#84 案外仲良くなれるかも
次の朝。ノンドの声に叩き起こされる前に起きれたのはいいけど、俺の寝相が凄かったらしく先に起きてたシズクに朝っぱらから怒鳴られた。聞いたところ、藁のベッドを枕にし、壁に足を立て掛けて寝てたらしい。そんな体勢でよく寝れたな、と自分を褒めたくなったが、これは反省しないとギルドが吹っ飛ぶかもしれないので素直に頭を下げた。
シズクは「良し」と一言言い去っていったが、前は謝っただけで済んだかどうか。何故だか今この瞬間、『変わった』事を妙に意識した。
朝礼場に出て、いつものようにパティの一言を聞き、いつものように掛け声をする。遠征までもう少し、だけれど、今のギルドに特に変わったことは無く、平凡に、平穏に日々が過ぎ去っていっていた。
ギルドに入る前、俺は平凡を嫌っていた。味気なくって退屈で、つまらなくて、惰性に流されて生きるだけなんて、意味があるのか、とか考えたりして。今の日常も勿論平凡だけど、ギルド内の平凡は、嫌いではなかった。何よりシズクが傍にいて、ぼーっとしているだけで過ごしてしまった日々を楽しく過ごしていけるようになった。
全部、シズクのおかげだよ。
「うぅ〜……今日も頑張ろ〜」
伸びをしながら呟く。今日はどんな依頼にしようか、と頭の隅で考えていた。今脳内の半分を締めているのは『眠い』という気持ちである。
「ねえねえフライ!!昨日何処行ってたの!?嘘ついてまですることじゃなかったでしょ!」
「はは、ごめんごめん。確かにお前らの推測通りクラウと話してたが……もし言ったりお前は引き止めるか一緒に行くとか言い出すだろ」
「うぐっ……ま、まあそりゃ」
サンとフライの、じゃれあいみたいな言い合いに、周りの男性陣が頬を緩めていた。そういえば、俺とシズクが話していたときにも他のポケモン達が同じような表情をしていたような。気のせいであることを願おうか。
「ケンジ、これから何かある?」
「え?これから依頼じゃないの?」
「私は部屋で種とかの整理したいから、暫く中にいるかもしれない。あんたもどっか行きたい場所があったら勝手に行ってきて」
「え、でも整理なら俺が……」
「いいから。私がやる」
昨日の夜、彼女が木の実の整理をしていたのを見てはいたが。勿論遠征が近いからだろうが彼女一匹でやる必要は無い気がする。俺がやると提案するも、シズクにはあっさり却下された。
「最近依頼ずくしで気を休める暇も無いじゃない。準備が終わり次第呼びに行くけど、それまで適当にブラブラしてればいいわ」
「わ、わかった……
大体カフェとかお店とかまわってると思うから、その辺探してね。じゃ、よろしく」
そうして、俺とシズクは別行動を取ることになった。シズクは部屋へ引き返し、俺はギルドから外に出る。シズクの言うとおり気休めは必要だが、いざとなれば何処に向かうのが得策かわからなくなってくる。とりあえず誰か知り合いを探すか、と思って歩き出した。
トレジャータウンは、今日も変わり栄えのない賑わいだった。日頃食糧の買い出しの為に出掛けている者や、仕事に出勤する者。警察と思しきポケモンも、この先にある警察署へと、ゆっくり歩いていた。平和だな、と考えて広場まで来る。そこまで来たとき、クラウがいるんじゃないか、と思い出した。一日そこらでいなくなる筈は無いだろうが……。
昨日フライとどんな話をしていたのか少し盗み出せないかと期待しながらクラウを探すが、広場の何処にもクラウの姿は無かった。昨日店を構えていた隅の方を見ても、影さえ見えない。もう行ってしまったのだろうか。一日で?お礼かなんかぐらい言わせてくれてもいいじゃないか。ちょっと不満ではあったが、ここで不機嫌になっても仕方なかった。
「……何しよっかなあ………」
率直に、暇であった。
何か探検に役立ちそうな道具を買ったりしてみたいが、どんなに貯金が潤っていようとお金は全てシズクが管理しているのだ。無断で使えばどんな目に合うか想像もつかない……彼女は何故か、金銭に関してはとてつもなく敏感であった。謎だ。
やることが無さすぎる。思わず溜め息をつくと、天気に合わず横から冷たい風が吹いてきた。いきなりのことで少し驚き身を震わせるが、敵ではない、ということは分かった。
「……り、リアン……」
「ケンジ君、よね」
サンの二個上の姉、グレイシアのリアンだ。あまり関わりは無かったが、顔と名前は一致する。というか、性格が印象に残った。シズクに似ているから。それが主な理由である。
「何してるの?」
「シズクがバッグの整理してるから俺はその間散歩。でもやることがなくて」
「ふうん、奇遇ね。私も絶賛暇人よ。折角だから、何か話さない?あたし、ケンジとちょっと話したいって思ってたの。シズクちゃんの事で」
リアンは意地悪そうに口角を上げた。こういう、意地悪そうな笑み、腹が立つほどラックに似ている。シズクはまず、こういう笑顔は見せない。というか、見たことがなかった。
「どう?いいかしら」
どうせこのままでも暇なのだ。リアンの誘いは受けることにした。リアンと並んで話をするためにカフェに立ち寄りながら、リアンとは何処か話が合いそうな、そんな勘が働いていた。