ただただ純粋無垢な瞳で彼らのことを見つめ返した。