#81 占い結果
「どういうことか、説明してくれないかしら?」
呆然と見つめ合うフライと水色ポケモンの間に、シズクの鋭い声が飛んだ。二匹は少々ビクッとしてシズクの方を振り向く。フライは気まずそうな表情になり、水色ポケモンの方は、何故かシズクの事をしげしげと見ていた。しかし、シズクの青い目で睨まれて、視線を急いで元に戻す。
「あんた達、どういう関係なの?」
「え?何?フライ、友達?知り合い?誰?」
シズクが冷静に事を運んでいく傍ら、サンは物凄い興味を示していた。フライよりかなり背が低いが、ちゃんと同じ背丈になろうとぴょんぴょん跳び跳ねていた。
「嗚呼、フライとは旅の途中に会ったってだけだ。大したことはないよ〜」
「それにしては反応が怪しいんだけど?」
「気のせいじゃないか?別に俺らにそれ以上の関係はねーから」
「……ふーん……」
明らかに信じてはないない声色だった。でも、彼女の言い分には確かに頷けた。旅の途中に出会っただけの仲なら、ここまで衝撃的な感じにはならないような……。俺の認識が違うだけか?よく分からない。
「………とりあえず、こいつは僕が違う大陸で旅してた時に会った奴だ。キャラが濃かったからかなり印象に残っている。
こいつの種族は見たこと無いだろうな。ここら辺では見ない種族だ。こいつの種族はフタチマルという。名前はクラウ・アンドリュー」
「おう!よろしくな!」
陽気に笑ったフタチマル___クラウは、片手を上げて言った。
「……確かにキャラ濃いわね」
「いやあ、それにしてもまさかファ……フライがこんな綺麗な女の子捕まえて探検隊やってるなんて驚いたよ〜!」
「ちょっと黙ってくれ、クラウ。頼むから」
「おう……すまん」
見た目によらず素直らしい。クラウはフライに叱咤されると、大人しく黙り込んだ。見たところ、フライとは同年代に見える。フライの年齢がどのくらいかは知らないが、まだ若いだろう。若いのに、商人やってるとは、何か訳があったりするのではないだろうか。けど、聞くことはなかった。自分の過去が探られることは辛いことだと、経験済みである。
「ふーん……フライの友達かあ……ま、よろしくね!
ねえ、クラウ……さんは、どのくらいまで此所に居るの?」
「嗚呼、敬語じゃなくていいぞ!
そんで、期間かあ……そこまで深くは考えてねーんだよなあ。今まで適当にぶらぶらしてただけだったから。この移動式屋台持ってダンジョンってのは流石にキツかったけどな。でも、そんな長居はしないよ。また別の拠点に移るから」
「へえ、そうなんだ。まあ、此所にいる間は、困ったときとかギルドあるし、そこに私もフライもいるから、いつでも来ていいと思うよ!」
「お、マジ?じゃあちょっと長居しちゃおっかなー」
「さっさと帰れってお前は」
フライは明らかに不満そうだった。仏頂面で、クラウに向かって密かな悪態をつく。本当にただ旅をしてて会っただけなのだろうか。見るからに怪しすぎるだろう、これは。
「クラウ、後であそこにいろ」
「え!?まさかの呼び出しですかあ!?ちょっと、俺そんな馬鹿やってねーぜ」
「いいから来い。お前も何かあったから来たんだろ」
「………そうだな」
会話の内容が訳分からなかった。でも別に気にすることでもないと折り合いをつけ、放っておく。
「で……そうだ。フォーチュンクッキー、買うか?」
「あ、買う買う!!」
話をフォーチュンクッキーとかいう物に戻したクラウは、主にサンの方を見て聞いた。サンは即答し、バッグの中の財布を漁り始めた。桃色の財布から、ポケがチャラチャラと楽しそうな音を奏でている。
「どうする、シズク?俺達も買う?」
「まあいいんじゃないの?買って損はしないでしょ」
シズクの許可を貰ったところで、俺はバッグから財布を取り出した。さっきまで屋台の角付近に置かれていて見にくかった看板には『フォーチュンクッキー、一つ150ポケ』書いてあった。合わせて300ポケ____100ポケ硬貨三枚を取り出してサンの後ろに並んだ。
「はいはい、何個ご注文で?」
「二個」
適当そうな声でシズクは俺から受け取った三枚の硬貨をカウンターに並べた。クラウは弾む足取りで二つの、俺の手の半分程の大きさのクッキーを小さめな白い紙袋に入れた。カサカサ、と乾いた音が微かに鳴り、香ばしい匂いが広がる。300ポケを受け取ったクラウは、俺に紙袋を手渡した。
「まいどありぃ〜」
笑顔で手を振るクラウに背を向け、俺達はフライ達の待つ水飲み場付近のベンチに腰掛けた。フライは何だか不機嫌で、クラウの方をちらちらと見ている。
「で、中に紙が入ってるんだっけ?」
「そうそう。その紙に書かれてるのが運勢っぽいものだよね」
俺含めて四匹は、いそいそと紙袋に入っているクッキーを一つずつ取りだし、かじってみる。確かに、中に何かが入っていた。小さく文字が書かれている、細い紙だ。
「へえ、本当だ……。
あ、見て!私の紙にはねえ……『あなたの「好き」を増やしてみましょう。楽しく自分を向上できます』だって。いいねえ、頑張ろー」
「これっておみくじ……というか、占いみたいなもんだろ。あんま信じ込むなよ」
「フライは何て書いてあるの?」
「『ユニークな性格の友人と行動してみよう。予期せぬ幸運が待っています』」
「へえ〜……」
「ユニークな友人ってサンみたいだね」
「えっ、ほんと!?じゃあ私と居るとフライは幸せになるのかなあ?」
俺が思ったままを口に出すと、サンは嬉しげに微笑んだ。可愛い。シズクとは違う意味で可愛い。
「シズクは?」
「別に……どうでもいいでしょ」
「よくないよ、見せて」
そこまで渋ることはなく、シズクは素直に紙を広げた。あの喧嘩の後、シズクも随分柔らかくなった、というか、だんだん素直になってきているような感じがした。その変化に、どことなく嬉しくなる。
「なに笑ってんのよ。きもい」
「ご、ごめんごめん。えーと……『感謝の気持ちが、素敵な出会いを造るでしょう』かあ……なんかシズクらしい気がする」
「どういう意味、それ。あんたのも見せてよ」
「いいよー」
差し出してくる彼女の手に、俺は紙を置いた。シズクは、その紙をしっかりと吟味する。
「『笑顔を絶さずに暮らせばいいことがあるでしょう』……あんたらしいわ。頑張んなさい」
「へへ、そうだねー」
何だかんだあったが、今日は結構楽しい。フォーチュンクッキーとは、かなり面白い物みたいだ。出掛けてよかった……そう思ったが、気付けばかなりの時間が経っていた。早く出掛けないと、帰還が夕飯ギリギリになるかもしれない。それはちょっとごめんだ。全員がそう悟ったのか、俺ら四匹は立ち上がり、交差点の先へと進む。
どんなことがあろうと、『笑顔を絶さずに暮らす』ことを心がけてみようと、今回の事を通して思う。今まで見せられなかった笑顔を、今。